以下、ほっこりデモンズ勢
--ふう--今夜使う薪はこのくらいで充分ですかね--
--お疲れ様--すごい汗ね--
--あぁ--ユーリア--はは、彼みたいにうまくは出来ないですね--
--ふふ--オストラヴァは細いから--仕方が無いわ--
--く--どうせ私は貧弱ですよ--ガルさんみたく丸太を持ち上げれませんよ--
--はいはい--いじけないで--私の旦那様--ほら--汗拭いて上げるから--
--く--また私を子ども扱いして--
--あら--兵士に追われてた貴方を最初に助けたのは誰だったかしら--
--そ--それは--わ--私だって貴女の事を助けました--
--えぇ--そうよ--貴方は私を助けてくれた--ね--愛しい愛しい私の王子様--
--ユ--ユーリア--いきなり抱きつくなんて--驚くじゃないですか--
--いいでしょ--ここには私たちしか居ないから--ね--口付けしてほしいなぁ--
--甘えるときは甘えますね--私の妻は--
--がははは、王子見てくだされ--今日は鉄猪を仕留めて来ました--ぞ--
--ビ--ビヨール--か--帰りがはやいですね--
--は--はははは--ワシとしたことがお邪魔でしたかな--では-ごゆっくり--
--ま--待ってくださいビヨール--ユーリアも火球を出して投げつけるんじゃありません--
ヴェストリの広場は、学院の塔と塔の間に位置する中庭であり、日中も日差しが指さない少し暗めの場所となっている。
本来ならば、あまり人が近づかないのだが、決闘騒ぎと聞きつけた生徒達で溢れ返っていた。
「うわ…。沢山居るわね。よっぽど暇なのかしら…。」
「は、はわわわ。貴族の方が沢山居ます。」
広場手前の入り口で、ルイズはしかめっ面を浮かべて額に手を当てて、呆れたようにしているのに対して、隣のシエスタは何故かガチガチに緊張していた。
「諸君!!決闘だ!!」
その広場の中心では、ギーシュが持っていた薔薇を掲げるとギャラリー達が一層盛り上がる。
耳を覆いたくなる音量の声に、ルイズはうるさいわね…と零しながら後ろでごそごそとしている騎士--プレイヤー--の方を振り返った。
「プレイヤー、準備は出来た…って、なによそれ。え?武器?…ふ~ん、どんなぶ…き…。」
「ルイズ様?どうかなさったんですか?…プレイヤーさんも何を持ってる…んで…すか?」
プレイヤーも、決闘の為に武器を選んでいたようだ。数々の武器の中で、お気に入りの一本を選ぶと肩に担いで、アルトリウスの大盾を持ち上げる。
改めて彼の怪力に驚きつつも、ルイズは持っている武器を見るが…顔を青くして固まり、シエスタにいたってはブルブルと震えながら、ルイズの影に隠れてしまった。
持っている本人のプレイヤーは、キョトンとし顔で、どうかしたのか?と首をかしげている。
「ああああ、あんた何よその不気味な武器は!?もっと別なのにしなさいよ!!今朝持ってた剣とかあるでしょ!?…え、お気に入りの武器だから、こいつを使いたい?
