とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す   作:たくヲ

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とある制裁と超能力者

 マッチ棒が地面に触れ、爆発する。

 

 ぬいぐるみと私達を分断する爆発はぬいぐるみを私達から大きく遠ざける。

 

 周囲の空間はすでに今までいた『セブンスミスト』の内部とは大きく変わっていた。

 

 十字路が無限に続いているかのような空間。十字路内の全てが合わせ鏡になったかのように前方に広がっている。おそらく後方にも同じ光景が広がっていることだろうね。

 

 同じ物体によって構成される無限の景色の中で唯一異質なのは私や御坂美琴、風紀委員(ジャッジメント)と彼女が守るように抱えている女の子、遠くへ飛ばされたぬいぐるみ。そしてぬいぐるみと私たちを隔てる炎の壁。

 

 突然変化した空間に動揺したのか御坂美琴がコインを落とす。

 

 その瞬間に風紀委員(ジャッジメント)を中心に水の膜が私以外の三人を守るように発生する。

 

 コインの落下音をかき消すようなぬいぐるみの爆発。

 

 それに対して私は大きくマッチ箱を振った。

 

 襲い掛かる爆炎が炎の壁と突如後方から吹き始めた暴風に押とどめられる。

 

 バッグから『(laguz)』のルーンカードを取り出す。カードから手を放すと暴風に乗り前方(爆炎)に向かって飛んでいく。

 

 そして、目の前が真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 『セブンスミスト』の近くの路地裏。表通りからは見えない薄暗い道に一人の男の声が響いていた。

 

「もうすぐだ……。もうちょっとで無能な風紀委員(ジャッジメント)も不良共も……まとめて吹き飛ばせる力が……」

「やっぱりあなたが犯人ってことで間違いないみたいだね」

 

 独り言をつぶやくメガネの男に私は後ろから声をかける。

 

 男は驚いたように肩を震わせこちらを見る。

 

「そんなに驚かないでほしいんだよ」

「は、犯人? な、なんのことだか……」

「いや、別に勘違いならいいんだよ。さっき撮った証拠をしかるべき組織の人に渡して捜査してもらえば済む話だからね」

 

 男は私を警戒はしているけど逃げようとはしていないみたいだね。

 

「証拠? 一体何の……」

「あなたが女の子にぬいぐるみを渡している写真」

 

 私の言葉に男の顔から血の気が引いたように見えた。

 

「セブンスミストにも入り口の防犯カメラくらいあるだろうからね。証拠になるカエルのぬいぐるみは消えてなくなっちゃったけど、それでも私の持つ被害者の女の子にぬいぐるみを渡すあなたの写真と、ぬいぐるみを持って店に入るあなたの映像と、ぬいぐるみを持たずに店から出てくるあなたの映像さえあれば……任意聴取くらいはされるんじゃないかな? 幸い誰も怪我してないから証人は山ほどいるしね」

「馬鹿な! 誰も怪我していないだって!?」

「うん」

 

 あからさまな動揺を見せたね。

 

「それで、誰も怪我していないとあなたにとって困ることでもあるのかな?」

「しまっ!?」

「……こういうのもなんだけどわかりやすいんだよ」

「い、いや外から見ててすごい爆発だったんで、中にいる人は……」

 

 そう言って男は肩からかけていた学生鞄の中から一本のスプーンを取り出す。

 

「助からないんじゃないかって!!」

 

 スプーンが縮みながら私に向かってくる。

 

 私はそのスプーンを空中でキャッチし、そのまま地面に押し付けるように『歩く教会』越しに魔術で強化された腕力で押さえつける。

 

 爆発。

 

 押さえつけられた爆発によって、手の周囲の地面がわずかに隆起しひびが入る。

 

 どうやら近距離で放つために威力を加減していたようだね。

 

「な、なにぃ……!?」

 

 私が立ち上がるとメガネの男は狼狽した様子で私に叫んだ。

 

「僕の能力が効いてないのか!?」

「……さて、かいたびはつやさん」

「な、なぜ僕の名前を……?」

 

 私が名前を知っていたことに驚いたのかメガネの男、介旅初矢は語調を弱める

 

「3回目だよ」

「な、何のことだ?」

「私を爆破した回数だよ。公園で一回、さっきのお店で一回、そして今ここで一回」

 

 私は介旅初矢に向かい歩いていく。

 

「今の一回は大した威力じゃなかったみたいだけど、前の二回は下手したら死んでたかもしれないんだよ?」

「来るな……」

「そんなことをしておいて反撃の一つもされない、なんて思ってないよね?」

 

