一体の黒霊を魔剣で焼き尽くし、二体目の黒霊に溶岩を吹きかける。住処に侵入してきた黒霊を相手に、クラーグは戦い続けていた。
ここ最近、自分の持つソウルを狙って、黒霊が侵入してくる頻度が高くなってきている。今までは単独で侵入してきていたが、今回の奴らは徒党を組んで襲ってきた。
後ろから放たれた矢が背中に突き刺さり、くっ…と小さく言葉を漏らし、魔剣を振るう手が止まってしまう。
それを見逃さなかった闇霊が、下半身の蜘蛛の部分に飛び乗り、クラーグ本体に下段から剣を振り上げた。その切っ先は彼女の美しい肌の上を走り、乳房の間を切り裂いた。
激痛が走り、意識が飛びそうに成るが、負けぬと闇霊の顔を引っつかみ、零距離で大発火をお見舞いする。
頭を焼かれた――と言うか消し飛ばされた――闇霊を捨て、次のを…と視線をめぐらすが、身体に力が入らない。なぜだ!?と傷口を見ると、紫色に変色し始めているではないか。
恐らく、剣に毒が塗られていたのだろう。下半身の蜘蛛の部分も、膝を付き眼の光が弱弱しくなってきた。それを好機と見て、襲い掛かってくる闇霊達に私に触れるな……!!と小さく言葉を漏らしながら、最後の力振り絞り、魔術の火の衝撃波で焼き尽くす。全ての闇霊を焼き尽くすことが出来たが、もはや動く体力もない。
恐らく、直ぐに同じ闇霊達が侵入してくるだろう。動けない獲物を放って置くほど、彼らは慈悲深くはない。せめて、妹を隠している幻の壁だけには、気がつかないで欲しい。
そう願いながら、眼を閉じるクラーグが最後に見たのは、入り口の光を破って、入ってくる数人の人の姿であった。
最初に感じたのは違和感。下半身の蜘蛛の部分に、誰かが寄りかかっている様な感覚だ。私は一体……と眼を開けると、目の前には大穴が穿たれ、地面も所々焼け焦げている。
そして、違和感を感じた蜘蛛のわき腹を見ると、無骨すぎる武器――肉斬り包丁――を抱かかえて、寄りかかって眠る騎士が居た。
随分と型の古い鎧――フリューテッド――を纏った騎士のヘルムは眼の部分が砕け、最早兜の役割を果たしてない様にも思えた。
敵か!?と魔剣を構えるが、どうにも身体が軽い。切り裂かれた胸元を見ると、暗い色の液体――薬草を煎じた物だろうか――が塗られているではないか。
それに、体中に出来た傷にも丁寧に塗られ、痛みもまったく感じない。クラーグは知らないだろうが、彼女の身体に塗られたのは暗月草を煎じた物。
万病を癒し、どんな傷だろうと一瞬で癒す奇跡の薬草だ。
「おぉ、起きたか。攻撃しないでくれよ、俺達も襲ったりはしない」
「眠っているあんたを護ってたんだ。少し休ませてくれ」
騎士以外にも誰か居たらしく、そちらを見ると、バケツ頭の人間とボロ布を着た人間が大の字で倒れている。
なんと言っているかは分かるが、あいにくクラーグは人間の言葉が話せなかった。
「ラレンティウス。随分と呪術を使った様だが、大丈夫か」
「もう立てねえ。最下層の竜相手にして、その後に闇霊の大群相手は、ちときつかった」
「はははは。仕方があるまい。彼が護ろうといったのだからな。その代わり、一番激戦を繰り広げたのは彼だろう」
「むう、笑っているがな、ソラール。こっちは本当に死ぬ思いだったんだぞ。……まぁ、一番無茶したのは、そこで寝てるあいつか」
「うむ。あぁ、そこの…蜘蛛殿ど良いのかな。貴公の傷口に薬草を塗ったのは、そこで寝ている我が友の騎士だ。起きたら礼をいってやってくれ」
「あんたを護る為に一生懸命に戦ってたからな。笑ってやったら、きっと喜ぶぜ」
スウスウと寝息を立てている騎士を見て、バケツ頭の人間――ソラ―ルとボロ布の人間――ラレンティウス――は二人して、笑い声を上げた。
まさか、この人間達は、異形のものである自分を護ったのか?そして、この薬草は騎士のものだと言うのか?