…絶対に騎士が持つ武器じゃないでしょ、それは!?しかも、また大きいのだし…。」
何か問題でもあるのか?と言った様子のプレイヤーに、ルイズは本気で頭が痛くなってきたようだ。
彼の持っている武器は、明らかに異質で異常な存在感を醸し出しているし、大斧と同じくらいでかい。
「…ああ、もう良いわ。その武器で…。ただし、絶対に寸止めよ?貴族を殺したなんてなったら、大変なんだから。」
分かってると頷くプレイヤーに、ルイズは笑みを浮かべると、シエスタに待っているように伝えると、彼を引き連れて広場に進み出た。
「おや?ルイズじゃないか。君の騎士はどうしたのかな?まさか、怖くなって逃げ出したのかい?」
「残念でした。プレイヤーなら、そこの入り口に居るわよ。」
明らかに挑発の言葉を並べるギーシュだが、ルイズはまったく気にしてないといった風に、髪を掻き揚げる。
それが不満ならしい彼は、ふん!!と小さく鼻を鳴らし、広場に入ってくるプレイヤーをにらみつけた。
「やっときたか。随分と遅かったじゃないか。まち」
待ちくたびれた。と続けようとしたギーシュだが、それを遮る様に、ズドン!!と大きな音を立てて、プレイヤーが持っていた武器を広場に突き刺した。
その大きな音と深々と突き刺さった武器を見て、生徒達は驚き、そして顔を青くしている。
【それ】は人が持つのは至難の技の大きさ。【それ】には、幾つも赤黒い汚れ--恐らくは血--が付着している。
【それ】には、装飾など一切付けられておらず、無骨で不気味で異質な武器。【それ】はかつて【彼】が葬ったデーモン【審判者】のソウルで生み出された武器。
人はそれを…【肉斬り包丁】と呼んでいた。
「…あ~あ。みんな完全に驚いてるわね…。」
まぁ、仕方が無いだろう。明らかに不気味すぎる肉斬り包丁を見せられては、誰だってドン引きしてしまう。
プレイヤーにとっては、最高クラスのお気に入りの武器であり、幾度と無く振るってきた戦友の一本だ。…まぁ、友の亡国の王子は、これを取り出すたびに、来ないでください!!怖いです!!と泣きながら、懇願していた。
「そ、そんな武器を持って僕と戦うのか。ふ、ふん!!いいだろう、そんななまくら、僕のゴーレムで叩き折ってあげよう!!」
「声が震えてるわよ、ギーシュ。…勝ち負けはどうするのよ?」
「僕が杖を落とすか…そこの騎士が、ボロボロに倒れるか…それで充分だろう!」
それだけ言うと、ギーシュが薔薇の花びらを一枚振り落とすと、光が集まり甲冑姿の女性が現れた。
周りのギャラリーが、おぉ!!と声を出す中、プレイヤーも肉斬り包丁を引き抜き、盾を構えて様子を伺い始める。
「名乗っていなかったな!!僕はギーシュ・ド・グラモン。青銅のギーシュと呼ばれているのさ!!さぁ、僕のゴーレム、ワルキューレが相手をしよう!!」
ルイズの使い魔とギーシュが決闘をするらしい。
学院内に早くも広がった噂は、タバサの耳にも入ってきていた。
先ほどから、童話の本を抱えて、【彼】を探して学院内を走り回っていた彼女にとって、それは朗報でもあった。
息を乱しながら、タバサはヴェストリの広場に向かって走り出す。会わなければ。彼と会って話さなければ…。それがタバサの足を動かしている原動力。
彼女が広場に付く頃には、他の生徒達で埋め尽くされているが、そこは小柄なタバサだ。
生徒達の合間を縫うようにして、どうにか前に進むと、最前列に陣取った。その視線の先には、彼女の英雄--そして、もう1人の父親--の姿がある。
「火の…英雄様…。」
童話の通りの姿--武器は違うが、先日は持っていたので問題は無い--の姿に、タバサの心臓が早鐘の如く高まっている。
もし、彼が火の英雄ならば…彼女は伝えたいことがあった。だからこそ、彼の姿を…この眼に焼き付けなければならない。
学院長室
そこでは、コルベールがプレイヤーに刻まれていたルーンが伝説の使い魔、ガンダールヴのルーンと同じモノである事をオスマンへと説明していた。
「ではコルベール君……君はその使い魔の騎士が、ガンダールヴだと…そう言いたいのじゃな?」
「はい。その通りですオールド・オスマン。このようなルーンは見たことがありません。」
「確かにルーンは同じ。じゃが、それだけで決め付けるのも早計かもしれん。」
「それはそうですが…」
コルベールは自分よりも冷静であるオスマンに諭され、言葉を繋げずにいた。
沈黙が支配する部屋に、コンコンとドアがノックされる音が響く。
「誰じゃ?」
「私です。オールド・オスマン」
「ロングビル君か、何のようじゃ?」
「ヴェストリの広場で、決闘している生徒がいるようです。教師も止めようとしたのですが 生徒たちに邪魔されているらしく、決闘は続いているようです。」
「全く、暇な貴族ほど性質の悪い生き物はおらんな。んで、誰が暴れておるんじゃ?」
「一人は、ギーシュ・ド・グラモン。」
「あのバカ息子か。血は争えんのう。どうせ女がらみじゃろ?相手は誰じゃ?」
「それがミス・ヴァリエールの使い魔だという話ですが…。」
2人は顔を見合わせた。噂をすればなんとやら、先ほどの話の主たる存在が、急に話に出てきたからだ。
「教師たちからは、眠りの鐘を使用し決闘を止めるべきだ…と言った意見が出ている様です。」
オスマンが呆れたように溜息をつく。 そんな事で一々、秘宝を使ってどうするのだ。
「まったく…生徒が生徒なら教師も教師じゃ…揃ってボンクラとは…秘宝を使ってまで止める様なモノでもあるまい。勝手にやらせておきなさい。」
「分かりました。」
ロングビルが去っていく音が聞こえた。 内心「てめぇが言えた事じゃねぇだろ!!」と思ったのは秘密である。
「オールド・オスマン。」
「うむ。偶然じゃが、いい機会じゃ。コルベール君。先ほどの話の真相が分かるかもしれぬぞ?」
オールド・オスマンが杖を振ると壁の鏡に、ヴェストリの広場の様子が映し出された。
ヴェストリの広場。
青銅と名乗ったからには、青銅制のゴーレムなのだろう…と考えながらも、プレイヤーは落胆していた。
これがゴーレム?…この大きさが?人間とまったく同じサイズのこれがゴーレムなのか?
