暁の二尾襲撃から数週間が経過し、件の二人組についての対策がそれなりに練られてきた頃、火の国における実力者集団守護忍十二士の一人である地陸という忍が殺されたという情報が木の葉に届いたため、元守護忍十二士に所属していた上忍猿飛アスマ率いる小隊がその人物が所属していた火ノ寺へと聞き込みに行き、そこで二尾を襲撃した二人組と遭遇した。
その結果猿飛アスマが重傷を負ったが、なんとかその場は犠牲を出すことなく暁を退けることに成功したらしい。
ただし猿飛アスマの怪我の具合は相当悪く、特に利き腕と両足の腱はもう治ることが無く、忍として戦場に立つのはほぼ不可能という話を彼とそれなりに交友のあるシズネから聞いた。
本人は死ななかっただけ儲け物だと言っていたらしいが、見舞いに来た夕日紅上忍がそれを聞いて涙ながらに怒ったのだとか……まぁシズネに聞いたところ、彼女のお腹にはアスマ上忍の子供が宿っていた様だからしょうがないだろう。
何にせよ件の二人が火の国に入ったという事で、此処木の葉の里も厳戒態勢へと移行している。
アスマ上忍の担当していた二代目猪鹿蝶トリオも彼の敵討ちに燃えているとの噂を彼らの同期である日向の御令嬢から聞いた。
彼らには既に不死者対策があるらしく、数日中に戦闘を仕掛けるらしい。
こういった情報が錯綜する中、俺が何をしているかというと……普通に店を開けていた。
「子供の成長は早いもんだ……店主もそう思うだろ?」
「そうですね、少し見ない内に見違える程成長するのが子供ってものですから……ナルト君が三年ぶりに里に帰ってきた時なんて本当に吃驚しました」
「家の子もアスマさんの一件で木の葉の忍としての心構えが出来たらしくて、すっかり大人顔負けの気迫ってものを感じられる位になった……もう何時俺を超えてもおかしくない」
「シカマル君にとって、シカクさんはまだまだ大きな壁であり目標だと思いますよ」
「俺としてもそう簡単に抜かれてやる心算はないさ……親ってのは何時までも子供に良いとこ見せておきたいもんだからな」
そう言って笑う彼の顔は一片の曇りすらない笑顔で、戦場に向かう息子への信頼が如実に表れていた。
暇つぶしの本を探しに来たシカクだったのだが、入れ違いで退店したヒナタの姿を見て子供の話が始まり今に至る訳だが……小さかった彼が大きくなり、親になって子供の成長を喜ぶ。
何とも時代の流れを感じざる得ない……だが俺は歳を取らない。
彼らが老い、子の世代も老い、孫の世代が老いようとも俺はそのままの姿で生き続ける。
今になってその事が少しだけ……ほんの少しだけ怖い。
何時か生きることに疲れて自ら死を選ぶかもしれないし、ふとした事で事件に巻き込まれて命を落とすかも知れない。
だが死なずに何千、何万という年月を生きるかもしれない可能性もある……考えれば考える程思考の深みに嵌っていく。
しかしこの場にいるのは俺だけではなく、彼から声を掛けられることでネガティブな思考は中断された。
「ところで三年程前から店を留守にすることが増えているが、何か病気でも患っているのか?」
「俺もそれなりの歳だからね、体調が悪い日は無理をしないようにしているよ。
別に大きな病気を患ったとかではないから心配しないで大丈夫」
「そうか? 大丈夫なら良いんだが……店主位の歳なら一人暮らしは大変だろう。
家政婦とかは雇わないのか?」
「家は其程広くないし、家事とかしていた方がボケ難いって聞くから、まだ家政婦を雇う予定は無いかな」
「そういう理由なら無理には薦めんが……無理はするなよ?」
少し心配そうな表情を浮かべながらも納得してくれたのか、それ以上彼が家政婦雇用について話を振ってくることはなかった。
その後少し話をして、シカクは適当に小説等を数冊レジに置いて会計を済ませると、一言二言挨拶を交わしてから店を後にした。
再び静寂に包まれる店内だったが、次の客は思いの外早くやってきた。
見たことのない顔・・・・・・少し特徴的ではあるが木の葉の額当てを着けているから忍だろう。
俺が「いらっしゃいませ」と挨拶すると、普通は返事を返すなり、スルーして本を探すなりするんだが、彼は違った。
軽く頭を下げてから、一直線にカウンターにいる俺の方へ歩いてくる。
その行動を見て、もしかしたら強盗かもしれないと身構えたが、彼はカウンターの少し前で立ち止まり、手を差し出してくる。
「どうも始めまして、僕の名前はヤマトと申します」
「はぁ・・・・・・どうも、本瓜 ヨミトと申します」
「今ナルトの班の隊長をやってまして、一度保護者であるヨミトさんに挨拶をと思って来ました」
「そうですか、態々どうもありがとうございます」
少し戸惑いはしたものの、握手を交わしたことで少しだけ心的距離が縮まり、緊張が解ける。
最近はナルトも忙しいらしく、あまり腰を据えて話す機会が無かったのだが、隊長がヤマトという名前の忍に替わったというのは聞き及んでいた。
曰く感情の感じ取れない真っ黒な瞳、曰く夜突然出くわしたなら腰を抜かすこと請け合い等々……あまり良い評価ではなかったが、別段嫌っていそうな雰囲気は無かったので特に俺は気にしてはいない。
「今日挨拶しに来たのは、今度ナルトが少し危険な修行に取り組む事になりまして、その事に関する報告と言いますか……なんというか許可を戴きに参りました」
「危険……ですか?」
「危険な状況になる前に僕が抑えることが大前提としてあるんですけど、それを踏まえても危険がないとは言えないものですから」
「具体的にはどのような危険があるのでしょうか?」
「簡単に言えばチャクラと集中力を限界まで酷使しますので、無意識に九尾のチャクラを引っ張り出してきてしまう可能性があり、その結果として暴走してしまう……そんなことが考えられます」
彼の言う暴走というのをこの目で見たことがあるわけではないが、少し暴れるとかいうレベルじゃないのは彼の声のトーンからも窺える。
許可を取りに来たと言っていたが、話を聞く限りすぐに肯定的な意見を出すのは難しい。
ふとナルト本人はどう思っているのか気になった。
結局の所重要なのは本人の意志である。
「……ナルト君にその話はしましたか?」
「えぇ、ナルトはそれらを理解した上でその修行に取り組みたいと答えました」
「そうですか………分かりました。 ナルト君がそう望むのであれば、俺がその意志を挫く訳にもいきません」
「ならば許可を出してくださいますね?」
「えぇ……ナルト君を宜しく頼みます」
「はい、何も起こらないよう、全力でサポートさせて頂きます」
もう一度、今度は此方から握手を求め、力強く二度目の握手を交わすと彼は直ぐさま「修行の準備に取りかかります」と言って、瞬身の術でその場から消えた。
うちはサスケの変わりように落ち込み、力不足を嘆いていたナルトだ。
多少の危険を犯してでも強くなりたいのだろう……その足を引っ張ることなど俺には出来ない。
それに彼は一人じゃない……仲間も、頼りになる上司もいる。
忍として強くなるのに俺が手伝える事は無いに等しいが、それでも差し入れや激励の言葉を掛ける位は出来るだろう。
修行とやらが何時始まるのか知らないけれど、今度時間を見て昼食でも差し入れに行こうと決め、店番をしながら手軽に食べられるメニューを記憶から掘り起こすのであった。