忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第124話 迷い

「50m四方に敵側からの攻撃だけを防いで、効果時間は一日。

事前準備に五分、発動条件は俺に攻撃が来た時だね」

 

 

 俺は綱手の質問に対して、そう答えた。

 彼女が言っているのがカツユの知るアレ(光の護封剣)である事に気付いておきながら、あえてそれを訂正することなく今回使う力(光の護封壁)の説明をしたことに大きな意味などない。

 既に知られている護封剣の効果を誤認させるだとか、単に面倒臭いからだとか……理由を挙げようと思えば幾つか思いつくが、敢えて一番の理由を選ぶとするならば戦後の事を考えて護封壁のデメリット(・・・・・)が護封剣にもあると思わせるためというのが大きいだろう。

 護封壁の効果は支払ったLP以下の攻撃力以下の攻撃を無効化するというもの。

 俺にとってLPとは健康状態の指針だと言える……それが一気に目減りすれば目眩や吐き気等に襲われ、最悪その場で意識を失いかねない。

 そんなものを俺は万全の状態の半分も使う気でいる。

 過去に一度似たような事をした時には、貧血に似た症状が出てその場に倒れ伏した。

 今回も下手をすれば意識を失うだろうが、そうなった場合綱手にその場で気付けをする様に頼んでおけば問題無いはずだ。

 幸い相手はほぼ無傷に等しい状態……意識があれば失ったLPは何とか出来る。

 綱手に詳しい説明と、使った際に起こるかもしれないデメリットを説明し終えると、彼女は一瞬眉を顰めたが、確りと此方見ながら「分かった、その時は多少強引になるかもしれないが起こそう」と約束してくれた。

 しかしここで今まで殆ど口を挟んでこなかった三代目が口を開ける。

 

 

「ちょっと待て、なんだその馬鹿げた性能の結界は……儂でもそんな術聞いたことが無いぞ。

 お主あの訳の分からない口寄せ以外にもまだ隠し球を残しておったのか」

「えぇ、まぁ……そんなこと今は良いじゃないですか!

 今は目の前の危機を乗り越えることに集中しなければ」

「それもそうじゃが……この調子じゃとまだ何か隠しとるな?

 綱手、一段落着いたら色々と聞き出すんじゃぞ……とんでもない物隠してるかもしれんからの」

「知ってるさ、ヨミトが秘密主義なんて事はね……ただ今度ばかりは多少強引にでも聞かせて貰うとするから覚悟しておくんだね。

 さぁヨミト、そろそろ五分経った頃だろう? 頼んだよ」

 

 

 そう言ってバチコーンとウィンクをしてきた綱手に苦笑いで返し、一度深呼吸をして覚悟を決める。

 100mも無い距離で激しい攻防が行われている中、怪我人を守る為に引くに引けない戦いを強いられている人達にとってこの一手はとても大きな意味を成すだろう。

 俺は覚悟を決めて最前線へと走り、今にも叩き潰されんとする一人の忍の前に立った。

 

 

「気絶したときは手筈通り頼んだよ綱手……発動‘光の護封壁’!」

 

 

 宣言と共に光がドーム状に形を成していき、それと同時に自身の身体から急激に力が抜ける。

 膝から崩れ落ちないように足へと力を入れた際に、地面が軽く陥没したことから装備魔法による身体能力向上の効果は切れていない。

 筋力などの直接的な力ではなく、もっと根源的な部分の何かが抜けていく。

 今すぐにでも横になりたい……そんな欲求に屈しそうになる。

 しかし今折れれば壁の固さは予定を下回り、下手をすると攻撃を防ぎきれない無意味な壁へと成りかねない。

 故に此処で屈する訳にはいかないのだ!……カツユが心配そうに胸元から声を掛けてくれているしな。

 歯が折れんばかりに食いしばり、握りしめた拳から血が滴ろうと壁が完成するまで耐え抜いてみせる。

 ゆっくりと光の壁が一枚、また一枚と重なって強度を増していく。

 そして四枚目が重なったとき、一際強く光を放ち、光で出来た防御壁は完成した。

 壁が木の根を弾き返しているのを見て、達成感から一気に意識が飛びそうになり堪らず膝をつくが、何とか意識を失うことには耐えて急ぎ回復魔法を発動する。

 

