オーバーロード ~ナザリックの華達は戦っている~   作:SUIKAN

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注)モモンの声色と口調については、鈴木悟の素の声口調になっています
作品内の本日はここまでに、ンフィー引っ越し、ラナー敗北、ニニャ告白、クレマン報告と続いております(汗)


STAGE31. 支配者失望する/墓地デノ出会ハ突然ニ(5)

 カルネ村のゴウン邸(旧エモット家)の外は、もう夜の帳が降り切ろうとしていた。

 その家事室に先程から上機嫌でエンリが立っており、少し遅めで晩の食事を作っている。

 実は先程、迎え隣のンフィーレアの家から戻って直ぐに料理を作り始めるつもりでいたが、帰宅直後にゴブリン軍団リーダーのジュゲムがやって来て、村の板塀設置作業について誤差確認と現場での指示要請を受けたので、1時間ほど外で作業の再確認と陣頭指揮を執っていたのだ。

 カルネ村の砦化計画は自警団や村人らも交代で参加するようになり、突貫工事的に作業は続いていて、日の出から日没後も数時間は作業が行われている。幸い灯りとなる篝火の燃料の木材は、森に近いため豊富で助かっている。

 その現場へ行く前に、晩飯が遅れることをンフィーレアへ知らせに行くと、少年は笑顔で「う、うん、大丈夫だよ。でも大変だね」と了解してくれた上で、少し遅れてブリタを伴い早速現場へ手伝いに来てくれた。

 設置作業は確認による修正部分も問題なく反映され、その段階で「姐さん方、ありがとうございました。あとは自警団の方や俺達とデス・ナイトのアニキ達(ルイスくん他)で進めときますんで」というジュゲムの言葉を受け、晩御飯の重要性を考えて先に戻って来た。

 

 今日はエンリにとって良い日である。

 夕方前、その御姿は直接拝見出来なかったが、旦那(アインズ)様と間近で会えて言葉を交わし、頭を優しくナデナデして触れてもらえた事で、その後ずっと幸せで胸が一杯のままだ。そして今晩にまた来てくれるという。

 

(あとで身体を綺麗に拭いて、下着も着替えて髪も丁寧に梳いておかないと。ふふっ)

 

 まさにルンルンである……。

 顔もずっとニンマリとしている。そんな彼女の横で晩御飯の調理を手伝うネムもニコニコしている。

 敏いネムには、嬉しそうに熱い吐息を漏らす姉の劇的といえる変化で『大好きなアインズ様が今晩か明日来る』ということが分かっていた。

 今日作る晩御飯は、新しく引っ越してきたカルネ村の新しい住人であるンフィーレアと、女冒険者のブリタの分も増えるのだが――最近の調理作業はエモット家の2名と19名のゴブリン軍団の分を大量に作っているので、今更2名分が増えても大差なく気にならない。ナザリックの面々は(今はキョウしかいないが)食事を取らなくてもいいという点とエンリに負担を掛けるのも大変だということで遠慮してくれていた。

 しかし、エンリにすればゴブリン達が殆ど料理が出来ないのは意外であった。特に、味覚はそれなりにあるのに、味付けが出来ないというのがよく分からないところだが、彼ら(モンスター)はそういうものなのかもしれない。そのため、ゴブリン達は生肉や草をバリバリ食べていればいいらしいのだが、調理した物の方が断然好みだという。

 ならばと、エンリは自分や村の為に尽くしてくれている皆の為に調理を引き受けている。

 ただ、全作業をエンリ一人というのは余りにも重労働のため、大量となった具材の大雑把な裁断や煮炊きはゴブリン軍団から2名が日替わりで手伝ってくれており、細かい皮むきと味付けをネムとエンリですればいい形だ。

 そんな包丁を振るい調理中だったエンリが、急に何か思いついた様子で、目線と顔を少し左へと向けつつ突然に声を上げる。

 

「あ、あれーっ?」

 

 ンフィーレア達を村の門で迎え入れてから旦那様のことで思考がポワポワだったため気が付かなかった。バレアレ家にはンフィーレアの家族がもう一人いるのだ。

 エンリは今、その薬師として偉大で、第三位階魔法の使い手でもある彼の祖母リィジーがいないことに思考が突然辿り着いていた。

 

(……どういうことかな。うーん)

 

 ンフィーレアからも全く話が出ていないという事は、望んだ展開や明るい理由という訳ではないのだろう。ずっと笑顔で機嫌の良かったエンリを暗い話に引っ張ってしまうからと、あの少年は時々そういった気遣いを見せるのだ。明日は話してくれるだろうけど。

 

「どうしたの、お姉ちゃん?」

「ううん、何でもないよ」

 

 姉の声で、たたたと横に来て小首を傾げたネムに、優しい顔でエンリは首を横へ振った。

 昨晩、ナザリックからの駐在員であるキョウと共に旦那(アインズ)様から聞いた話では、ンフィーレア達が今日の夕方前に村へ到着するという話で、ブリタについては決定事項ではなかった。

 だから、エンリは祖母のリィジーも来ると思っていたのだ。

 ただその直後に、王国へ攻め込んで来ているという300体もの竜軍団のトンデモナイ衝撃的な話も聞いていた。思考は一瞬で真っ白。

 それを聞かされた当初、彼女はこれまでの人類的常識から「えーーーーーーっ!?」と声を上げたが、アインズの「落ち着け。ナザリックにも(ドラゴン)ぐらい何体もいただろう? 私を含め部下達も王都に居るし、この村まで被害が及ぶ心配はない」という言葉を受けて「は、はい、すみません」と我に返った。普通に考えれば王国は完全に終焉を迎えると思える話だが、この旦那様が心配ないというのだからそうなのだろう。

 ナザリックの深い地下で見た巨体で美しい鱗が輝く(ドラゴン)達の荘厳で圧倒的すぎる迫力は直ぐに思い出せる。そんな絵物語的強者の彼等が、その立派な長い首を丸めるよう丁寧に下げて、神の如き旦那様の前で従順に傅いていた。

 いや、それ以上の様々な怪物達も含めて何百、何千、それ以上が御方へ跪いていた……。

 その戦慄的光景を思い出すと同時にエンリはピンときた。

 

 

 きっと300体の竜軍団も、圧倒的であるアインズ(旦那)様一人の前へそうなる予感がしている――。

 

 

 さて、思い出した竜軍団の件も気になるがエンリには途方も無い事であるし、今はンフィーレアの有名で偉大な祖母リィジーお婆ちゃんについて、村へ来ていない理由を知っておく必要があるだろう。何と言っても彼の事を旦那様から直接任されているのだから。

 一応現在、暫定であるがナザリック的組織図だと薬師の天才少年は、アインズ直属の配下であるカルネ村指揮官(コマンダー)エンリの部下という形になっている。これは、ナザリックの者でも、エンリを飛び越えてンフィーレアへの命令が出しにくい形にしてもらっているのだ。旦那様の寛大さで包まれている『この職務』への期待は絶対に裏切れない。

 そのため彼女には理由について把握しておく責任があった。今現在、ンフィーレアが離反するような要因が無いことを知るためにもである。

 とはいえその理由は、ンフィーレアへ直接聞かないと分からない。

 

(早い方が良いかもしれない。この後、晩御飯を持って行くときに聞くべきよね)

 

 ここは彼是(あれこれ)考えるより行動である。

 そう考えた時にエンリの頭の中へ――例の変わった音が突然鳴り、思考の中へ敬愛する者の声が非常にクリアな音質で響く。

 

『エンリ、私だ』

「は、はいっ、アインズ様」

 

 余りに不意の事で、ビクリと派手に大きく震えたエンリは、手元から包丁を取り落としたままその場に直立で固まる。包丁はそのまま刃の部分を床へ、「あぁっ!」と驚くネムとの間に突き立たせていた……。少し離れたところに手伝いで居るゴブリン兵士のゴコウとキュウメイも目を見開く。

 続けて再びアインズの声が聞こえてくる。

 

『ん? 大丈夫か、今?』

「大丈夫っ。全然大丈夫です。問題は特に起こっていません」

 

 状況はそうだが、気持ち的には全然そんなことはない。タイミングがピンポイント過ぎていた……。

 一気に全身へ汗が噴き出してくる感覚。額の端から顔の外側を通り汗が頬を伝う。頭の中がぐるぐる回るような、思考が全然纏まらない焦りの状態である。しかし、旦那様に無様なところを感じさせるわけにはいかないので、必死に語尾の震えを抑えていた。

 アインズは、まだ〈伝言〉に慣れず初々しいなと勘違いし、気にする風もなく落ち着いた小声で用件を伝える。

 

『ふむ。今はエ・ランテルにいて宿屋へ戻るところだ。今日そちらへ行くつもりだが、少々急に用が立て込んできてな、少し遅くなる可能性がある。午後9時か……10時迄はいかないと思うが。キョウにもそう伝えておいてくれ。以上だ』

「は、はい。畏まりました。お待ちしております、アインズ様」

「ではな」

 

 そうして〈伝言〉は無事に切れた。

 内心、旦那様の声でキョウよりも先に連絡事項を受けられた事が単純に嬉しかった。

 またこの命令は、非常に重要な事実と意味を持っている。絶対的支配者から直接、他者への伝達指示を受けるという事はかなり信用されているという証であり、今後エンリの立ち場が更に上昇することへ繋がっていく。

 

「はぁーーーーー」

 

 脱力して、エンリは手前の調理台へ両手を付いてもたれ掛かった。

 落ちた包丁が誰も傷付けていない事は見えてたので、慌てて動かない。すでにネムが、「ふん」と両手で引き抜いたところだ。

 直ぐに歩み寄って来てくれたキュウメイらも声を掛けてくれる。

 

「大丈夫ですか、姐さん」

「……大丈夫です。ありがとう」

「御屋形様ですかね?」

 

 ナザリックとは独立した忠誠心を持つゴブリン達が気を使ってくれる。彼等から見てアインズのその力は、まさに圧倒的。敵に回せば主であるエンリは確実に守れない畏怖すべき存在である。

 だから彼らがとても心配気に見えた。

 だが、エンリは決して旦那様自体が怖い訳では無い。むしろ愛しい。その信頼を裏切ることこそが怖いのだ。

 ンフィーレアについては、今の〈伝言〉の中でアインズへ確認すれば一番早かった。今朝、バレアレ家へ行っているのだ、一番詳しいと言っていい。

 しかし、ンフィーレアがここに居るにも拘らず「なぜそんなことが、確認出来ていない?」と問われることが怖かった。そして、旦那様自ら今も用が立て込んでいるという中、時間を僅かでも取らせてしまう事は、配下として愚か者と言えるだろう。

 少し切羽詰まった感もあり、エンリの思考が言葉へ少し零れる。

 

「ふう。早くご飯を作って、ちゃんと聞かなくちゃ……」

「ん、何を聞くの、お姉ちゃん?」

 

 心情を聞かれて一瞬ギョっとしかけたが、周りはナザリックの一員でもあるネムらなら問題はない。

 エンリは家族に軽く愚痴ってしまう。

 

「んー、ンフィーレアのお婆ちゃんが来てないでしょう。だから―――」

「――ああ、それなら、竜の軍団とたたかうのをしえんするために、まちに残ってお薬をつくらないといけないんだってー。さっき、ンフィーくんの家に行ったときに聞いたよ? 竜の一杯いる軍団のお話はビックリしちゃったけど、きっとアインズさまがこらしめてくれるから大丈夫だよねっ!」

 

 ニッコリとした満面の笑みでネムは、アッサリとそう教えてくれた。

 

 

 

 目をパチクリさせるエンリの、性急で重要だった悩みは速やかに解決した。

 

 

 

 持つべきものは、やはり仲良き姉妹ということだろうか――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒に澄んだ空へ僅かに雲の浮かぶ中、美しい星々が全天で煌めき、今日もエ・ランテルの街にいつもと変わらぬ夜が広がり始める。

 今の時刻は、午後8時半を回った辺り。

 この時間でもモモン達の居る冒険者達の宿屋街や飲食街は、まだまだ盛況である。護衛やモンスター退治は、農村や商人達の必要経費である事から、冒険者達は景気の影響を受けにくい。そして彼らは、生死を掛ける職業気質もあって、装備や食事に使い惜しみは余りしない。

 特に明日の朝から王都への遠征である。送り出す側の者達や、精神的部分で飲まずには居られない者達も多い様子。

 しかし、賑やかなのはその周辺だけだ。もし、一般市民達の住む内側の第二城壁側の区画内を上から少し見渡せるとすれば、すでに灯りの消えた家々が随分多い事に気付く事だろう。近郊を含めると70万人の住む大都市のエ・ランテルであるが、夜の明かり代を無駄に出来ない家庭が随分増加しているのだ。

 農村部に比べれば都市部の方が年収の稼ぎは多いとはいえ、彼等も贅沢を出来る水準には程遠い。貴族でもなく裕福という家は、バレアレ家のようにとても優れた技術を持つ職人や、広い規模で商売をしている中流商人以上ぐらいで、殆どの者達は真面目に精一杯暮らしていても、どこの家計もきつくなるばかりである。

 何と言っても近年は実利の無い戦争が繰り返され、ここ10年は毎年のように税が増え続けている。一方で、テコ入れが全く出来ていない王国内の経済は、ずっと右肩下がりの下降線を辿っており、帝国との通商的関係も益々冷え込む中、各都市にあるスラム街は無能さ際立つ貴族達の行為を物語るように拡大の一途を続けていた。そこに広がるのは、不満と裏切りと悲劇と妬ましい欲望などの暗い影である。彼らは全てに飢え続けていく……。

 だが、このエ・ランテルの市民達はまだ辛うじて恵まれていると言えた。

 ここを預かる都市長で貴族のパナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイアは非常に珍しく、弛んだ見かけの姿とは違い人物としては優秀であったからだ。彼は、有るだけ使う――いや、無駄に課税し暴利を貪るという悪徳心のある都市長ではなかった。

 それどころか、倹約に努め毎年の増税幅をなるべく低くする形の政策を取ってきた。

 今は廃墟へと変わったが、同じ王家直轄領の大都市エ・アセナルの都市長クロイスベル共々、そういった内政を取る者として、国王のランポッサIII世により任命されて要所を任されていた。

 パナソレイは、城壁や建物の修復、郊外の水路補修など公共事業をこまめに行い、また作業者らへの食事提供やその作業服の制作関連の派生産業も上手く回し、仕事が無く年収の低い者を男女バランスよく雇う政策を通して、スラム街の存在を最小限に留めさせていた。