無造作に殴りかかってくるゴーレムを眺めつつ、プレイヤーは後ろに担いでいた肉斬り包丁を上段から勢い良く振り下ろす。
そう、振り下ろしただけである。それだけにも関わらず、ゴーレムは頭から両断…否、叩き潰されてしまった。
広場には地響きが起き、地面には大きな罅が生まれた。
「…な、な、なんだ…これは…!?」
一撃、ただの一撃で自慢のゴーレムが叩き潰されてしまった。
目の前のプレイヤーは、つまらなさそうに潰したゴーレムを一瞥すると、カチャリ…と金属音を鳴らしてギーシュに歩み寄ってきた。
「ワ…ワルキューレェェェェェ!!!!」
叫ぶようにギーシュは杖を振るい、花びらが舞い落とすと、6体のゴーレムを生み出した。
これが、ゴーレムか。1体をアルトリウスの大盾で弾き飛ばし、大盾を鈍器のように叩きつけて、押しつぶす。残り5体
かつて、彼が戦ったゴーレムは、こんな物ではなかった。肉斬り包丁を1体のゴーレムを突き刺して、地面に押し倒すと、顔面に拳を叩きつける。
黒鉄の手甲は硬く、殴るだけならば問題は無い。容赦なく振り下ろされた拳は、ゴーレムの顔面をグシャリと音を立てる。残り4体
センの古城の番人、アイアンゴーレム。巨大で、強固な鋼鉄の巨人。いったいどれほど、不死を葬ってきたのか。仰ぎ見る強大な敵だった。
殴りかかってきたゴーレムを、ローリングで回避すると、腰にさしていた北騎士の直剣で脇を切り裂き、首を叩き落す。残り3体
クリスタルで出来たゴーレムだって、このワルキューレとやらより2倍は大きくて丈夫だ。
そのまま、ソウルから取り出した数本の直剣を、ゴーレムに投げつけてズタズタに突き刺して破壊する。残り2体。
ゴーレムではないが、塔の騎士。あれは巨大な敵であった。あれを始めてみたときは、本当に絶望した。一体全体、どうやって戦えば分からなかったものだ。
そして、愛用の黒騎士の大斧を取り出して、下段から切り上げ、股からゴーレムを切り裂き、前方宙返りを行い…最後のゴーレムに刃を叩きつける。
「ひ…ひぃぃ!!??」
最後のゴーレムが、ぐしゃぐしゃに叩き潰される頃には、ギーシュの顔は蒼白を通り越して、黒くなってしまっていた。
人間業とは思えない怪力で、ゴーレムを潰し、何処からともなく斧や剣を出したプレイヤーは、化け物に見えるのだろう。
再び肉斬り包丁を肩に担ぐと、プレイヤーの視線が音を立てて、ギーシュを睨みつける。その視線は、何か言うことがあるんじゃないのか?と語っていた。
「ま…参った!!ぼ、僕の負けだ!!」
杖を振り落とし、両手を挙げるギーシュを見て、プレイヤーはふっと視線を和らげると、肉斬り包丁を地面に突き刺して、右手を天に向かって高々とかざすと、歓声が巻き起こった。
ギーシュが負けた!!とか、どこから武器を出したんだ!!などの声が聞こる中、周りで騒ぐ生徒達を尻目に、タバサは熱っぽい視線でプレイヤーを見つめていた。
「見つけた…。もう1人のお父様…。そして、私の太陽。」
彼女の凍りついた心が、暖かな火で溶かされた瞬間でもあった。