 私は走りだし、一気に距離を詰める。

 

禁書目録(インデックス)水平手刀(チョップ)!」

 

 私は左の手刀を介旅初矢の胸元に叩きつける。

 

「ぐぅッ……」

禁書目録(インデックス)クロー!」

 

 胸を抑え崩れ落ちかけた介旅初矢の頭を右手で掴みそのまま締め上げつつ吊り上げる。

 

「ぐあああああああああああ!?」

 

 魔術で強化された握力で締め上げられ悲鳴を上げる介旅初矢。

 

 もちろん、禁書目録(わたし)の小さな手では持ち上げることはできないから吊り上げると言っても介旅初矢の足は爪先立ちで地面についている状態だけどね。

 

 当然、チョップもクローも加減はしているんだよ。強化魔術で強化されている以上、本気で使えば本物のプロレスラー以上の破壊力を出してしまうのは間違いないからね。

 

 私に右腕一本で吊り上げられた介旅初矢はもがきながらも蹴りを放ってくるけど『歩く教会』に阻まれてまったくダメージが通らない。ちょっと掴みづらいけど勝手に暴れて体力を減らしてくれるんなら逃げられる心配がなくて助かるけど。

 

 私は自由な左手で一本の短剣(ナイフ)を取り出す。柄を黄色に塗られ、黄色い鞘に納められた短剣(ナイフ)。それをかざすと発動した風の魔術により介旅初矢の学生鞄の肩掛け用のバンドが切断され、地面に落ちる。

 

 学生鞄の中からいくつかのスプーンが転がる。私は風の魔術でそれらを後方に吹き飛ばす。

 

 その状態のまま1分ほど拘束し、相手が蹴りを放ったタイミングで手を放す。

 

 自身が放った蹴りの反動と、吊り上げていた力がなくなったことによって介旅初矢は今度こそ地面に崩れ落ちる。

 

「さて、あなたには聞きたいことがあるんだよ」

 

 私は介旅初矢を見下ろして言う。

 

 介旅初矢は右手で頭を押さえながら諦めとおびえの混じる目でこっちを見てくる。

 

「あなたがこんな事件を起こした理由、教えてくれるよね?」

 

 

 

 

 

 介旅初矢はいじめを受けていた。時間は主に放課後、内容としては金銭を要求と、金銭を渡さなかった場合の暴行。行われたのはほとんど学校の外であったが、巡回しているはずの風紀委員(ジャッジメント)はその場面に居合わせることはなく結果として一度も介旅初矢を助けてくれなかった。そして、能力を強化できるという『幻想御手(レベルアッパー)』を手に入れ、自分をいじめた不良と自分を助けなかった風紀委員(ジャッジメント)に復讐をするためにこの事件を起こした。

 

 介旅初矢の語った内容をまとめるとこうなる。

 

「……いつもこうだ。風紀委員(ジャッジメント)のやつらみたいな力のあるやつやお前みたいなやつがいるから俺みたいなやつはいつだって地面に這いつくばらないといけないんだ!」

「なるほど。言いたいことはわかったんだよ」

 

 私は屈んで介旅初矢を見る。

 

「でも、その言い分だと一つだけわからないことがあるんだよ」

 

 介旅初矢の目は私を睨みつけている。その目を見て言う。

 

「あなたが爆弾に変えたぬいぐるみを渡した女の子。彼女はいったいあなたに何をして復讐の対象にされたのかな?」

「ッ!? それは……」

「それだけが理由としては通らないんだよ。風紀委員(ジャッジメント)に渡した直後に爆発したところからして、時限爆弾みたいになっていたわけでもなさそうだし、たぶん中には盗聴できるような何かが入っていたんだろうけど。女の子が渡した直後に爆発させたってことは最初っから女の子ごと吹き飛ばすつもりだったってことだよね?」

 

 介旅初矢が目をそらす。

 

「あなたがもしも自分から金をとった不良に対してのみの復讐をしたのであれば、法律的には大問題とはいえ、最低限の筋は通るんだよ。風紀委員(ジャッジメント)に関しては筋は通らないけど、あなたの言い分なら説明はつく。でもあの女の子に関してはこの件に一切関係ない。あなたはあなたをいじめていた不良よりも酷いことをしたんだよ」

 

 介旅初矢はうつむく。

 

「力がある奴が悪いっていうあなたの言葉に従うならあなたも悪いことになるのは当然だよね?」

 

 まあ、それはともかく。

 

「で、そいつらの名前とクラスは?」

「……は?」

 

 介旅初矢は何を言っているのかわからないという目でこっちを見る。

 

