忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第122話 水

 警戒心MAXの俺を余所に比較的穏やかに大蛇丸と綱手は会話を続けた。

 会話の内容としては新しい風がどうとか、自来也の死についてだとかあまり今起きている戦争とは関係が深くない事柄だったが故に、とりあえず俺としては二人の会話内容よりも此方をガン見している大蛇丸の連れの方が気になっているのが現状である。

 治療中の五影を包み込むカツユを見た第一声が「キモッ!」だったので第一印象が若干悪い水月という青年(名前は香燐が彼に話しかける際に言っていたのが聞こえて知った)が此方に向ける視線は敵意は全くと言って良い程含まれて居らず、表情から見るに好奇心という感情が一番近いように感じられた。

 綱手にチャクラを吸われて少しふらつく香燐に肩を貸そうとしたが拒否され、軽く肩をすくめてからずっと此方を見ているのだ。

 正直初対面である上に大蛇丸と行動を共にしている時点で関わり合いたいとは思えない輩なわけだが、向こうにとってはそうではないらしく何の気負いもなく此方へと近づいてきた。

 

 

「ねぇ、さっきの雨降らしたのってアンタ?」

「大蛇丸の仲間相手に答えるとでも思っているのかい?」

「火影が水遁を得意としてるなんて話聞いたこと無いし、そこの大蛞蝓もそういう忍術を使うようなタイプじゃないから消去法でアンタしかいないって分かってるんだけどね。

 後仲間……っていうよりは休戦中の敵っていうのが正しいかな。

 ボクとしても一緒に居たくて居る訳じゃないんだよ……そこでへばってる香燐も同意見だと思うよ?」

「うるせーぞ水月、ウチはへばってなんかいねぇ!」

「あぁはいはい、そうだねごめんごめん。 まぁそういうことであんまり警戒しないで欲しいんだよね。

 アンタがサスケと敵対しない限り基本的にはこっちから手出ししたりしないからさ……でさっきの雨についてなんだけどさ、普通の水じゃないよね?

 葉っぱの上に残ってた水吸ったら、なんていうか……活力みたいなものが湧いてきた感じがしたんだよ。

 ボクにとって水は大事な構成要素だから間違ってはいないと思うけど……どう?」

 

 

 そう意気揚々と悪戯っぽい表情で此方に問い掛けてくる彼。

 何故ここまで食いついてきてるのか分からないが、正直困るし面倒臭い。

 しかし助けを求めようにも綱手は未だに大蛇丸と話しているし、彼を止められるであろう香燐も疲労からか、目を瞑って樹にもたれ掛かっている。

 上手く誤魔化す口上も思いつかずにどうしたものかと悩んでいると、間に入ってきた小さな影があった。

 現状を見かねたカツユが雷影治療中の分裂体から掌サイズの分裂体を新たに生み出し、此方に寄越してくれたらしい。

 

 

「味方にも話していない事を貴方に話せるはずがないと思いませんか?」

「……大蛞蝓が何の用かな? ボクは彼と話しているんだけど?」

「はっきり言えばヨミトさんが困っていますので、それ以上の追求を止めてくださいと言っているのです」

「それをアンタに言われる筋合いはないんじゃない? そもそもアンタは火影の口寄せだろ?

 大人しく火影の仕事手伝って五影の治療でもしてなよ……そもそもアンタは彼の何なの?」

「私にとってヨミトさんは契約者であり、茶飲み友達であり……共に生きたいと思う相手です」

 

 

 え? 何コレ? 話だけ聞けば三角関係の縺れ(もつれ)みたいなんだけど?!

