その日、彼女――カリーヌ・デジレ・ド・マイヤール――は部下のメイジ達を引きつれて、とある山脈に遠征に来ていた。
ここ最近、その山脈に現れた赤い火竜が近隣地域に甚大な被害を及ぼしていると聞き、討伐にやってきたのだ。当初はただの火竜。それすらも満足に討伐できない地方領主に、苛立ちを感じたが、その地方領主と面会したとき、彼女は息を呑んだ。無残にも焼け爛れた右腕は最早、使い物にならないだろう。その領主は、領民達の信頼も厚く、自らが前線に立ち、火竜討伐に向かい、逆に返り討ちに合ったそうだ。王都から来てくれたカリーヌに対し、領主は深々と頭を下げ、かの火竜により焼かれた村々の為に、火竜を退治して欲しいと頼んできた。
もとより、そのつもりだと答え、カリーヌは部下達を引き連れて、火竜に戦いを挑んだ――のだが--
「第3小隊、壊滅しました!!」
「く、負傷者は直ぐに下げなさい!!第2小隊は第1小隊を援護!!詠唱中に火竜を近づけさせるな!!」
鉛色の雲が空を覆う中、人が焼ける匂いが鼻に届く。目の前、否、足元には火竜の業火に焼かれた部下達の死体が転がっていた。その赤い火竜は、強大な身体と、異常なまでの生命力を誇り、矮小な人間をあざ笑うかのように、吐き出す紅蓮の火でカリーヌの部隊を焼き尽くしていた。
既に、部下半数近くは焼き殺されるか、身体の半数以上を焼かれ後方に下がってしまった。
カリーヌ直属のメイジ及び騎士小隊も、防戦一方で攻める事が出来ずにいた。
ギリっ!!と奥歯をかみ締め、その綺麗な顔をゆがめて、カリーヌは忌々しげに赤い火竜を睨みつける。無残に焼かれた部下達の無念を晴らしたいが、このままでは自分もやられてしまう。
どうする……どうする!?と考えている彼女の眼に、小高い丘が映った。
その小高い丘の頂上に、佇んでいる1人の戦士。何故かそこだけ、雲の合間から太陽の光が降り注いでいた。その戦士が、右手を天に掲げると、眩い光が集まり、長大な槍――太陽の光の槍――が握られていた。眼が眩むほどの輝きを放つ槍を大きく振りかぶり、戦士は空を悠々と飛んでいる赤い火竜目掛けて、投げつけた。空気を焦がすほどの速度で投げられた槍は、赤い火竜の右羽をちぎり飛ばし、空を覆っていた雲さえも払いのけた。
大きな鳴声を上げ、火竜は地面に墜落するがそれでもまだ息絶えては居ない。
次に戦士は無骨な大剣――大王の剣――に先ほどと同じように光――太陽の光の剣--を纏わせ、太陽のシンボルマークが描かれた盾を構えて、赤い火竜目掛けて走り出した。
貴方は何者ですか?
俺か?名はソラール。太陽の信徒だ!!我が友の伝説を語るため、に旅をしているところだ!
た、太陽の信徒?……見たところ、貴方はメイジではないようですが
メイジ?聞いた事がないなぁ。……ところで、すまぬが、すこしたずねたい事がある
なにか?
ここは何処なのだろうか?
はぁ?
