忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第125話 手助け

 悩んでいる間にも戦況は刻々と変化し、普通に攻撃しても護封壁は突破できないと気付いたのか、大樹は幾つかの根を束ねてぶつけ始め、先程までビクともしなかった護封壁が少しだけ揺れる。

 この壁は害意を持った一撃で耐久値を越えなければ壊れないので大した問題ではないのだが、それでも壁の内側で戦っている人達からすれば一瞬手が止まる程度に驚くのは当然といっても過言ではないだろう。

 彼らからすれば出所こそは不明だが、今は自身の命を守る為の壁……今壁が壊れれば折角膠着状態まで改善した戦況が再び押し込まれかねないのだからしょうがない。

 すぐに復帰したものの半数は先程と比べて明らかに動きが悪く、何人かなど腰が引けている者すら見える。

 逃げないだけ立派ではあるが、あれでは逆に足を引っ張りかねないと思い、偶々目についた20にも満たないであろう若者達三人組に近づいて声を掛けた。

 

 

「無理に前線にいなくてもいいんだよ?」

「だ、誰だアンタ?」

「医療忍者の助手ってところかな、まぁ俺の事はいいじゃないか。

 そんなことよりも君たちのことだよ……無理に前に出なくても後方で支援に回るのも一つだと思うのだけど?」

「………俺達だって分かってるんだよ、アレにビビってる俺達じゃ役に立つどころかお荷物になってるってこと位は」

 

 

 三人の内の一人が術を放つのも止め、頭を垂れて呟くようにそう言って、側にいた二人も術こそは止めないものの同じく悔しそうな顔を見せる。

 それが分かっていながら何故!と憤りを感じなくもないが、何処か引くに引けない理由がありそうだ。

 土遁でも使うのか地面に手をついて、目を閉じている一人の前に少し間を空けて残る二人が立って居るところを見ると、前衛二人後衛一人のスリーマンセルなのだろう。

 付き合いが長いのか、互いに互いを信頼しているのが感じ取れて良いチームだというのは分かる……しかし俺としても言いたくはないが、一つの判断ミスで仲間が死にかねない状況下にある今、多少強く言ってでも下がらせた方がこの人達のためにもなるだろうと心を鬼にする気持ちで言葉を放とうとした。

 

 

「それなら「しょうがねぇだろうが! 彼処に仲間がいるんだよ!」……根の下に?」

「馬鹿だって言いたいんだろ? あぁその通りさ、俺達は馬鹿だよ。

 あの根に触れた時点でチャクラ吸い尽くされちまうんだ……生きてる確率なんて殆どない。

 だけど零じゃねぇんだ! 別に他の人達に攻撃を止めて欲しいなんて言うつもりはないし、手伝ってくれとも言うつもりはないが……せめて俺達位はアイツを探してやりてぇ!」

 

 

 彼が指差した先は所狭しと根が密集した場所であり、もし彼処に人が居たのならばチャクラを吸い取られるだけでなく、根の質量で圧殺されるだろう。

 カツユも小さな声で「それは……」と気の毒そうな声を上げている。

 それを想像出来ない程彼らは愚かではないはずだ……しかし簡単に諦められる程割り切れてもいない。

 忍としてはきっと正しくない選択……しかし人としてその気持ちは分からなくもない。

 何をしようか迷っていた俺はそんな彼らの思いに少しだけ手を貸す事に決めた。

 

 

「分かった……一度だけ露払いをしてあげるから、タイミングを逃さないようにするんだよ?」

「……は? アンタ何を言って……」

「今近くの味方は護封壁の内側、的は大きくて数もある……ある意味理想的な状況だ」

「ヨミトさん、今度は何をするつもりですか? せめて何をするか位は説明して欲しいのですが……」

「ちょっと雷でも落とそうと思ってね。念のため綱手に連絡して護封壁の外にいて尚かつあの樹の近くにいる忍に一旦距離を取ってほしいと伝えてくれるかい?」

 

 

 今から打つ一手は人だと耐えきれないだろうから、出来る限りフレンドリーファイアの可能性は減らしたい。

 カツユは俺の言葉に驚き……ではなく呆れの感情を露わにし、少し怒っているようだ。

 

 

「そんなことも出来たんですか……もう驚きませんけど、この戦いが終わったらまたキチンと説明してくださいね?」

「終わったらね」

「絶対ですよ?……今から三分後に一度味方に距離を取らせるとのことです。綱手様も呆れてましたよ?」

「怒ってなかっただけマシかな……三分後ね、了解。そこの子達も聞いていたね?

 それまでに感知するなりして仲間を見つけるんだよ?」

「アンタ一体……それに綱手って五代目火影様の名じゃ……」

「俺の事は取りあえず良いじゃないか、今はそんなこと関係無いだろう?

 君たちは仲間を見つけて助け出すことだけ考えておくと良い」

 

 

 そう言い残すと俺は青年達三人を置いて、壁際で人の多い所へと紛れ込んで、起爆札付きの忍具を投げながら時間が来るのを待つ。

 普通の樹であれば火遁や起爆札でそれなりの損傷を与えることが出来るのだが、眼前に(そび)え立つ巨木には殆ど効いているようには見えなかった。

 カツユはそれを見て不安そうに此方を見るが、それが杞憂だということを今から言葉ではなく結果で教えよう。

 瞬く間に三分が経過して、カツユを通して綱手からの準備完了の知らせが届く。

 

 

「一時退去完了、派手にやれ……だそうです」

「それじゃあお言葉に甘えて派手に行こうか! 発動‘ライトニング・ボルテックス’!」

 

 

 宣言と共に根の上30m程の所で平手で皮膚を強く叩いたような音が鳴り始める。

 その音は次第に間隔を狭め、まるで一続きの音の様になっていく。

 さらに時間が経つに連れて音と共に紫電が奔るようになり、紫電は球体へと収束し、たった20秒で8m程の雷で構成された玉が出来上がった。

 詳しい話を聞かされないまま一旦下がった忍達と壁の内側にいた者達も、短時間の内に現れた騒がしくも猛々しい眩い球体に注目せずにはいられない。

 そして30秒が経過した時、球体はおよそ8m程で巨大化を止めたと同時に強く発光すると、まるで雨のように雷を降らせた。

 その光の雨の一滴が槍程の太さで、一滴一滴が大樹の根を穿っていく。

 放射状に降り注ぐそれは、範囲内にあった根を根こそぎ断ち切り、光の雨が止んだ後には辺りに樹の焦げた匂いと砕けた無数の残骸が散乱していた。

 目の前で起こった出来事に現実感を感じられず放心している者も少なくなかったが、我に返った者達は何とか土遁で根のチャクラ吸収から逃れた者達の救助とダメージを負った樹への追撃を始める。

 その中には先ほど話していた青年達の姿もあったが、結果を見ることなく俺は見える範囲にいる人の救助にまわりながらも、カツユ越しに説明を求める綱手達への説明に追われることになった。

 


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