奈良シカクと別れた後、カツユに道案内を頼んで綱手の元へと走りだした俺は、空に浮かぶ偽りの星から目を離さずに目的地へと向かう。
岩が集まって出来たそれは依然変わらず、地上から大小入り交じった岩を引き寄せてその大きさを増していく。
カツユが示す綱手の居場所に着く頃には、山にも匹敵する程の大きさまで成長しており、あれが里に落ちてきたならば確実に里は壊滅の憂き目に遇うことになるだろう。
一先ずあれをどうするのか聞くために綱手の元へと駆け寄ろうとしたところで、カツユに止められた。
ここからではよく見えないが怪我でも負ったのか、横たわっている綱手を一人の医療忍者が看ているようだ。
此処へと来る事に反対しなかったにも関わらず、目的の人物に近づくなというカツユに抱いた疑問を投げ掛ける。
「何故止めるんだい?」
「……綱手様は里の怪我人を直すために大量のチャクラを私に流し込んで医療忍術を発動させたことで、チャクラが限りなく零に近い状態なのです。
ヨモツさんなら知っていますよね、綱手様があの若々しい姿をどうやって維持しているかを」
「常時発動し続けるタイプの肉体活性術の一種とかだという話は聞いたことがあるけど」
「その通りです……ではチャクラが切れた綱手様が今どのような姿をしているか分かって頂けるかと思います」
綱手の術の中でも秘奥に属するものの中には細胞分裂の速度を急激に上昇させて不死の如き肉体再生能力を得る術がある。
人間の細胞分裂の回数は予め上限が存在し、上限に近づくと言うことはそれだけ肉体が老いると言うことに他ならない。
故に本来の綱手の肉体は実年齢よりも老いているのだろう……それが露わになっているだろう今、あまりその姿を見せたくないというのは女性としては当たり前の感情なのだろう。
それに現状綱手の状態を回復させる手段は無いに等しいのだから、近寄っても出来ることはそう多くない。
「何となく事情は察したよ……しかし余計に分からなくなった。
何故カツユ様は俺を此処に連れてくることを了承したんだい?
会わせたくないのであれば近寄らせないのが一番の選択だろう?」
「私もそう思いますが、綱手様の命には替えられません……見ての通り今綱手様を守っているのは治療中の医療忍者一人と襲撃者の攻撃によって小さくない怪我を負った綱手様直轄の暗部数名です。
襲撃者の数から考えれば明らかに守り手が少ない……故にヨモツさんにも綱手様の護衛に回って欲しいのです」
「今まで何度も守って貰ったからそれは別に構わないけど、件の襲撃者は今何をしてるのかな?
彼処に見覚えがある相手が転がっているけれど」
里のど真ん中にあるクレーターの中央付近に倒れた朱い雲が描かれたマントを纏った人物が倒れている。
その顔には幾つかの黒い杭が刺さっており、俺を追いかけていた二人組の仲間であろう事がわかった。
シズネを難なく倒した彼らを倒したのが誰か気になり、戦闘痕からそれを探ろうとしたが、俺の考えが分かったのかその疑問にカツユが答える。
「ナルト君ですよ、仙人の力を習得したナルト君が彼らを倒したのです」
「仙人の力ってなんだか凄そうだね……実際凄いんだろうけど、その肝心のナルト君は一体何処に?」
「それは……」
カツユが答えに迷っている内に空へと浮かぶ巨大な岩の一角をぶち破って、化け物が顔を見せた。
八本の尻尾らしきものがそれに続くように岩の中から現れ、それは耳障りな大声を上げる。
昔何処かで聞いたことのあるような鳴き声に、何処か見覚えのある顔つき……その身体に皮が付いていない事で気付くのに遅れたが、それは間違いなく十数年前に里を襲った九尾の姿だった。
それを見て現在ナルトがどこに居るのか察する。
「ナルト君はあの中にいたんだね……それにしても何故九尾の封印が殆ど解けているのかな?」
「ヒナタさんが犠牲になったのが原因だと思います。
彼女はナルト君を助けるために命を賭けて敵に挑み………」
「そうか……ヒナタちゃんが逝ったのか。
忍者という職業をやっている以上そういうこともあるだろうが、やはりコレばかりは慣れないな」
知らぬ内に強く握りしめた拳から血が滴る。
それなりに長い付き合いになる少女がその命を散らしたということに、襲撃者へ怒りにも似た念を抱く。
しかしその怒りを表に出す暇もなかった……何故なら事態が急激に動き始めたからだ。
ナルトの中から解き放たれ掛けた九尾は突如煙に消え、代わりにナルトがそこに立っていた。
どうやって九尾を再封印したのかは分からないが、正気を失っている風もなく彼は再び首謀者を止めるために動き出す。
ナルトが戦闘再開する一方で九尾が出てきた際に弾かれ飛ばされてきた少なくない数の石礫が里に降り注ぐ。
隕石の様に摩擦で熱されたりはしていないが、まるで雨のように降ってくる大小様々な岩は範囲内にいる一般人に絶望を与えた。
数多の忍者が起爆札や忍術によって当たれば即死するであろうサイズの岩を破壊したが、拳大のサイズまでは対応しきれない。
打撲、骨折、気絶etcetc……二次災害に過ぎないそれは今回の襲撃の中で最も多くの被害を出したといっても過言ではないだろう。
そんな中で俺が何をしていたかといえば、綱手の元へと飛来する岩を増幅された身体能力を武器に蹴り砕いていた。
護衛の忍者達は既に殆どのチャクラを失っていたらしく、数人がかりの土遁の術によって簡易のシェルターを作り出すのが精一杯。
半径3mにも満たない小さな防壁ではあったが、動けない綱手を守るには必要なものだった。
自身の命を顧みずに外からその壁を強化する土遁使いが2人と、内側から強化する1人、それらのことを全て気にせずに綱手の治療を行う者が一人。
彼らには俺の事など見えておらず、彼らからは自分の仕事を全うし、必至に綱手を守ろうとする意志が感じられた。
そんな彼らを見て俺も自分のすべきことをしようと、降り注ぐ岩の雨を目につくもの片っ端から砕く。
蹴り砕いてはその反動で次の岩へというのを繰り返し行い、尚かつシェルターを外から守る二人に岩が当たらないよう細心の注意を払う。
神経を削るような肉体労働ではあったが、始まりがあれば終わりもある。
何時しか終わりの見えなかった岩の雨も止み、一つの轟音と共に里を襲撃した主犯と思わしき人物は地に伏した……若き英雄の活躍によってこの事件の幕は下りたのだ。