「だからあなたから金銭を奪った人達のクラスと名前を聞いてるんだよ?」

 

 介旅初矢は静かにその名前を口にした。

 

「なるほどね。まあ、そいつらにもちょっとは痛い目を見てもらう必要があるかも」

「な、なんでだ? なぜお前がそんなことを」

「せっかく、犯罪者を捕まえても根っこを断たないと意味がないからね。暴力とか金銭を奪った、って普通に犯罪だし」

 

 いわゆる第二第三の事件を起こさないための措置ってやつだね。

 

 私は再び立ち上がる。その時、介旅初矢の後ろに何かが現れる。

 

風紀委員(ジャッジメント)ですの!」

 

 風紀委員(ジャッジメント)、白井黒子である。

 

「……またあなたですの」

「うん。偶然だね」

 

 白井黒子は私の顔を見てうんざりしたような顔をする、

 

「ちょうどよかった。今までの連続爆破事件の犯人はその男なんだよ。証拠はこれ」

 

 私はバッグから写真を取出し、白井黒子に見せつける。

 

「それは……」

行け(Ehwaz)

 

 写真を指で弾くと、私の手から離れた写真は弾かれた勢いのままくるくると回りながら白井黒子の元に向かい、思わずと言った感じで差し出しされた手に納まる。

 

「それとセブンスミストの監視カメラの映像を見れば犯人は誰なのか掴めると思うんだよ」

 

 私は白井黒子と介旅初矢に背を向ける。

 

「それじゃあ、頑張ってね」

「お待ちなさい! あなたもこちらで話を……」

「私も忙しくってね」

 

 私は『歩く教会』のフードの上から帽子を被る。

 

「それじゃ、また。機会があればまた会うこともあると思うんだよ」

 

 『ハデスの隠れ兜』の魔術を発動する。

 

「……消えた?」

 

 白井黒子が呟く。

 

 何やら考え込んでいる感じだね。

 

 介旅初矢も呆然としている。

 

 あの二人から見ればいきなり人が消えたんだから当然だね。白井黒子は私が学園都市外部の人間だって認識しているから、学園都市外部の能力者の『原石』だとでも思ったかもしれない。

 

 私は路地裏を出て行くため歩き出す。

 

 私が薄暗い路地裏を曲がると、視界に入ってきたのは私を見ている女の子、御坂美琴だった。

 

 私は介旅初矢と白井黒子の二人から見えない位置でフードの上からかぶっていた帽子をとる。

 

「あんた何者なの?」

 

 御坂美琴は姿を現した私に言う。

 

「私の名前は禁書目録(インデックス)って言うんだよ。正式名称はIndex-Librorum-Prohibitorum。見ての通りイギリス清教のシスターをやっていたんだよ」

 

 ペラペラと素性を話す私に一瞬驚く御坂美琴はすぐに私を睨んでいう。

 

「さっきなんでわた……」

「ちょっとちょっと? そっちばっかり質問をするっていうのも不公平じゃないかな?」

 

 私は美琴の言葉を遮る。

 

「あなたの名前は……まあ知ってるからいいとして。あそこに私の友達が立っていたはずなんだけどどうしたの?」

 

 私はここから見える表通りを指さして言う。

 

「別にどうもしてないわ。私はそこのビルの屋上から磁力を使って降りてきただけよ」

 

 なるほど。流石になんにでもビリビリするわけじゃないよね。

 

「まあ、二人が無事ならいいけど。それで質問は?」

「なんであんたは私たちを助けたのよ?」

 

 なんでって言われると返答に困るんだよ。

 

「かわいい女の子を助けるのに理由がいるのかな?」

 

 かわいいと言われ慣れていないのか若干赤くなった気がする。

 

「……かわいいって誰のことよ」

「あの場にいた三人ともだよ? まあ、今のは半分冗談で、実際はとある人の代わりをしただけなんだけどね」

 

 本来ならあの場を助けるのは当麻だった。でも、当麻は今は病院にいるからね。

 

「代わり?」

「そう、代わり。実際、あの場を何とかするのなら私より適役がたくさんいるしね」

 

 当麻はもちろんだけど、一方通行とか軍覇とか。魔術サイドも含めればステイルや火織も大丈夫だろうね。

 

「私はともかくあの二人は私に助けられたと思ってるわよ? たぶん、他の人達もそう思うわ。それでもいいの?」

「私がこういうことをしたってばれるとちょっと面倒だから別にいいんだよ。それに」

 

 私は当麻の言葉を借りて言う。

 

「みんなの命が無事なら何の問題もないんだよ」


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