オーバーロード ~ナザリックの華達は戦っている~   作:SUIKAN

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STAGE02. 挑戦の始まり(2)

 そのころシャルティアは、第二階層自室にある鏡の前に立つ。

 

「うふっ。これでいいでありんす。我が君に私の熱い気持ちを、分かってもらうでありんすえ」

 

 ブラをパンパンにして、魅惑的なボディラインは準備万端である事を確認すると、一刻も早く我が君に会うためすぐに〈転移門(ゲート)〉の魔法を唱える。彼女は各階層での移動は全て〈転移門〉の魔法を使った。

 間もなく闘技場まで胸部への振動を極力抑えた形で到着する。

 

「私が、一番乗りでありんすね」

 

 当然という思い。そして、アルベドには負けられない。常に主へ対し、先行者でありたいと。

 闘技場内は明るい為、それを嫌って日傘を差していた。ここは地下で日光には当たらないが、明るいのは生来苦手なのだ。しかし、我が君へ会うためならば、地上へでも喜んで赴くつもりである。

 

(その御方が目の前に)

 

 シャルティアは、我慢出来ず日傘を思わず手放してモモンガへと駆け寄る。魔法で出された日傘は幾多の蝶となって華麗に消えてゆく。

 

「ああ、愛しの我が君~」

 

 彼女にとってモモンガは本当に特別だといえる存在。彼女の創造主は別として、本来吸血鬼の真祖たる彼女が誰かに従うということは無い。だが、彼女の強く激しい性には屍体愛好があった。

 また設定に、ギルドの統括者には心酔し従うと元から記載されている。

 この二点により、最高峰の死体で支配者のモモンガに対して絶対の愛が生まれた。そのため、この愛を実らせようと、シャルティアはその身を積極的にモモンガへと擦り付けていく。

 その露骨に振る舞う吸血娘の姿に、双子の姉妹は面白くない。

 アウラとしては、尊敬の対象で絶対的支配者の「モモンガ様」に触れまくるのは無礼千万だと。

 マーレ自身も、敬愛する方へその身をスリスリしたい願望はあるが、主人からそう声が掛かるまで熱く我慢しているのだ。

 双子を上回る能力の階層守護者NPCとはいえ、黙っていられない。双子たちも立場的には対等の階級であるのだから。

 

「ちょっと、シャルティア、いい加減にしたら」

「そ、そうだよ。モモンガさまも困っておいでだと思うから」

 

 確かにモモンガは、配下からの思わぬ強烈で露骨に示された親愛表現に戸惑っていた。以前のゲーム中ではこんなウレシイ行動はありえないのだ。おまけにローズ風でアロマチックのよい匂いもする。

 主との逢瀬を邪魔され、シャルティアは振り返る。モモンガに歪んだ顔を見えないようにして。

 

「あら、両名いたでありんすか。特に姉は頭がおかしいので、妹もそろそろ怪しいものでありんすね」

 

 地位は対等だが、上下はあると考える真祖のシャルティアは、見下す様に可愛く美しい姿の二人へ言葉を返す。正直、女としてダークエルフの二人は強敵なのだ。以前のマーレは男であったので気にする対象ではなかったが、今は違う。二人纏めて言葉でバッサリ切る。

 

「なっ」

「くっ……」

 

 自分だけならまだしも、可愛い自慢のマーレまで愚弄され、もうアウラは黙っていられない。反撃の言葉はランクアップする。

 

「……敬愛するというモモンガ様へ、まさかそんな『ニセ乳』を掴ませるなんて、不敬千万」

「っ、なっ」

 

 言われてみればその通りであり、シャルティアはその大きくした胸を思わず手で隠すように狼狽える。

 

「図星ね。以前の戦いではそんな“見慣れない形”じゃなかったもの。紛いモノを掴ませる配下の貴方が、寵愛を受けるとでも思っているのかしら」

「(うわぁ、お姉ちゃん容赦ない)……」

「だ、黙りなさいっ!」

 

 シャルティアは、もはやこれ以上一言も貶められるわけにはいかないと感じ、思わずその言葉を吐き出す。しかしよく考えれば不用意だった。こんなときに於ける主の反応を知らない自分に恐怖し始める。もし、この熱い行動に失望され、嫌われてしまったらと……。

