忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第12話 蛞蝓

 綱手ちゃ……綱手との名前交換から一年。

 あれから偶に火影様も来るようになり、それが宣伝効果になったのか前より少しだけお客が増えた。

 まぁそれでも週に5人来れば良い方って位なんだけどね。

 少しずつチャクラの量が増えてたり、手足に着けてる重りを重くしたり、自分なりに使える術探してみたりと中々充実した一年だった。

 中でも一番の成果は自分に幻術の適性があることが分かった事。

 どうも忍術の発動効率が悪いなと思って、気分転換に幻術に手を伸ばしてみたらこれが大当たり。

 それが分かってからは体術・忍術・幻術を3:3:4位で訓練している……幻術は相手があってこそのものが殆どだから練習が難しいんだけど、今のところは除外ゾーンでスケープゴートとかを相手に練習中。

 術の使い方はいまいち分からないから本当に基礎だけを延々とやってるだけなんだけどな!

 他にも忍術や体術、魔法やトラップの効果実験にも参加してもらっていて、本当にトークン達には感謝している……念のため攻撃力の無いトークンしか出したことないけどね。

 こっちの世界における攻撃力の基準がどんなものか分からない限り、なかなか使う勇気が湧かないんだよ。

 一応装備を幾つか試したけど、あくまで俺のさじ加減っぽかったので参考にならん。

 もし攻撃力300で人をミンチに出来る位だったら凄く困るし、他にも幾つか危険そうな魔法やトラップは試していない……‘ブラックホール’とか‘激流葬’は普通に俺も死にかねないから、絶対使わないつもりだ。

 とまぁ此処までこの一年での出来事を延々と思い出していたわけだけど、これは唯の現実逃避に過ぎない。

 なぜなら今俺の目の前に……大きなナメクジを持った女の子が立っているからだ。

 

 

「始めましてヨミト様、私この度綱手様と口寄せの契約を結ばせていただきました大蛞蝓のカツユと申します」

「どうヨミト? 良い子でしょ!

 この子凄いのよ! 溶解液も出せるし、分裂もできるの!!」

「それは凄いね……でも出来れば此処では溶解液を出さないでくれると嬉しいかな?」

 

 

 一滴垂れた液体でカウンターに小さな穴が空いてしまってるんで!!

 俺の言葉でカツユは申し訳なさそうに……っていうか普通に謝りながら頭を下げてくれた。

 綱手も少しテンションを上げ過ぎたと反省しているようだ。

 まぁ彼女にとっては苦楽を共にする相棒が出来て興奮するのも分かるから、別に怒ってはいないんだけどね。

 このままだと彼女が凹んだままなのでとりあえず話を変える。

 

 

「今日来たのはその子を見せに来たのかい?」

「それもあるんだけど、今日の本題は別の事!

 ……ちょっとヨミト、その手どうしたの?」

「あぁコレ? 今朝本の整理をしているときにちょっとね」

 

 

 本を整理してると手を切ることっていうのは良くあることだ。

 いつもなら‘レッドポーション’なり、‘ブルーポーション’なりを使うんだけど、切ってすぐお客さんが来たから絆創膏を貼ってそのままにしてたのを綱手が言ってきた今の今まで忘れてたよ。

 でも何故そんな事を気にするのか疑問に思っていると、彼女はこれ幸いとばかりに一旦カツユを椅子に置くとカウンターから乗り出してきた。

 

 

「そう、それは丁度良かったわ!」

「え?」

「ちょっと手を貸して!」

 

 

 そう言って彼女は強引に俺の手を取ると絆創膏を引っぺがして、傷口に手を当てる。

 すると彼女の手にチャクラが集まりだし、俺の傷がゆっくりと治っていく。

 これが掌仙術か……本で読んだことあったけど、一度見ておきたかったから渡りに船だな。

 う~ん、この術は直接的な治療っていうよりも自然治癒能力を活性化する感じなのかな?

 相手のチャクラに拒絶されない様に、尚且つ細胞を刺激する……そりゃ緻密なチャクラコントロールが必要なわけだ。

 っていうかこの年でこのチャクラコントロールとか凄過ぎて涙が出そうだよ。

 まだ俺にこの術の習得は難しそうだ……まずは水の上に余裕で立てるようにならないとな。

 ちょっと前から木登りの行は歩いてでも出来るようになったから、最近は異次元でフィールド魔法‘海’を使ってその上に立つ訓練をしてるんだが、如何せん波がとても厄介で、凪いでいる時ならば立っていられるんだけど、少し大きめの波が来たらすぐに沈んでしまう。

 こんな状態では一歩間違えば昏睡すると言われる掌仙術は使えない。

 自分が出来ない事をサラッとやる彼女を凄いなぁって思いながら見ていると、傷が治ったのか彼女がスッと手を離した。

 

 

「ふぅ、成功っと……ん、どうかした?」

「あ、うん、ありがとう」

「いいのよ、私だって初めて人に試したんだから、こっちこそ良い経験させてもらって「初めてだったのか!?」……そうやって言われると少し恥ずかしい気分になるわね」

「いやいや、そうじゃなくて!! ってことは失敗する可能性もあったってことじゃないか!」

「大丈夫よ! 何回か動物を相手に使ったけど失敗したことないし、もし失敗してもこの位の傷ならちょっと気を失うだけだから!」

 

 

 一歩間違えば気絶してたわけね……まぁ結果的に成功したし、別に害意があってした事じゃないから別に良いんだけど。

 どっちにしろ凄い笑顔で胸張ってる綱手を見ているとウジウジしてるのが馬鹿らしくなってきたし……何より後ろですっごい頭下げてる可愛らしい声をした大蛞蝓もいることだしね。

 


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