忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第126話 奇人

 綱手への説明を何とか無難に終えた俺は、壁の範囲内ならば問題ないが俺が範囲内から一歩出れば俺を中心に再構築されてしまうために迂闊に動けず、範囲内にいる怪我人の応急処置や俺の医療忍術の手に負えない患者を外の医療忍者に引き取りに来てもらったり、外で倒れている人をチャクラ糸で引っ張ってきたりとかなり忙しく立ち回っていた。

 そんなことをどれ位の時間行っていただろうか……突然脳内に直接映像のようなものが送られてくる。

 それは一人の青年の人生……化物と蔑まれ、それでも心折れずに勇ましく生き、今世界を背負って戦うナルトの記憶。

 流れる記憶の中には俺との日常も含まれていた……穏やかな日常の一幕だ。

 そして届く後悔したくないという強い気持ち。

 この戦場に立つ全ての仲間に気迫が満ちていく。

 直後いつの間に来たのか綱手が俺の手を掴み、この場にいる仲間たちへと言った。

 

 

「今からここに張っている結界を動かす……医療部隊は自分で動けない怪我人を抱えて主戦場から離れておけ。

 私は敵主犯格を叩きに行く、手伝う気がある奴はついてこい!」

 

 

 俺の意思確認など完全無視したその発言に苦笑せざるえなかった……どうせこのまま根の進行を防いでいても根本の解決にはならない。

 ならば綱手の言うように本体を叩くのが一番有効な戦術だろう。

 それにナルトにばかり苦労を掛けるというのも名ばかりとはいえ保護者としてどうかと思っていた所だ。

 俺が綱手の言葉に手を握り返すことで答えると、彼女は少し驚いたようにこちらを見て小さく笑った。

 

 

 神樹本体までの距離は数km程で綱手や今の俺であれば五分も掛からない時間で辿り着ける距離でしかない。

 移動中綱手の祖父でもある初代火影の記憶が先ほどのナルトの記憶と同じように流れ、生前の彼の願いが五国全てが協力し合い生きる世界だったと知り、多くの人が忍連合と重ね合わせて奮起した。

 最短の道を最速で駆け抜けて現場に到着した俺達だったが既に戦いは佳境……チャクラで出来た九つの縄で尾獣の所有権を掛けた壮大な綱引きが行われていた。

 尾獣チャクラの大本から伸びる縄を大勢で引いている様子は、まるで枝葉が伸びていく様にも見えて力強さを感じることが出来る。

 俺と綱手は目配せし合い互いに一度小さく頷くと、綱手は着いてきた者達に散開するよう命じ、俺は一番引きが弱い縄への加勢に向かった。

 

 

 空いている場所に入ると丁度其処を中心に護封壁が再構築されたために一瞬付近の忍達に動揺が走ったが、それがすぐに実害のない物だと気付くと再び額に汗して引き始める。

 俺も縄を握り力一杯引こうと試みたが超強化されている身体能力で持ってしても思いの外引くことが出来ない。

 不思議に思っている俺に前で縄を引く男が教えてくれた……この綱引きに重要なのは単純な力ではなく、チャクラコントロールが最も重要なのだと。

 ナルトから分けて貰った尾獣のチャクラを縄へと繋ぎ、一同息を合わせて引く。

 然れど人柱力ではない者に尾獣のチャクラは早々上手く扱える物ではなく、数で補わざるを得ない。

 現にユギトとナルト、そして八尾の人柱力であるビーと一尾の元人柱力である風影の担当している縄は俺が握る縄よりも人員が少ないにも関わらずかなり優勢であるようだ。

 それにしても相手はたった一人で此方は四人の人柱力と数万人の忍連合……一人でこれだけを相手にして競っているのだから凄まじい。

 

 

 しかしそれも長くは続かず、綱引きは此方の勝利で終わった。

 尾獣はチャクラ体から実体へと変化し、ナルトを囲む様に地に降り立つ。

 残るところは現在初代火影が相手をしているうちはマダラの封印位だろう。

 それも大詰めまで来ているという連絡が既に入っている事から、この大戦の幕が下りるのも後数分というところ……そして以前長門が自身の命を対価にして木の葉の里襲撃の際に亡くなった者達の蘇生を行ったが、今回それをナルトの前で今倒れている者が行うらしい。

 一度見たそれを体験した木の葉の者以外には信じられない秘術だが、この場には木の葉の忍も多く、他里の忍も付近にいる木の葉出身者に真偽の程を尋ねることで半信半疑ながらも仲間が生き返る可能性を信じ祈る。

 その場に立つ全ての者が固唾を呑み見守る中、その印が組まれ……それは起こった。

 術者の半身が不自然に蠢き、彼の近くにいるナルト達が動揺している。

 チャクラを通じて伝わってくるナルトの感情から恐らく良くない事が起こっているのだと感じ……それを察知した数人が駆けつけようとするが時既に遅し、印は組み終わってしまっていた。

