忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第106話 帰路

 地面に着いた俺は、一先ず中々の重傷を負っているユギトの治療を行う事にした。

 パッと見ただけでも無数の切り傷や火傷、四肢に空いた直径3cm程の穴……放っておけば出血死しかねない。

 俺の憶えた医療忍術では間に合わないと判断し、まず四肢の傷に‘ご隠居の猛毒薬’を振りかける。

 すると薬の掛かった場所の傷が見る見るうちに塞がっていく。

 しかしそれを三本使用しても傷は治りきらなかった上に、彼女が目を覚ます気配が無い……傷が治っていく課程で肉が盛り上がっていくのを見なくて済んだのは良かったかもしれないが。

 文字通り半死半生の状態だったという事がこの事から分かり、此処で治療していなかったら彼女は死んでいたかもしれないと少し顔を青ざめさせながらも、これでまず死ぬことは無くなったと安堵した。

 完治こそしなかったが、残っているのは小さな傷ばかりなうえ、人柱力特有の治癒力の高さで治りかけている。

 取りあえず未だ目を覚まさない彼女を背中に背負い、空から下りてくる際に小さく見えた雷影邸へと向かって走り出す。

 

 

 あの二人が追ってくるかもしれないので‘緊急脱出装置’を使用して空いた枠に二つの罠を伏せ、不意の攻撃にも対処できるようにしつつも警戒を怠らず、十分程走り続けてようやく雷影邸へと辿りついた。

 先程来た時に姿を憶えられていたのか、俺が「暁二人が二尾を襲撃した。 二尾は無事だが、未だ暁は健在しており、奴らに関しての情報を伝えたいので雷影様にお取り次ぎを」と言うと特に疑われることも無く、入り口に立つ忍は俺に此処で待つように言ってから俺の背に居るユギトを代わりに背負い、邸内へと早足で入っていく。

 暫くそこで待っていると足音が聞こえてきたので戻ってきたのだと思って曲がり角を凝視していると、そこから現れたのは先程の忍ではなく雷影と見たことの無い忍二人。

 彼らは俺の元まで来ると雷影が怖い表情で「暁がいた場所へ案内しろ」と告げた。

 一瞬面食らったが反対する理由も無かったので了承の意を表すと彼らの先頭を走り始める。

 道中暁二人の身体的特徴や戦闘方法等を伝えたり、ユギトの容態を聞いたりしていると気付けば目的地が見える所まで来ていた。

 

 

「あそこの坑道の中の開けた場所で彼女と暁は戦っていました」

「……貴様は何故それを知る事が出来たのだ?

 木の葉の忍である貴様はこんな場所に用など無いだろうが」

「現場を見れば分かると思いますが、かなり激しい戦闘が行われており、その音が耳に入ったので気になりまして……」

「ふん……まぁいい、詳しい話は後で聞く。 今は暁の奴らの方を優先する。

 そしてここから先、貴様は付いて来ずとも良い。

 此処で待つなり、邸内で待つなり好きにしろ……行くぞ」

 

 

 その場に俺だけを残し、雷影達は中へと入っていく。

 木の葉の伝令役を危険に晒すと面倒なことになるからなのか、それとも単に邪魔者扱いされたのかは分からないが、雷影にそう言われれば従うほか無く、これからどうするか考えたところ、脳裏にユギトの様子を見に行くという選択肢が真っ先に浮かんだが、この姿のまま会ったところで何があるわけでもないので棄却し、一先ずシズネにこの事を伝えるために里を探し回ることにした。

 俺と別れる際に彼女は綱手への土産物を探すと言っていた事を参考に土産物屋や酒屋、酒のつまみになる様な腐りにくくて尚かつ味の濃い物を取り扱うような店を片っ端から巡っていく。

 そして五件目の店で一升瓶二本を見比べているシズネをようやく発見した。

 

 