訳が分からず、眠っている騎士が居る手前、動くことも出来ないクラーグは途方にくれていた。しかし、何か雰囲気を感じとったのか、騎士は身じろぎをして、大きく背伸びをする。
そして、砕けた兜の間から覗く火の瞳が、クラーグを捉えて……実に、実に嬉しそうに、そして安堵したような形を作る。
なぜ、自分を守る為に無茶をしたのか。お前達は何者なのか。聞き居たことは山ほどあった。
……とりあえず、言われたとおりクラーグは、その美しい顔に優しげな笑みを浮かべて、騎士を見つめるのであった。
誓約 混沌の守護者
一定間隔で侵入してくる異界の者達をクラーグと一緒に撃退する。クラーグの指輪を付けていれば、森の狩猟者の様に何時でも召喚される。
勝利するたびに、クラーグからのお言葉を授かり、白蜘蛛姫の体調が回復していく。
こんな誓約あったら、即効で契約しますよ、本当に。プレイヤーがクラーグを助けた理由は至極簡単、一目惚れです。
魔法学院 時刻、早朝
決闘騒ぎで勝利、そして、タバサのお父様になったプレイヤーは、相変わらずのん気にのほほんと過ごしていた。
ルイズの失敗をフォローして、使用人達に頼まれればワイン樽や丸太を運ぶのんびりとした日々。
それでも、ルイズ――と言うか殆どの生徒達――が眠っている時刻に、彼は学院の広場に足を運んでいた。
理由は自己鍛錬。プレイヤーが如何に百戦錬磨。悪魔や神も恐れる無限のソウルの戦士とはいえ、鍛えねば何の意味も無い。
何時ものように、愛用の黒騎士の大斧を担ぎ、姿勢を低く保つ。そして、地面を思いっきり踏みつけて、前方に飛び出した。
並外れた脚力で一瞬でトップスピードに乗り、そのまま担いでいた大斧を地面に振り下ろす……直前で停止させた。それも、片手でピタリと静止状態にしたのだ。
地面すれすれでとまった大斧を、そのまま横に一回転させると、風圧で草が舞い上がる。
常人ならば、大斧に振り回されるのだろうが、プレイヤーにとっては使いこなすのには丁度良い武器なのだ。
何時もの様に扱えることに、ふむ……と小さく頷くと、地面に大きく付けたてて、今度は両手に2振りの黒騎士の剣を持つと、剣舞の様に振り回し始める。
数々の武器を扱う彼だが、ここ最近、妙な違和感を感じていた。最初に気がついたのは、決闘騒ぎの次の日の朝に鍛錬をしていた気がついたのだ。
何故かは知らないが、武器を持つと自然と身体が軽くなるのだ。最初は気のせいかと思ったが、武器を扱うごとにその感覚が強くなり、今では片手で特大剣を大剣の様に扱える。
お陰で両手で黒騎士の剣を、直剣の様に振り回せるので、特に問題は無い。もしかすると、ルーンが関係しているのではないかと、プレイヤーは思っていた。
武器を持つたびに、左手のルーンが熱を持つし、離せば熱が収まる。何より、ルイズと一緒に出ていた授業で、ルーンにはそれぞれ特別な効果がありますと教師が言っていた。
もしかすると、自分のルーンは武器を持てば筋力などの身体能力の向上、スタミナ回復速度が上がる効果が在るのではないかと、彼は仮説を立てたのだ。
まぁ、タバサに相談してみたところ、調べてみます。と言ってくれたので、大丈夫だろう。まぁ、ボーレタリアに居た頃、特大剣を短剣の様に振り回す化け物ファントムが見た気がする。
一通り、黒騎士の剣で素振りを行った後に、小さく息を吐きながらプレイヤーは、大斧の両隣に突き立てる。
右手で武器を扱うのは慣れているが、左手を使うのにもまだまだ慣れが必要のようだ。基本的に、彼は右手は武器、左手は盾と言うスタンスで戦ってきた。
その方がある程度は攻守のバランスも取れているので、基本的な戦い方だろう。時々だが、左手で振りの早い打刀や、レイピアを使う白霊や黒霊も居た。