 それでもスラム街では、やはり行き倒れて亡くなる者はどうしても出る。特に年老いて働けなくなったり、捨てられた病弱な子供らだ。

 今日も、ここ最外周第三城壁の西地区へ広大に広がる共同墓地に、そういった者の新しい墓が無縁者区域へと10基程並んで増えている。それらには、名や年代などが刻まれることもなく、見るからに安っぽい白木の十字杭のみが地面に突き立てられていた。

 その人気(ひとけ)の皆無といえる場所の脇を走る、星明りだけの暗い夜の小道を、3つの影が進む。

 

 

 漆黒の戦士モモンと騎士クレマンティーヌ、それに魔法詠唱者(マジック・キャスター)のマーベロが続いていた――。

 

 

「先の晩ご飯のさー、お肉とスープ、結構美味しかったねー、モモンちゃん」

「――おい、声。それにこっちで、大丈夫なのか?」

「大丈夫、大丈夫ー」

 

 なぜ、夕食を終えた彼らがこんな寂れた場所へ連れ立って〈闇視(ダーク・ヴィジョン)〉を効かせつつ歩いているのか。

 そもそもこの共同墓地は都市城壁内でも、更に4メートル程の人が上を歩ける程分厚い壁で囲まれた管理区域内であり、数か所ある出入り口の門には衛兵が24時間体制で非常時に備えて警備している場所となっている。それは墓地という場所、そして規模によりどうしてもアンデッドが発生してしまうためだ。難度15程度の黄光の屍(ワイト)や難度24程度の百足状の骸骨(スケルトン・センチュピート)も警備が手を抜き弱いアンデッドを放置すると出て来てしまうが、大抵は難度3から6の骸骨(スケルトン)動死体(ゾンビ)に留まる。

 そんな場所へ、クレマンティーヌが周辺の手薄と感じる場所を確認した上で、3名とも塀を乗り越えての不法侵入中だ。その敷地内へモモンを先頭に立たせ、とある場所へ向かってどんどんと進んでいく。

 この行軍する状況の発端は、宿屋のベッドでモモンの膝枕に寝転ぶクレマンティーヌが持ってきた、お土産に因るモノであった。

 

 

 

 

 

「はい、これー。お土産だよ。んふっ」

 

 少し不満のある表情でベッド脇へ立つマーベロを頭側にして、モモンの眼下の膝でリラックスし無防備に寝転ぶ、白ブラウスにこげ茶系ホットパンツ姿の妖艶なクレマンティーヌ。

 彼女は、先のモモンらの不在時にベッドの下へ隠していたのか、何やらアクセントに黒い水晶の大きい宝石が付いた、(サークレット)状に組まれた金属糸へキラキラした透明石の並ぶアイテムを、右手人差し指でゆっくりクルクル回しながら取り出してくる。

 そしてクレマンティーヌは、雑に扱うそのお土産をモモンへと可愛く微笑んだまま気軽に差し出した。

 女の子用みたいだが、宝物殿に送ってもいいし、或は誰かに贈ってもいい物だろうか。モモンは自然と尋ねる。

 

「ん、お土産? まだ聞いてないスレイン法国の特産品か何かかな?」

 

 普通はそういった感じに思うはずである。

 

「一応これもねー、―――秘宝の一つだよっ」

「なにっ!?」

 

 モモンは何気なく右手で受け取ろうとしていたが、流石に固まった。

 これまでの情報から、法国にはトンデモナイ至宝が有る以上、警戒するのは当然の事である。

 

「これは“叡者(えいじゃ)額冠(がっかん)”って言ってねー、両目を潰した魔法詠唱者(マジック・キャスター)の小娘の頭部に装備させると、そいつが一生自我を失う代わりに強力な魔法上昇(オーバーマジック)のアイテムとして機能するようになるんだよー。まあ、正確には“叡者の額冠”を壊せば正気に戻るけどー、額冠の方が貴重だからそんな事はしなくてさー、魔法詠唱者の子が衰えると無理やり引き剥がすから発狂しちゃうんだけどねー。それをバッサリ始末するのも一応、私ら漆黒聖典のお仕事なんだよー、あはっ。本来は頭に装備してるから後が面倒なはずなんだけどー、これは丁度、少し前に爆死した子が付けてたやつだから。保管庫から上手く盗ってこれて楽で良かったよー。ウチの国じゃ100万人に一人っていう第五位階魔法以上の使い手の子が、その生き人形になってるのねー。それでー、その子の周りに10名から20名程の魔法詠唱者(マジック・キャスター)の部隊を配置してさー、魔力の集中供給と魔法の発動を部隊長中心でやってるの。風花聖典の6つの部隊それぞれでねー。頑張れば第八位階魔法でも放てるって話だよー」

 

 そう事もなげに非人道的である秘宝の説明を言い終えると、彼女は「はい、モモンちゃんっ」と、仰向けで秘宝を持つ右と空いていた左を合わせた両手で、モモンの固まって開いたままの右のガントレットの手へ優しく握らせてくれた。

 恐らくスレイン法国でも、金貨で言えば100万枚は下らないだろうというお宝。その価値を分かる者が存在を知れば、部隊ながら『逸脱者』らも使えない大魔法も放てるため、言い値で買うと思われる代物だ。買えるというのなら、国家規模の組織等から金貨500万枚でもと普通にオファーが来るかも知れない。

 だがクレマンティーヌは、頬を染める乙女のニッコリとした笑顔で、それを伴侶へと当然の様に差し出していた。彼女は温かい気持ちで満足しつつ、ふと見返りを求めないこの自然な感情も愛なのだと気付く。

 対してモモンとしては、嬉しいというよりも先立つ不安満載の考えが浮かぶ。

 

「そんな重要品が無くなったら、大変な騒ぎになると思うけど、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫ー。今回の急に決まった出撃の件で本部内も結構混乱してたし、保管係の神官達はこれの自我喪失の作用にビビってるからさー、保管場所にも殆ど近付かないしね。あと2年は、すり替えてあるレプリカに気付かないんじゃなーい?」

 

 本当に大丈夫かは分からないが、これまでの行動からここは彼女の言葉を信じたい。しかし、度胸があるというか何というか。豪胆だろうクレマンティーヌの落ち着き振りであった。

 兄さえ殺せれば後は……いや、今はモモンへの一途さがそう行動させている様にアインズは感じた。

 モモンは少し見つめていた右手に渡された(サークレット)から目線を下げ、横たわって頬をスリスリしてくるクレマンティーヌを改めて見ると言葉を伝える。

 

「そうか……。兎に角、貴重な物をありがとうな」

 

 聞けば、20名も寄せ集めてすら第八位階程度しか放てない水準だが、使用者らが低レベルの問題もある。モモンにとって重要部分は他にあった。

 出来れば〈道具上位鑑定(オール・アプレーザル・マジックアイテム)〉を使って調べたいところだが、それも今は状況や制約上もあるし出来ない。多分、ユグドラシルには存在しえなかったアイテムだ。『群れで一つの魔法を放つことを補助する』アイテムというのは聞いたことが無い。

 一応ユグドラシルでも自分のレベルでの制限階位を超えて魔法が使える『魔法上昇(オーバーマジック)』のアイテムは存在するが、まず集団にならなくても、少しプレイすれば、Lv.70も軽く超え、第十位階魔法も難なく放てるようになるので殆ど必要性がないためだ。

 そのため貰ったモノは、ある意味貴重といえるアイテム。アインズはコレクターとしてかなり満足する。

 モモンの優しい御礼の言葉に、クレマンティーヌは嬉しく、柄にもなく彼へだけは謙虚に言葉を返す。

 

「いいよ、いいよー。前から用意しててついでだったしねー」

 

 クレマンティーヌのおかげで更に珍しいアイテムを得て、そして人材としても有能なことに、アインズは彼女への評価を内心で改めて大きく上げる。

 元々ナザリックの地上部における、独立した諜報機関の設置を考えているが、対人間部門の幹部の初めの一人に考えてもいいかもしれないと。

 いずれクレマンティーヌへナザリックに関して色々話した後は、是非残って任務に就いてもらいたいものである。ただその話をするのは、やはりきちんと約束の『兄を討って』からになるだろうとアインズは考え始めていた――。

 絶対的支配者は、相手が誰であれ恩には恩で返そうと思っている。クレマンティーヌは『恨む兄を殺害する』事に強い願望を持っている。彼女を誘う理由になった武技使いに関してはまだ貢献がないものの総合的に見て、彼女はもう十分にナザリックの為に働いているといえる。ならば、その願望をまず達成させてやるべきだろう。

 彼女を次のステージへ進ませるために、このアインズ・ウール・ゴウンの名において。

 その時、アインズの考えの横を抜ける様に、クレマンティーヌが次の扉への言葉をモモンへ伝えてくる。

 

「……本当はねー、それって―――秘密結社のズーラーノーンに移るためのお土産にと思ってたんだよねー」

「へぇー」

 

 そういえば、モモン達はまだ『ズーラーノーン』という秘密結社の詳細を殆ど聞いていなかった。前回は道中にンフィーレアが居たし、エ・ランテルに帰り着くとほどなく別れていたからだ。そして今回もまず法国の調査をと依頼していた事もある。

 丁度落ち着いた状況でもあるし、少し聞いて見ようと思っていると、クレマンティーヌの方から話題を進めて来る。

 

「ズーラーノーンについてはまだ、マーベロちゃんにも話してないしー、モモンちゃん達に初めて話す内容だよねー。じゃあ、まず組織全体からねー」

 

 そこから、大雑把に話が始まる。

 まず、秘密結社ズーラーノーンの組織規模。盟主の下に幹部達と、割と少数だがそこそこ精鋭に絞った感じの人員。意外に組織全体でも千人にはかなり届かないと思われる。

 次に彼らの拠点は、主にこのリ・エスティーゼ王国内へ点在するという。

 盟主が20年程前に人間の住む都市を一つ『死の螺旋』で滅ぼして以来、敵対関係にあるというスレイン法国の内地は、直接アジトを探知される可能性が高いので定着は難しいとの事。

 先の漆黒聖典の情報と、モモンとマーベロもセドラン一行の3名の中に、五角形の眼鏡を掛けた短めのスカート姿の少女『深探見知』を見ており納得する。

 また、バハルス帝国には、フールーダ・パラダインという第六位階魔法の使い手と、多くの高弟、魔法学院まであり、法国同様に強力な魔法詠唱者部隊と騎士団が整然と組織化されているため、自由には実験や行動が難しいという。

 結局、王国内に対抗出来る組織や機構が十分に作られていないため、早期にこの国へ落ち着いていた。

 そして、恐怖をまき散らす邪悪である彼等の真の目的は――ある強大な『儀式』を行う事らしい。以前に『死の螺旋』を実行して都市を滅ぼしているが、その際には達成できなかったためだと漏れ聞く。それ以後盟主は研究と小さい実験を繰り返しているようだ。

 クレマンティーヌは高弟待遇であるが、まだ正式に幹部では無いため、大手を振って詳細に組織を探れる立場になく、また盟主や幹部へ直接問う事はしていない。

 組織の目的や詳細を直接知ることは、しがらみに踏み込むという事であり、大きな危険が発生する。彼女はそれを良く知っていた……。

 幹部について、彼らは十ニ高弟と呼ばれ計12席用意されているらしいが、まだ空きがあると話に聞いている。単に役職名という事かもしれない。

 彼女によると高弟待遇になるまで既に、ここ2年程、秘密結社ズーラーノーンへ多く貢献してきているという話だ。特に天敵である漆黒聖典の、最新の動向情報は値千金となっており、すでに高弟の内の二人が襲撃の難を逃れていた。法国と漆黒聖典は、ズーラーノーンの全貌について余り掴めていないのだが、メンバーの『占星千里』が高弟らの規模の大きい殲滅実験を予測して、行商人を装う諜報員達が王国内でその動きを裏付けた事で襲撃を計画出来ていた。

 そんな状況でもクレマンティーヌは時間とアリバイを作りこっそりと、ズーラーノーン側の戦力として王国の幾つかの小さな村の殲滅実験に参加し、圧倒的隠密性と身体能力を使い、実験で殺し損ねていた生き残りの者らに加え、ある時領主が村へ救援探索に送って来た30人程の騎士団を一人であっという間に全員片付けている。勿論その際、足がつくのを防ぐためにスティレット等の普段の武器使用や殺し方はしなかった。どら猫の用心深さはさすがだ……。その事で、盟主にも直々に礼の言葉を掛けられたという。

 そういった積み重ねの貢献と実力により、幹部の一人に加わらないかという話が進み始めて、条件の一つに最秘宝の『叡者の額冠』も挙がっていた。流石に盟主も、既存の高弟らをすべて納得させるには相応の大手柄がないと難しいということだろう。

 モモンに渡された先のお土産は、その他の高弟らの不満を黙らせ一気に秘密結社ズーラーノーンの幹部にすらなれる逸品であった。

 しかしクレマンティーヌにはもう、ズーラーノーンの幹部への興味は無くなっている。

 

 彼女はモモンを選んだからだ。

 

 彼がいれば十分である。『復讐』もその先の桃色な『未来』も全く問題は無くなった。

 今は、モモンがズーラーノーンの情報も欲しいと希望しているから彼らと関わっているにすぎない。

 さて十二高弟達だが、普段の基本行動は個別組織を率いていて独立採算制らしい。幹部其々の考えというか趣味というか、そういったもので行動や研究が進められている模様。そのため自分の配下も殆ど自由に決めているという。

 秘密結社ズーラーノーンとしては、盟主の呼びかけの会議があれば動くという事みたいである。

 おかげでクレマンティーヌは、各地に散在する高弟達下部組織の詳細な動きについて、殆ど掴めていないという。

 だが……。

 自らの潤いのある唇を色っぽく右手中指でなぞりつつ、彼女はモモンに満面の笑顔で伝える。

 

「でもねー、一人だけ詳細を掴めている幹部がいちゃうよ」

「ほう」

 

 リアルで営業マンをしていたアインズの勘が、クレマンティーヌの営業センスの高さを感じ取る。

 営業の奥義は『相手の欲しがるものをどこまで高い水準で上手く大きく提示出来るか、そしてこちらの要求を限界まで飲ませられるか』である。外交官や問題仲裁人や商人もほぼ同じ能力が不可欠。彼女はそれを自然に身に付けている風に見えた。これまでの生き方が身に付かせたのだろう。

