オーバーロード ~ナザリックの華達は戦っている~ 作:SUIKAN
ナザリック地下大墳墓が異変に巻き込まれてから三日が経過した。
相変わらず原因は不明で、ログアウトやGMコール等は機能していないままだ。
モモンガは第九階層の客間にある隠し武器を取り出し色々思案、確認していた。第十階層の自室には色々あって、まだ赴く気にならない。
彼の傍にプレアデスの一人、魔法職の清楚で長いポニーテールの黒髪に美しい顔のナーベラル・ガンマが控える。
当初、彼女は客間に近い通路で周辺警戒任務に就いていた。
ナーベラルが単独で居るのは随分久しぶりである。外部からの侵入者が居ない時は、常にプレアデスの6人は玉座の間の傍で控えていたからだ。
そこへ主が通り掛かり、思わず声を掛けてしまった。ご迷惑だったかもしれない。
しかしである。
「これはモモンガ様、どちらに?」
「ああ(えっと誰だっけ)……ナーベラルだったか。少し客間へ用があってな」
「……では、私も護衛に」
「いや、ここは第九階層であるし大丈夫だ」
「――是非護衛に」
「……よかろう」
一人のみでの警護の機会に出会ったのだ。逃す手は無い。至高の41人の為に散ってこそのプレアデスなのだ。そういう設定が全員に入っている。今は通常のメイド服姿の彼女であるが、自らの意志で主に付き従いこの部屋まで来ていた。
戦闘メイドプレアデス達にとっても、主人であるモモンガは特別な存在と言える。今や至高の41人の中で、彼のみが存在し己の身を盾にして守るべき唯一の要人なのだ。
(これまで、長きに渡り我々を最重要の場所に置かれるも、未だ功を上げるに至っていません。この非常時に際しては、自身の存在を掛けて是非お役に立たせていただかねば――)
凄まじい忠誠の塊であるナーベラルは、主の肩幅のある大きい背中を見つつそう静かに決意している。
モモンガは巨剣を握る。彼自身もLv.100であり筋力は大抵の武器を振るうのに問題は無いはずである。しかし、それを振ろうとするも取り落としていた。どうやらゲーム同様、クラスが異なる武器や防具は扱う事が出来ないみたいだ。
ここ数日を経て、自分のこの骸骨の姿に恐怖や違和感が無くなってきていた。外見だけでなく精神も変化している様に感じる。著しい感情の起伏は何かに抑圧されたように小さく抑えられるのだ。加えて、食欲や睡眠欲も感じない。
――性欲は微妙に無くは無い。だが実戦仕様で無くなった? いやなんとか……。
「モモンガ様」
彼女らプレアデス達は、至高の者製としてナザリックでも上位に入るNPC達。そのためか自我を持つ現在、かなりの自負がある。
本来、他者の物を拾い上げるなど下位の者が行う行為であり、頼まれでもしない限り行わないが、至高の41人に対してだけはメイドとしても機能した。
その方々の頂点である主は、すべてを捧げる存在である。
「うむ。――〈
重甲冑を纏う漆黒の鎧戦士の姿に一瞬で変わる。外装に道具として鎧の戦士を魔法で造り出し、それに対してナーベラルから剣を受け取った。これなら、剣でも普通に掴み振るう事が出来るようだ。試しに振ってみる。少し力を込めた素ぶりに旋風が伴った。
「……ナーベラル、私はこれから少し出てくる」
「近衛兵の準備は出来ております」
「いや、私は一人で十分――」
「――お待ちください! モモンガさまお一人では、もしもの時に私達が盾になって死ぬことが出来ません」
巨剣をナーベラルへと渡しつつ、彼は語気を僅かに強めて告げる。
「極秘で行いたい事が有るのだ。伴はゆるさん」
「……かしこまりました。ですが次の機会には、必ず私達をお連れください」
「うむ、分かった」
ナーベラルとしては何処までもお伴をという気概で居たが、主にそこまで言われては残念ながら引き下がるほかなかった。