 

「もう、きっと御前に呼ばれないかもしれないねっ」

 

 アウラの追い打つ言葉で、想像を絶する悲しみにシャルティアは……。

 

「ぐっ……ぐすっ……ぅぅ、ひどい……そこまで言わなくても」

「お、お姉ちゃん」

「あちゃぁ、本気を出し過ぎたか……」

 

 泣き出し、力なく走り去ろうとするシャルティアへ駆け寄り、アウラとマーレは慰め出していた。

 

「わ、悪かったわよ、でもシャルティアがマーレまで悪く言うからだよ。しょうがないなぁ、私もフォローしてあげるから」

「……本当でありんす?」

「僕も協力するから。そ、それにモモンガさまは、とっても優しいし」

「で、でも……」

 

 駄々聞こえである。

 しかし、モモンガには懐かしい光景でもある。アウラらの制作者ぶくぶく茶釜と、シャルティアの製作者ペロロンチーノは実の姉弟であり、よくケンカをしていたが、最後は姉のぶくぶく茶釜が丸く収めていたのを思い出す。結局仲は悪くないのだ。

 見かねたモモンガが三人へ声を掛けた。

 

「三人とも、その辺にしておけ」

 

 絶対者の掛ける言葉に、三人はその場で素早く横に並び跪き頭を垂れる。だが彼の次の言葉に思わず三人は顔を上げた。

 

「私は……特に胸の大きさには拘ってはいない」

「「「えっ?!」」」

 

 ――衝撃の言葉であった。

 

 三人は基本的に、大きいものが絶対的に好まれると卑下していた項目。そこに輝かしい光が差し込んで来た。

 

「それに、お前たちは飾らなくとも、皆、十分綺麗で、その――かわいいぞ」

「「「!―――っ」」」

 

 シャルティアと、マーレは当然だが、アウラまで胸がときめき出す。

 

(モモンガさま……あたし『も』かわいいのですね……)

 

 少年風のアウラは、少女チックである妹マーレがいつか主へ上手く嫁げれば、それで良いと考えていた。自分は女の子としては魅力が無いだろうと、初めからそう考えていたのだ。

 それがである。自分も女の子として十分見てもらえているのだと知った。そう考えると頭の中が桃色になりぐるぐると回り出す。

 アウラは、三人の中でもっとも真っ赤で熱い表情になっていた。

 マーレは表情から姉の気持ちの変化に気付いている。

 

(……お姉ちゃん、良かったね)

 

 妹はそのあとも、女の子する姉をうれしそうに眺めていた。

 

 

 

 そのあとすぐ、第五階層守護者で蟲王のコキュートス、少し遅れて第七階層守護者で悪魔のデミウルゴスと共にアルベドが円形闘技場『アンフィテアトルム』に現れる。

 全身ライトグリーンで、四本の腕を持つ甲殻体の蟲王コキュートスは武人。オールバックでシャープな髪型に丸メガネ、そしてオレンジに細く明るい縦縞のあるスーツを着こなす最上位悪魔(アーチデヴィル)のデミウルゴスは、その卓越した頭脳を買われ、防衛時におけるNPC指揮官という設定。

 

「それでは皆さん、至高の御身を前に、忠誠の儀を」

 

 アルベドが守護者統括として一歩前で(かしず)き、モモンガから見て右からシャルティア、コキュートス、アウラ、マーレ、デミウルゴスと並び跪く。

 

「守護者統括、並びに各階層守護者、御身の前に」

 

 第四階層のガルガンチュアは、戦略級攻城ゴーレムだが、これはユグドラシルのルール上のものでギルドメンバーによって作られたNPCではない。まあ、デカ過ぎるしここへは呼ばず。

 第八階層はヴィクティムだが、以前プレイヤー1500名により第八階層まで大侵攻された事への対策で、その特殊能力による防衛のためすぐには動けない形になっている。特に今は非常時でもあった。

 最上位NPC達は皆、モモンガへ恭しく従い忠誠を尽くしてくれているように見える。すべてが不明といえる状況では、力強く有り難い事だと彼は嬉しく感じ、NPCらの期待を裏切らぬよう威厳を保ちつつ声を掛ける。相手を強力に威圧する効果の『絶望のオーラ』も追加でサービスしていた。こんなものまで出してと思うのだが……喜んでくれるだろうか?