次に、何処か生物の足のような曲剣を取り出し静かに構えて、足で舞い上げた落ち葉を目掛けて振るう。そうすると、曲剣の刃が炎を纏い、落ち葉を燃やし尽くす。
持ち主の人間性により、威力を増す混沌の炎を纏うその武器は、クラーグの魔剣と呼ばれている。プレイヤーが愛し、彼を心から愛した混沌の娘、クラーグから託された剣。
一振り、二振りと振るうたびに、炎が舞い紅い軌跡を残していく。大型武器を扱うプレイヤーにとって、この武器はとても心強い。
大半の生物は炎に弱く、よほど重装備の者ではなければ、この炎で焼き尽くすことが出来た。なにより、やはり愛するクラーグの武器だ、愛着が凄まじくある。
最後の一振りで、炎の残滓を残しつつ、プレイヤーは構えを解いて、ふう……と小さく息を吐く。鍛錬はこの位で止めたようだ。
出した武器を回収しようとすると、パチパチと誰かが手を叩く音が聞こえてきた。
「いやはや、実にお見事。こんな早朝から鍛錬ですかな」
誰だ?と思ってみてみれば、朝日がまぶしく反射……じゃなくて、朝日に照らされたローブ姿の男性――コルベール――がにこやかな笑みを浮かべている。
とりあえず、挨拶をしておかねばと思い、プレイヤーはペコリと小さく頭を下げ、どうしてここに居るのだろうか?と首を傾げると。
「はい、おはようこざいます。……あぁ、私がどうしてここに居るのか、と言う事ですか。ほら、そこに小屋が見えますよね。私の研究室兼宿舎なのですよ」
宿舎と言うからには、そこで寝泊りしているのだろう。だがそうなると……まさか、自分が起こしてしまったのだろうか?
慌てて、すまないと言う意味でペコペコと頭を下げるプレイヤーを見て、コルベールは大丈夫だと言う様に首を横に振る。
「いや、騎士殿が悪いわけではありませんよ。起きたら、偶然貴方が鍛錬しているのが見えたので。どうですかな、喉も渇いているだろうし、少しお茶でも飲んでいきませんか?」
そうだったのか、と胸をなでおろすプレイヤーに、コルベールは更に笑みを深くしてお茶の出すといってくれた。
まだルイズを起こすのにも余裕があるし、ご馳走になると意味を込めて、頭を下げた。
コルベールの研究室
「どうぞ。紅茶でよろしいですかな?はは、少しばかり汚い所で、申し訳ないね」
コトリと目の前に置かれた紅茶からは、とても良い香りがする。ありがとう、と眼で伝えてみると、コルベールもどういたしまして、と対面に座る。
彼の研究室には、見慣れない道具や設計図。そして、本が大量に詰まれており、どこか公爵の書庫を連想させた。
現に彼らがお茶をしているのも、くたびれたソファに少し散らかったテーブルだ。まぁ、とやかく文句は言う気は無い。恐らくは、学者肌の人間なのだろう、とプレイヤーも思っている。
「しかし、こうして騎士殿と話すのは初めてですな。いや、話すと言う訳ではないのでしょうが」
コルベールがはははと笑い、お茶請けのクッキーをパリパリと口に運ぶ。確かに、こうして会話が出来ない相手と話すのは久しぶりだ。……妙な事を言っているが、事実なのだ。
ルイズとは使い魔の契約の関係とやらで、念話が可能だし、タバサともソウルを通じて、心が繋がっている。
折角、お茶まで出してくれたのに、無言では失礼すぎると思い、机の上に転がっていたペンと紙を取ると、ゆっくりとだが、丁寧に筆談なら大丈夫だと聞いて手渡した。
「ふむ、確かに筆談なら問題は無いのでしょうが……。失礼ながら、騎士殿は字を知らなかったと?」
自分の居た所とは文字が違うので、タバサに教えてもらったと伝えると、なるほど頷き、こんな会話も悪くないですねと小さくコルベールは呟いていた。、
「では、騎士殿、2つ3つ聞きたい事が……あぁ、プレイヤー殿と言うのですね、失礼」
学生寮 タバサの部屋
窓から差し込んだ日が、部屋の主のタバサの顔に差し込むと、ううん……と彼女が小さく寝返りをうつ。昨夜は、調べ物をしていたお陰で寝るのが遅くなってしまったらしい。