 だがこういう人材は、非戦闘面でも強いのだ。

 秘密結社を相手に女一人で堂々と、これまで上手く事を運んでいる彼女の手腕は、本当に大したものである。

 モモンが話の先を催促してやる。クレマンティーヌがそれを待っているのを分かって。

 

「そいつはどんな幹部なのかな、クレマンティーヌ」

 

 そして、寝転ぶ彼女の――頬を左のガントレットで優しく撫でてやる。

 口元が少しへの字になっているベッド脇に立ったままのマーベロの首が、更に羨ましさでゆっくりと傾く。

 モモンに触って貰えて、えへへへっととても幸せそうに微笑みつつ、クレマンティーヌは語り出す。

 

「ズーラーノーンの十二高弟である彼の名は、カジット・デイル・バダンテールって言ってさー。……あーーっ! 男だけどー、見かけによらず結構紳士なヤツだし、肉体関係とかこれっぽちもないからねっ! 漆黒聖典の情報のリークをずーっと彼経由で組織に伝えてて、あいつに信用されてただけだからね!」

 

 クレマンティーヌとしては珍しく、慌てて男女の仲を否定してくる。

 相手の秘密を握るという事は親密ということにもなる。つまり、男女の場合はねんごろである考えも連想させてしまうが、彼女としてはモモンにはそう思って欲しくないのだ。事実、不思議とカジットから変な目線を向けられたことは殆ど無い。配下からは結構あったが。

 密閉された暗いアジト内で目の前を、美人でスタイル抜群の若い金髪の女が、羽織るローブに一部隠れているものの胸元に太腿やヘソ等露出の多い装備姿で歩いていれば、男として欲情しても不思議ではないだろう。

 クレマンティーヌの言葉にモモンは、彼女の直前までの態度から、嘘は無いように感じた。だから、落ち着いた言葉と態度で肯定してあげる。

 

「うん、よく分かってるよ」

「んふっ。でね――」

 

 安心した彼女の話す十二高弟の一人カジットは、ここ、大都市エ・ランテルの広大な共同墓地にある霊廟の地下へアジトを構えているという。

 魔力系魔法詠唱者で、アンデッドを操るネクロマンサーであり、すでにアジト内外は150体を越えるアンデッドで守られているらしい。

 そして彼の主力の配下は第二位階以上の魔法詠唱者達が約15名、他に雑用の者らが10名程だ。配下の者達は、礼儀正しく且つカジットの実力を慕い敬って付いてきている者達ばかりで、良い部下達らしい。

 小さめの組織というのは、TOPがきっちりしていれば自然に引き締まるものである。

 モモンはクレマンティーヌの話を聞きながら思う。

 

(とりあえずカジットという者は、部下達を良く統率している指揮官みたいだな。それにクレマンティーヌほどの女の子に手を出していないって、かなり根が真面目ということかな……)

 

 某陽光聖典の隊長の如く立場を背景に、普段から好色を周囲へ垂れ流し、本音の言い訳も見苦しい指揮官をすでに見ているので、モモンは少し考える。

 この世界は、概ね強者に対してより寛容といえるため、力ある者は傲慢になりがちなはずである。

 だが、必ずではない。

 王国の国王は、かなりの理性と配慮を持っていた。王国戦士長のガゼフも、弱者や主、部下思いで誇りある立派な指揮官であった。

 一方で大貴族や貴族達には、やはりその領地における絶大である権力を背景にして私腹を肥やし、弱者達を欲望のまま弄ぶ連中が大勢いることも実際に見てきている。

 しかし、アインズは力を振りかざす貴族達が間違っているとは考えていないし、懲らしめようとも思わない。力のある者がすべてを御していくのは、この新世界の自然的光景と言える。

 簡単に言い変えれば人が、共食いをしている虫にふと気が付いて、食われている方を助けても殆ど助からないし、強いから食っている側をそこから殺そうとは思わないのと同じ状況である。

 

 

 

 ただし――ナザリックに関わる者へその傲慢な考えが向けられた場合は別という事だ。

 

 

 

 強者に気付かない『分を弁えない愚か者』には、地獄を味わわせてキッチリと踏み潰すのみである。

 とはいえ、周辺に難しい問題が増えている現状、状況によっては特別対応も有り得る。

 

 さてクレマンティーヌによる十二高弟の話は、その彼らの動向も語られ始める。

 あと、彼女が話した先程の高弟の名前には、いつの間にか馴れ馴れしい接尾語が付けられていた……。

 

「そうそうー、今日の昼前頃だったかなー。モモンちゃん達が仕事でいないから奴のアジトに行ったんだけどさー、()()()()()()に漆黒聖典の動向を教えて油断させた後で、さり気なく『他の幹部らで何か動きは無いの』ってサラッと聞いたのよねー。カジッちゃんは時々魔法で遠くの仲間と連絡を取り合ってるから。でもね、呆れたように連中は当分動かないーって。あの感じだと来月も動きは無いかもー。あ、そういえばモモンちゃんも遠征に行くんだよねー? 一緒だねっ。それと、白金(プラチナ)級への飛び級おめでとー! まあ、モモンちゃんの実力はもっともっと上だけどねー」

「ああ、ありがとう。特に飛び級を希望していたわけじゃなかったんだけどな」

 

 アインズとしては正直なところ、残った方が裏で動き易いと考えており、それが言葉にも表れていた。

 この先の局面は、王城側に居るアインズ・ウール・ゴウンとして動く必要があり、冒険者モモン役はパンドラズ・アクターに任せることが多くなりそうである。しかし、モモンとして共に彼女の兄であるクアイエッセを約束通り殺害するにはかなりいい機会とも思える。

 ここで、クレマンティーヌが遠征でモモンが街からいなくなる事に関わる話を聞いてくる。

 

「遠征に行くけどー、モモンちゃんにとってさー――このエ・ランテルの街って大事?」

 

 彼女の質問のその趣旨がまだ掴めず、漆黒の戦士は率直に意見を返す。

 

「……動きが気になるスレイン法国にも近いし、立地的には重要な場所だね。それにチームとして、仕事も人脈も増えつつあるから……って聞きたいのはそういう事?」

「んー、友人やー、死んだら困る人って多いのかなーってねー」

 

 少し歪んだ笑顔の表情になった彼女の言葉をそこまで聞いて、モモンは気付く。先に他の高弟らについての動きは聞いたが、まだ聞いていない者がいたという事に。

 カジットというズーラーノーンの高弟が、何か始めるのだろう。

 

「決行はいつの予定? ヤツ(カジット)は何を始める気なのかな?」

 

 モモンにそう尋ねられると、歪みが無くなり可愛い笑顔に戻ったクレマンティーヌが全て教えてくれる。

 彼女は、伴侶モモンの味方であるのだから。

 

「えっとねー、アンデッドをもっと増やす準備について10日程でなんとかなるって言ってたから、来週だねー。どうやらこの都市で〝死の螺旋〟をやるみたいよー」

 

 10日後だと、漆黒聖典は撤退させているだろうが、竜軍団への対応は残した状態だ。アインズとモモンは、王都かそれよりも北西地域に張り付いた状態になるだろう。

 『死の螺旋』――アンデッド達による一般市民大殺戮。アンデッドがアンデッドを生み出し死が死を呼んで、都市は瞬く間に全て死に包まれ冥府の地獄と化す……。

 対して、このエ・ランテル側の防衛は急に招集し寄せ集め中の一般軍兵数万と、(アイアン)級と(カッパー)級の下級冒険者のみで対応することになる。

 

「カジットって奴の難度はどれくらいかな?」

「そうねー、〝死の宝珠〟って凄いアイテムで強化されてるから――今の私に近い120はあるんじゃないかな」

「(またアイテムか……凄いというほどではないけど……Lv.40程度か。もしかすると第六位階魔法も使えるんじゃないか。冒険者の(アイアン)級って確かレベルは一桁だった気が……)……アンデッドも既に150体以上いるんだっけ。……十二高弟が率いた上で夜中に壁の内側から不意を突かれたら、衛兵らを含めて都市中が大混乱だろうし全く勝負にならないか」

「ならないよねー。んふっ」

 

 クレマンティーヌはニコニコしている。彼女の場合はどう転んでも気にならないのだろう。なぜならモモンに付いていくだけであるから。

 一方、漆黒の面頬付き兜(クローズド・ヘルム)で表情は見えないが、モモンとして、そしてアインズとしては、気持ちが明確になってきていた。

 この世界に不慣れであった冒険者として、この都市で登録し一般的な営みを回りから学び、客を得て知り合いも得て戦友も得て、シャルティアの案が奇跡的に効果を見せて名声も少し上がり街の住民にも受け入れられ始めた。気付けば、それらを息抜き的に結構楽しんでいたのだ。

 確かにナザリックとは比べるべくもなく、単なる情報収集の一手に過ぎず、未練の小さい事象や存在だろう。

 でも……それが、他者の手で勝手に壊されようとしている……。

 だから、漆黒の戦士の口が静かに語る――最後は絶対的支配者のトーンで。

 

 

 

「一応、ここは俺達〝漆黒〟のホームの都市だし、やっぱりこれは少し――――不愉快だな」

 

 

 

 そこからの動きは早く……はないが、ある意味当然と言えた。

 まず――アインズの声色での敵視認定に、先の至宝アイテムの件もあるのか傍へ立つマーレが即全力戦闘態勢に突入しようとし、瞳からキラキラの輝きが失われ掛けるも「マーベロ、まだいいからね」と動きを予感したモモンが優しい声を掛けると、ハッとし「は、はい、モモンさん」と少女の瞳に輝きが戻り、標的は一方的な難を逃れる。クレマンティーヌは「ん? ん?」と、この僅かなやり取りの意味には気付かず。

 敬愛する優しい至高の御方の意向をマーレは決して裏切らない。

 守護者の彼女にすれば、十二高弟の地下のアジトなど正にゴミを埋め固める程度の話。ここから少し距離を詰めれば余裕で射程圏である。いきなりエ・ランテル第三城壁内西地区の広い共同墓地が丸ごと地中に没するところであった……。

 相手の戦力が丸裸である今回、相手を潰すのは容易。しかしその結果、まだ多くが不明の組織立った敵が単に増える事になる。

 アインズとしては、新たに空中都市などの脅威情報の増大に鑑み、目先ではなく少し大局的にみての考えが生じていた。

 モモンは、膝上に寝転び彼の次の言葉を微笑んで待つ女騎士へ声を掛ける。

 

「クレマンティーヌ」

「分かったー。案内するね、モモンちゃん。でもー、その前に――――ご飯食べよっ」

「(えっ?)……ああ、そうしようかな」

 

 まさかここで飯かよとモモンは、思考の外を突かれるもこの場は余裕を見せ即対応の返事を返した。

 確かに必死になったり、急ぐ必要は全くない。クレマンティーヌらしい冷静で豪胆さの出た考えだ。

 それに、食事を取るという行為は戦さの前に限らず実に当たり前の事で、人間のコミュニケーション上でも重要である。傍にマーベロとパンドラズ・アクターだけではつい忘れがちになるが、まめに外の店で食べていないと「どこでいつも何を食べてますか?」という冒険者らの何気ない質問で苦しむことになる。なのでマーベロ達は、毎日宿屋から一定時間外へ出たり、二日に一回は外の飲食店で食事をしている。

 モモンの返事にクレマンティーヌは彼の膝から、寝転んでいた上体を起こすと装備を置いているベッドの反対側の脇近くへと軽快に立ち上がり、衣装装備と武器を鼻歌交じりの手慣れた手順で装着していく。

 彼女は余裕である。

 3人で乗り込む先は、あの知る人ぞ知る恐るべき秘密結社ズーラーノーンの十二高弟の一人が率いる戦力の充実されたアジト。並みのつわものらなら、間違いなく裸足で逃げ出す場所だ。

 予想される総戦力は、最低でも漆黒聖典のメンバー水準で3人ほどを相手にする規模。

 通常兵力換算なら万単位規模となり大きい戦闘になるはずで、クレマンティーヌも本来は本気を出す必要があるだろう。

 しかし現在、彼女は戦いに関しては何も心配はしていない。もはや『晩飯のついで』扱いである。

 

 それは、モモンの恐るべき強さを一度見ているが故に。

 

 加えて今はクレマンティーヌも全力出撃用の特別装備を身に付けている。地上の接近戦であれば、カジット達に負ける事はないとの自信もある。アンデッド勢は少し厄介だが。

 ちなみに、直接その戦う姿を見ていない『か弱い』マーベロについて、女騎士はそれほど期待していない。右往左往しながらカジットの配下のザコを二人か三人、釘付けにして時間を稼ぐ程度でよく、「まあ危なければ私が助けてやるか」ぐらいに思っている。

 クレマンティーヌがこの時点で重要なのは――何と言っても墓地から帰った後、時刻的にそのまま戦いの荒々しい興奮冷めやらぬ勢いでムフフッな桃色ステージ(宿部屋の左側ベッド)に朝まで突入予定である事だ。

 そのため、まずはすべての活力、精力を生む晩御飯であるっ。

 

 こうして、モモンら3名は宿屋の部屋を後にした……。

 

 

 

 

 

 

 

 宿屋の外へ出て近くの飲食街へ向かうクレマンティーヌは、周囲へ一つだけ注意を払っていた。この時間の賑やかである場所にこそ、スレイン法国の『密偵』有りである。

 流石にモモン達といるところを見られるのは、法国を欺く必要のある彼女にとってまだ都合が悪い。そのため飲食街の端側に在る、客の少なめの店にモモンらを引っ張っていった。

 まあ、見られたとしても単に()()()()()『密偵』を消すだけであるが。ここはリ・エスティーゼ王国。敵地で潜入工作員の一人や二人、突然姿を消したとしても大きい問題にはならない。

 テーブルに着いて注文をし、運ばれてきた食事を三人で頂きながらクレマンティーヌは終始ニコニコしている。

 何故なら、食事の時は兜を外した愛しのモモンちゃんの顔が見られるからだ。

 そして今日は……このあとのベッドでも彼の男として素顔も――。

 

「はぁ、んふっ」

 

 丸テーブルの左位置に座る漆黒の戦士への、時折想いを馳せた甘い視線と吐息が漏れる。

 自分の大切な全てを知られてしまうということで、少し恥ずかしいという気持ちもあるが、女としての喜びを今夜から彼に教えてもらえるということが嬉しく思える。

 