 

「皆、面を上げよ。良く集まってくれた、感謝しよう」

 

 絶対者からの思いもよらぬ感謝の言葉に、NPC達は驚く。感謝しているのはナザリック地下大墳墓のほぼ全てのNPC達である。変わらぬ主として最後の瞬間までいてくれた事を本当に彼等は感謝していた。それだけに、今後も忠誠は当然であり絶対的でもあったのだ。

 代表してアルベドが言葉を述べる。

 

「感謝など勿体ない。我らモモンガさまにその身を捧げた者達。モモンガ様からすれば取るに足らない身でしょう。しかし我らは、その至高の創造主の方々に恥じない働きを誓います」

「「「「「誓います」」」」」

 

 すでに、モモンガ以外の所属プレイヤー達は去ったが、彼等の生み出した最上位NPC達すべてが、モモンガに従ってくれるという。

 正直、モモンガは心細いのだ。だが、嘗ての肩を並べて遊んだ仲間たちの雰囲気がその端に残る力強い者達の言葉に、彼は満足し感動していた。

 

「(おおぉ……)すばらしいぞ、守護者達よ! お前達なら失態なく事を運べると強く確信したっ!」

 

 前に並ぶ者達は、モモンガの言葉に喜びの表情が広がる。この主へ再度、仕えることを許されたと。

 

「さて」

 

 だが、状況は安穏としていられない。モモンガは話を切り出す。アルベドを初めとして他の守護者達も、それを即思い出し、主の言葉に表情を引き締めて傾注する。

 

「現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明の事態に巻き込まれている。すでに、セバスに地表を捜索させているのだが……」

 

 そこへセバスが現れる。彼はモモンガの傍近くで跪き、皆にも聞こえる形で報告を始める。

 それによると以前沼地だった周辺が草原地帯になっているというのだ。そして周囲1キロ以内は平坦で、人やモンスターはいないという。

 これでナザリックが原因不明のまま、どこかこれまでと違う場所に移動したことが確認された。

 モモンガは、守護者統括アルベドと防衛責任者のデミウルゴスに命じて、情報共有システムの構築と警護の増強を指示する。同時に草原に目立つ形で存在するナザリックの隠ぺいの成否をマーレへ確認する。

 モモンガは、彼女の先程後衛で見せた動きや、魔法の力を高く評価していた。そして内心、仲間として当てにし始めている。

 マーレは、主からの名指しでの確認に嬉しくも緊張する。その中で最良を思考し発言する。

 

「ま、魔法という手段では(魔力を永続的に発揮する必要があり)難しいです。ですが、壁に土を掛けて植物を生やした場合とかなら――」

 

 その件に、アルベドが「栄光の壁を土で汚すと?」と割り込んで来る。

 しかし、それをモモンガが「アルベド、気持ちは嬉しいが、今は非常時だ。優先順位を計り間違うな」と窘めた。

 アルベドは身を正す。

 

「モモンガ様、失礼しました。申し訳ありません」

 

 マーレは冷や汗ものである。

 アルベドはLv.100のNPCで且つ上位の存在。さらに造物主同士も余り近しい訳ではない。おまけに、モモンガを深く愛している恋敵。

 しかし、主の道理を説く助け船で、アルベドの件は事無く終わった。

 

「マーレ、壁に土を掛けて隠すことは可能か?」

「はい、お許しいただければ。ですが……」

「ふん。そうか、大地の盛り上がりが不自然か」

 

 モモンガは、セバスへ周辺の地形を確認し、丘のようなものが無い事を伝え聞くと、同様のダミーの丘を形成することを追加指示する。

 

「では、それに取り掛かれ。隠せない上空部分には幻術を展開しよう」

 