これが北風――烈風・カリーヌ--と太陽--ソラール――の出会いであった
もしかすると、ルイズがカリーヌとソラールの子供と言う可能性もあったかもしれない。そんな過去のお話
「ふ~む。実に興味深い。神々の都で作られた雷のボルトですか」
何時もどおり薄暗い研究室の中で、コルベールは一本のボルトを興味深げに観察していた。次に、その隣においてある凝った造りのクロスボウに手を伸ばす。
「そして、これがアヴェリン。三連射式のクロスボウですか。ふむふむ、なるほど。ここにボルトを設置すれば……うむうむ、実に面白い作りですなぁ」
上下左右斜めと様々な角度から、クロスボウ――アヴェリン――を観察しては、紙に仕組みなどを書き写している。
以前にプレイヤーの話を聞き、コルベールが何か珍しいものを貸してくれないか?と相談された時に、美術品の様な凝った作りのアヴェリンと雷のボルトを貸し出したのだ。
まぁ、交換条件として、数種類のボルトの作成を依頼してある。
「雷のボルトは……ふむ、矢じりに魔力を注ぎ込んだ物を使用しているのですか。う~む、それならば火の魔力を注ぎ込めば、火のボルトが出来るかもしれませんな」
なにやら独り言を呟きながら、コルベールは丁寧にボルトを並べ、時には観察し様々な情報を読み取ろうとしていた。
「……しかし、これ程の武具を容易に貸し出し、新たなるボルトを作ってくれとは。……プレイヤー殿、貴方は一体、どの様な所で戦ってきたのですか?」
ポツリとこぼれた疑問に、答えるものはそこには誰も居なかった。
宝物庫塔の裏庭に響く剣撃の音。それは、タバサがプレイヤー相手に剣の稽古をしている音だ。
小柄な彼女が精一杯、太陽の直剣を振るうのを、プレイヤーは北騎士の直剣で防ぎ、受け流す。
「なぁなぁ、相棒。俺を使えって。折角、買ったのに使わないとか無しだろ?……え、良い武器は沢山ある?あれ、俺っち、買われた意味無し?」
背負っているデルフがなにやら言っているが、プレイヤーは使わない事だけ伝えると振り上げられた太陽の直剣を反らし、後ろに下がる。
「文字を教える代わりに剣を……ねぇ。何時の間に約束したんだか……」
「はいはい、そんなにプレイヤーを取られたからって、文句言わないの。仕方がないでしょう~?タバサはプレイヤーの娘なんだから」
「だ、だからどうしてあの娘が、プレイヤーの娘になるのよ!!父親に似てたからって言っても、唐突過ぎるでしょ!!」
「細かい事は気にしないの。タバサが喜んでるなら、それでいいじゃな~い?」
未だに納得できていないルイズを宥めながら、キュルケは目の前で剣を振るっていたタバサを、優しげに見つめていた。
相変わらず、無表情な時が多い彼女だが、プレイヤーと一緒に居ると表情と言うか雰囲気というか……纏う物が柔らかくなっている。親友であるキュルケにとっては、嬉しい変化なのだろう。
むう~っと不満たらたらの主の気持ちなど露知らず、プレイヤーはタバサの成長の早さに感心し、喜んでいた。流石はソラールの子孫と言うべきか、筋は良いので育て甲斐がある。
タバサの一閃を受け止め、良い筋だと褒めながらプレイヤーは、今回の稽古は終わりだと伝える。
「はい。ありがとうございました、お父様」
「は~い、おつかれさま~。ほら、タバサこっちに来なさい。汗、拭いてあげるから」
直剣を鞘に仕舞いペコリと頭を下げるタバサだが、肩で息をしているし、額には汗もかいているので疲れたのだろう。キュルケはそんな親友の為に用意したタオルで、彼女の顔を優しく拭ってあげていた。されているタバサも、ん……と小さく言葉を漏らすだけでされるまま。
「いやぁ、タバサだっけか?筋は良いんじゃねぇのか。こりゃ、強くなんだろうな」
背中でデルフがカチカチと鍔で音を出しながら、評価しているのを肯定しつつプレイヤーは、今度は黒騎士の剣を取り出して、自分の為の素振りを始めた。