(もうすぐもうすぐっ)

 

 そんなイカガワシイ思考で一杯のクレマンティーヌも今は外での食事中で、三人の会話は差しさわりの無い今日のモモンの仕事や先程会ったニニャや、その所属する『漆黒の剣』などの内容に終始した。

 

 モモンはジョッキに入った酒ではない食後のドリンクを飲み終ると、両手でマグカップを可愛く持つマーベロらへ告げる。

 

「それじゃあ、“挨拶”にいこうかな」

 

 すでに、午後の8時も回っており、モモンとしてはこの件の後もカルネ村へ行く予定がある。

 さっさと面倒事は片付けて、カルネ村で静かに一息つきたいところだ。

 だが、支配者は至宝等アイテムの件で忘れている。桃色思考のクレマンティーヌがサキュバスのようにこの後、離さない気満々ということに……。

 そうして、一行はスレイン法国の密偵を避けるように飲食街を目立たない横道から去ると、クレマンティーヌが人気のほとんどない裏道を先導して通り抜けつつ、共同墓地へと辿り着く。三人は難なく順に塀を越えて敷地の中へと侵入していった。

 

 墓地内を歩くこと5,6分。あと30メートルほどで人影のない目的の霊廟という、一歩手前まで来たところでモモン達は立ち止まる。

 星明かりのみ届く闇夜の中だが、その白っぽいガッチリした石造りの建物はハッキリと見えていた。周りには葉の茂る木が霊廟を囲む形で数本立っている。

 闇のカーテンというか、僅かに地表近くから立ち上る形の霧もあり妖しい雰囲気が周辺を包む。

 気付くと、いつの間にか霊廟の入口前には、杖を持つ一人の紅色の濃いローブ姿の人物を中心に7名の紺のローブを纏う集団が出迎える様に現れていた。

 その紅色ローブ姿の男が声を上げる。

 

「クレマンティーヌよ、どういうことだ? そいつらは誰だ?」

 

 他の周りの者を従える雰囲気とクレマンティーヌに声を掛けたことで、モモンはこいつがカジット何某だと認識する。

 十二高弟にとって、自らのアジトは言うまでも無く秘密で非常に重要となる拠点である。

 そこへ、事前の知らせも無く、戦士と魔法詠唱者らしき部外者を連れて来る事は、許せない行為であった。

 

「ごめんごめーん。先に言っとけばよかったかな、カジッちゃん。でもさ、会ってくれないかも知んないしー」

「当たり前だ。儂らは人知れず地に潜みし存在。気軽に訪問者を迎え入れると思っておるのか」

「でしょー? だっから黙って連れて来たんじゃなーい」

 

 カジットの目は、不機嫌に随分険しくなっていた。普段から余計な事をするが裏切り行為はなかったクレマンティーヌだから故に、今、こうして配下から不審者同行の知らせを受け、自ら出て来て確認している。

 真面目なカジットはまだ最後の部分で、性格が狂ってはいるものの、能力や判断の優秀だったクレマンティーヌを信用していた。

 他の者の接近であれば、既に戦端は開かれている。

 カジットも十二高弟の一人。もちろんすでに、応戦の配置は済んでいる。

 とは言え、漆黒聖典第九席次であるクレマンティーヌの高い戦闘能力は折り紙付き。むやみには戦いたくない相手でもある。また、その女騎士はのんびりしている雰囲気に見える。

 つまり、戦いではなく何か話があるという事なのだろうと、カジットは考えた。

 しかし。

 

(んん?)

 

 カジットは、目の前に立つ女騎士の様子に少し驚いている。

 彼女は漆黒の全身鎧(フルプレート)に身を包む巨躯で背に二本の巨剣を差す戦士へ寄り添うように見えて立っていた。戦士らを率いてきたという雰囲気ではない。

 

(むう、この戦士の男側に付いたという事か。いや元から付いていたのかも含めて、現時点では不明か)

 

 カジット的に、クレマンティーヌは――男嫌いだと見ていたのだ。

 澄ました時の綺麗に佇む元の容姿は育ちの良い令嬢で、男は選り取り見取りのはずにも拘らず、あの歪んだ性格と笑顔である。そして、全員男であるカジット配下の者らが用などで稀に傍を通ったりすると、時折一定の距離を取ろうとしていた。

 初めは間合いかとも思ったが、どうやら違う意味で警戒している風だ。男で酷い目に遭った事があるのかもしれない。まあズーラーノーンでは能力と成果主義であり、そういった偏った人格は特に問題にはならない。

 一方で、彼女は何故かカジット自身へは、おちょくる感じでよく気軽に近付いて『刺そう』としに来る。配下と何か差異があるのだろうか。彼としては、少し力を見せ合い互いを尊重させる意味では悪くないと考えている。秘密結社に居る者が、緊張感のない弱い奴では困るのだ。

 そもそも、クレマンティーヌの様な女性らしい女は、カジットの好みでは全然無かった。

 短めの髪型や肌の色艶はいいが、それ以外に感じる劣情要素はゼロである。

 また、彼には母を蘇らせるという長年の宿願があるも、それは苦労の中で若死にした母に対する子としての純粋な愛だ。でも、その宿願を公けで口にすれば、いらぬ憶測を呼ぶだろう――『母に想いを寄せる者(マザコン)』と。

 だから彼は誰にも告げずにいる。

 

 でも、それは断じて違うのだ。好みの女性のタイプは、全然別なのだっと彼は心の中で叫ぶ。

 

 カジットのド・ストライク的好みは、表現するならクレマンティーヌに対してほぼ対極と言える姿の子。敢えて言うならば……小柄で……髪が短めで……胸が慎ましい感じで……結構幼い感じで……少しおどおどしていて……。

 

(ん? んんんっ!?)

 

 カジットは、思わず目を見開き唾をゴクリと一つ飲んだ。

 今まで非常に険しかった彼の表情は、一気に驚きのモノを見たという表情へと変わっていった。

 目の前には三名の人物がいる。一人はクレマンティーヌだが、あとの二人は部外者である。

 一人は巨躯の戦士で、残った最後の一人……。

 

 

 

 それは正に――――彼にとっての天使。

 

 

 

 純白のローブの前が少し開いていた。褐色の肌ながら艶もよく、まだ四肢の伸び切っていない感じのその小柄でスマートなスタイル。胸はまだ膨らんでいない清らかな蕾の如く。その短めのプリーツスカートから僅かに覗く瑞々しく健康的に輝く太腿。紅い杖を可愛く内股気味で頼りなく持つおどおどした姿。そして短めの金髪でおかっぱの髪型に、なんとも美しいが、今まだ幼げでどことなく不安そうにする表情。

 カジットの杖を持つ手が小さく震えていた。それは歓喜。

 だが勘違いしてはいけない。彼は『()()()()()()()』のではない。そういう雰囲気の働く一人前の女性がいいのだ。あの異常なクレマンティーヌとはいえ、この修羅場へわざわざ力の無い幼い子供を連れて来るとは思えない。

 

(――――――――――――待ち望んだ嫁だ。儂に相応しい嫁だ……)

 

 部外者の接近に対する非常に緊迫した空気が……なにやら異質の雰囲気に変わった。

 既に40歳に迫ろうとしていた独身のカジットは、一応愛妻募集中である。

 高弟の地位にまで上がってきたが、やはり『家族を持つ者』と独身者では組織内や配下の目線が違ってくる。男としても一人前かどうかということだ。これは率いている独自組織運営への影響も決して小さくはない。それと――配下まで全員独身者という今の状況も打開したいっ。

 これは数々の課題に対する好機(チャンス)である。やはりここはTOPが礎や魁となって見せるべきだと思った。

 カジットは、どうすれば良い方向に進むだろうかと、問題となっている前方の者らから一度視線を僅かに逸らす。

 

「うーむ」

 

 本来、招かざる客について、ズーラーノーンとしては、禍根を残さないよう速やかに問答無用で消すべきである。

 だが――身内になれば当然対象外。

 それにはまず、クレマンティーヌ達がここへ来た目的を知る必要があるだろう。

 そして、妥協点だ。何としても、嫁GETへ繋がるための道を模索しなければならない。

 目線を戻したカジットが語り始める前に、ここで漆黒の戦士が堂々と先に口を開いた。

 

「俺はこのエ・ランテルで冒険者組合に所属している、白金(プラチナ)級冒険者のモモンといいます。まあ、クレマンティーヌはご存知ですよね。そしてこっちは――冒険者のパートナーのマーベロです」

 

 順番的に最下位扱いと思われる、紹介されたマーベロが一応、小さいが会釈する。

 だがこの時、モモンの口走った内容に、カジットの目は血走り、握る杖から「ミシリッ」と険しい音が鳴った。先ほどから彼の顔は頬が赤くなったり、今は表情が青くなったりと激変している。

 

(パ、ぱぱぱぱぱ、パートナーだとっ…………あ、ありえんっ!)

 

 パートナー。相棒。又は――――『恋人、嫁』。

 王国における冒険者の、他人で組まれた男女2人組の肉体関係率は100%に近いと言われている。まさに無情である。

 一方で可愛いこの少女の名は『マーベロ』ということを知る。なんと美しい清らかな響きの名前だろうか。

 ほぼパーフェクトといえる女性だと再認識し、カジットの杖を持つ握力が緩みをみせた。

 それへ反比例するように漆黒の戦士へ向けられる視線には殺気が上乗せされる。

 

(この鎧の者を、マーベロ女史の傍から早急に排除せねば……そもそもクレマンティーヌがおるのだろうに、マーベロ女史まで侍らせるとは、ゆるせんっ!)

 

 齢40前の男の濃い思考は止められない。意に反しつつも淫らな想像を遺憾なく膨らませてしまう。

 モモンとかいう漆黒の戦士がその鍛え上げた逞しい巨躯の身体で、この妖精のように美しく小柄の少女を毎夜思うがままの力任せに嬌声を上げさせ蹂躙している行為など、考えたくもない。

 

(くそっ、死ねっ、モモンとやら! いや……儂が自ら冥府の地獄へ叩き込んでくれるわっ。そしてその後は……くくくくっ)

 

 普段は、(もてあそ)ぶが如き殺し方を好まない真面目なカジットだったが、今回は気持ちが違った。

 さてどうしてくれるか。カジットの口許の片方がニヤリとつり上がる。

 白金(プラチナ)級冒険者の標準的難度は高くても53程度まで。対してカジット自身は120を超えるほど。その差は圧倒的と言える。

 しかし、少し冷静になり良く考えると、あの傲慢でもあるクレマンティーヌが、格下の水準の者に付くとは到底思えない。つまり寄り添って見えているのは、見せかけの罠という可能性が高くなる。

 

(んん? ……結局、冒険者達は儂をからかう贄か?)

 

 そう思うと、カジットには気持ちへ少し余裕が出来た。

 部外者らはクレマンティーヌの配下か雇っているということなら、色々と話は付けやすくなる。あの異常性格の女に他者への配慮などほとんどないと思えるからだ。

 恐らく使い捨てだろう。しかし、マーベロ女史がそうなっては困るなと彼は考える。

 そうなる前に動こうと、カジットは話し掛けてきたモモンへ内心の炎の嫉妬心を抑え、威圧するように言葉を返す。ただ、可愛いマーベロ女史を不快にさせないようにと大いに言葉へ気を使いつつ。

 

「(白金(プラチナ)級程度の冒険者風情が……とは言えんな)……何をしに来た、モモンとやら? 貴様、死の淵に来ておることに気付いておらんのか? そこのクレマンティーヌに踊らされておるやもしれんが、おぬしの命は一つしかないのだぞ。先に言っておいてやろう。儂の力はアダマンタイト級にも引けなどとらんぞ」

 

 冒険者にとっては、アダマンタイト級とは正に雲の上の存在と言える。それを比較対象に出すことで、『強烈な脅し』になるはずなのだ。なにせ、この広い王国でたったの2組しか存在しない。そして、この脅しは同時に、可愛いマーベロ女史への大きな『儂強いから』アピールでもある。

 

(ふはははは。さあ、マーベロ女史の前で無様に狼狽えるが良い、モモンとやら。マーベロ女史の『はぁと』と身体は儂が頂く)

 

 内心の高揚に、彼の口元のつり上がりが止まらない。

 堂々そうにしているモモンのメッキを引き剥がし、少し身体がデカいだけの怯え震えるただのつまらない男だとこの場で徹底的に知らしめ、マーベロ女史の想いも自分へ強烈に引き寄せれるかもしれないと。

 だが。

 

「そうだね、バダンテール殿。確かに貴方はそれぐらいの強さがあるかな。早速だけど、俺達はここへ遊びに来たわけじゃない。交渉に来たんだ」

「!――っ。(なんだと、この男……冒険者の癖にアダマンタイト級という存在へ畏怖しないのか?!)」

 

 カジットは睨んでいたモモンへの視線を、思わずクレマンティーヌへ『どういうことだ』と向ける。それに女騎士は、肘を曲げ両の掌を上に向けて『さあねー』と歪んだ笑顔でお道化てみせる。彼女は当然知ってるはずである。十二高弟の彼の口元は『全くおぬしは』とへの字に歪んだ。一瞬の視線とポーズだけで両者の会話が成立し、何気に息が合っていた。

 カジットは視線を目の前の漆黒の戦士へと戻す。

 彼としては大きく目算が狂い、ハニーへの『儂強いから』アピールも空振ってしまった。

 だが、戦力的には依然、上回る総戦力とすでに包囲しているこちらが有利である。相手の目的が分からないままでは後手になることからカジットは話を進める。

 

「(くっ、訳が分からん。仕方ない)……儂も暇ではない。――用件はなんだ?」

 

 対するモモンは、一気に核心に踏み込んでいく。

 

「近々〝死の螺旋〟を使うそうだけど、その目的はなにかな。俺としては、この街を壊されるのは少し――困る。是非、中止して欲しいんだけど。俺達のホームであるし、馴染みも居るからね」

「なにをバカな――」

「――そういうことなんだけどさー、カジッちゃん。そうした方が絶対いいと思うよ。悪い事は言わないからさー」

 

 モモンから『死の螺旋』の話が出た事に驚きはなく、クレマンティーヌの部下なら知り得る情報である。あと、冒険者としては確かに困るだろう。しかし、事前に逃げればいい話だ。

 それよりもカジットの返事をあえて遮った、クレマンティーヌの威圧も伴う中止に賛同した言葉へ対する判断が難しい。ズーラーノーンへとこの女騎士が顔を出す様になって二年程経つが、捻くれた性格の為、その様子は細かく見てきたつもりである。その彼女の様子をよくよく見るに、『嘘では無いよ』的歪んだ表情の気がする。

 というか、やはりクレマンティーヌが主導する悪戯かという思いも強くなる。

 

(戦士から変に戸惑う話を切り出させて、儂らを混乱させるという楽しみか?)

