もう祖父母は婆ちゃんしかいないから長生きして欲しい
木の葉が壊滅的な被害を受けた一件から十日程経った頃、未だ動ける状態にない綱手に変わって新たな火影が選ばれることになった。
志村ダンゾウ……暗部組織のトップでもあり、色々と黒い噂の絶えない男が選ばれた事で不安を抱く人も少なくなかったが、現状特に大きな変化も起こらないのですぐに今一番行わなければならないことに意識が移り、里の人々総出で復興作業に努めている。
勿論その輪の中には俺も含まれており、現在ナルトの担当上忍も務めているヤマトの忍術により立て直された店の内装の変更及び無事だった商品を並べ直すという作業に追われていた。
発禁図書や希少本、在庫のストックを置いてある地下室が無事だった為に開店するだけなら其程開店に時間は掛からないだろうが、この状況下で古本屋に客が来るとも思えないが故に、以前と同じように店内に幾つかの仕掛けを仕込んだり、内装を少し落ち着いた形に変えたりと別段急いでいないことにも手を出している。
勿論それだけをしていた訳ではなく、綱手の見舞いにも足繁く通っていた……未だ彼女の病室へ入ることは許されず、外でシズネ経由で花や果実を渡している位しか出来てはいないのだが。
綱手への面会を許されているのは担当医としての役割もあるシズネと、綱手の弟子である春野サクラのみ。
今の弱った綱手を狙う者がいないとも限らないし、身体機能の低下によって免疫機能の低下なども引き起こしている彼女への接触者を出来る限り減らしたいという事なのだろう。
俺としても直接見舞いを行いたいという気持ちはあるけれど、優先すべきは綱手の早期復活なので医学薬学のプロである二人の決定に逆らうつもりはない。
まぁそんな訳で見舞いに行っても其程長居することなく真っ直ぐ店に戻ることになるのだが、病院からの帰り道に向かい側から歩いてくる人の中に珍しい顔を見かける。
相手の方も俺に気付いたらしく、会釈して此方へと近づいて来た。
手に幾つかの巻物を持った浅黒い肌の三人組だったのだが、その一人が以前ユギトと共に店に訪れた客の一人の様だ。
「お久しぶりです店主、この度は災難でしたね」
「お気遣いありがとうございます、えっと……サムイさんでしたよね?」
「えぇ、あの時は良い店を紹介して頂いて助かりました。
それにお土産まで頂いてしまって……帰りの道中、ユギトの機嫌たるや見せて上げたかった位です」
「些細なものですが、喜んで貰えたのなら良かったです」
「因みに飴は何処の店で「あのサムイさん?」あぁすみませんでした、少し話に華が咲いてしまいましたね。
オモイ、カルイ紹介します、以前木の葉に来た時に寄った古本屋の店主さんで、ユギトとも個人的に親交がある方なので、また会う機会もあるかもしれませんよ?」
そう言って彼女は二人の後ろに回って軽く彼らの背を押した。
前に出てきた二人の表情に何かを含んだものを感じられないので、おそらく無駄な時間取らせやがって的な感情は抱いていないのだろう。
「どうも、ご紹介に預かりました古本屋本の宿の店主をやっておりますヨミトと申す者です」
「カルイだ……です」
「オモイと言います(あぁこの自己紹介が切っ掛けでこのお爺さん経由でユギトさんと仲が深まって、ユギトさんと結婚する事になって子供ができたら、その子供に人柱力を宿す素質があって雷影様から我が子に幼い頃から厳しい修行を課せられたらどうしよう)」
元気の良さそうというか気が強そうというか……目に力がある女性がカルイで、なんか妙な空気醸し出している棒付き飴を咥えている男がオモイか。
中々特徴のある二人なので忘れることはないだろう。
自己紹介も終えたところで気になっている事を、一歩引いたところで見守っていたサムイに尋ねてみることにする。
「御三人方は木の葉に何か用事ですか? もしかして今回の一件について話を聞きに来たとかですか?」