 ワールドクラスのアイテムならば永続的魔法も可能なのである。

 なら側面部も幻術をと思うが、丘に対し側面を含む場合、最低でも三角錐を途中で水平に切り取るように囲うため延べ四面は必要で、四倍掛かってしまう。範囲は広くなり負荷は膨大である。だが、上だけなら一面ですむのだ。

 そうして、直近の行動指示が終わるも、モモンガは次にここへ階層守護者らを呼んだ最大の用件の確認に取り掛かる。今後の集団としての意志にかかわる事項である。

 

「最後に、各階層守護者に聞いておきたいことが有る。皆にとって―――私とはいったいどのような人物だ?」

 

 シャルティアはそう聞かれ、先程の失態を払うように想いの言葉を贈る。最大の欠点が無効となり喜びに頬を赤らめながら。

 

「美の結晶。この世で一番敬愛すべき美しい御方でありんす」

 

 コキュートスは武人として言葉を述べた。

 

「守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリックノ絶対的支配者ニ相応シイ御方」

 

 アウラは、先程とは少し違う立場で、敬愛する者への言葉を述べる。

 

「慈悲深く、配慮に優れたお方です。そして……寄り添ってお守りしたい主様かと」

 

 マーレは、先程から主との数々の事象で、さらに敬愛さが増してしまい、結構はっきりと言ってしまう。

 

「す、すごく優しい方かと。いつもお傍に居たい方で……す」

 

 デミウルゴスは、内面で女性陣の主への好意的な反応を冷静に捉えながら語る。

 

「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力を有される方、まさに端倪(たんげい)すべからざるという言葉が相応しい方です」

 

 セバスは、執事としてただ静かに答えていく。

 

「至高の方々の総括であり、最後まで私たちを見捨てず残って頂けた慈悲深きお方」

 

 最後にアルベドが述べる。

 シャルティア、アウラ、マーレの所での主人に対する愛情表現を聞く度、体がビクリと跳ねて、手がビキリと異音を立て掛けていた。

 

(……私のモモンガさまなのにぃっ!)

 

 それまで般若の顔を伏せていたが、モモンガを見上げる顔は上品で、少し頬が染まった感じである。

 

「至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして――私の愛しいお方ですっ!」

 

 それらの答えを聞き、モモンガは少し驚くもここは威厳をもって締めの言葉を告げる。

 

「――っなるほど、各員の考えは十分に理解した。今後とも忠義に励め」

 

 そうして、皆が頭を下げる中、モモンガは転移しその場から一瞬で姿を消した。

 ギルド所属メンバーの部屋がある区画に飛んだ。基本、ここへはNPC達単独では立ち入れない。所属メンバーと同伴でなければ入れない場所である。

 彼は、最上位NPC達の率直だと思われる声を知る。

 

「ふう。えっ、なに、あの好評感……忠誠は感じていたけど、これほどとは……。これは威厳を以ってマジに振る舞わないと」

 

 モモンガは、女性陣の意味深長に聞こえた言葉も思い出していた。

 

(しかし、アルベドは兎も角、シャルティア、アウラ、マーレもそうなのか……どうなっているんだ。ま、まあ、みんなかわいいけど……って、いかんいかん)

 

 モモンガは、思わずかぶりを振った。

 これは、あくまで尊敬から来ているものなのだと。愛とは強制や支配からくるものではない。

 だが、彼は忘れている。ここは異形の巣窟なのだ。

 抑圧、支配、強制について大歓迎な連中もいるのだということを――。

 

 

 

 最高峰である死の支配者(オーバーロード)が放つ、相手を強力に威圧する効果の『絶望のオーラV』を受け続けたNPC達は、逆に皆、興奮していた。

 モモンガの持つ超越する圧倒的であるMP(マジックポイント)と、世界級(ワールド)アイテムに匹敵するギルド武器『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』の増幅がなせる業でもある。

 最上位NPC達にも効果を与えるものであった。

 

「すごく怖かったね、お姉ちゃん」

「ほんと、押しつぶされるかと思った」

 

 マーレとアウラは立ち上がりつつ、慕い仰ぐ主の偉大さに笑顔ではしゃぐように声を掛け合う。

 武人のコキュートスすら立ち上がりながら、「マサカコレホドトハ」と感嘆の声を上げる。

 すでに立ち上がっていたアルベドも初めて受ける威圧である。その力を感慨深げに思い出していた。

 