 

 そもそも『死の螺旋』の中止で、クレマンティーヌが得をする事は無いはず。

 そしてこのあと漆黒聖典はこの都市の周辺から居なくなるのだ。その情報と提案を持ってきた本人が、中止へ賛同を述べる事に矛盾すら生じている。

 しかしふとここで、カジットは改めて大きく違和感を覚えた。

 

(クレマンティーヌにとっても、今の行動はかなり大きなリスクのはず。こやつ、何故それをする……)

 

 彼女は部外者を事前申告もなく勝手に他者のアジトへ招くという、秘密結社としてすでに冗談では済まない行動に出ているのだ。

 それは、より大事であろう事象が発生したからで、それが『中止への賛同』となっている……という事なのか?

 

(つまりこの状況は――――本当に冗談ではない?)

 

 残念ながら今、マーベロ女史のことを考慮する余裕が小さくなってゆく。

 カジットは不安げに再びクレマンティーヌへと目を向ける。すると女騎士は、目と口許をニヘラと歪めて『うんうん』と首を縦に振っていた……。

 再びの息がピッタリの以心伝心。

 

(お、おのれクレマンティーヌ。しかし……あやつめがそうするメリットは何だ)

 

 カジットは、彼女の兄や境遇の知識も多少持つが、クレマンティーヌの人生の目的そのものは知らない。

 しかしこの傲慢そのものの女が、冗談では無く今も目の前の男を立てる感じで寄り添っているという事実から、この漆黒の戦士が鍵を握ると言うことだ。

 ズーラーノーンの十二高弟らしくカジットは問う。

 

「おぬし、モモンと言ったか? 一体何者だ? そのクレマンティーヌを味方に付けるとは、只の白金(プラチナ)級冒険者ではあるまい。どこの手の者だ? 王国か? または帝国か? それとも……別の地下組織か?」

 

 ズーラーノーンへ対して接触してくる地下組織は色々あった。末端の末端が各地の都市上にも網を張っており稀に接触がある。王国では特に、強い戦力を持つと聞く八本指に対抗したいという地下組織らだ。十二高弟達の実力は八本指の『六腕』を凌ぐとも噂があり、一気に勢力逆転が可能だと目論む組織が少なくない。これまでも、多くの生贄の為の女達や目のくらむ大金を報酬にと挙げてきた。

 だが、ズーラーノーンの目的は裏社会の勢力争いの如き俗物的ものでは無い。より崇高で異質のモノ、大量の死とそこから生まれその先に有るはずの大いなる力である。

 十二高弟の問いに対し、モモンはこう答える。

 

「あの……バダンテール殿。まだこちらの最初の中止の要望に対する回答を貰っていないんだけど?(〝何をバカな〟の続きだけど)……まあいいか。じゃあ、先に答えでおきますか。俺達は、確かに〝ある組織〟に所属していますよ――」

 

 モモンとしては余り出したくないのだが、個人で組織を相手にすることの難しさをリアル世界で学んでいる。クレマンティーヌも漆黒聖典に所属しているから評価されている部分がある。組織を相手にするにはこちらも組織の影をちらつかせる必要があった。

 今のモモンの『ある組織』という言葉にクレマンティーヌは、彼へと静かに視線を向ける。

 真実はまだ彼女も知らない。

 でも彼女も想定はしている。この勇ましい伴侶が、どこかの密偵であるということを。そして、これほどの戦士を動かしている組織は何なのか確かに気にはなる。帝国の北方のカルサナス都市国家連合辺りではとも考えている。しかし、この人の傍に居れればそれでいいのだ。一生をこの都市で共に過ごし、数多の夜を越え妊娠し子を育て上げ孫に囲まれ年老いて朽ちてもいいし、放浪し次々と都市を目指して旅に明け暮れてもいい。

 

(私は、モモンちゃんと一緒ならどこででも最高に幸せだよっ!)

 

 そんな熱い視線を受けるモモンの話は、重要になる語りへと続く。

 

「――それと、単に中止ではそちらも困るとは思ってます。〝死の螺旋〟で何か得る予定なのだと俺は推測してるんですけど、例えば大量の死に関わる物とか。それを――こちらが代償として提供しても構いません。そして可能なら、それを機に組織間での協力関係を築きたいと思ってますが。窓口は彼女、クレマンティーヌで」

 

「「「――っ!!」」」

 

 カジットと配下達、クレマンティーヌ、そしてマーベロが揃って驚きの表情を浮かべた。

 カジットらは、代償などと世迷言だと。

 クレマンティーヌは、モモンが予想外で協力関係を望んだことに。

 マーベロは、気に入らない下等生物を直ぐに踏み潰さなかった絶対的支配者に。

 そして、間もなくカジットが笑い出した。

 

「ふははははっ。何を言い出すのかと思えば、余りにも突飛なる事を述べるものだ。おぬし、〝死の螺旋〟の恐るべき強大さを知らんのではないか。20年前に小都市を一夜にして一つ丸ごと滅ぼしておるのだぞ。それの代償を提供してもいいだと? そんな事、我々の組織か、一大国家でもない限り単なる一組織が出来るとは思わぬが」

 

 真剣に物事を考える性質(たち)のカジットは、頭が筋肉だと思われる巨躯の戦士へ『優しく』誤りを指摘してやる。

 十二高弟の彼はモモンが、どこかの小さい地下組織の所属で、ズーラーノーンを上手く利用するために接触してきたのだと判断する。クレマンティーヌを味方に付けられたのは、もしかすると、この戦士がミスリルやオリハルコン級の力はあり、そういった見どころが少しあった上で、激しく熱い男女の仲になり上手く味方に付けたのだろう。そうでなければ、クレマンティーヌと同等なら、間違いなくアダマンタイト級であるはず。彼女と同等の剣士は、周辺国にも片手で収まる数しかいないのだから。

 そして〝死の螺旋〟は、人を高位のエルダー・リッチへと変える程の膨大な負の魔力を十分生み出せる魔法儀式なのだ。まず、凡人らに代償が用意出来るはずなどないと言える。

 以上から、カジットは、先のモモンの中止要請に対しての答えを返し始める。

 

「故に、おぬしからの中止要請だが、残念ながら――」

「――カジッちゃん、中止した方が絶対にいいよー。これは二年間、色々迷惑を掛けた事への詫びの忠告だからね」

「!――ぬ」

 

 まるで餞別のように、優しく忠告をくれたクレマンティーヌのその表情を見たカジットの語りが完全に止まる。

 

 彼女の表情が微笑んでいたのだ――歪みなく。

 

 初めて見る彼女の美しい笑顔であった。それを見たカジットの全身には鳥肌が立ち、背中を幾筋もの冷や汗が流れていく。これは只事ではないと彼の本能が感じた。

 真面目なカジットには、それで確信出来た。

 信じられないがモモンというこの男は、クレマンティーヌの力を大きく上回っているようだ。そうでなければ、性格異常の彼女があの表情で忠告してくる訳が無い。

 正に以心伝心に乗せた最後通告であった。

 しかし、カジットは秘密結社ズーラーノーンの十二高弟という立場。他所からの中止など安易には飲めない話。つまり、今は先に納得できるその代償とやらを見せてもらうしかない。

 仮に本当に、その膨大といえる代償が用意出来ると言うのなら、秘密結社ズーラーノーンの組織の理念としても正当に評価できるだろう。

 信用期間の話もあるため、即時協力関係は難しいだろうが、実績が積み重なれば他の高弟達も説得出来るはずだ。

 ただ、クレマンティーヌの件は組織へどう説明したものか……。

 問題は色々ありそうだが、カジットはモモンに考えを伝える。

 

「……おぬしも、物事には段階があるのは分かると思う。つまり中止を要請をするつもりならば、まず代償が実際に用意出来る事を示してもらおうか。今日とは言わんし、一度に全部とも言わん。だが交渉にはそういった相手を納得させる物がまず必要だ」

 

 カジットのその答えに、モモンは理解を示す。カジット側が今日は何もせずこちらを返すことも伝えてきていた。少し甘い考えのようにも思うが、クレマンティーヌの言葉により、こちらの力が伝わったのかもしれない。相手の強さを常に察知し、柔軟に対応を取れるという事は非常に重要なことである。

 HPレベルが低いものの、カジットの冷静で高い判断力に、モモンは興味を持った。

 

「(へぇ、王都の貴族達ですら結構酷かったけど、秘密結社にもきちんとした考えの奴はいるんだな。交渉がグダグダになるなら、このまま叩き潰すこともやむなしと考えてたけど)……確かにそうかも。ところで、その代償……多分“負の魔力”だと思うけど、どこへ貯めるつもりなのかな?」

 

 カジットは一瞬眉間に皺が寄るも、ローブの内側からゆっくりと林檎ほどの球体を取り出した。

 

「これは〝死の宝珠〟というアイテムだ。これに貯めて貰おうか。まだ、四分の一ほどしか貯まっておらん」

「少しだけ、それを持たせてもらってもいいかな? 貯められるかどうかを確認したいんだけど」

 

 モモンの言葉は、ある意味凄い要求と言える。十二高弟の秘蔵のアイテムを触らせろと言ってきたのだ。

 これは、確実に『信用するかしないか』という大きい問いかけである。

 当然カジットの周囲の配下達は「師よ、いけません」「あの者らはまだ信用に値しません」など諌める言葉がモモンらのところまで聞こえてくる。

 距離的には実質15メートルほどであるが、夜が少し深まり声がよく通った。

 だが、カジットは告げて来る。

 

「よい。出来るかと問うたのは儂だ。モモン殿、一応ここまで来てもらえるのなら、手で直接確認してもらってもかまわん」

 

 此方はいきなり乗り込んで来た部外者であり、それぐらいの警戒は当然だろうと納得するモモンは「では、そちらへ行かせてもらうので」と告げる。

 そして、残すマーベロらへ向いて指示を出す。

 

「クレマンティーヌとマーベロはここで待っててもらえるかな」

「んー分かったー。しょうがないね。まあ、ああ言ってるし、カジッちゃんは真面目だから大丈夫だろうけどねー」

「は、はい、お気を付けて」

 

 クレマンティーヌは兎も角、マーベロはその場で静かに全力での臨戦態勢に入る。ほぼ瞬きをしなくなった……。

 モモンはマントを僅かに靡かせつつ直ぐに一人で前へと歩き出す。一応この時、パンドラズ・アクターだけは不可視化でモモンのすぐ傍で待機し有事に備え付いて行く。

 そうして、カジットを中心にした配下の円陣の中に入る形で、十二高弟の前へ立つ。

 漆黒の戦士が、左ガントレットの掌を上へ向けて開くと、そこへカジットが“死の宝珠”を静かに置いた。

 モモンはすぐ正面に立つカジットへ作業内容を確認する。

 

「これを最終的に負の魔力で一杯に出来れば、〝死の螺旋〟は中止してもらえるのかな?」

 

 カジットは、やはり簡単には無理だろうと期待薄にモモンへ妥協案も含めて申し送る。

 

「そうだ。でも本当に途方もない量が必要だろう。〝死の螺旋〟程の大規模儀式で無ければどれほどの年月が掛かるか分からん。まあ、数回に分けてもかまわんが……」

 

 そんな高弟の話もどこ吹く風で、モモンは手渡して見せてくれた信用に応える。

 

「まあ、大丈夫じゃないかな? 〈負の接触(ネガティブ・タッチ)〉」

 

 モモンの天へ向けている左ガントレットの掌と『死の宝珠』との間に真の暗黒が僅かに漂う。

 カジット達の目が釘付けになっていた。彼等には大きな負の魔力が分かるようであった。

 アイテム内の残量がよく分からないが追加することは問題なく出来るはずである。

 また、満杯になって壊れるというアイテムをこれまで聞いた事も無い。

 その時間は約30秒程であった。途中、漆黒の戦士はなぜか一言だけ、「そうだな」と誰に言う訳でもなく呟く。

 作業が終ったモモンは、サラりと周囲を囲むカジットらへ告げる。

 

 

 

「はい。じゃあこれ、確認してみて欲しいな――容量目一杯になってるはず」

 

 

 

「……ま、まさか」

 

 終始様子を見ていたにも拘らず、カジット達は漆黒の戦士の言葉に半信半疑だ。

 モモンは今、魔法は使えないのだが、特殊技術(スキル)は普通に使える。

 アインズの魔力量はLv.100のプレイヤーの中でも別格で異常に髙い。この新世界においては、正に神の如く圧倒的と言える水準だろう。

 なれば、この程度の魔法アイテムのMP(魔法量)をフルにするのは造作もない。

 モモンからアッサリ返却された『死の宝珠』を、カジットは見つめつつ恐る恐る確認する。

 

「マ、〈魔力量確認(マナ・ベリファイ)〉…………ぉおおおおおおぉーーー! こ、これは、一体……し、信じられん、確かに一杯になっておるわ! 奇跡だっ!!」

 

 それは、『度肝を抜かれる』というのが相応しい、本当に有り得ない衝撃である。

 大都市一つ犠牲の大惨事予定の壮大な魔法儀式が、たった一人による僅か30秒チャージで完了してしまっていた……。

 カジットは目的に到達した『死の宝珠』を大事に持ちつつも、思わず片膝を地面へ突いて静かに呟く。

 

「なぜだ……この儂が5年間かけて作り上げた努力の結晶が全て……この戦士の1分足らずの時間で終了したというのか……」

 

 十二高弟のプライドが大きく揺らぐ。

 そんな彼へ周囲の配下から「師よ……」「……無駄という事は何ひとつありませんぞ」「そうです」「そうだ、その通りかと」「我らはリスクレスで先へ行けたという事では」「これからです」などと励ます声が掛けられていた。

 

 一方、モモンはすでに結構いい時間なので、雰囲気に流される事も待つ事も無く声を掛ける。

 

「大丈夫かな、バダンテール殿? ということで、中止でいいかな?」

 

 カジットは、モモンの言葉にゆっくりと立ち上がる。

 慰めてくれる配下の居る前で、これ以上は責任者として醜態を晒せない。モモンへと再び向き合う。

 