その際、デルフが俺、いらないんじゃねぇのか……?といじけているが、その内使うと返すだけで、素振りは止めない。一閃、二閃と振るうごとに速度が上がる。
やはりと言うべきなのか、ルーンのお陰で身体能力が向上しているので、少し大きめの黒騎士の剣も、直剣の様に振り回せる。
「……なんて言うか、プレイヤーって本当に大きな武器使うわね」
「そうよね~。あの剣だって、片手で使えるものじゃないでしょう。あら、今度は槍かしら。ふ~ん、色々と持ってるみたいね」
最後に大振りの一閃を行い、プレイヤーはふう……と息を吐いた。この位の鍛錬で息切れもしないし、疲れる事もないが……やはり、実戦を行いたいのだろう。
黒騎士の剣を変換してしまうと、ルイズにこちらに来てくれと、プレイヤーは合図を送る。
「ん、どうしたのよ、プレイヤー。……え?約束通り、私の魔法の訓練をするって?……そ、そうね。それなら、やりましょうか」
自分との約束も覚えていてくれた事に若干の嬉しさと、照れくささを隠すためにルイズはそっぽを向きながらも、懐から杖を取り出した。
「……むう~」
「はいはい、タバサもそんなに膨れないの。さっきまで一緒だったんだから、今度はルイズに譲ってやりなさい」
頬を膨らませて、少しだけ悔しそうしているタバサを、相変わらず可愛いわね~と笑みを浮かべて、頭を撫でるキュルケであった。
宝物庫
「さってと。どうやって穴を開けたもんかね~」
夜陰に紛れ宝物庫の近くの林に隠れながら、、フーケは頭を掻きながら悩んでいた。宝物庫の壁が、物理衝撃には弱いと言う情報を手に入れ、自慢のゴーレムで叩き壊そうと思ったのだが……。予想外の事体が起こってしまったのだ。
「まったく……こんな時間に、そんな所で訓練なんてしてんじゃないよ。邪魔ったらありゃしない」
忌々しげに見つめる先には、3人の女子生徒――ルイズ達――とシャツ姿の青年――プレイヤー――が訓練をしていた。
折角、月が雲に隠れる時間を選んだというのに、宝物庫近くで訓練なんてされていたら、盗めるものも盗めない。
フーケといえば、白昼堂々とゴーレムを駆使して盗みを働く事もあったが、見つからない事に越した事はない。
第一、今回は学院と言う特殊な場所であり、幾らフーケと言えど、見つかって無事に逃げ切れる自信がないのだ。
教師陣と3年の風紀警備委員とやりあっては、無事ではすまないだろう。だからこそ、こうして見つからないようにしている訳なのだが……。
「はぁ……仕方がないね。こうなったら、速攻勝負を仕掛けるか。そろそろ月も雲から顔を出しそうだしね……」
チラリと木々の間から、空を見上げる。確かに、雲の端から月明かりが漏れ始めていた。ゴーレムを作り出すための呪文を口にしようとすると、頭上から爆音がとどろいた。
「っ!!なんだい!?……って、あの娘の失敗魔法か。驚かせ……ん?」
どうやら、爆発音の原因はルイズの魔法だったらしい。緊張して乾いた唇を舌で潤しながら、フーケは額の汗を拭う。幾ら凄腕の盗賊でも、やはり盗みのときは緊張する。
だからこそ、この緊張感は病み付きになるんだよ……と、小声で零しつつ、フーケは宝物庫の壁を見上げて、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「ふふん、天は我にありってか。まさか、罅を入れてくれるなんてねぇ」
壁には、ルイズの魔法が直撃し、大きな罅が生まれていた。
・ルイズ・
「あっちゃ~。ルイズ、的は壁じゃなくて、そこの杭よ?」
「ううう、うるさいわね!!練習よ、練習!!」
「……の~こん」
見事に壁を爆発させた私に、キュルケとタバサは冷ややかな視線を向けてきた。た、確かに、目標は目の前の杭だけど……し、仕方がないじゃないの!!
これが失敗じゃなくて、私固有の魔法って言うのは、プレイヤーの考えだし……。それに、この爆発魔法を制御するほうが大変なのよ!!
