忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第115話 被害

 あの後ナルトはまるで弾かれる様に何処かへと走り去った後、暫くしてから里へと戻ってきた。

 何処へ行ったのかは知らないが、誰も止めなかったことから見ると必要なことだったのだろう。

 現に大怪我を負って道に倒れ伏していた人達の傷が逆再生の様に癒え、至る所で歓声が上がっているのを見れば明らかだ……同期のくの一達に涙ながらに抱きしめられている所を見るとどうやらヒナタも無事蘇ったようで本当に良かった。

 そして彼らは一人、また一人とナルトの去った方角へと歩き出し、里の英雄を迎える準備を始める。

 ナルトが戻ってきた時……地面が震えた。

 溢れんばかりの歓声に、彼に駆け寄る友人達。

 その中心に居るのはつい三年前まで里の厄介者として迫害に近い扱いをされていたナルトだ。

 ナルト自身この様な扱いを受けたことが無いために大層戸惑っていたが、彼を囲む友人達に胴上げをされている内その顔には満面の笑みが浮かぶ。

 俺としても一声掛けたいところではあったが、たまたま目に入ったイルカも遠巻きに見る位で留めているので自粛することにして、一先ず病院に預けたシズネの様子を見に行くことにした。

 

 

 病院の中も先ほどの場と同じ様に歓声が上がっており、感知系の忍から聞いた話によってナルトが里を救った事を知り、ナルトを称える様な声が満ちていた。

 その中には昔ナルトに石を投げていた者も含まれていて少し思うところはあったものの、ここで俺が吼えるとこの空気をぶち壊すことになるし、ナルトがどう思うのかが優先されるために感情を抑えて当初の目的であるシズネの元へと向かう。

 俺が横たえた場所に居なかったので近くに居た人に彼女の居場所を聞くと、目が覚めてからすぐに治療する側に回り、今は病院の何処かにいるらしい。

 その話を聞いた俺は礼を言って、順繰りに病院内を回っていく。

 カツユを経由してその場所を知ることが出来ないかとも考えたが、シズネに着いていた分体は敵に襲われたときに消えているために知ることは出来ないのだとか。

 幸い十分程でシズネを発見し、その身体に異常が無いことは本人の口から確認することが出来た。

 彼女は自身に起きた事を良くは覚えていなかったが、俺とて詳しく知らなかったのでその話は早々に打ち切り、話は綱手の話へと移行する。

 綱手の状態に関しては俺よりもカツユの方が詳しいために彼女に説明を任せると、その説明を聞いている内にシズネの表情が驚きに染まった。

 

 

「陰封印・解を使ったということは今綱手様は……カツユ様! 今綱手様は何処に!?」

「護衛の方が此方へお運びしています……おそらく後五分もしない内に着くものかと」

「五分ですね、急いで準備をしないと!? 気になる所もあるでしょうからヨ……モツさんは一度戻ってから瓦礫に埋まった人達の救助に回ってください」

「ここに居ても手伝えそうなことはないみたいだから御言葉に甘えるよ」

 

 

 シズネは軽く頭を下げると足早にその場から去った。

 俺としては綱手の治療の手伝いをしたかった所だが、本職の人たちほど技術に長けている訳ではないし、何よりシズネの目が綱手のために此処は引いてくれと訴えかけてきていたから彼女の言葉に従うことにしたのだ。

 それに気になることがあるのも事実……俺の店がどうなっているか見ておかねばならない。

 ‘大嵐’によって敵の広域破壊忍術はある程度防いだが完璧に発動を防いだわけではなかったし、降り注いだ岩の雨や、戦闘による二次被害によってどれ程の被害を受けたかは全く想像がつかなかった。

 道中見慣れた町並みが見る影も無い状況にあるのを改めて確認し、自分の中である程度の覚悟を決める。

 そして次の角を曲がれば店が見えるという所まで辿り着く……自然と心臓の鼓動が早まり、額を一筋の冷や汗が伝う。

 一歩、また一歩と近づいていき、遂に角を曲がりきって自らの家の状態をその目で確認した。

 時が止まった様に俺は動きを止め、懐に入っていたカツユも「あっ!」と小さく驚きの声を上げる。

 

 

 店は見るも無残な状態でそこにあった。

 前面には幾つも穴が開いており、その穴から中の惨状が少しだけ見える。

 しかしそんなことよりももっと印象的なのは屋根に開いた巨大な穴だ。

 店の屋根には面積の四分の一ほどの穴が開いており、二階の窓は全て砕け散っていた。

 どう見ても岩の雨の一雫が飛来したとしか思えない……屋根の四分の一に匹敵する大きさの岩にとって木造建築の建物なんて障害にすらならなかっただろう。

 おそらく一階……下手をすれば地下にまで被害が及んでいると未だ明瞭でない頭が判断する。

 地に足着かぬような足取りで無意識の内に店の中へと入り、ゆっくりと店内を見回した。

 

 

「ヨミトさん……どうか気を落とさずに」

「あぁ……こうなる事も予想していなかったわけじゃないんだ。

 あれ程大規模な戦闘が行われていたのだからこうなる事も想定してはいた……だけど想像するのと現実として向き合うのはやっぱり違うね。

 この店は無機物だったし、修繕すれば前と変わらないように開店できると思う……でもカツユが誤って溶かしたカウンターやシズネちゃんとアンコちゃんが取り合ってボロボロにした椅子は原型を留めていないから新品に換えるしかない。

 一つ一つは古びた家具に過ぎないけれど、それらが醸し出していたこの店の個性はもう戻ってこないんだ……それが寂しい」

「ヨミトさん………」

 

 

 カツユの気遣わしげな空気を感じ、自身がしていたネガティブな思考を無理やり打ち切り、一度強く両頬を叩くと陰鬱な気持ちが晴れて、思考がクリアになってくる。

 俺の突然の行動に少し驚いた様子のカツユに苦笑いを浮かべながら、彼女を懐から肩へと乗せ直す。

 

 

「……でもここで凹んでいても何も好転しない。

 今俺に出来る事を一つ一つやっていかないといけないね。

 幸い岩は地下まで達してはいなかった様だし、たぶん直すのにもそれ程時間は掛からないと思う。

 だから今はシズネに言われた通り救助に回ろう」

「激しい戦いを行った後なのですから、あまり無理を為さらないでくださいね……ヨミトさんまで倒れたらシズネ様がより悲しみますから」

「分かっているよ、あの子は優しい子だから必要以上に背負ってしまう事がある。

 あまり負担を増やさない様にしないと潰れかねないからね」

 

 

 シズネはしっかりしているが、まだ三十代前半の女性だ……そんな彼女に負担を掛けるというのは気が引ける。

 それに今は綱手の件もあって一杯一杯だろうから、極力気遣ってあげた方がいいだろう。

 その一歩目として、先ずは怪我人の救助に回る。

 理由は分からないが、今回の戦いで負った傷はその殆どが突然治っていったが、建物の下敷きなどになっている場合等は治ってもすぐに怪我をしている事だろう。

 今俺が出来る事はそういった人達を一人でも多く見つけて助け出す事だ。

 幸い掌仙術はそれなりに出来るから、救助班の足手纏いにはならないだろう……さぁ、では仕事に取り掛かろう。

 


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