「……カジットでよい。モモン殿の力には感服しかない。〝死の螺旋〟は約束通り中止させてもらおう。……力量差は歴然。恐らく我らが盟主様ですら同じことは出来まいな……。直ぐには難しいと思うが、組織間の協力の件も合わせて前向きに考えさせて頂く」

 

 カジットの語る内容は、モモンのほぼ望む形のものになった。

 続けて彼からは当然湧く疑問が発せられる。

 

「しかしそれにしても、戦士のおぬしが……その力は一体……?」

 

 カジットの配下達からも「凄いな」「羨ましい」などの小声が聞かれた。

 そう、特殊技術(スキル)は使えるが不自然という状況は想定されていた。でもこの世界には非常に都合のいい言い訳が存在する。

 

「実は、なぜか負の魔力が体に集まる――生まれながらの異能(タレント)なんですよ」

「なんと……そうなのか。それは実に素晴らしい生まれながらの異能(タレント)だ」

 

 カジットと周囲の配下達は、うんうんと頷きそれで納得した。力はまさに偉大である。

 こうして、すべては上手くいったかに見えたが、カジットは最後に告げてきた。

 

「しかし、クレマンティーヌ離脱の件は難しい問題になるかもしれん。あやつが裏切った件は消えぬ」

 

 その話をモモンはガントレットの腕を組みつつ聞いている。

 

「……制裁というわけかな?」

「儂らは秘密結社だ、これまでも裏切り者にはそれなりの代償を払ってもらっておる」

「……じゃあ、こういうのはどう? 遠征中の漆黒聖典の一人を俺達が消すというのでは? それもこのひと月以内にだけど」

「なんだと……うーむ。それは、実現出来れば確かに儂らにもメリットは大きくあるな」

 

 マーベロと共に離れて立っていたクレマンティーヌはピンとくる。

 兄のクアイエッセの事だ。彼女はモモンの機転に感動する。憎い兄の死が彼女を助けるのだ。まさに一石二鳥と言える。

 

「それに、必要なら組織間協力の面で今後も、漆黒聖典の動向と共に殲滅実験にクレマンティーヌを派遣しても構わない」

「……なるほど、組織は変わったが恩恵はこれまでと変わらないと……そういう事であれば他の高弟らも納得させれるかもしれん。実際の話、事情を知らぬ者にウロウロされるといい気はせぬからな。儂が最大限努力しよう」

 

 ズーラーノーンにとって、漆黒聖典の動向はかなり重要である。

 また、クレマンティーヌよりも強者はいるが高弟であり便利には使えないため、彼女の戦力は決して小さくない。カジットはクレマンティーヌと組む事が多かったので、特に実感している。

 ただ一点だけ、十二高弟のカジットはクレマンティーヌの裏切りに気付かなかったという汚点が残る。

 しかし――強大といえる負の魔力を提供できる力を持つモモンらとの協力関係の締結窓口は彼である。

 今後、協力関係が結ばれ、それにより多くの負の魔力を手に入れられば汚点を消して余りある功績になることは直ぐ先に見えていた。

 だからカジットは、最大限でモモンらの為に努力出来るのだ。

 この遭遇における実務的話し合いはすべて終わった。

 モモンは予定も有り、この地からの速やかな転進を告げる。

 

「では、カジット殿、我々はここらで失礼させてもらうので」

 

 そう言って、早々に背を向けてカジットと配下らの輪から離れるとマーベロとクレマンティーヌの待つ場所へと歩き始めた。

 そして、数メートル進んだ時である。

 配下らと共に後方へ立つカジットから声を掛けられる。

 

「モモン殿、少し待ってくれ。まだ一つ大事な話が残っていた」

 

 漆黒の戦士が振り返ると、ズーラーノーンの十二高弟であるカジット自ら配下らを残し歩いて来た。

 そうして、漆黒の戦士モモンの前へと杖を左手に堂々と立つ。すでに、『死の宝珠』はローブの中へ仕舞われていた。

 

「なにか、ありましたっけ?」

「うむ。実はな、一つ……是非一つ聞きたいことを忘れておった」

 

 モモンの思考にはスッと浮かぶ。恐らく――モモン達の組織の名称だろうと。

 カジットは、ズーラーノーンの他の高弟達に色々と説明し説得なければならない立場である。

 それが『ある組織』では話に重みがないというものだ。

 とは言え、問われない事を答えるつもりはない。

 ナザリック地下大墳墓の存在自体は、まだ知らせたくないためだ。今はあくまでも組織という『影』で十分である。地上に小都市が出来た後、公けにはそこが最大拠点だと思わせたいと考えていた。

 モモンはそういう絶対的支配者の思考で、十二高弟である彼の言葉を待つ。

 するとカジットは思いっきり深刻そうな表情をし、口元へ右手を添えつつなぜか凄く小声でこう尋ねてきた。

 

 

 

「――――マーベロ女史は……何歳かな?」

 

 

 

 まずは情報からの一歩である。

 恋愛に年齢差も以外に重要項目だと思っている。

 薬師の少年同様、齢40前の彼もまだ全てを諦めてはいない――――。

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテルの共同墓地は西端を第三城壁、東端は第二城壁により30メートル以上の高さで挟まれている。そして、北側と南側を東西一直線に繋ぐ長く高い4メートルの塀で広大に仕切られている場所だ。一応、東の端と西の端の城壁に接したところにも塀を立て、塀の上を大型馬車も通れるほどの幅で南北でスロープも用意して通り抜けが出来るようになっている。

 

 夜の静けさの広がるその共同墓地の北側の塀で人影の皆無な地点を、漆黒の戦士ら一行は外へ出る為に再び越える。

 モモンは、中へ入る時にここから一応と掛けていた〈完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)〉を解除する。

 一行は再びクレマンティーヌの感覚主導で宿屋を目指した。

 クレマンティーヌは、モモンの先程の『死の宝珠』への魔力供給について、「モモンちゃん、あんなことも出来るんだー。すごいねー」とニコニコしたぐらいで、特に気にした様子はない。目の前の人がモモンであればそれでいいらしい……。

 すでに時刻は、午後9時20分。

 それにしても……クレマンティーヌの様子が熱い。

 モモンの右腕を引くのだが、猛烈に自らの胸の側面に押し当ててくれている。

 鎧があるので感触は半減以下だが、柔らかい物がその下に広がっていることは伝わってきている。クレマンティーヌもそれが分かっているのか時折頬を真っ赤に染めた顔で振り返り、「んふふふっ」と桃色空間に気分は完全突入している風。

 流石に、この姿を墓地から見せられると、アインズとして直ぐに思い出していた。

 

(ヤバい……そういえば、男女関係を後回しにしていたんだっけ。もう、彼女の絡む急ぎの用件が全部終わってるし、うわぁぁ、どうしよう……)

 

 カルネ村に行くからとも当然言えない。

 アインズは徐々に宿の狭い小部屋へと追い込まれつつあった……。

 3人は抜かりなく、法国の密偵にも見つからず無事で宿屋に到着する。

 モモン的には、もはや『見つかれ、見つかれっ』と叫ぶ思考の方が最後は圧倒的に増えていたが、それも儚い願いと消える。すぐそこに新しい(桃色に満ちた)世界の扉が開かれそうな予感。

 クレマンティーヌは軽やかに踊るようクルクルと回りながら器用に3階の宿泊部屋へと『女へのステップ』を夢見つつ、歩を一歩一歩進める。

 しかし、彼女にも不安はある。結局マーベロから、モモンの夜の好みを全く聞けていないのだ。まさに『ぶっつけ本番』である。

 対する漆黒の戦士の歩は、今の気分を乗せて重い。偶に階段の踏みしめる板が鎧と剣の重さを受けてキシリと鳴る。

 マーベロは、モモンの後を静かに付いてきている。

 そうして、モモンらも、クレマンティーヌが先に飛び込んで、扉が開いたままの明かりの蝋燭が灯った宿泊部屋へと入る。

 クレマンティーヌはすでに装備を外しブーツも脱ぎ、左側のベッドの上へ純白のブラウスとこげ茶生地のホットパンツ姿で白く綺麗で瑞々しい素足を曲げてペタリと座る。斜めに背中をこちらへ見せつつ胸も強調した振り向き気味の姿勢で、潤んだ瞳や艶やかにぷっくり湿った唇と紅く染まる頬の桃色である表情をこちらへと向けてくる。

 

 ハッキリ言って――すでに劣情指数がMAX。

 

 そのクレマンティーヌが、更に追い打つように艶っぽい声を掛けて来る。

 

「モモンちゃん………どうしようか?」

 

 アインズ的には『NANI(ナニ)をっ?! DOU(どう)っ?!』と内心であたふたする感じである。

 いや、そんなボケは通用しないほど、彼女の要求はその様子から明白である。

 自分で服を脱いだ方がいいのか、それとも脱がせたいのか――の確認だということが。

 おまけにアインズは、ここで思考が白くなり始めていた……。

 今日はすでに、ここまで散々閃きや発想力を使い過ぎていたのが原因かもしれない。同時にアインズの精神も土壇場が連続し相当疲弊していた。体力は回復するが、精神や思考の疲労は存在し、無尽蔵では無いように感じられた。

 アインズとしては、いい考えが浮かんでこないまま、クレマンティーヌの発言から数秒が経過する。もう何か返事を返さなければならないのにだ。

 状況は丁度――ニニャの時に似ていた。

 

(!――――っ)

 

 モモンはこの瞬間――凛とした声で、発情中のドラ猫へと問うた。

 

「クレマンティーヌ、君は――俺を見くびっているのかな?」

「えっ?」

 

 彼の声は静かながら怒気も感じさせる一言であった。

 クレマンティーヌは、予想外の事に驚く。モモンちゃんが怒ってる?と。

 マーベロも同様である。ここまで来ては桃色展開が進むところまで突き進むのではと思っていたのだ。

 それに――マーレ自身も密かに期待していないわけではないっ。キスを頂いて以来の好機到来かなとの想いもあった。

 だが、モモンの様子と言葉には、その桃色の雰囲気を感じさせない、それを白い邪念のない精神へ引き戻す感じの響きがあった。

 彼は穏やかに語り始める。

 

「クレマンティーヌ、君は俺の要求に十分以上に応えてくれているし、それには大きな感謝と信頼を感じてる。そして今また、君自身の美しい身体で俺に尽くそうとしてくれてて――とても嬉しく思うよ」

 

 クレマンティーヌには、まだ分からない。モモンが何に不満を持って「見くびっている」と言ったのかが。一方で、この身体を美しいや尽す行為に嬉しいと言ってくれたことだけで、心臓の鼓動が再び高鳴り始める。

 彼女は彼の言葉の続きを待った。

 

「――それに対して、俺はまだ何も君へ返せてはいないんだ」

 

 クレマンティーヌは、『そんなことは全然ないからー。今の自分に多くの安らぎと愛を向けてくれている事だけで十分なのにー』と内心で叫ぶ。彼女は今、大きな幸せを感じて日々生きている。すでに、兄への復讐すら、その存在が自分の中で萎んできているのが分かっている。今、『兄への復讐』とモモンを天秤に掛けられたなら――迷わずモモンを取る気でいた。

 でも、それらは口へは出さない。

 男には漢の立場があるとクレマンティーヌは考えてもいた。

 

「ここで、更に君から最も大切なモノ(身体)を貰う訳にはいかないんだ。少なくともまず君との最大の約束を果たしてからでないと、俺の君への信頼関係に不安を感じる事になる」

「!――っ。(信頼関係に不安?!) 」

 

 クレマンティーヌは激しい衝撃を受け座ったままでもよろめき、ベッドに手を突いていた。だが、次のモモンの言葉で一気に復活する。

 

「だから――早く一緒に約束を果たそうな」

 

 クレマンティーヌはベッドに立ち上がるとモモンへと抱き付いていった。

 

「ああっ! モモンちゃん、モモンちゃん、モモンちゃーーーーん!」

 

 彼女にとって、モモンの今の言葉はまるで――プロポーズのように聞こえていた。

 『兄への復讐』を共に遂げたら、改めて最も大切なモノ(一生)を貰うと。

 

 

 

「分かったよ、私は……ううん、私もあの約束を二人で果たす日まで、モモンちゃんと一緒にエッチを我慢するねっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず、午後10時を前にアインズはカルネ村へ無事にやって来た。

 

(ふうーー)

 

 内心でだが安息のため息が漏れる。絶対的支配者は流石に思考が疲れていた。

 しかし、すでにここは馴染みのホームエリアであり、アインズとしてはかなりゆっくりと出来る場所になっている。

 特に、旧エモット家のゴウン邸はだ。

 エンリとネムには家を取り上げてしまったようで悪いが、この姉妹達がナザリックの事を知っている配下という事が、地上の他の場所に比べて精神的な気遣いが格段に少なくて済んでおり、甲斐甲斐しいエンリも会うたびに僅かずつだが愛しく見えてきている。ネムも可愛く、ここはとても和む空間となっていた。

 遅れる旨は不可視化していたパンドラズ・アクターの方からキョウの方へと知らされており問題はない。

 あの後、クレマンティーヌはモモンに膝枕だけはと要求するも、数分の御満悦の内に法国からの長駆だった移動疲労と安堵感からか静かに深い寝息を立てて、可愛い寝顔を見せ寝てしまっていた。

 後はパンドラズ・アクターに膝枕役を任せてアインズは今、ゴウン邸の一階の居間に立っている。

 替え玉についてだが、どんなにアインズ自身が追い込まれようと、男女の熱い関係時に関しては入れ替わりをする気は当初からない。

 ナザリックの存亡に関する作戦の一環というならやむを得ないが、個人の最も重要なプライバシーに関することへは取るべき手ではないと考えている。

 ここカルネ村の村内は連日、午後8時半過ぎまでは砦化作業が行われているとはいえ、日替わり交代で参加している村人らは一部のため、村人の多くは既に就寝している時間である。

 先程まで作業していた者達も、明日の畑作業に向けて床に入り始めていた。

 

 そんな時刻だが、〈転移門(ゲート)〉を出て居間に立ち見回すと、キョウとエンリ、そしてなんとネムがまだ起きていた。

 

「お帰りなさいませ(ニャ)、アインズ様」

「お帰りなさいませ、アインズ様」

「おかえりなさいませっ、アインズさま」

 