勿論、調べていたのは、プレイヤー――彼女のお父様――に刻まれたルーンの事についてだ。
基本的に、使い魔のルーンは刻まれた者には害が無いはずだが、如何せん人の使い魔で、火の英雄と言う規格外の存在だ。
従来通り、ルーンがプレイヤーに害が無いと断言は出来なかった。ましてや、大事な父親の事だ。彼に相談されたときは、パニックになりそうになった。
ただ、一応調べてくれるかと頼まれた時は、嬉しかったと言うのが本音。主のルイズではなく、娘の自分を頼って相談してくれたのだと思うと、心が暖かくなる。
お陰で最近は寝不足だが、その分プレイヤーが甘えさせてくれるので、ここ数日はタバサの機嫌は最高潮に良い。
再び、ベットの中で寝返りを打つタバサだが、ふっと何か忘れているように気がした。チラリと時計を見ると、時刻は6時過ぎ。……なんだろう、物凄く大事なことを忘れている気がする。
チッチッチッと秒針を見つめ、1回りする頃にタバサは、ガバッ!!と勢い良く起き上がった。
「……お父様。もう鍛錬している……!!」
剣を教えてもらう約束をしたのだが、別にこんな早朝からと言う事は言われていなかった。暇を見つけては、プレイヤー相手に直剣を振るうだけ。
その代わりに文字を教えていたとき、少し眠そうにしていたプレイヤーにどうしたのですか?と彼女が聞いたときに、早朝から鍛錬していると聞いたのだ。
大好きなお父様ともっと一緒にいたい。そう思っているタバサにとって、それはとても好都合な事。誰にも邪魔されず、2人で居られるのだ。
今日から一緒にやろう、と心に決めていたはずなのに、寝坊した自分を恨みながら、タバサは太陽の直剣を腰に挿すと、勢い良く走り出した。
「なるほど。つまり、武具は魂、ソウルに閉まってあると言うことですか。ふむふむ、それで重さは感じないと。実に便利ですなぁ」
プレイヤーが、数冊の本をソウルに変換して出し入れしているのを、コルベールは興味深げに観察していた。
異国の騎士のプレイヤーが持つ知識は、ハルケギニアの物とはまた違うので、知識的にも実に興味深いものらしい。
重さは感じないが、持てる量は個人のソウル量で変わる。と紙に書くと、う~む。とコルベールは深く考え始めた。
「しかし、そのソウルとは便利なものですな。収納場所も嵩張らないのですし、扱いに長ければ魔法にも使用できるのですか」
学院で説明された魔法は、プレイヤーにとっては未知の物だが、コルベールにとってはソウルの魔術も未知の物らしい。
現に、ソウルの魔術を極めた者は、正に一撃必殺を体現しているといっても過言ではない。
並みの不死人が、ソウルの結晶槍で身体を貫かれた日には、当分は身体を動かせないだろう。その点、プレイヤーは、恵まれていた。
紋章の盾も魔法を防御する能力は高いが、それでも暗き銀色の騎士から貰った、暗銀の盾には見劣りしてしまう。あれならば、ソウルの結晶槍も受け止められる。
……最も、受けた直後に凄まじい衝撃で手が痺れるが、贅沢は言っていられなかった。
以前に、ローガンと公爵の書庫を攻略していたときなんて、彼の放った結晶槍が、クリスタルゴーレムの上半身を消し飛ばすのを見た時は、戦慄した。
心強いからといって、彼に魔術を回復させる古い香料と魔術威力を上げるクリスナイフを譲った事で、魔術の威力が更に上がったようだ。
攻略した後は、留まって知識の探求をすると言っていたが、全部読破する気なのだろうか。まぁ、狂った白竜の姿を見て、結晶と探求の狂気に染まる事は絶対にしないと誓っていたので、大丈夫だろう。いざとなれば、アノール・ロンドに居る深淵歩きの友が、ぶっ叩いて正気に戻してくれるはずだ。
