紅の心臓
『ねえ、君は何をしているの?』
『僕かい?』
一面真っ白な世界、そこは大部屋でそれは実験体の寝起きする部屋。間違いない、これはかつて研究所にいたころの記憶だ。おそらく、この光景は夢だということが理解できる。人のいい笑顔を浮かべ、雄之介に話しかけてきた少年は白い服を頭から被って袖から手を出し、ズボンを履いている簡易な服装で雄之介も彼とまた同じ服装だ。確か、彼の名前はなんだったか――。
そうこうしていると、少年は手を差し出してきた。このときの自分がどんな顔をしていたのかは見えないけれど、あまりいい表情ではなかったのは違いない。首からさげたペンダントを奪われそうになり、何度抵抗していたことか。頼りのジョーカーとしての姿も、特殊な磁場でも張り巡らされているのか効果がなかった。
むしろ苦痛を与えられているといってもよく、ロストドライバーもジョーカーメモリも初変身の時以上にパワーダウンしているように感じられた。そうしたこともあって顔には笑みを浮かべていても貼り付けているだけにしか見えず、とてもおやっさんとの約束であった「常に余裕を心掛けている男」には程遠かった。
ちょうど、このときは体操でもしていたのではなかったろうか。自分の力が届かないと知りつつも、ただ自分のもとにやってきた“切り札”を使いこなすためにも相応の努力が必要だと自分でも思ったのかもしれない。それにしたって今の動きは見下ろす形になっているものの、形になっていない。今だからこそわかるのも成長か、と小さく笑う。
『身体を動かしてるんだ。鈍るといけないからね』
『なまるもなにも……、おれたち被検体は常に最高の状態を保たないといけないんじゃなかったか?そう聞いたんだが』
『そんなのはどうでもいいんだ。僕はここを一刻も早く出なくちゃならない、ここで燻るわけにはいかないんだ』
『ほう、それはどうして?ああ、おれはハート。おまえはたしか……』
『四号はやめてほしいな。僕は雄之介』
いい名前じゃないか、と手を差し出してきて握手を求める姿勢は放置されたとあっても変わらないようだ。そうだった、この少年の名前はハート。被検体時代における無二の親友で他にヴェルメリオという軽薄な少年もいたはずだ。どこから持ってきたのかわからない装飾品を持ち、青と緑に紫の笛のようなものを持っていた覚えがある。
それについて尋ねてみたところ、「おれの宝物だ」の一点張りで詳しくは話してくれなかったが雄之介とて同じようなものだ。ペンダントを何とか隠そうと奮闘していると、気がつけばなくなった時は落ち込んでしまった(なぜかそこに『在る』と感じることはできた)。
場面は飛ぶ。
『だめだ、ここで終わりだ……』
『諦めるなよ!おれ達はここで終わらない!もっと、外の世界を見て回って旨いモン食おうって言ってたじゃないか!』
研究所を脱出しよう、となったときに犠牲になったのは確か二号と呼ばれていたアギトという少年。
『アギト!お前の夢はおれ達に料理を振る舞ってくれるんじゃなかったのかよ!』
『そうだった。けど、おれももう……』
研究所の存在を、実験の存在を外部に知られないために送り込まれたはぐれ神父の部隊。
彼らに殺された後、灰となった被検体の少年少女たちは灰色の異形となって甦ったり、異能で立ち向かいもしたが所詮は子供。己の力を制御するどころか、むしろ飲み込まれてしまった者も少なくなく、それが同士討ちに繋がって被害をより多く出した。
凄惨な記憶を渡り歩いた先、その先にあったのは紅い複眼に黒いボディの超人・ジョーカーとなった自分がいる。そこでたった一人、戦闘に加わることもなく泣いていた金髪の少女がいる。髪は大雑把に斬られ、顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
何を思ったのかは知らない。
その混乱に乗じ、ハート達は外に脱出していた。また外で会おう、とヴェルメリオやハートにはいったものの、まだ残された者はいないかと探しに戻ってきていた。そのときには外骨格に覆われた下に霊石が戻っていたが、そのときの雄之介には気にも留めることではなかった。
覚えていることがあるとするならば、そこでペンダントに導かれるようにして異形へロストドライバーとジョーカーメモリを介してでなく、変貌したことだろうか。
❊❊❊
「結局、トライドロン待機なんだね……」
「仕方ないだろ、アンちゃん。僕らはあくまでも外から来たんだ、朱乃ちゃんの家に泊まれはしても加勢するのはギリギリになってからでいいって聞いたし」
「それもそうだけど……」
翌朝にアザゼルから送られた指令によると、荒い文体で『ギリギリまで加勢するな』とあった。コカビエルにグレモリー眷属がどこまで通用するのかを図りたいとのことだが、何か裏があるように思えてならないアンだった。それに昨夜の雄之介の魘されていた声を聴いていたのもあって心配で抱きしめてみると、少し表情が和らいだのに一安心したが昨夜を思うと気が気でならない。
本人はあくまでも大丈夫、と笑顔を浮かべているが心配なのは事実だ。雄之介は夢に出会った日を見ているのだろう、あの日に起きたことをまだ覚えているに違いない。アンがこうして雄之介の世話を焼いているのは、あの日の贖罪のことが大きいのだが今はその食材の念を上回るほどの想いが心を占めている。