 

「発……動‘至高の木の実’、続けて……もう一つ‘至高の木の実’」

 

 

 未だ発光を続ける護封壁の光に紛れ、二羽の白い小鳥が俺の頭上に現れ、俺と未だ暴れ続ける大樹を一瞥し、小さく鳴いた。

 その後二羽は肩の上へと留まって首に付いていた二つの木の実の内の一つを掌の上に落としてから、空気に溶け込むように消えた。

 渡された実を緩慢な動作で口へと運び、かみ砕いて飲み込むと甘酸っぱい味が口の中に広がると共に身体が燃えるように熱くなり、それと同時に体調が護封壁使用前と同じレベルまで戻る。

 

 

 今使用した‘至高の木の実’という魔法は、本来相手のLPよりも此方が低い場合2000のLPを回復できるという効果を持っていたのだが、相手よりもLPが高かった場合は1000のダメージを受けるという効果も持っているものだ。

 先程召喚された小鳥が此方と彼方を一瞥したのは、それを判別するためである。

 もしもあの時後者の効果が発動していたのならば、今回渡されなかった方の木の実を強制的に口に突っ込まれていた……一度試したことがあるから間違いない。

 ちなみにもう一つの木の実を食べると、考えられない程苦い味(例えるならばゴーヤをセンブリ茶で煮詰めた様な味)と共に腹痛と目眩が起こる。

 あの脱力感に苛まされた状態でそれを口にしていたら確実に意識を失っていただろう。

 その事に安堵し大きく息を吐くと、ふと膝をついたときに切った手に熱を感じて横を見ると綱手がカツユを通して掌仙術を掛けてくれていた。

 

 

「気絶した時は起こしてやると言っただろうに……馬鹿者が」

「本当ですよ! あまり心配させないでください!」

「いや、あそこで気を失っていたら不完全な防壁になっていたからね。

 耐えなければいけないところだったんだよ」

「お前は……まぁいい、もう過ぎたことだからな。 それよりも今は次の手へ移る事に専念しよう。

 まずはあの壁に戸惑って攻撃の手を止めた奴らに通信部隊を通して、壁の内側から攻撃をする様に連絡しなければ」

「此処は大丈夫そうじゃから儂はもう一度前線に上がろう……お主はどうするんじゃ、二位殿」

「私は他の苦戦してそうな所に回るさ、此処はもう医療忍者の独壇場だからね……というわけだ本瓜、アンタも適度に頑張んなよ」

 

 

 そう言ってユギトは軽く肩を小突いてから別の戦場へ向けて走り去る。

 小突いた際に少し前連絡されたチャクラ吸収に対する一策である九尾のチャクラを分けてくれた。

 どういう理屈かは分からないけれど受け取ると同時にまるでこの場にいる人全てと繋がっているかの様な感覚に包まれ、薄らとではあるがナルトの感情も伝わってくる。

 三代目も俺と二言三言言葉を交わしてから前線へと移動し、壁を破壊せんと暴れる大樹の根を火遁を用いて焼き払う。

 既に綱手は他の重症患者の治療に入っており、今この場所で手ぶらなのは俺位だろう。

 本来ならこの忙しい中ぶらついているつもりなんて毛頭無いのだが、先程のユギトの一言が何故か頭に残って足が動かないのだ。

 

 

「適度に頑張る……俺の適度ってなんだ?」

「ヨミトさん?」

 

 

 此処で綱手と共に怪我人の治療に専念する?

 それとも三代目の様に此処の守りを更に固める?

 それとも………

 

 


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