「そして、呪術と奇跡。ふむ、実に興味深いものばかりですな。……あぁ、いや大丈夫ですよ。詳しい話を聞いても、理解するのは大変ですから」
呪術はともかく、奇跡に関しては無頼漢のため、詳しい説明が出来ないとプレイヤーが詫びると、コルベールは大丈夫と言って、紅茶のお代わりをカップに注ぐ。
「呪術とは火に憧れを抱いた物……ですか。実に意味深であり、真理でありますな。……火に憧れ、そして、火を畏れよか」
ふっと、コルベールの顔に翳りが見える。かつて、始まりの火を、人工的に生み出そうとしたイザリスの魔女と、混沌の娘達の多くは失敗した火に焼かれ、混沌の苗床に変貌してしまった。生き残った混沌の娘達、クラーグと白の蜘蛛姫も下半身を異形の者に変化させられていた。……まぁ、彼女達を愛しているプレイヤーにとっては、関係なかったが。
後に出会ったクラーナとグラナは人間の姿だった。今頃、4姉妹で暮らしているのだろうか。イザリスをクラーナと攻略している時に、グラナを見つけた時は本当に大変だった。
こちらに向かって来たので、ソラールを囮にし、袋小路で追い込んだ後にクラーナが容赦なく雁字搦めに拘束していた。どうやら、混沌の火で正気を失っていたらしい。
彼女の中から混沌の火を消し去り、クラーナ、クラーグ、白蜘蛛姫の火を分け与えて、正気に戻すことが出来たときは、本当に胸をなでおろしたものだ。
「プレイヤー殿、火とは一体、なんなのでしょうな。焼き尽くし、滅ぼすことしか出来ない火とは……在ってよいものなのでしょうか」
ポツリとコルベールが言葉を漏らす。火とはなんなのか。いまいち、質問の意味が分からずに、プレイヤーは首を傾げる。
2人の間に微妙な空気が流れようとしていたその時、バン!!と勢い良く研究室の扉が開け放たれた。
何事だ?と視線を向けた先には、肩で息をする少女、タバサの姿があった。
「はぁはぁ……。お父様、ここに居たのですか」
「ミ、ミス・タバサ。そんなに慌ててどうしたのですか。……と言うか、お父様?」
自分の事だとプレイヤーが手を上げるのを見て、コルベールはえぇ!?と驚いた声を上げる。後で説明すると、紙に書くとプレイヤーはチョイチョイとタバサの事を呼び寄せた。
「はい。……こんな早くにどうした、ですか。先日、お父様が鍛錬して居ると聞いたので、私にも稽古してもらおうと思いました」
駆け寄ってきたタバサの頭を撫でながら、プレイヤーはなるほどと納得する。……余談だが、どうにもこうにも、彼は娘のタバサには甘甘の様だ。
会うと毎回頭を撫でてしまうのは、父性本能だろうか。
だが、シャルロット。その格好では、鍛錬できないぞ。と苦笑しつつ、彼女の服装を指摘した。
「服装……?……あ。」
確かに彼女の今の服装は、ものの見事に寝巻き、パジャマである。頭にも、所々寝癖が付いており、正に寝起きだとアピールしている。
そう言えば、すれ違う使用人達が、ポカーンとして見ていた事を思い出して、タバサは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それが本当に可愛くて可愛くて、更に笑みを深めたプレイヤーが、よしよしと撫でている姿は、正に親子だ。
「あ~っと、まぁ、ミス・タバサ。貴女も紅茶でも飲んで落ち着かれてはどうですかな?」
「……いただきます。」
プレイヤーが取り出したマントを羽織ながら、タバサも彼の隣に腰を降ろす。そして、コルベールが追加で持ってきてくれた紅茶に口を運ぶ。
「しかし、お父様とはどう言う意味で。……はぁ、亡くなった彼女の父上と、貴方が似ていたと」
一番簡単であり、適当な説明はやはり、父親と似ているからそうよんでいる、という物だろう。コルベールも特に疑問を持つことなく、納得してくれた。
「ですが、ミス・タバサが剣ですか」
「お父様に文字を教える代わりに、剣の稽古を付けてもらう約束」