「あれが支配者としての器をお見せになったモモンガさまなのね」

「ですねぇ」

 

 デミウルゴスも満足げに、その目元へ掛けている丸眼鏡を右手中指でスッと押し上げながら立ち上がる。

 コキュートスは、皆が集い『仕える主君足らん』との主の意を感じ取っていた。

 

「我々ノ忠義ニ答エテクダサッタトイウコトカ」

 

 その言葉に、アウラやマーレも同感であった。嬉しそうに相槌を打つ内容を語る。そこにはたっぷりの『モモンガさま愛』が感じられる。

 

「あたし達と居た時は全然オーラを発していなかったしねぇ。モモンガさま、すっごく優しかったんだよぉ。喉が渇いたからって飲み物まで出してくれて……フフン」

「今のが支配者として本気になったモモンガさまなんだよね」

 

「――まったくそのとおりっ!」

 

 双子の姉妹の話の当初から、背中を向ける体をクネクネしていたアルベドが振り返り、そう宣う。

 正直、アウラ達の話は妬ましく羨ましい。主より何かを頂けたのだ、ズルイのである。私も欲しいと。しかし、支配者としての偉大さを賛美する方が先という思いが勝っていた。

 

「私達の気持ちに応えて、絶対者たる振る舞いを取って頂けるとは、さすが我々の造物主! 至高なる41人の頂点っ! そして最後までこの地に残りし慈悲深き、君――」

 

 そんな独演会をさらりと、終わらせるようにセバスが「ではわたくし、先に戻ります。場所は不明ですが、お傍に仕えるべきでしょうし」と告げる。

 そのセバスへ、アルベドは「なにかあればすぐに報告を」と言い渡す。

 彼女は、すでに待っている。愛する者から閨へ呼ばれるのを待っているのだ。『他の何を放っても』である。更に話が湯浴みが必要か、もし不用のご希望があれば……の辺りで、セバスは「了解しました」と全てを『察して』話を切らせた。流石は日本国内運用の元ゲームキャラと言えるだろう。

 「では、守護者の皆さまもこれで」と一礼ののち、セバスは去って行った。

 主が去り、ずいぶん間があったが、ふとデミウルゴスが傅いたままのシャルティアに気が付き「どうかしましたか?」と声を掛ける。コキュートスまでもが「ドウシタ」と尋ねた。

 二人の声にシャルティアは真っ赤に染めた顔を上げる。その身体は微妙に震えていた。

 

「あのすごい気配を受けてゾクゾウしてしまって、少ぉし下着が不味い事になってありんす……」

 

 一同は『何と言ってよいやら』という雰囲気の吐息をつく。

 シャルティアは強い相手が好みだという訳ではなく、あくまでも敬愛するモモンガから圧力を受けたという事で、感極まっているのだ。強く迫って来てほしいという願望持ちなのだ。もはや、主無くしていられないという感覚になってしまっていた。

 ちなみに、アウラとマーレは主へ迫り近付いて行きたい派だ。

 そんな状況をいち早く理解してしまった『似た者』のアルベドは、背中を向けたまま怒りのオーラを発して、唾を吐くように告げた。

 

「この、ビッチっ!」

 

 折角の余韻を楽しんでいたシャルティアは、雰囲気をぶっ壊してくれたアルベドへ激しく食って掛かった。

 

「はぁ? モモンガさまから、あれほどのご褒美を頂いたのよ? それで濡りんせん方が、頭がオカシイわ、大口ゴリラ!」

「ヤツメウナギ!」

 

 口が気持ち悪いと評判の珍獣の名を出されて、シャルティアは至高の方に作られた身を馬鹿にするアルベドを非難するも、アルベドは同様のこの身を先にゴリラ呼ばわりしたシャルティアも同罪だとバッサリと切る。

 二人は、其々怒りのオーラに包まれる。

 だが、どんなに怒っても激しい戦闘にならない事は皆、分かっている。

 時にはナザリックを共に守ってきた長年の戦友でもあるのだ。

 そもそも統括者が仲間と喧嘩事をすれば、主に窘められるのは分かり切った事。シャルティアも胸パッドの件もあり、失態は絶対に出来なかった。

 それにと、デミウルゴスは「女性の事は女性で頼むよ」とアウラに告げ、コキュートスと共に脇へと離れる。

 