モモンガは一瞬で第一階層へと転移する。彼の指に光るアイテム、『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』はナザリック内でのほぼ自在といえる転移を可能にする。
地表部中央霊廟の出入口へ続く大階段を上る。
「護衛がいると結構疲れるんだよなぁ」
この三日間、どこへ行くにも誰かが傍に居る状態であった。その半分以上はセバスである。ゲーム中には、ナザリック内で付いて回られる事は全くなかった。なので、どうやら各自の自我によって、率先して付き従って来るようだ。
セバスは結構離れた位置で、気配を消してくれていたため一番気が楽ではあった。
対してアルベドは、大事にしてくれているのは十分伝わるのだが、酷いと周囲をグルグルと徘徊し、一挙手一投足に反応してくるので非常に落ち着かない。
マーレやアウラも毎日、必要以上に度々進捗を報告に来るのだが、アルベドがいるとシャーっと蛇の警戒音に近い呼吸音と雰囲気で迎えるのは勘弁してやってほしい。「アルベド」と声を掛けると収まるのだが、毎回マーレは部屋に居る間中、その守護者統括の強い視線にビクビクしての報告になってしまっていた。
「……ありがたいけど」
そんな、愛すべき配下達とナザリックを守るためには、外の世界の情報収集が必要であった。剣を握ろうとしているのもそのためである。
「まあ、この装備では魔法は使えないが、アイテムがあるからなんとか……」
モモンガが大階段を上り終わろうとするとき、そこにいる三種四組計12体の強大な影群に気付く。
「(いいっ!?)……」
第七階層にいるはずの嫉妬、強欲、憤怒の三魔将達がそこに居た。
嫉妬は、女性の体形でフルフェイスのヘルメット風の兜に両手は翼状になっている。強欲は筋肉質で美男子風の相貌と長めの赤髪に、二本の角と黒い翼に赤い前垂れのある戦士。憤怒は額の鋭く長い一角にゴリラタイプの巨体から炎の翼を広げ、鎧のように見える体皮を肩、腕、太腿にもつ。
いずれも目の部分が隠されていて、Lv.80以上とかなり強く、デミウルゴス直属の者達だ。
(なぜ、この者達が第一層に?)
しかも、モモンガのこの姿は周知させておらず、主としての識別を切ってもいた。戦いになれば一対一でも全く勝負にならない。まあ、上位道具創造を解除すればいいのだが、今のモモンガはレベルが精々30余の戦士に過ぎず瞬殺される水準。
そんな『まずい』と思った時だ。
三魔将達の間からヤツまでが現れる。
(げっ、デミウルゴスっ!)
その三魔将達よりも更に強い彼の登場に焦る。
デミウルゴスは、「んん?」と一瞬怪訝の混じる表情に変わったが、この状況から目の前にいる者は瞬間転移で現れた主であると判断する。すぐに膝を折って礼を取った。三魔将達も直ちにそれに続く。階層守護者へも高い忠誠を持つ者達であった。その守護者が、跪くのは主しか存在しない。
「これは、モモンガ様。近衛をお連れにならず、ここへいらっしゃるとは。それにそのお召し物は?」
モモンガの方が、なんでバレたんだと一瞬僅かに怯む。
デミウルゴスらはすでに内部における防衛線の構築を概ね終わっている。その報告も受けていた。だとすれば、すでにこの場所へ転移できる者は限られることから、バレたのだと推察できた。
ならばとモモンガは威厳のある声で応答する。
「ああ、少し事情があってな」
「……そういうことですか」
「(えっ、えぇ? 息抜きに外出したいだけなんだけど)……」
「まさに、支配者に相応しい配慮にございます。ですが、やはりお伴を連れずにとなりますと、見過ごすわけには参りません」
「うむ……では一人だけ警護を許そう」
「私の我儘を、お聞き入れいただき感謝いたします」
警護には、デミウルゴス自身が付き従った。
モモンガは彼らの忠誠を快く思っている。心配は当然だろう。モモンガも彼等を頼っている分、彼らも『主を守っている』という存在意義が必要であり欲しいのだ。