 まぁ片方男で片方蛞蝓だから普通に考えればあり得ない状況なのだが……なんにせよカツユが俺を助けようとしてくれていることは明らかだ。

 そんな彼女の後ろでだんまり決めてるのは流石に俺としても心苦しく、俺は彼女をそっと掴んで自分の肩に乗せる。

 

 

「ヨミトさん!?」

「気持ちはありがたいけど、俺も男だから……女性の背中に隠れる訳にはいかないさ。

 それに彼はこのまま引き下がる気はないみたいだからね」

「お? やっと話す気になった?」

「力ずくで聞き出すとか言い出されても困るからね、少しだけ答えようと思っただけだ。

 言っておくけど全てを説明する気はないからそのつもりで」

「それでいいよ、ボクとしても流石に一から百まで聞けるとは思ってないから。

で、あの水はなんなの?」

「あの雨には君が言っていた通り身体を癒す効果がある。 君の力が湧いたというのも疲労し傷ついた身体が癒されたためだろう」

「やっぱりね……あの水は水遁? それとも何処かから口寄せでもしてるの?」

「口寄せに近いかな……さぁ話せるのはここら辺までだよ。

 これ以上話せと言うのなら力で抗わせて貰う」

「OKわかった、それで十分だよ……(口寄せって事はトニカ村とかいうところにあった湖みたいな所の水を引っ張ってきてるって事か……大戦が一段落ついたらボクも探してみようかな?)」

 

 

 そう言って背を向けて香燐の元へと向かう水月に、戦闘の可能性を考えて軽く身構えていた俺は肩の力が抜けた。

 此方の話が終わるのと時を同じくして綱手達の会話も一段落着いたらしく、大蛇丸が二人を連れてこの場を去ると、俺と綱手は再び五影の治療を本格的に再開する。

 とは言っても既に殆どの怪我が治っていたので、することはそう多くなかったが……大蛇丸が去ってから十分程が経ち、一人また一人と影達が目を覚ます。

 

 

 始めに目を覚ましたのは見た目通りとも言える雷影だった。

 彼は目を覚ますと同時に飛び起きて臨戦態勢をとりながら周囲を見回し、綱手に「奴は?」と短く尋ねる。

 一先ず落ち着く様に綱手が雷影を収め、ある程度落ち着いた彼に事の顛末を説明している間に、他の影達も目を覚ます。

 彼らは最初俺を見て警戒心から距離を取ったが、土影に掛けていた掌仙術から俺が自分達を治療していたという事に気付いて一言謝罪した。

 そして雷影を除く影達も現在の状況を知るために説明を欲したが、綱手は雷影へ説明している最中であり、途中から混ざって聞くのも効率が悪いという事で俺に説明役が回ってきたのである。

 簡単に現状を説明し終えると綱手の方も話し終えていたらしく、此方へと合流して、五影+俺は急ぎ主戦場へと向かう事となった。

 

 

 目的地へと向かう移動手段は、風影が砂で作った觔斗雲(きんとうん)に乗って飛んでいくという方法故に、地形や障害物の存在を完全に無視する事が出来、尚かつ最短距離での移動が可能となっているため、走って移動するよりも明らかに速い……ただし雷影曰く、チャクラ消費を無視した自身の最高移動速度程ではないとのこと。

 では何故一番速い方法で移動しないのかというと、流石に急ぐためにチャクラを使いすぎて、戦場に着いてからチャクラが無いとなると本末転倒も甚だしいので、予めチャクラを練り込んであるためにチャクラ消費が殆ど無い風影の砂を用いる移動が最も効率的であるが故に、この移動手段が選ばれた訳である。

 途次サクラによって戦場へと召喚されたカツユを通して、リアルタイムで現在の戦況を確認していると、驚くべき情報が入ってきた。

 十尾の復活……五影が軽く息をのみ、俺は五影の様子からヤバい状況にある事を実感する。

 激化する戦いの中で起こる新たな凶事……この大戦はどのような幕引きを迎えるのだろうか?

 五大国が手を取り合って紡ぐ希望に満ちた未来か、それとも独裁者による個の意志が存在しない箱庭か、それとも………まだそれを知る者は誰もいない。

 


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