「えっ、ちょっとデミウルゴス、あたしに押し付ける気?!」

 

 アルベドとシャルティアは個人能力でアウラを上回る存在。どうしろというのかと。

 マーレも今は女性陣側なので、ハラハラしながら見守った。

 二人の女帝は、言葉で応酬し合う、シャルティアから「どうせ、アルベドも」と図星の指摘をされアルベドは一瞬窮するも、「愛していれば当然」と開き直る。

 そのうちに、「あなたでは相手にされない」との言い合いから「第一妃は当然私」と話が動く。その時にアウラは女帝達へ呟いていた。

 

「でも、モモンガさまは、物静かな方。マーレみたいに控えめでいる子が好みじゃないかな?」

「「!?」」

 

 アルベドとシャルティアは、『そうかもしれない』と咄嗟にマーレへ向く。

 闇の中に赤い光点が四つ並ぶ形の視線を受け、マーレはビクリとなる。

 

「で、でもお姉ちゃんと話すモモンガさまは、とても楽しそうだよ」

 

 そのマーレは思わず姉に振った。

 

「「「えっ!」」」

 

 アウラ自身まで声を上げる。そんな感じに妃争いは混沌として、先はブレ続けていく――。

 一方デミウルゴスは、この様子を離れて見ながら、コキュートスに語り出す。

 

「私としては個人的に、彼女達の行動の結果に非常に興味があるところです。戦力の増強という意味でも。ナザリックの将来という意味でもね」

「……ドウイウ意味ダ?」

「偉大なる支配者の後継は有るべきだと。モモンガさまは最後まで残られた我々の絶対者で有られるが、もしかするといつか他の方々と同じ場所へ行かれるかもしれない。その場合、我々が忠義を向ける世継ぎを残して頂ければ……とね」

「ムッ……シカシ、ソレハ不敬ナ考ヤモシレンゾ?」

「だが、モモンガさまの御子達にも忠義を尽くしたいとは思わないかね? もしかすれば、各階層に一人ずつという場合も」

「ヌゥッ、ソレハ確カニ憧レル……イヤ、素晴ラシイナ。素晴ラシイ光景ダ!」

 

 コキュートスは暫く妄想に突入する。どうやら、子息らを肩車したり鍛えているらしい。

 

「――爺トハ――イヤ、良イ光景ダッタ。アレハ正ニ望ム光景ダ」

「それは良かった。――アルベド、アウラ、まだ続けるのかね?」

 

 愛に燃えるアウラまでアルベドらと三すくみの状態で対峙している。

 横でマーレが「争いは終わってるけど……い、今は妃の順位を決めているところで」とアワアワしながら伝える。加えて言葉が足らないと思ったのか、シャルティアらからも言葉が返ってきた。

 

「まず第一妃を決めないと」

「ナザリックの絶対的支配者であられる御方が、妃を一人しか持てないというのは余りにも奇妙な話ですもの」

「だから、それはモモンガ様が決める事だと言ってるんだよ」

 

 妹や自分への可能性を考えてアウラはそう主張していた。

 デミウルゴスは、今日はここまでかと、彼女らの息詰まった状況を終わらせるようにアルベドへ指示を仰ぐ。

 

「非常に興味深い話だが、それよりも我々に命令をくれないかねぇ」

 

 彼の言葉に、主からの指令を思いだしたアルベドは皆へと向く。愛する者からの期待をいきなり裏切る訳にはいかない。

 

「そうね、そうだったわ。シャルティア、アウラ、マーレ、この話は後日じっくり」

 

 他の三名も頷く。今は絶対的忠誠を向ける主の命の下、異常事態に団結して対処するのが先決だ。まとまるのは早い。

 

「では、これからの計画を」

 

 守護者統括アルベドは凛とした声で告げた。

 

 

 




配下の熱い陰謀?を知らないのはモモンガ様だけ。
そして……誰も裏切ってはいない(笑

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