それに危なっかしい雄之介がいつか“救世主”というバケモノに仕立て上げられて殺されてしまいやしないか、と思う時が気でならなかった。帽子を被る理由を聞くと彼は必ず笑顔を浮かべ、「僕の尊敬する人に被る資格をもらったんだ」と言った。その憧れの人が原因ではないのがわかるが、一度も会わせてもらったことがないのを思うと既に故人なのだろう。
もしかしたら捕われているのかもしれない、過去のその誓いに。それが彼を捕らえている呪縛だというのならば解放してやりたいのだが……。
「?どうしたのさ、アンちゃん」
「な、なんでもないよっ!」
『フム、珍しいね。アンが狼狽えるとは』
「そ、そういう日もあるよ!ジョーさん!」
ジョーさんが口を挟み、くつくつ笑う。アンは顔を赤らめるが、珍しく雄之介からの反応がない。窓から見える光景を食い入るように見つめ、朱乃とその仲間がコカビエルと問答し、それから戦闘に発展したのを見ている。グレモリーが劣勢になってくると、雄之介はシートベルトを外し、扉に手をかけた。
「ごめん、行ってくる!ジョーさん、トライドロンを頼んだ!」
『ま、待ちたまえ!雄之介!』
トライドロンから制止を振り切り、その戦場へと駆けていくとジョーカーメモリをロストドライバーのコネクタに合うように挿入する。
『JOKER!』
ここに紅い複眼の黒い超人、ジョーカーが現れた。
「えっ、ユーにいさま……?」
「朱乃、知り合いなの!?」
「ええ、でも……」
「雄之介か、何をしに来た?流石に俺が指南してやったガキを手にかけるのは後味が悪い……、いや、ここでお前の前で殺せば戦争を起こすことができるかもしれんな」
狂ったように笑うコカビエルに対し、ジョーカーは拳を握る。
出会った堕天使は皆、なにかしら長所があった。その中でアザゼルがお前にはとっつきにくいだろうと言ったコカビエルに指南してもらっているといったときは驚かれたものだ。
「なにしてるんだよ!?戦争が起これば、みんな死ぬじゃないか!」
「まだ府抜けているか。お前は昔から変わらん、アザゼルみたいに腐抜けたままだッ!」
「アザゼル先生は腐抜けてなんかいないッ!」
コカビエルは光の槍を雄之介の元に投射―――しなかった。
負傷しているリアス・グレモリーとヴァーリと同じ気配のする少年の元へと光の槍を向けた時、反射的に体が動いていた。ジョーカーのその能力はスカルと同じ、身体能力の強化である。極限にまで極めた身体能力がジョーカーの武器で、変身者のも上乗せされるため、その動きは人間離れしたものを再現する。
腕を交差させて防ごうとするが、それよりも早く向かう光の槍に向かって跳躍し、紫色の炎を纏った蹴りで連撃を叩き込む。
「ライダー百裂蹴り!」
「す、凄い……。コカビエルの槍を蹴りだけで……」
怒涛のラッシュでなんとかコカビエルの光の槍をへし折ることに成功し、安堵する朱乃達だったが……。
「今だ、フリード」
「あいあいさー、なーんか俺ちゃんと似てるのが腹立つんですよねぇ?んじゃ、似たタイプだし終わらせておくか!」
『Eternal!』
コカビエルに呼ばれて現れた銀髪の神父は狂気に染まった笑みを浮かべ、Eを象った紋章のあるメモリをロストドライバーへと挿入する。音声が鳴り響き、∞をあしらった複眼とEをあしらった角を持ったジョーカーと同じ姿をとる超人となる。
「んじゃーね。無効化してやんよ!」
「ジョーカーと同じ!?マキシマムドライブは使わせるかァァァァァ!」
『マキシマムドライブ!』
『ライダァァァァァキック!』『くたばれ、パチモン!エターナルウェェェェェブ!』
浮上する二十六本ものガイアメモリがエターナルの周囲を回り、エターナルの上半身のホルダー、そしてエターナルの得物に挿入されるとエターナルから緑色の光が発せられる。
それに対し、迎撃するジョーカーは紫色の炎を纏った蹴りで応戦するが……。
「な、なんだ!?これは……」
「そう!これこそがエターナルの真骨頂、二十六本ものガイアメモリを使えば、このEx世代のを含まないガイアメモリ・異能の力を打ち消す!まぁ、これ、コカビエルの旦那以外に使えるから悪魔ちゃんの嬲り殺しにも使えるなぁ?殺す前に犯すけど!」
ジョーカーのボディに罅が入り、メモリの力の恩恵を受けられなくなってくると自然と力が押し戻される感覚がある。しめた、とばかりマキシマムドライブ同士の応戦に勝利したのはエターナルだった。
「ジョーカーが……」
変身が解除され、宙を舞うところをエターナルの得物の一突きによってロストドライバーとジョーカーメモリが真っ二つとされる。
『帽子の似合う男になれ』
おやっさんの幻聴を聞きつつ、雄之介は落ちてゆく。
「お前の力はそうじゃないだろ、雄之介。お前の力は俺たちのオリジナルに匹敵する力のはずだ」
聞こえてきたのは紅い友の一人、ハートの声だった。
Ex世代のメモリ……元ネタは運命のガイアメモリのT2メモリから。フリード君に合うライダーがカイザかファイズしかなく、絵になるのがエターナルだった