 亡くなった仲間が復活して大団円で幕が下りるはずだったのが、予想外のアンコールによって再び幕が上がる。

 うちはマダラの受肉、初代火影の細胞を得て最盛期を越えた肉体を手に入れたマダラは初代火影の仙人チャクラを奪って自身を強化し、五影クラスであっても手に負えない怪物と化した。

 

 

 あまりの急展開及び最大の危機に五影+歴代火影による作戦会議が開かれようとするが、敵は一瞬で尾獣の元に現れてナルト達を蹴散らし、十尾の器となる外道魔像を呼び出し再び尾獣を取り込まんとする。

 それを防ごうと飛び出す者達の行く手を阻む様に巨大な顔一つと小さな顔を五つ持つ巨大な千手観音像を摸した木像が出現し、その上に乗って共に現れた仮面の男が語り出す。

 

 

「やっと出てこれた……息苦しくてしょうがなかったんだよ。

 でさ突然なんだけど俺の質問に答えてくんない?

 便意ってどんな感じ?」

「「巫山戯るな! 其処をどけ!」」

「いやいや普通の人って排泄するじゃん?

 でも俺の身体は普通と違うからそういうの無いのよ。

 飯食ったり眠ったりウンコしたりしないの。

 あ、なんかアイドルって奴みたいだな……あれ、でもあれはそう言われてるだけか!

 そりゃそうだよな、ケツからマシュマロ出すとか俺より意味わかんねぇもんな!

 んでさぁ殺したり、騙したりっていう人の得意技的なものあるじゃん?

 それは俺でも出来るし、その時の相手の顔見て感情とか感じられる訳……それの反対が自分の得る感情って事だろ?

 だから喜怒哀楽的なもんは大体分かるんだけど、身体のつくりが違うから三大欲求とかは分かんないんだよ。

 で取りあえず最初に気になったのが便意ってわけ……でさ、もう一回聞くけど便意ってどんな感じ?」

 

 

 殆どの者が思った……「なんだコイツ、頭おかしいだろ」と。

 だがすぐにこんな奴に構っている暇は無い、木像は気に掛かるが今はナルト達を助けなければという思いから多くの者が突如現れた巨像を迂回するような形で駆けつけようとするが、木像は振り下ろすように拳を叩きつけて横を通り抜けることを許さず、五つの小さな顔からそれぞれ違う属性の術を放ちそれぞれの相乗効果から此方に途轍もない被害をもたらした。

 このままでは悪戯に被害が増えるだけだと判断した綱手は少数精鋭による短期決戦で行く事を決め、三代目火影と五影(風影を除く)+それぞれが役立つと判断した者以外を支援と防衛に徹するよう指示して前に出る。

 三十人にも満たない上忍以上で固められたその中に三代目と綱手からご指名を受けた俺もひっそりと居た……訂正ほぼ先頭で敵の目が明らかにこっちを見ていた。

 

 

「なにその壁……結界術かなんか?

 一応俺ってマダラが知ってる術は大概知ってるんだけど、そんなの知らないなぁ。

 知らない事を知る事が出来るっていうのは幸運なことだ。

 知識欲っていうの?

 それは俺にもあるんだよね、まぁじゃなきゃ便意がどんな感じか知りたいなんて言わないから分かってるよね?

 あ、別に幸ウンと便意とか掛けてないから笑ったりしなくてもいいからな。

 話逸れたけど、アンタ他には何ができるの?

 もっと珍しい事できたりする?

 だとしたらもっと見せて欲しいなぁ……見たことないもの、聞いたこと無いこと、感じたことのない感情。

 それもこれもどれも皆経験してみたい!

 あぁ今日は良い日になりそうだ!」

「うわぁ……なんか変な奴にロックオンされた……カツユ助けて」

「私としても助けたいのは山々なのですが、私に出来るのは溶かす事と癒す事位なので、えっと……応援します!」

「………ヨミトが張っている壁はある程度の物理攻撃を防ぐことが出来る。

 敵の術を最低でも相殺しつつ、手数で押すぞ!」

「「「応!」」」

「あの像から見てもしかすると木遁を使えるやもしれん、もし発動の前兆が見えたのならすぐに燃やせ!」

「「了解!」」

 

 

 気不味そうに俺から目を背けて、仲間を鼓舞する綱手と三代目。

 興味深そうに此方を見る水影と土影。

 俺に構うよりも敵ぶっ飛ばす的な雷影とその他。

 俺の服の中で時折震えながら応援しているであろうカツユ。

 俺はビックリする程士気の上がらない中、主任務壁役をこなすため前進を始めた。

 

 


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