「悩んでいる所悪いが、大事件が起きたから一端それを置いて話を聞いてくれ」

「あ、ヨ……モツさんどうかしたんですか? そんなに慌てて……それに服がボロボロですよ?」

「俺の服とかはどうでもいいから、話を聞きなさい。 先程二尾が暁の襲撃に遭い重傷を負いました。 現在雷影様含めた雲隠れの忍が暁を探しています。

 急ぎ木の葉に戻ってこの事を報告した方が良いのではないでしょうか」

「そんなことが……そうですね、急いで綱手様にお知らせしましょう。

 そう言えばカツユ様を介して綱手様と連絡は取れませんか?」

「出来ればやっているさ……綱手がカツユを呼び出している時じゃなければ連絡は無理なんだ」

「そうですか、では雷影様が戻ってき次第雲隠れを出ましょう。

 そうと決まれば……店員さん、このお酒を包んでください!」

 

 

 カツユと介しての連絡が現状不可能に近いという事を聞いても、別段残念そうな顔は見せずシズネは手に持った二本の一升瓶をレジへと持って行く。

 こんな状況でも普通にお土産を買う彼女に少しだけ頬を引き攣らせながら、ホクホクとした顔のシズネと共に店を後にする。

 よく綱手が飲み過ぎて困る等と言っているシズネだが、実は彼女も結構飲むので木の葉では売っていない酒を買えてご機嫌なのだろう……まぁいざとなったらすぐに真面目モードに戻るから別に構わないけれど、少なく共これから雷影邸で雷影の帰りを待とうとする他里の人間には見えないだろう。

 

 

 雷影邸の待合室にて待つこと一刻程……雷影含む三人が戻ってきた。

 その服には汚れ一つなく、戦闘の痕跡が見当たらないことから暁を見つけることが出来なかったのだろう。

 雷影は不機嫌そうに俺とシズネの正面の椅子にドカッと乱暴に座ると、俺の予想通り「暁の奴等には逃げられた」と結果を教えてくれた。

 現場の戦闘痕から暁とユギトの戦闘がそこであったことは分かったが、雷影達が其処に着く頃には既に敵の影も形もなかったらしい。

 暁二人には怪我らしい怪我も無かったので、人柱力を逃した時点で一端引いたというのが妥当な推測になるはずだ。

 その後は今回会った暁の情報を改めて纏めつつ、一時間程対策等について話し合ったが特に目立った案はなく、とりあえず各里でそれぞれ対策を考えつつ警戒を強める方針でその場は解散となった。

 

 

 ユギトの容態も気になったが、自分の見た限り命に別状はない状態になっていたので、一先ず綱手への報告を優先し、すぐに雲隠れを発ち、火の国行きの船に飛び乗る。

 帰りの船の中、シズネと俺は今回の一件について話し合っていた。

 暁に気を付けろと雲隠れに言いに行ったら、既に暁が潜入しており、あわやユギトが誘拐されるという所で俺が間に入り彼女と共に暁二人から逃走に成功した……改めて纏めると運が良かったのか悪かったのか分からないな。

 友人を助けることが出来た事に関しては良いことなのだが、暗部姿とはいえ恐らくあの二人に恨みを買った事に関しては凄まじく運が悪い。

 出来る事ならば二度と会わないよう神様に祈るとしよう。

 

 

「暁は一体何が目的で尾獣を集めるんでしょうかね……良い予感はしませんけど」

「俺には見当もつかないけど、尾獣が抜かれてしまえば人柱力は命を失う。

 どんな目的があるか知らないが、肯定的な意見は出せないかな……ナルト君も狙われている事だしね」

「そうですよね、綱手様にとってもヨミトさんにとっても彼は孫のようなもの…………そ、そう言えばナルト君で思い出しましたが、あの子先日………」

 

 

 暁の話からナルトの話へと移り、先程までの張り詰めた雰囲気が穏やかになり、そのまま船員を巻き込んだ宴会に移行。

 火の国の港に着くまでの間、これから先の不安を打ち消すかの如く、船の中からは楽しげな声が響き続けた。

 


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