もう一度、杖を構えて目の前の杭に向けて、詠唱の言葉を口にする。
「ファイアボール!!」
「お~お~、今度は後ろの木の枝を吹き飛ばしたなぁ。まるで無差別だぁね」
「だまらっしゃい、ボロ剣!!」
ああもう、今日、買ったばかりのぼろい剣がプレイヤーの背中でなにやら言ってるし……。背負っている本人は、笑っているし。
ビシっと、杖を突きつけても「迫力だけは三人前だわなぁ」って言われる始末だし……!!く、やっぱりあんなボロ剣なんて買うんじゃなかったわ。
けど、そんな後悔は遅いわけで……。再び、杖を構えようとしている私に、プレイヤーは徐に近づいてきた。
どうしたの?と問いかけると、彼は少しだけ考える素振りを見せて……
「え、ちょ、ププププレイヤー!?いいいいきなり何をするのよ!?」
耳まで真っ赤にしながら慌てている私に、落ち着けと言いながら、プレイヤーは背後から覆いかぶさるように抱きつく……のではなく、手を重ねる。
「お、落ち着けって、落ち着けるわけないでしょ!?え……足を肩幅に広げ、力を抜く?……こ、こうで良いの?」
次に、眼を閉じて深呼吸して心を落ち着かせる。杖は両手で持ち、手は真っ直ぐに伸ばし成功した場面を思い浮かべる事……ね。
プレイヤーの言うとおり、まずは深呼吸して、身体の中の悪い空気を吐き出す。うん、これだけで気分は落ち着くわね。……し、心臓はドキドキしっぱなしだけど。
次は両手で杖を持つ。……その手に、プレイヤーの大きくて暖かな手が重ねられた。……けど、なんだろう。手甲をしてない手は……硬くてごつごつしてて……傷だらけ。
あの大きな斧を振り回すプレイヤーとは思えないほど、私の手を包み込む体温は暖かい。か、考えてみれば、男の人の手に触れるのって……お父様と……あの方以外初めてなのね。
けれど、なんて言うんだろう。大きくてとても落ち着く。良い体制だ、と言うと、プレイヤーは私から離れ、真っ直ぐに目の前の杭を指差した。
「えぇ、貴方の言うとおり、さっきより、杭がはっきり見えるわ。すう…はぁ……。ファイアボール!!」
息を吸って、新鮮な空気を取り込んで、身体の中から古い空気を吐き出す。そして、杖の切っ先を杭に向けて、呪文を唱える。
すると、ボン!!と少し大きめの音を立てて、杭が半ばから爆発して、折れてしまった。
「うそ……せ、成功した?」
「やったじゃない、ルイズ!!少し、火の魔法とは違うけど、暴発もしてないし、狙った通りに言ったわね!」
見ていたキュルケは、まるで自分の事のように喜んでくれているし……タバサなんか親指を立てて知る。ほ、本当は私も喜ぶべきなんだろうけど、実感がわかない。
初めて……成功した?あの爆発する魔法を、制御できた……?え、やっぱり、あれは失敗魔法じゃなくて……。
色々な事が頭の中を周り、うまく気持ちを表すことが出来ない。けど、そんな私の頭を……プレイヤーは大きな手で優しく撫でてくれた
暖かくて、大きな手と、彼の火の瞳は、私の成功を心から喜んでくれていた。
あぁ……こんな事でよかったんだ。沢山の人に認めてもらいたい、そう言う気持ちは勿論あった。けど、そんな事よりも……私は友達――キュルケ、タバサ――と彼に認めてもらえれば、それでよかったんだ。
おめでとう、と純粋に、そして優しげに褒めてくれるプレイヤーに向かって、私は精一杯の笑顔を浮かべて……
「と、当然よ!!私は貴方のご主人様なんだから、これくらい出来て、当然なのよ!」
なんて、意地っ張りを返すのであった。
魔法が成功したルイズを中心に、キュルケ、タバサと3人で考察しているのを、プレイヤーは苦笑しながら、眺めていた。
無頼漢の彼が、構えを教えただけで、ルイズは魔法を制御できたのだ。きっと、彼女にはすばらしい才能が秘められているのだろう。
剣も魔法も、心構えと身体の構えの2つが重要になってくる。それが、分かれば、後は訓練あるのみだ。
そんな事を考えていると、背筋に嫌な予感が走る。なんだ?と、感じた方向に視線を向けると、巨大な土で作られたゴーレムが佇んでいた。
「さてと、さっさと盗んで、さっさとトンズらしようかねぇ!!」
ゴーレムの肩に乗っていた人物、フーケは宝物庫の壁まで近寄ると、ゴーレムを操り、土で作られた右拳を壁に向かって叩きつける。
さっき、足元に数人の生徒が居たが、驚くか戸惑いで、何も出来ないだろうと、判断して犯行に及んだのだ。仮にここから、教師を呼びに行っても逃げるには、充分な時間がある。
二度三度と拳を壁にたたきつけると、大きな音を立てて、壁を突き抜ける。
その開いた穴に、スルリと身体を滑り込ませて、フーケは他のお宝に眼もくれずに、宝物庫の最奥に保存されていた赤い瞳の宝玉と太陽の書を懐にしまいこむ。
目当てのもの以外は、盗まない。それがフーケのモットーであり、足が付かないための方法でもあった。
後は、さっさと逃げるだけ、とゴーレムに肩に飛び乗ると、学院の外に逃げ出そうとした……その時だ。
ズドン!!