「あぁ、そうだったのですか。ですが、パジャマ姿と言うのは頂けませんな」
ははは、とにこやかに笑うコルベールと、からかわれて少しタバサは、頬を膨らませていた。
しかし、コルベールも内心では、驚いていたのだ。最初こそ、氷の様に冷たい印象の少女だったが、プレイヤーと出会ったからだろうか。どうにも、表情が表に出てきた気がする。
良い変化ですね。と誰にも聞こえないように呟いて、小さめに笑みを浮かべる。そうすると、スッと彼の前に紙が出された。
「どうかしましたか、プレイヤー殿。……火とは、日である?」
そこには、先ほどの質問のプレイヤーなりの回答が掛かられていた。
火とは日であり、日とは火である。暖かな日の光があるからこそ、人は闇を恐れることが無い。火が無ければ、世界は灰色のままだった。
火が生まれたからこそ、世界に差異が生まれて、生と死の境界線が引かれた。火により日――太陽――が存在し、昼と夜も生まれた。
火が無ければ、温かな食事も取れない、暖も取れずに凍えるだけ。最早、火とは人の生活に無くてはならないものだと。
「……火があるからこそ、暖かな生活と、夜の闇に畏れぬ、なんて考えても見ませんでした。火とは日である。なるほど、確かに太陽は燃え盛る火のものだ」
火は焼き尽くし奪う事よりも、人に与えるものもまた大きい。そんな当たり前のことは、コルベールは見失っていたようだ。
……思えば、子どもの頃、自分の系統が火だと知ったときは、喜んだ事を彼は思い出した。単純に、火の英雄の物語に憧れていた少年時代。
火の魔法を使ったわけではないが、火と言う文字に憧れていた。しかし、それは成長して、極めていくうちに迷い、失っていった。
何時しか、火とは何なのだろうかと自問自答するようになっていたが、彼の――プレイヤーの言葉で疑問が解けてしまった。
「はは、火は扱う者次第で、善にも悪にもなる。至極簡単で、単純な事だったのですな。いやはや、余計な知識を持つと、こんな簡単になとこも気がつかなくなる」
照れたように頭をかくコルベールだが、その表情はすっきりとしたものだ。それと同時にあぁ、ミス・タバサの心を溶かしたのも、納得できる。彼は、火そのものだ。
この騎士は本当に不思議な存在だと改めて認識した。
暖かく、道を照らす様な存在。まるで世界を照らす太陽のようであり、その光は夜の闇さえも払いのけそうな物。しかし、決して夜の領域を侵さず、眠る者達を見守るような優しき太陽。
「お父様、鍛錬の時間が」
クイクイとプレイヤーの手を引っ張るタバサに気がついて、慌てて時計を確認する。まずい、話し込んでいるうちに、7時近くになってしまった。
ルイズを起こすのは、8時頃だが、洗濯物の回収やら、水浴びやらで30分程度しかタバサの稽古を付けれない。
すまないと詫びるプレイヤーだが、タバサは大丈夫ですと気にしてない風に返事をしてくれた。
「では、2人の稽古を見させていただきますかな。……ですが、ミスタバサ。今度からはパジャマではなく、動きやすい服装のほうが良いですよ」
「……はい。お父様、笑わないで」
満面の笑みを浮かべるプレイヤーと、そんな彼の胸をポカポカと擬音つきで叩いているタバサを見ながら、コルベールはにこやかに笑うのであった。
作者は何を書きたかったのだろうか。
次回は、お買い物です。ところで、モーションバグで竜骨砕きを短剣モーションで振り回していた人、先生怒らないから手を上げなさい。
無限のソウル――永久に成長を続けるソウルであり、尽きることはない。自分の有利な効果が在るのならば、全て吸収する。そんなご都合主義です。
なので、プレイヤー、ガンダールヴのルーンの効果を吸収しています。
武器の扱い方に関しては、とうの昔から熟知しているので半永久的な身体能力の向上でしょうかね。