忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第119.5話 三人の人柱力

 医療部隊に内部工作員が潜入していた事が発覚して騒ぎになっていた一方、とある巨大な亀の上ではその日の修行を終え、宿場へと戻ってきた人柱力の三人が食事を終えてのんびりとしていた。

 正史であれば八尾(ビー)九尾(ナルト)の二人で行う尾獣の制御訓練だったのだが、とある一人の働きによって二尾(ユギト)は命を失うことなく彼らと共に此処にいて、尚且つ一緒に訓練していたのだ。

 一緒とは言っても彼女は既に殆ど尾獣の制御に成功しているために、もっぱら行っているのは尾獣玉の運用コストのロスを減らすための訓練だったので、ナルトと彼に教導を行っているビーとは少し離れたところで一人訓練をしていたのだが、それは置いておくことにする。

 此処に来てから紆余曲折あり、それなりに先輩人柱力と親交を深めたナルトは何となくこのまま部屋に戻るのも味気なく感じ、もう少し二人と仲良くなろうと話しかけた。

 

 

「ビーのおっちゃんとユギトの姉ちゃんって木の葉に来た事ある?」

「私は一度だけ行ったが……ビーは?」

「来訪経験ない事に落胆、もし行く事があればナルトに案内を頼む楽チン♪」

「もちろんだってばよ! でユギトの姉ちゃんは木の葉に来たのは観光?」

「任務ついでに買い物した位だ……本の宿という古本屋なんだが知っているか?」

「知っているも何も其処のおっちゃんは俺の保護者兼体術の元師匠だってばよ!」

 

 

 それを聞いたユギトは少し驚いたような表情をした後、納得したように小さく何度か頷いた。

 小声で「確かにあの時の体捌きなら……」などと言っていたが、その場にいる面子は特に深く気にする事は無く、ビーはむしろ二人が共通して知っていた店に興味を持つ。

 

 

「その店知らない俺除け者、このままじゃ俺聞くだけの置物♪

 説明頼むぜバカヤローコノヤロー」

「普通に喋れビー……別に店自体は普通の古本屋に過ぎないさ。

 私がその店に行ったのは其処の店主と知り合いで、孤児院に置く本を手配してもらったからだ」

「でもあの店ってば三代目の爺ちゃんや綱手の婆ちゃんもよく来てたから知る人ぞ知る店だってシズネの姉ちゃんが言ってた」

「情報が断片的過ぎて困惑、だが面白そうな店だと俺ワクワク♪」

 

 

 一度注意された程度でビーがラップ口調を止めるはずもなく、ある程度予想していたユギトは溜息を吐き、ナルトは苦笑した。

 それを見て少し反省したのかビーはゴホンと咳払いを一つしてから普通に話し始める。

 

 

「その古本屋の店主が共通の知り合いってのは分かったが、イマイチその人物像が掴めねぇな……どんな奴なんだ?」

「「忍じゃないけど忍みたいな爺(ちゃん)」」

「なんだそりゃあ? 元忍とかなのか?」

 

 

 ビーの視線が二人に向くがユギトの視線はナルトへと向いていた。

 彼女もその疑問を抱きはしたものの聞くタイミングを逃し続け、未だ尋ねられずにいたからである。

 ナルトは同時に二人の視線が集まったことに若干尻込みしたものの別段隠すことでもないだろうと二人の疑問に答えた。

 

 

「おっちゃんが言うには趣味で鍛えてるだけらしいけど、傀儡の術の真似事とかアカデミーで習わない様な体術とかを使えるから……少なくとも一般人じゃないのは確かだと思う」

「私と初めて会ったときも瞬身の術と見紛うレベルの速さで動いてたな」

「……本当に忍じゃないのか?」

「俺も気になって一回アカデミーで卒業記録調べたことあったけど、幾ら遡っても名前が無かったから間違いないってばよ」

「まぁ私としてはどっちでも構わないさ、本瓜の人柄については初めて話したときから良い奴だって分かっていたからな」

「ユギトがそう言うのであれば本当にそうなんだろう……(ユギトはそこら辺敏感だからな)」

 

 

 人柱力はその性質から迫害の対象になりやすいために、人の悪意に敏感に反応する。

 そういった悪感情を受けて尚里のため、他人のために動くことが出来るこの三人は精神的にかなり強い……望んでそうなった訳ではないのが複雑であるが。

 因みに彼女が会って其程経っていないヨミトを信用したのは、孤児院の子を助けたのが多大に加味されているため若干評価が甘くなっていたのだが、ヨミトとしても特に害意を持っていた訳でもなかったのでその件が無くとも会う機会があったのなら信頼されるまでの時間が多少長くなるだけだっただろう。

 

 

 それから暫く里の話に華を咲かせていたが、ビーが突然立ち上がり「良いライムが下りてきた……コレは書き起こしておかないと駄目だな。 俺は部屋に戻るぞ」と言葉少なに急ぎ足で部屋へと戻ってしまった。

 突然のビー退席に二人は生返事で返すことしか出来ず、その場を沈黙が包み込んだ。

 時間も良い時間であったが故に良い切っ掛けだとナルトは思い、解散の提案をユギトへ持ちかけようとするが、それを口に出そうすると遮るようなタイミングで彼女が口を開いた。

 

 

「ナルトに一つ聞きたい事がある……ヨモツと呼ばれる暗部面を被った男を知らないか?」

「ヨモツ? そう言えば直接会ったことはないけど綱手の婆ちゃんの書類仕事とかを手伝っているって人が確かそんな名前だってシズネの姉ちゃんから聞いた事があるような……その人がどうかしたのか?」

「ちょっと命を救われたんだ……里から里への感謝状は贈ったらしいんだが、個人的に礼を言いたくてな。

 それに少し気になることもあった」

「気になること?」

「微かだが嗅ぎ覚え(・・・・)のある臭いがしてな……まぁ知らないのならいいさ。

さて今日はもう遅い、そろそろ解散としよう」

「あ、ちょっと……まったく猫みたいに気まぐれな姉ちゃんだってばよ」

 

 

 ナルトが一人置いていかれて膨れている間、廊下をスタスタ歩いていたユギトの頭の中では先程の問いに関係する考えがグルグルと回っていた。

 一度彼女の命を救ったヨモツという名の忍……彼から香る臭いは暗部だけあって限りなく無臭に近かったのだが、深く染みついた臭いを消す事は中々出来る事ではない。

人の十万倍以上の嗅覚を持つ猫の人柱力である彼女はその微かに残った臭いを嗅ぎ取ることが出来ていたのだ。

 普段であれば気付かなかったであろうが、自身が気を失った状況が状況故に起きたと同時に尾獣化しようとし、それは雷影に力尽くで止められたものの強化された嗅覚によって壁に掛けられている服に付着した古い本の様な香りを知覚したのである。

 敵であった暁の二人の臭いでは無く、恐らく自分を助けたであろう人物の臭い。

 その後雷影に話を聞いて、自身を助けたのがヨモツという忍であることが分かったのだが、彼女は名前などよりも微かに香った嗅ぎ覚え(・・・・)のある臭いの方が気になっていた。

 その時感じた疑問を彼女は今尚抱え続けている。

 

 

「何故本瓜の臭いがしたんだ? 常連客か何かだったのか?」

 

 


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