「う、うひゃぁ!?……な、なんだいこりゃぁ!?」
突如として、飛来した【何か】でゴーレムの頭部が吹き飛ばされてしまった。その飛来した【何か】とゴーレムの左腕を砕き、脇腹を抉り、右腕を破壊した【何か】が学院の壁に突き刺さるのを見て、フーケは飛んだ物か、なんなのかようやく理解できた。
「な、なんだい、このでかい槍は!?どこから飛んできたってんだい!?」
それは槍、もしくは騎士の持つランスの形をしたものであった。次々と後ろから飛んでくるのに恐怖しながら、フーケは身を乗り出して、飛んでくる方向を睨みつける。
そして、その眼に映ったのは、ボロボロの鎧を身に纏い、これまた巨大な弓に先ほどのランス――否、矢――を装填している騎士の姿であった。
「じょ、冗談きついね!!あれが、矢だってのかい!?どんな、化け物を仕留める為の矢だよ!!??」
ソウルから取り出した竜狩りの弓に竜狩りの太矢を装填し、プレイヤーはゴーレム目掛けて撃ち込んだ。その度に、後ろで唖然としているルイズ達は耳をふさいでいた。
バチン!!と大きな音を立てて、撃ちだされる矢は、その大きさに似合わぬ速度で跳んで行き、その大きさ以上の破壊力で土のゴーレムを貫き砕く。
「……い、一応聞いておくけど、それって……あぁ、はいはい、弓ね。その馬鹿でかいのが、矢なのね……」
疑問に思って、質問してきたルイズに、弓だが、どうかしたのか?と返すと、何故か心底呆れられたような……達観した様な返事を返された。
目の前でプレイヤーが構えている弓は、どうみても彼よりもでかい。それに番えられている矢もまた大きい。もしかすると、槍くらいあるかもしれない。
「うっわ、あのゴーレム、可哀想な位に突き刺さってるんだけど……大丈夫かしら?」
「大丈夫、ゴーレムだから、痛くない筈。……それより、術者を捕まえた方が良い」
「た、タバサの言う通りよ!!追いかけないと!!」
「ちょ、ルイズ、追いかけるって言ったって、どうするのよ!?」
慌てて走り出そうとしたルイズの肩を掴んで、キュルケは押し止めた。確かに、宝物庫を襲った盗賊を捕まえるのは、当然だろう。
しかし、相手はただの盗賊ではなく、メイジの盗賊。しかも、あの位のゴーレムを操るとなると、トライアングルクラス以上。
「だって、盗賊よ!?ここで、逃がしたら、一生の恥じゃないの!!」
「あんたねぇ!それは、そうでしょうけど、あんなおっきなゴーレム相手にどう戦うってのよ!!少しは、落ち着きなさい!!」
でも!!と言い縋ろうとするルイズだが、そんな彼女の視界に飛び込んできたのは、銀色の光。
淡い月明かりを反射しながら1人の騎士が、ザッと土を踏み、何時でも飛び出せる体勢にすると、後ろに居るルイズの方を振り返っていた。
その姿に、ルイズはハッと冷静さを取り戻し、落ち着こうと深呼吸を行う。そうだ、自分は未だ未熟すぎるメイジ。自分があのゴーレムに挑んでも、返り討ちに合うのが関の山。
しかし、そんな自分には頼りになる存在が居る。それこそ、目の前で自分の指示を待っている騎士。右手に黒騎士の剣を持ち、左手に紋章の盾を構えた、騎士は再びルイズに視線を送る。それは、正に主からの命令を待つ騎士の姿。そんな彼――プレイヤー――の態度に、ルイズも分かっていると頷き、大きく息を吸い込み声を上げた。
「行きなさい、プレイヤー!!ゴーレムを倒すのよ!!」
その声を待っていたとばかりに、プレイヤーは一気に地面を蹴りつけると、ゴーレムに向かって走り出した。