「いえ、木の葉に起きた事に関して知ったのは此処に来てからですので……結果としてその話もする事になりましたが、今回私共が木の葉を訪れたのは抜け忍うちはサスケについて話を聞くというのが一つの目的です。
そうだ、ここは店主の話も聞かせてもらえないでしょうか?」
「うちはサスケですか……」
「貴方が保護者をしているうずまきナルト「「マジ
「い、いぇ何でもないです(やべぇアイツの親代わりかよ……流石に面と向かって顔の原型がなくなるまでボコりましたなんて言えない)」
「俺も特には(俺は手を出していないけど、止めなかったから同罪だよなぁ……もし今回の事が外交問題まで発展して、雲隠れと木の葉の戦争なんかになったらどうしよう)」
なんか突然声を上げたかと思えば、暑くもないのに汗をかき始めた二人に首を傾げながらも、サムイは此方を向き直って話の続きを始める。
俺としても二人の反応は気にならないこともないが、一先ずサムイの話を聞くことを優先することにした。
「そうですか? では話を続けますが、うちはサスケは木の葉を抜けた後大蛇丸の元で修行を積み、彼者を殺害……ここら辺は木の葉にいる貴方の方が事情に詳しいかもしれませんね」
「里を抜けたとはいえ元木の葉の三忍の一人でしたから、里でも結構な話題になっていましたからね」
「だと思いました。 話を戻しますが大蛇丸の庇護下を抜けた現在の彼は暁という組織に属しているのですが……先日彼を含む四人組が八尾の人柱力であるビー様を襲撃、途中ユギトが助太刀に入ったおかげで大きな怪我を負うこともありませんでしたが、今回の事で雷影様が甚く立腹しておいででして、その事に対する抗議と今後に備えてうちはサスケの情報を頂きに来たと云う訳でして……(まぁ襲撃に対して怒っているというのもありますが、騒ぎに乗じてビー様が姿を眩ませたというのも大きな原因でしょうね)」
「そうだったのですか……そういうことであれば微力ながら力になることも吝かではありませんが、俺が知っている事は限られていますし、何より見たところ既に幾つか寄って話を聞いてきた様子。
新たな情報は無いかもしれませんがそれでも良ければ、俺が知っている事を語りましょう」
うちはサスケについて知っている事はナルトとの会話に出てきた内容位しか知らないわけだが、その殆どは里を抜ける前のものばかり。
里を出た後の情報は里で囁かれる噂話レベルの事しか伝えることは出来ず、三人は顔には出さないまでも落胆しているようだった。
「やはりそう簡単に有用な情報は手に入らないと言うことですか……時間を取らせてすみませんでした。
今は少し用事が押していますのでコレで失礼させて頂きますが、今度来る時に時間があればお店の方へ寄らせて頂きますね。
では行きますよカルイ、オモイ」
優雅に一礼をして、その場を後にしようとする彼女を追うように二人は俺へ軽く頭を下げてから早足で彼女の元へ駆け寄る。
賑やかな喋り声が此方にまで聞こえてくるところをみると、あの二人は俺の立ち位置がイマイチ分からなかったのだろう。
サムイとの会話で得られる俺の情報は二尾の人柱力ユギトの友人であり、九尾の人柱力ナルトの(名目上)保護者でもある古本屋の店主……恐らく彼らの頭の中では様々な疑問が湧いているはずだ。
どういう経緯でユギトと仲良くなったのかとか、忍者でもない人間が人柱力の保護者というのは有り得るのか等聞きたい事は意外と多かったのかもしれない。
まぁ聞かれれば答えられる範囲で答えただろうが、人柱力についてはデリケートな話題になるので、恐らくサムイが俺と彼らに気を利かせて切り上げたのだろう。
クールに見えて、その実よく気が利く女性であることは前回店に来たときに何となく分かっていた……それを改めて実感し、今度彼女が店を訪れる時には常連価格位には値引きして上げようと心の中でこっそりと決めた。