忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第121話 回復魔法

「綱手!?」

「ぁ……あぁ……ヨミトか………持ち場を離れて……どういうつもりだ……馬鹿者」

「馬鹿はどっちだ! そんな事よりもまずは自分の怪我の治療が先だろうが!!」

 

 

 初めてみる綱手の姿に驚きつつも、直ぐに駆け寄り彼女に覆い被さるカツユの下に手を入れ、綱手の怪我の状態を調べると思っていた通り上半身と下半身が分断されており、カツユのおかげで出血こそ収まっているが、人間が生きていられる状況にないのは明らかだった。

 こんな状況でありながら他の五影(他者)を優先する彼女を再び怒鳴りつけそうになったが、今はそんなことをしている時間も惜しい。

 此処に向かうと決めた時点で俺は綱手を助けるという意志の元で此処まで来た……故に事ここに至って彼女の目の前で其れ(・・)を使う事に躊躇は無かった。

 

 

「今から常識外の方法で治療をする……カツユは綱手の上半身と下半身を繋げてくれるかい?」

「ヨミトさん……信じています」

「何を……するつもりだ?」

「いいから綱手は黙って治療に専念していなさい、カツユを通して行う医療忍術を止めるつもりはないのでしょう?」

 

 

 カツユが綱手の身体をくっつけるが、かなりの数の内臓と骨がやられている現状そう簡単には治らないだろう。

 だからこそ俺は目立つために今まで使用する機会が無かった二枚の魔法を使用する。

 

 

「発動‘スケープゴート’……そしてすまない。 続けて‘トークン収穫祭’」

 

 

 ‘スケープゴート’の発動で現れた四匹の可愛らしいフワフワとした羊達が綱手の周りを取り囲む様に座り目を瞑る。

 綱手は突如現れた羊に驚き、咄嗟に手で払いのけようとしたがカツユに止められ、結果動けなくなった彼女は此方に何をするつもりなのか教えろとばかりに険しい視線を向けてきた。

 しかし説明をするまでもなく、既に魔法は発動している……現れた四匹の羊は鳴き声ひとつ上げることもなく一匹、また一匹と柔らかな光の塊へと姿を変え、綱手の身体を優しく包み込む。

 

 

「何だ……何が起こっている?」

「これは命の塊? ヨミトさん、コレは一体……」

「今の羊達の命と引き替えに、身体を治す所謂一つの外法だよ。

 生贄にするのは俺が呼び出した今の羊達のような存在しか使えないけどね」

 

 

 俺が話している間にも綱手を包む光は患部へと吸い込まれるように消えていき、まるで逆再生のように傷口が塞がっていく。

 残る光が一つになった所でもう一度同じ事を繰り返し、合計八つの命の光が綱手の身体の中へと消えると、驚きに目を見開いた彼女とカツユだけが残っていた。

 ゆっくりとカツユがその身体を綱手の上から退かし、破れた服の上から自身の繋がった腹部を見てから俺に向き直った彼女の表情は何処か申し訳なさそうだったが、すぐに表情を引き締め立ち上がる。

 

 

「色々と聞きたい事があるが、今のを後四回出来るか?」

「それは出来ないけれど……彼処にいる人達を治したいということかい?」

「あぁそうだ、今の方法ならば私の医療忍術よりも早く効果がでるからな」

「……さっきのとは違うけれど、少し目立つかも知れない方法をとれば効果は三分の一位になるけど四人同時に近いことはできるよ」

「なら其れを頼む、今は時間が惜しい……急いで戦場へ戻らなければならんからな」

「あまり無理をしてほしくないけれど、言っても仕方がないか……まぁコレで綱手の身体も万全になるはずだから其れで良しとしようかな。

 じゃあ始めるよ、発動‘恵みの雨’」

 

 

 発動宣言と共に100mほど上空に雨雲が出現し、効果範囲全体に治癒促進効果を持つ雨を降らせる‘恵みの雨’という魔法。

 間を空けずにもう一度同じ魔法を発動して回復効果を高めると、木々に付いた戦場痕が薄まっていき、カツユに包まれた状態で顔だけ出した五影達の顔色も良くなっていく。

 しかし流石にそれだけで完治するまでは至らず、雨が止んだ後すぐに俺とチャクラ以外は元の調子を取り戻した綱手による治療が行われた。

 綱手は少ないチャクラの中その卓越した医療忍術で外傷の酷い影の治療を行い、俺は骨や内臓に損傷が見られる影の治療を行う……とは言っても五影の内二人にそれぞれ‘ご隠居の猛毒薬’と‘天使の生き血’を一度ずつ使ってから掌仙術を行うだけの簡単なお仕事な訳だが。

 しかしカツユを通した綱手のフォローもあり、これで当初瀕死と言っても過言ではなかった影達の怪我も動けるまでに回復したのだが、流石にすぐ意識を取り戻すという訳にはいかずに影達が目覚めてから戦場へと戻る算段を綱手と取り交わした丁度その瞬間草陰から三人の忍が姿を現した。

 

 

「治療は一段落着いたかしら? それにしてもこんな所で貴方と会うなんてねぇ……こんな状況じゃなければ貴方の身体についてジックリ調べたいところだけど……残念だわぁ」

「「大蛇丸!?」」

 

 

 咄嗟にその場から敏捷に動けない綱手を小脇に抱えて飛びのき、件の人物から距離をとった俺は綱手を下ろすとすぐに戦闘体制をとる。

 しかし大蛇丸一行は一向に仕掛けてくる気配も無く、むしろ少し呆れた様な雰囲気を醸し出しながら両手を軽く広げて暗器などがない事をアピールした。

 

 

「安心していいわ、今貴方達と戦うつもりは無いから。

 むしろ助けに来たと言っても過言じゃないわ……綱手、貴方今の姿から察するにチャクラ切れかけてるでしょう?

 香燐、ちょっと綱手に吸われてきなさい」

「え、ウチはサスケ専用の「いいから行きなさい、身体の中に入って貴方を無理矢理操ることになっても私は構わないのよ?」……はい」

 

 

 大蛇丸の一声で渋々と赤い髪を持つ香燐と呼ばれたくのいちが、俺が下ろしたままの体勢でいる綱手の前へと歩み寄って、歯形だらけの片腕を差し出す。

 突然の展開についていけていない俺を他所に、綱手は大蛇丸を一瞥した後、特に迷う事も無く腕に噛み付いた。

 するとみるみる老婆そのものだった肌に艶が戻り、数分もしない内にすっかりいつもの若々しい姿へと復活していた。

 チャクラが切れた時の身体が本来の姿なのだろうが、あの姿を見たのは今回が初めてだったので、見慣れた姿に戻った事に素直に安堵せざる得ない。

 しかし何故大蛇丸が此処に来たのかという疑問は未だ不明のままな上、そもそも死んだと言われている彼が何故生きているのか等といった疑問が頭の中で渦巻いている。

 彼が死ぬまで狙われ続けていた(サスケが彼の元へ行ってからは殆ど刺客は来なくなったが)俺からしてみれば全くと言って良いほど気を許せない相手である彼の不自然な登場に警戒心を抱かずにはいられなかった。

 


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