二人はしばらく歩くと、地上へと続くナザリックの正面出入口に到着する。
モモンガは数歩出ると空を見上げた。
「おおっ」
今までに見たことのない圧倒的と言える美しい星空であった。
第六層の闘技場の天井部に広がる夜空とは、また別の趣があった。
モモンガはアイテムを取り出し「〈
二人は遥か上空へ昇り、世界を眺める。大気圏を越えているかという高度だ。
見下ろす眼下の地平線は丸い。どこかの星のようだ。ここでも見上げる広大な星々の瞬く空は変わらず満月も美しい。
「キラキラと輝いて宝石箱みたいだな」
そう言った主へ、デミウルゴスは意味深げに「この世界が美しいのはモモンガさまを飾る宝石を宿しているからかと」と伝える。
モモンガは絶景に、軽い話のつもりで語り始める。
「そうかもしれないな。私がこの地に来たのは、誰も手にしたことのない宝石箱を手にするため……いや、私一人で独占すべきものでもないが、ナザリックと私の友たち、アインズ・ウール・ゴウンを飾るための物かもしれないか」
デミウルゴスは、ナザリック至上主義者であり、この主のナザリックの名を高める言葉に強い感銘を受けていた。そして、その言葉に対して頭を下げ礼を取り、全面的に支持する言葉を返す。
「お望みと有らば、ナザリック全軍を以って手に入れてまいります」
「ふふふふ、この世界にまだどんな存在がいるのかも不明な段階でか?」
デミウルゴスの言葉は、この雄大に広がる光景の中でどこか心地よく聞こえた。モモンガは遠くを見つめていると思わずその言葉を口にしていた。
「ただ、そうだな……世界征服なんて、面白いかもしれないな」
「!―――ぁぁ」
デミウルゴスは、絶対的支配者である主のその言葉に、全軍への新しく素晴らしい目標を見出し心湧き躍るのを感じた。
(さすがは、モモンガ様だ。我々はこの方の望み行く道を、ナザリックの全軍にて切り開いて差し上げるのだっ!)
モモンガ自身は、そんなことはさすがに出来る訳もないけどと考えていたが、すでに時の歯車は回り始めようとしていた。
一方で、この見渡す限りの広大に広がる世界へユグドラシルからやって来たのが、本当に自分一人なのかと考えていた。これだけ広いのだ、〈
まずはそれを目標にしようと内心で考えていた。
ふと直下に目を落とす。
まだ幻術を掛けていないので、円形のナザリック地下大墳墓の広い地上構造物が見えていた。その広範囲に及ぶ周囲の一角から、大量の土砂が寄せる形で移動してくる様子が見て取れる。
〈アース・サージ〉をスキルで拡大範囲した上で、クラススキルを使用しての魔法展開だ。誰にでも出来る魔法ではなかった。普通だと、高位魔法詠唱者でも多くで行わなければならない規模である。それを――只一人でやってのけていた。
(さすがはマーレ)
確かに、担当階層は『ジャングル』で、土砂の調整も得意ではあるだろうが見事である。この作業は現ナザリックでも最優先の重要事項なのだ。
そしてナザリックの壁へなだらかに下がる傾斜で土を寄せると、そこへ植物を加速発芽させ、たちまち緑の丘へと変えていく。
その様子を見ていたモモンガへデミウルゴスが声を掛ける。
「モモンガさま、これからのご予定をお聞きしても」
「うむ、マーレの陣中見舞いにゆく。褒美としては何が良いと思うか?」
デミウルゴスは先程の昂揚感を忘れていない。それに彼女は主を慕っている。それを込めて進言する。
「モモンガさまが、優しくお声を掛けるだけで十分かと」
主の言葉は、全てに勝るのだと。
モモンガはそこまで気付いておらず、控えめの意見として「うむ」と頷いた。これだけの魔法を使うのだ、かなりの負荷である点と貢献度を考慮して渡すものを降下しながら考えた。そうして、邪魔にならない位置に降り立つ。デミウルゴスも後ろに続いて降り立った。
「あ、モモンガさまぁ」
いつもと姿が異なるが、デミウルゴスが従うのは我らが絶対的支配者のみ。