 三名は、綺麗に並び礼で出迎えてくれている。白きGのオードリーもネムの肩より触角を盛んに動かして敬意を示していた。

 

「うむ、少し遅くなってしまった。お前達も席へ座れ」

「はい(ニャ)」

「はい」

 

 礼が終りいつものように寄って来たネムを抱き上げた絶対的支配者は、粗末といえる木製食卓の上座へと腰かける。この居間の20平方メートルもない空間が、丁度落ち着く感じで気分がいい。

 キョウ達二人も続いて食卓の席へと着いた。

 

「すまんな、色々あってな」

「いえ、こちらとしては何時でも構いません(ニャ)」

「は、はい、大丈夫です」

「ネムは……真夜中はすこしきついかもです。今日はお昼寝をいっぱいしました!」

 

 支配者へ抱かれているが少し眠そうにするネムは、正直に答えていた。

 

「こ、こら、ネム」

「はははっ、いや、かまわん。ネムに用があれば、その時はちゃんと起こしてやろう」

「はーいっ」

 

 ここで過ごす時のアインズは、いつも穏やかだ。

 このあと、アインズは差しさわりの無い内容で波乱の今日を愚痴るように簡単に振り返っていた。そこには当然カルネ村への引っ越し話も出ており、最後にそこへ話が戻りキョウらへと促す。

 

「ではそろそろ、そちらの進捗と報告を聞かせてもらおうか」

 

 キョウは、カルネ村の広域での防衛を担当している。そしてトブの大森林側にいるハムスケとの連絡・連携も行っており、村人らへの配慮や無用な衝突が無いようにしていた。

 エンリは、カルネ村の内部の調整や防衛を担当している。カルネ村の村長や住民との橋渡し役だ。

 権限としてはキョウの方が強いのだが、エンリから要請があった場合、キョウが率いているナザリック駐屯軍は、エンリの考えや作戦を最優先で動くことになっている。

 そのため、砦化計画でもデス・ナイトや偶に夜中限定だが蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)達も木材運搬を行なっていた。

 二人の関係は良好だ。時間がある時はキョウも一緒にエモット家の畑作業を手伝っている。デス・ナイトに比べてもその圧倒的パワーとスピード、そして繊細さがあるキョウが手伝うと、広い畑一面の作業さえ10分強で終わってしまうほどだ……。

 本日は砦化の進捗と、ブリタらの引っ越しの話等が報告された。

 ンフィーレアについては、追加で明日、薬の研究と生産作業用の工房にする家を探したいと事が報告される。

 そこに、アインズは興味を持った。

 

「そうか。そういえば、あの少年の店で治療薬や他の薬も作っているのだったな」

「はい、同じ価格帯の薬でも、バレアレ家製は効果がずっと高いので評判がいいんですよ。折角なので、カルネ村の特産薬なんかもお願いしようかと」

「なるほど。そういうのも村興しには重要だな。可能なら進めてみてくれ。必要なものが有れば報告せよ。こちらでも揃えよう」

「はい、ありがとうございます」

 

 エンリは旦那様のいつもの優しい配慮に笑顔を浮かべている。共に過ごす幸せに満ちる時間が過ぎる。

 でもどうやら、今日の仕事関連の報告はすべて終わった様子。

 

「よし、今日はこんなものか」

「そうですね(ニャ)」

「は、はい……」

 

 気が付くとエンリは熱い眼差しで、髑髏ながら威厳に満ちるアインズを見詰めている。

 その彼も、人間だが配下であるエンリ達を気遣った。

 

「エンリにネムよ、近頃の体調は大丈夫か? お前達は我々と違うからな」

 

 NPCのキョウは体も丈夫で疲労もせず、食事も取らなくても大丈夫だがエンリ達は基本、普通の人間である。弱い存在なのだ。

 

「はい、大丈夫です、アインズ様。不自由なく元気に過ごさせて頂いています」

「ネムも毎日元気にしていますっ」

「うむ。もし、大怪我をしたり、体調に異常を感じたらちゃんと、私やキョウかナザリックの者へ知らせるのだぞ」

「はい、ありがとうございます」

「ありがとうございますっ、アインズさま」

 

 旦那様からの優しい気遣いが嬉しくて頬を染めるエンリには、骸骨のアインズの顔に笑顔が見えていた。

 なんとなく口元と眼窩の中の紅い光点の雰囲気で少し判断が出来る気がしている。

 

「さて、もう遅いし皆休むか」

 

 ここで、ネムは眠いこの時間まで起きていた願いを伝える。

 

「アインズさま、いっしょに寝たいですっ!」

 

 彼の胸元で可愛く手を挙げてのネムの要望に、支配者はふと考える。

 明日は午前中にエ・ランテルの冒険者モモンへの依頼はあるが、朝の早いエモット家で起きても十分間に合うと思われた。

 

「……そうだな。半月ぶりぐらいだしな」

「わーい、今晩はアインズさまと一緒だぁ。あと、お姉ちゃんも一緒にっ」

「いいとも。エンリも一緒に寝ようか」

「は、はいっ……」

「ねぇ、キョウも一緒に寝よっ」

 

 ネムが、キョウまでも誘う。

 だが、彼女にとってアインズは造物主であり父親的存在だ。尊敬はしているが、甘えるのは少し恥ずかしいという感覚。

 

「あの、私は寝なくても大丈夫ですし、仕事が少しあります(ニャ)。ネム達は明日に備えて早くゆっくり休んでください(ニャ)」

「えー、そうなの……」

 

 ネムは少し残念そうだ。キョウとも一緒に寝たかったのだろう。

 だが、アインズとしてもNPCと一緒に寝るのはまだ複雑な部分があり、これで良いと考えていた。

 

「では、アインズ様、エンリ、ネム、おやすみなさい(ニャ)」

「うむ」

「キョウ、おやすみなさい」

「おやすみなさーい」

 

 キョウが、二階の自室へ去ると、アインズ達も動き出した。

 すでに頬を染めるエンリはそわそわとしつつ、アインズの胸より下ろされたネムを連れると「寝間着へ着替えてからお部屋へ伺いますので」と自室へ入って行った。

 アインズは〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉で三角帽付きの空色チェックの寝間着に着替えると、二階に用意されているこのゴウン邸で一番広くベッドが二つ横にくっ付けられた部屋へと向かった。

 

 一階のエンリ姉妹の自室では、ネムが服を素早く脱ぐと服の畳みは適当にし、白い肌着姿で二階へと先に向かっていった。

 残されたエンリも、アインズを待たせるわけにはいかないと、短めで三つ編みの髪を解き櫛を通すと、服を上着から手際よく脱いでゆく。そして少し埃っぽいカーキ色のスカートも脱ぐと手早く畳んだ。

 彼女はアインズとの床入りがあった時の為にと、夕食のお皿の片付けも終わった7時半ごろから30分ほど掛けて、自室で僅かに筋肉の付いたかなという身体を丁寧に2度拭きしていた。ネムの身体もついでに1回拭いてやっている。

 

「……大丈夫……よね?」

 

 顔は外から帰って来る度に洗ってるし、手も腕も、今日は足先までも洗っている……。

 純白の新しい上下の下着姿。フリルとリボンも多めなものだ。

 そして、薄目で一張羅のワンピース系の寝間着を頭から被る。袖へ手を通し裾をのばすと、大きい鏡はないのでクルリとその場で回って不備がないかを確認。

 人差し指を柔らかい唇に当てると僅かに思考する。

 エンリの顔は十分熱くなっていた。

 

 寝室に今日は――ネムしかしない。

 

 そしてネムは早くに寝てしまう。

 加えて、アインズ様の傍だと熟睡して起きない――。

 ネムの姉は下ろした髪を少し手で整えると、胸元で両拳を握り――気合いを入れた。

 

「よしっ、頑張れエンリっ!」

 

 自室の扉を開けて、乙女エンリは二階のアインズの寝室を目指した。

 

 扉のノックに対して、アインズは「エンリか? 入って構わんぞ」と声を掛けた。ただ、それは小声でだ。

 夜なので扉越しでも聞こえたエンリがそっと扉を開く。部屋の中は魔法の明かりが灯っていて明るい。

 

(あ、……明るい……どうしよう。はっきり見られちゃったら、色々恥ずかしい……かも)

 

 旦那様とはいえ、初めは周りに薄暗さが欲しい気持ちである。

 だが、その心配はある意味杞憂に過ぎない……アインズには基本能力で〈闇視(ダークヴィジョン)〉を備えているのだから。

 その明るい灯りのおかげで、すぐに気が付いた。ベッドで胡坐を掻くアインズの膝上で、すでにネムは――。

 

「むにゃむにゃ、キンピカ……すごいすごーーい……あいんず……さま」

 

 すっかり再び、夢の世界のナザリック探訪へと旅立っていた……。

 エンリ姉妹の自室を出てか5分ほどしか経っていなかったが、すでに眠気のあった少女には十分といえる寝入りの時間だったらしい。

 ベッドの脇まで来たエンリは、ネムの爆睡ぶりに呆れてしまう。

 

「(ネムーーーっ! 流石にいきなりベッドで旦那様と2人切りなんて間が持たないでしょーーっ)……す、すみません……、アインズ様」

「いや、かまわん。この時間まで必死で頑張ったのだろう。元気よく部屋には入って来たが、膝の上へ抱えてやったら、3分ほどで可愛く寝てしまった」

 

 エンリとしては、せめて自分がベッドに上がるまでは起きていて欲しかった。

 この状況で自分からベッドへ上がるのは畏れ多いし、何となくはしたない女の子と思われないかと心配になる気持ちが出てきていた。

 そんなエンリにアインズから気遣いある声が掛けられる。

 

「エンリも疲れているだろう、早くここへ横になって休むといい」

「はい……。では、失礼します」

 

 渡りに舟というタイミングに、エンリは素直に従って旦那様と同じベッドへと上がった。そして、アインズの傍で横になる。仰向けだと胸の形が露わになるし少々はしたないため、アインズの方を向きつつの横寝である。

 

「お前には色々任せて大変だと思っている。だが、全てを知るお前でなければ出来ないことも多い」

「はい、大丈夫です。私が村人達の間に入るのが最善だと分かっています」

「うむ。村人達もお前には皆が協力的で……色々感謝している」

 

 アインズも村人のエンリへの態度から噂を知っている。エンリが、村人を代表してアインズへすべてを捧げて奉仕していると。

 そういう事もあって、モンスターのゴブリン軍団についても、『アインズ様のくれたアイテムから出てきた』というだけで良くしてくれていると聞く。

 しかし、その事は若い少女の住むこの家に、男性のアインズが来る時点で分かっていた事。

 エンリは、素直に今のその心の内を語る。

 

「いえ、感謝しているは私達姉妹の方です。すべては私が望んだ事ですから。それに……アインズ様へ仕えられて本当にずっと幸せですし……あとは、その――」

 

 エンリは、横になっていた体を静かに起こすと、その正直な気持ちを思い切って伝える。

 

「―――本当にこの身体も可愛がって頂ければと」

「……エンリ……」

 

 二人は暫し静かに見つめ合う。エンリはアインズの正体を知っているため、今のこの二人には『ナニ』の存在すら最大の問題では無かった。

 

 『ナニ』などなくとも、愛を感じる抱き締め合う事(ハグ)は出来るかもしれない……。

 

 エンリは、アインズがネムを膝上へ抱き乗せて動けない事を考慮して、身を寄せてきた上で両手をベッドへ突くと、静かに目を閉じ少し顔を上げた。

 間近に迫るエンリからは、女の子の良い香りが感じ取れ、精神が抑制されているアインズのはずが欲情を刺激されていった。

 また、頑張り屋であるエンリに対して、愛おしくも感じている。

 このエンリのアタックを拒む考えは、アインズに浮かばない。

 

 いや、むしろアインズの方から求めようとエンリの両肩へ手を置くと、彼は形の良い頭蓋骨を優しく寄せエンリの柔らかく瑞々しい唇へと、磨き上げられた白く美しい歯列が触れ――。

 

 

 

 ―――――――(キシリ)。

 

 

 

 アインズの歯が、エンリの唇へ触れていた時間は0秒。

 直前で行動が止まった。いや――邪魔されたというべきか。

 瞳が潤み耳まで赤く染まっているエンリから離れたアインズの赤き鋭い視線が、今は天井へと射るように向いていた。

 

 

 彼の思考に今、ナザリック戦略会議での、自身の『女性関係に関する多量な暴露報告』がチラついている。

 

 

 エンリが不安そうに、未だ両肩にアインズの手が置かれた状態で支配者を見ていた。

 アインズは、大まかだが情報を思い出していた。

 この時間に動いている者の名前を。そして、絶対的支配者はネムを起こさないようにと小声で告げる。それは、今ここを監視している者へ命じるものであった。

 

「今から3名だけ名を呼ぶ。聞こえたら出でよ」

 

 ちなみにキョウは、()()()()()()トブの大森林へ向かっていて不在である。

 一瞬の静寂の後、至高の御方は告げる。

 

「――エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ」

 

 プレアデスの6番目の記号の名を持つ妹。蜘蛛人(アラクノイド)であり、壁面や屋根の上なども苦にしない。だが、応答は返らないようだ。

 アインズは次の名を呼ぶ。

 

「――フランチェスカ」

 

 彼女は新参だが、特殊技術(スキル)が豊富で、隠密性も高い。しかし、反応はなかった。

 最後の1名。アルベド本人は――有り得ない。ナザリックからは出ないだろう。あとは、宴会で「ハレンチなのはイケマセン」と言った悪魔っ子のヘカテー辺りは怪しいとアインズは考えているが、多忙である上に真面目と思うあの娘がここまで来るほど暇とは思えない。

 

(うーん、するとあとは、まぁ……あいつぐらいしか……)

 

 絶対的支配者は、仕事を時々忘れて食事をする、風呂場でのマナー違反の為に頭をライオンゴーレムに噛まれたと聞くアノ者の名をゆっくりと呼んだ。

 

「…………ルプスレギナ・ベータっ」

 

 

「はっ!」

 

 

 するとベッドの脇の床へ、カルネ村へも時折来ると聞く赤毛三つ編みおさげにシスター調の黒地メイド服の美女が、スカートの大きいスリットから綺麗な足をのぞかせ跪いた形で、一瞬の間に現れていた。