敬愛する主の登場に、マーレは嬉しそうに駆け寄る。もちろんスカートが翻らないように気を使いつつ可愛くだ。
「どうしてこちらに? あ、僕なにか失敗でも……」
お叱りかもという心配で、彼女の笑顔が一転不安の広がる表情になる。
「違うとも。マーレ、ナザリックの発見を未然に防ぐお前の仕事は、最も重要な作業だ」
「はい」
「だからこそ、マーレ、私がどれだけ満足しているかを知って欲しい」
「はい、モモンガさま」
「では、これを」
モモンガは掌に一つの指輪を出現させる。ナザリックでは最上級に位置する重要アイテムの贈与である。
マーレは目を見開いた。
「こ、これはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンっ! これは至高の方々しか所持を許されない物。受け取れるはずが……」
仕事を最大限に評価してもらい、凄く嬉しい贈り物である。これがあれば、主のところへも行きやすくなるのだ。
だが、マーレ達NPCにとって、至高の者達、造物主の存在は特別なのだ。抵抗があった。
「冷静になるのだ、マーレ」
「えっ」
「ナザリック内は階層間の転移を制限しているが、この指輪があれば自由に移動が可能だ。さあ、これを受け取りナザリックの為に貢献せよ」
「……でも」
主にこう言われるも、まだ抵抗があった。
「ふふふ、マーレ。気弱そうに見えてお前は結構頑固なのだな。では、代わりに何か良い物があるか?」
マーレは、顔を真っ赤にするも、衝撃的希望を即答した。
「可能ならば、モ、モモンガさまと――デートがしてみたいです」
「(!――っ)デ、デート……」
「はい……あの、だめでしょうか?」
マーレはとても不安そうにモジモジしつつ、モモンガを上目遣いで見つめてきた。
(か、かわいい……)
今度はモモンガの方が冷静になる番であった。
(NPCとデートするイベントなんて無かったはずだが、大丈夫だろうか? あ、いや、もうユグドラシルの世界じゃなかったか。そ、そもそもマーレはぶくぶく茶釜さんが作った子供といえる存在……)
ドキドキが加速しそうになったが、その瞬間気が抑圧されるように落ち着いた。
「(うむ、貢献に対して報いてやらなくては)……いいだろう、マーレ。お前の願いでもある。叶えてやろう」
「ほ、ほんとですか!」
「ああ、仕事も有って、すぐという訳にはいかないだろうが」
「はい。でもうれしいです、モモンガさまっ! 今後も褒美に相応しい働きをお見せしたいと思います」
マーレは満面の笑みで喜んでくれている様であった。指輪については再度考えようとモモンガは考えた。
「頼むぞ、マーレ」
「はい、モモンガさま。ところで、なぜそのような格好を?」
「ん、んーそれは……」
そこで、モモンガは背中へと――強烈に寒気を覚えた。
「――簡単よ、マーレ」
そう、上空へにこやかに……表面上は笑顔のアルベドが静かに浮かんでいたのだ。
(!――いつの間に)
Lv.100のNPCである事は伊達ではない。
アルベドは静かに降り立ち、マーレに向かうように歩いて近づいて来る。
妃の話はまだ決着がついていない。
マーレの表情はすでに――泣きそうになっていた。
デミウルゴスまでが硬直している。
「モモンガさまは、シモベ達の仕事の邪魔をしないように、とのお考えなの。モモンガさまがいらっしゃると分かれば、全ての者は手を止め敬意を示してしまいますから」
モモンガの横まで来ると、そこで主へと向き直る。
その静かに浮かべる笑顔が怖い……。
「そうですわよね、モモンガ様」
ここで、違うとは絶対に言えない。まだ死にたくない。何故かそれ程の気持ちにさせる。
「さ、さすがはアルベド。私の真意を見抜くとは」
「守護者統括として当然。いえ、そうでなくても、モモンガさまの心の洞察には自信がございます」
その瞬間、アルベドの目が――主に向かって『凶暴』に見開かれる。その目が確かに訴えていた。『わたしもデートがしたいです。してほしいです。その先もしていただけますよねっ。――しないと壊レチャイマス』っと。
主であるはずのモモンガは『壊れた後の惨劇』を想像し、一瞬「ひぃぃ」と声が漏れ、蛇に睨まれた蛙にでもなった気分がしていた。
それに、泣きそうな表情のマーレを人質に取られている感じがしなくもない。
デミウルゴスは後方にて眼鏡を指で押し上げる仕草で、目線を落としたまま我関せずと立ち姿が告げていた。彼でも今のアルベドには出来れば関わりたくないのだ。
ついに、アルベドから脅迫めいた催促のように尋ねられる。
「――あの、何か?」
モモンガは、英断を下す。
「い、いや。何でもない。よし、マーレ! 作業を邪魔して悪かったな、向こうで作業を再開してくれ」
「は、はヒぃ。では、モモンガさま失礼します」
まず、マーレの安全確保を図る。かわいく重要で貴重な戦力をここで失う訳にはいかない。アルベドも話せば分かるはずであると。
マーレも重大危機を感じ、声が裏返りつつも礼をし、ダッシュの女の子走りで離れて行く。裾に気を使う余裕がなかったのだろう、去りゆく後ろ姿の短めのプリーツスカートからお尻を覆う薄青色の履きモノがチラチラと僅かに見えてしまっていた……。
モモンガは僅かに堪能するも、さて悪魔と勝負。
「そ、そうだ、アルベド」
「はい、なんでしょうか?」
声は静かでやさしい響きである。
しかし、モモンガへ向ける彼女の目が――完全に死んでいる。流石は悪魔族。こ、怖い。その瞬間、話し合いでどうにかなる気がしなかった。もはやと、最終手段に出る。
掌にあの指輪を出現させていた。
「お、お前に渡しておこう。守護者統括には必要なアイテムだろう?」
「感謝いたします……」
そう言って、彼女は丁寧に頭を下げながら『あっさり』と、『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』を受け取った。
「ぁ」
マーレとのその差に、主は一瞬声が漏れた。
更に彼女は髪で目元は見えないが、口を吊り上げる様に微笑むと、小刻みに震え始める。
「ぇ?(な、なにが起こっているんだ? ――触れてはいけないっ)……忠義に励め」
いけないものを見てしまったかのように、モモンガは一瞬でデミウルゴスの方を向く。
「デミウルゴスはまた後日としよう」
「畏まりました。かの偉大なる指輪を頂けるよう、努力して参ります」
デミウルゴスとしては、今日はあの雄大で夢広がる目標の言葉を只一人、傍で直接聞けたことで十分満足していた。
「では、すべきことも済んだ。私はセバスから叱られない内に戻るとしよう」
そう言うが早いかモモンガは転移して――逃げた。
直後の瞬間、アルベドは月夜に向かって叫ぶ。
「よっしゃあああああぁぁぁぁーーーーっ!」
アルベドとしては、デートをしたかったが、まず指輪だ。『リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』である。彼女には至高41名への忠誠はあるが、結局40名はナザリックを見捨てたという考えをしている。彼女にとって尊敬すべきはすでに、モモンガ一人であった。おまけに愛しているのである。
この指輪が有れば、ナザリック内で階層間を気にせず自由に転移が出来る。まさに最重要アイテムなのだ。
主の下にもすぐに飛んで行けるぅ。その喜びがあふれた咆哮である。
デミウルゴスは、首を横へゆっくりと振りながらそんなアルベドをなま温かい目で眺めていた。
ナザリックの管理システム『マスターソース』はまだ生きており、第十階層のギルドメンバー個室にはモモンガの部屋を初め、状態未確認で残された計六体の未起動NPCの名前が確認されている。
そのナザリックは今より挑む。
これから不明事の渦巻く新世界へと。
そして、NPCの恋する乙女達も挑む。
その主へと――。