 背中には、黒く重そうな柄先が円形の聖印を象ったハンマーとも言える聖杖を背負っている。

 エンリの肩から手を放したアインズだが、ベッドから動かず、顔だけをルプスレギナへと向けると――駄犬と化した彼女の目が『ど、どうしよう』と床の彼方此方へと激しく泳いでいた。

 

「やはりお前か、ルプスレギナよ。……まあ、ここに居たことは不問とする。そして、二つだけ命じる」

「はい、何なりと!」

「分かっているな、一つ目はここで見たことは他言無用だ。……いいな?」

 

 絶対的支配者の命令である。否は無い。

 

「ははーーっ、私はここで何も見ておりません!」

「よし。では二つ目は、詫びにエンリ・エモットへ〈大治癒(ヒール)〉を掛けてやれ」

「はっ、では! じゃあ、エンちゃん行くっすよー、〈大治癒(ヒール)〉!」

 

 エンリの身体の周りに光が溢れる事、およそ15秒。〈大治癒〉は終了する。

 

「あ、あれ。身体が軽い。手の潰れたマメも消えてるっ」

「うむ。……よし、もういいぞ、ルプスレギナ。下がってよい」

「はいっ! では、アインズ様にエンちゃん、失礼いたしまっす」

 

 ルプスレギナは、一瞬でこの場より消えた。

 この日、ルプスレギナからの報告に、アインズの女性関係の項目は無かった。

 そしてアインズの今日一日が終わった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

――P.S. マーレ、駄々をこねる

 

 

「じゃあ、後は頼むよ」

 

 クレマンティーヌをパンドラズ・アクター扮するモモンの膝上に寝かせ、ベッド脇で不可視化しているモモンがカルネ村へ移動する前に、残る二人へそう申し送った時である。

 マーベロがマーレとして告げてくる。

 

「あ、あの、僕も傍で御一緒に、じゃ駄目ですか?」

 

 例の至宝アイテムの存在がこれまでに決めていた事では不安だと、階層守護者のマーレを動かしていた。

 至宝アイテム『ケイ・セケ・コゥク』への対応は、まだ現時点では御方預かりとなっている。

 だから至高の御方の直ぐ傍で守りたいのだ。アインズは、その気持ちを理解する。

 されど、最後の移動先はカルネ村であるし、この宿屋にマーベロが居なくなると冒険者モモン一行として不都合が起こるかもしれないリスクが高まる。

 普通に考えて、マーレの意見は却下となる。

 

「ダメだから。心配するのは分かるよ。でも行先は拠点に近いし、今夜はもう動くつもりはないよ。明日は冒険者としての依頼もあるからね」

「で、でも、それでもお傍でお守りしたいんです」

 

 マーレの表情は小声の言葉のおどおどに反して、真剣そのものだ。

 先程、単独で動こうとした時の覚悟の大きさが分かる。

 間違いなく敵と刺し違える覚悟を持って敵地へ単身で向かうつもりだったのだろう。

 依然強い意志を持つ視線で、彼女は見つめてきていた。

 

(うーむ、どうしようか)

 

 いささかズルい手かもしれないがと思いつつ、モモンはアインズとして説得を開始する。

 不可視化のモモンは〈上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)〉を解き、アインズの姿になると――小柄なマーレを両わきの下から持ち上げ、眼前までマーレの顔を寄せさせる。顔が近くマーレの頬が少し朱に染まる。

 

「お前は私が――弱いと思っているのではないか?」

「い、いえ、そのようなことは絶対ありません。至高の皆さまは最強の存在です!」

「うむ。そうだな、私は最も強い。ならば、これから向かう拠点傍の比較的安全といえる所に、ここへ残っているはずのお前程の者(守護者)を常に随伴させた場合、周りの者はどう思うか?」

「そ、それは……」

「向かう先が敵地のど真ん中なら、お前の同行も当然だろうと皆納得する。しかし、そうでない場合、無用な不安を周りへ起こさせる場合もあるのだ」

「は、はい……」

 

 主の説得力のある言葉に、しゅんとなるマーレ。

 その彼女を元気付けるべく――不可視化のアインズはマーレを優しく抱き締める。

 

「――っ!」

「そんなに心配しなくても、強い私は大丈夫だ。それに、お前の力が必要な時には必ず傍に呼ぼう」

「は、はい。……分かりました。今日は、ここに残ります」

 

 アインズはゆっくりと素直になったマーレを前へと下ろしてやる。

 微笑むマーレの顔は、敬愛する御方に優しく抱き締められ真っ赤になっていた。

 だが、マーレは一つだけ問いかけてくる。

 

「あ、あの、なぜ今日、秘密結社と手を結ぼうとされたのですか? (下等生物は)ただ踏み潰せばいいと僕は思ったのですが……あっ、これは、あくまでも僕が愚考しただけです。是非、その崇高なるお考えを知りたくて……」

(なるほど、俺が逡巡して動きが緩慢になってきていると感じているところが、不安を大きくしているのかもしれないな)

 

 アインズは、己の良くない傾向に気が付いた。少し『妥協主義』が見えすぎたのかもしれない。ここはその緩慢といえる部分を逆手に取るべきだろう。

 

「はははっ、それは簡単なことだ。玩具をすぐに踏み潰して壊せばどうなる? 壊すのは簡単だが、明日からその玩具では遊べなくなるのだぞ?」

「……………あっ」

 

 

 

「玩具は長く楽しむものだろう? 壊すのは――――この私が飽きた時だ」

 

 

 

 その、絶対的支配者に相応しい圧倒的さ溢れる言葉に、マーレのオッドアイの瞳は、まさに崇拝し敬愛する方を見るキラキラとした憧れで満たされていく。

 

「は、はい。良く分かりましたっ! す、すみません、僕、本当につまらない事を考えてしまって」

「構わん。私がずっと先の事も十分考えている事を理解していてくれ」

「ず、ずっと、ずっとついて行きますっ、先をお傍で僕も見る為に」

 

 こうして、マーレの不安はアインズの崇高な考えにより無事に解消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――P.S. その質問の果てに

 

 

 結局、カジットはモモンの所属する組織の名称について問うことはなかった。

 それよりも、『死の宝珠』の魔力量を目一杯にした事実の方が、ズーラーノーンにとっては何倍も重要なのだ。理念に直結する事象が優先されるのは当然の事である。

 だから今、聞くべきことはこれであるっ。

 

 

 

「――――マーベロ女史は……何歳かな?」

 

 

 

 カジットからの前後不明で突然の質問に対して、モモンはズレた感じに答えた。

 

 『えーっと、俺もクレマンティーヌの年齢は知らないけど。例えば――若いと言うより幼い、とても若い、若い、少し若い、まだ若い、若く見える、頑張ればまだ若いと言えるかもしれない、昔は若かった……そういう大雑把な括りでいいんじゃないかな』と。

 『そ、そういうものか』なぁと同じ30代の男は理解した。

 

 カジットの最後の質問への返しとして、モモンも一つだけカジットへ尋ねた。

 

 『貴方は集めた“負の魔力”で、何をするつもりなんだ』と。

 

 カジットは自分の真の目的についてはずっと他者へ口を閉ざしていた。しかし、目の前にいるモモンはこれまでに会った者達と次元が違う気がしたのだ。

 だがら、少しだけ話した。

 

 『ある死者を蘇らせたいが、通常の蘇生魔法では灰になってしまう。だから灰にならない研究をするために寿命ではなく――より長年研究出来る体が欲しい』のだと。

 

 どうやら対象者が、通常蘇生の〈死者復活(レイズデッド)〉ではレベルダウンのため灰になるLv.5以下の者らしい。

 するとモモンは何気にこう返した。

 

 『一応そういった一般の者が、灰にならない蘇生方法なら知ってますけど』と。

 

 カジットの両目は、眼球が零れ落ちる程見開かれていた――。

 

 

 

 何気に、忠実なる配下が増えていく予感がする……。

 

 

 




戦いは一体どこへ…………。モウスグモウスグ(タブン


再確認)『このナザリック坂を』駆け登り始めるカルネ村の指揮官
現在、カルネ村総軍の総戦力は帝国以上。

コマンダーエンリ(Lv.5)と直属の配下
デス・ナイト1体(ルイス)、ゴブリン軍団19体、特殊スキル持ち第二位階魔法詠唱者1名。そして最強の幼女1名(Lv.23の白きG、オードリーの護衛付き)

野伏(レンジャー)1名が率いる自警団約20名
新参(アイアン)級冒険者1名

あとは、Lv.83NPCキョウ率いる圧倒的なナザリック駐屯軍
蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)(Lv.60程)3体
デス・ナイト(Lv.35)2体

参)八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)(Lv.88)1体出張中
以上





考察)アイテム等の価値換算
ゴミアイテムという『小鬼(ゴブリン)将軍の角笛』が、新世界の交金貨で数千枚程の評価。
これが有名ですね。エンリや守衛に魔法詠唱者らが動揺するほどの価値です。
本作で、『叡者の額冠』の価値をどうしようかと思い、本作用に少し基準を考えました。
結論的に言うと、アイテムの価値はユグドラシル時代の評価(単位が金貨のみ)となります。
だから凄く高い。
そもそも、この新世界でゴブリンを倒しても銅貨で数枚ですので基準が合いません。
また『小鬼(ゴブリン)将軍の角笛』が交金貨で数千枚程は、恐らくユグドラシル金貨評価枚数の倍になってます。

そう判断した基準の一つに、書籍版3-407にてLv.100NPCのシャルティア復活に、サクッと『ユグドラシル金貨5億枚』というのがあります。
この額は新世界に来ても、ユグドラシル時代のままのようです。
明らかに異常な枚数です。
なぜ異常かと言うと、書籍版2-60で王国の交金貨32枚で家族三人で3年暮らせるとあります。
なので、庶民家庭の年収は約金貨10枚ぐらいではと考えます。
そこから王国900万人の国民総生産をどんぶり勘定で出してみたのです。
本作では、農民を含む庶民、商人や僅かな士族(冒険者も追加)、貴族、大商人、大貴族、王家たちはそれぞれ年収がインフレ的に高くなっていくと考えます。
一家庭4人として、225万世帯。
農民+庶民192万世帯で金貨2100万枚、商人24万世帯で1300万枚、他貴族+士族1.7万2200万枚、六大貴族3300万枚、王家1500万枚、裏社会7.5万世帯で360万枚。
税は、多くが7公3民ぐらいですかね……(モウゲンカイ生活 汗)
領地としては、王家が国土の3割、大貴族が3割、他の貴族が4割となっていますが、広さイコール収入ではありません。王家は貴族達が見向きもしない下地を多く持っています。また、ブルムラシュー候爵が書籍版9-126にて財力で王家を上回るともありますが、この財力は王家が大都市を3つ持ち維持費等が掛かる点から自由に出来る資金か蓄財ではと考えられます。とは言え、ブルムラシュー候爵は金貨850万枚ぐらいの生産力があるのかもしれませんね。

そんな諸々により本作では、王国民総生産が金貨約1億枚の想定となりました。(少なっ)

さて、少し話を戻します。
『最高級ユニット復活コマンド実行』にユグドラシル金貨5億枚。
ユグドラシル金貨は、王国や帝国等の金貨に対し2枚分の価値なので、王国の総生産の約10年分になりますね……(笑)
凄い世界の隔たりを感じます。

そしてここでですが、『最高級装備』自体、例えば神器級(ゴッズ)アイテムの価値はどうなるのかを考えます。
『最高級ユニット復活コマンド実行』と『最高級装備』自体の価値を比べると、『最高級装備』の方が高いと感じる人が多いと思います。
神器級アイテムの価値は、1点でも恐らく少なくとも10億枚以上だと考えます。
いや、Lv.100のプレイヤーでも中々持てないという話がありますから、評価的に100億枚以上の物も多いかもしれません。
ならば、更に別格な世界級(ワールド)アイテムだと1000億枚以上。二十だと、ユグドラシル金貨2000億枚や、5000億枚以上かも……。
一方下方は、伝説級(レジェンド)、聖遺物級(レリック)、遺産級(レガシー)、最上級、上級、中級、下級、最下級とあります。
それぞれ、1億枚、1000万枚、100万枚以上という単位順になるのでしょうか。
そうすると最上級は金貨10万枚以上、上級で1万枚、中級で1000枚、下級で100枚、最下級は金貨10枚や5枚以上……。王国等の価値観ではケツが少し高い感じですが、単位が金貨しかないユグドラシルのゲーム内では妥当にも思えます。
対して、この新世界では上級までは変わらず、例えば中級で金貨で300枚以上、下級で金貨5枚以上、最下級で銀貨1枚以上ぐらいならいいかなと。
まあ、単純に階級10倍として考察したので、本作内の一つの目安だと思ってもらえれば。

金貨数千枚の価値という『小鬼将軍の角笛』の真の力、ユグドラシルでは弱い部類のゴブリン(最大Lv.43)を多数呼び出すのは、レア度も入れて中級アイテムぐらいだと考えれば、辻褄は合いそうな気がします……。多分ゲーム上だと5000体も一度に出せないですよね。

ちなみに本作で『叡者の額冠』は法国金貨100万枚の評価ですが、ユグドラシル金貨では、底値で50万枚程度ということで評価は最上級~遺産級アイテム辺りかと。

漆黒聖典のメンバーの装備品は、遺産級(レガシー)以上の物も多いはずです。
しかし、人類の為という崇高である使命に忠実な彼等の中に、横流しして大儲けしようという姑息な者はいないようです(まあ、足も付きますかね 笑)
本作のクレマンティーヌの装備もトンデモナイんですけど、彼女もお金にはそれほど興味がない様子ですね……。





捏造)死の宝珠(Lv.40程度)
本作では、魔法量(負の魔力)は殆ど自己回復しないアイテム。
だから、集める事も好きなので世界へ死を撒き散らすことにもより積極的。
その総量は、カジットが目指したのはエルダー・リッチ(Lv.22~30程度)への転進には十分である。
またカジットにはインテリジェンス・アイテムという事は知られていない。
所有者(人間に限る)を操る力として〈感情操作〉〈思考操作〉を行なう模様。
因みにカジット単体だと、難度は110程。なのでカジット自身が死ねばそれなりに貯まる。
近年、もっとも大量死を必要としていた高弟はカジットであったが、もっと凄い御方に出会ってしまった……。







『マーレ、駄々をこねる』にて

パンドラ「……」

話は聞いている。

アインズ「(マーレ)……」
マーレ「(モモンガサマ)……」

ハグする二人。

パンドラ「!!?……(女性関係デ報告スベキィ?)」

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