忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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霧の中から 後編

 俺がこの世界に来てから五年の月日が流れた。

 店は開店当初に比べれば客入りは良くなったが、未だ裕福とは言い難い暮らし。

 能力で出来る事の把握や身体能力の向上など店の売り上げ向上に関わらない部分は順調に伸びているのだが、それを使う機会など無いに越したことはない。

 それに今うちの店には常時ではないしても過剰戦力気味な用心棒がいるので、俺が力をふるう場面などほぼ無いと言っても過言ではないだろう。

 

 

「おーいヨミトぉ、この本は何処に置けばいぃ?」

「棚の一番下に置いておいてください……それにしても任務の合間合間に手伝ってくれるのは助かりますけど、無理はしないでくださいよ雨由利さん」

「大丈夫よ、最近はずっと調子いいし……それにいざって時はヨミトがいるしね」

「出来るだけいざって時が来ないようにしてくださいよ? 俺のアレにも限度があるんですからね?」

「分かってる分かってる、明日の朝も宜しくね」

「本当に分かってるんですか?ってもういないし……はぁ」

 

 

 俺の家の空いていた部屋に彼女が住み込み始めたのは、かれこれ四年前の事。

 倒れていた彼女を介抱して、最終的に彼女の発作を治めたのが恐らく自分の(名称は隠したが)‘ご隠居の猛毒薬’であることを告げた時から来れる日は毎日薬を飲むために家へ来るようになり、一年が経った頃に「一々此処に来るの面倒臭いから此処に住むことにする」というトンデモ宣言と共に、あっという間に自分の家から荷物を運び込んで家の空いた部屋を自分の部屋へと改装してしまった。

 それからというもの家に食費を入れ、家賃代わりに手が空いている時は店の手伝いと用心棒をやってくれている。

 当時里では林檎雨由利にようやく春がやってきただとか、愛の力で病が治っただとか色々と噂されたが、四年も立てばそれなりに噂は収まり、今ではすっかり比翼連理の仲であるかのように扱われる事も少なくなった。

 まぁ表立って言ってくる人が少なくなっただけで、印象は変わってないのかもしれないが。

 

 

 ただし彼女の立場は大分変わった……すでに忍刀七人衆の半数以上が亡くなり、その上彼らの持っていた忍刀も失われてしまったのだ。

 今里に居る七人衆はたったの二人、しかも一人は彼女曰く新しい水影依存の半人前らしいので必然的に彼女の任務数及び難易度が上昇している。

 雨由利的には嬉しいことらしいのだが、それなりに情が湧いてしまった此方としては気が気でない時も少なくない。

 五年間の‘ご隠居の猛毒薬’投与による発作対策はそれなりに効果があり、今では余程の無理をしなければ発作を起こすことも無くなったのだが、完治したわけではないので長期の任務の時などは何時も出発時につい過保護気味に世話を焼いてしまう。

 やれ薬は持ったか?やれ忍具を忘れていないか?やれ保存食の備えは十分か等々……彼女は別段嫌な顔をする事はないが、大体残念そうに溜息を吐いて適当な返事を返してからそのまま出発する。

 彼女の理想が自分と同等以上に強い勇敢な人らしいので、それにそぐわない心配性の俺を見て溜息を吐いているのだろう。

 まぁ酒の席で聞いた話な上に、そういった相手と結婚したいとかではなく、そんな相手となら心中しても構わないという血生臭い話だったので何とも言えないが。

 

 

 雨由利が帰ってきたのは日が傾いた頃、何時ものように俺が食事を作っている間に彼女は今日あった出来事を話す。

 任務などに関係する事とかは別として、今まで色んな話を持って帰ってきた。

 巷で噂の都市伝説のような話だったり、水影の見合いの結果だったり、自身が告白された事だってサラッと食卓の話題に上がる。

 でもその話題の大体が血生臭くなる……都市伝説はスプラッタ系だし、水影の見合いは相手が他里のスパイで溶かされたとか、彼女に告白した忍は力を見せるために身の丈以上の任務を受けてMIA(作戦行動中行方不明)。

 今の俺ならグロ映画見ながらミートスパゲッティをよく味わいながら食べられるだろう。

 今日も過去にこなした任務(微妙にグロい)を聞くはめになった……だが食後彼女は何時もとは違うキリッとした真面目な表情で食卓の向かい側に姿勢を正して座り、俺にも対面に座ることを勧めた。

 別段断る理由も無く、尚かつ何時にも増して真剣な表情だったので促されるがまま腰を落ち着ける。

 暫く無言の時間が過ぎ、焦れた俺が手っ取り早く用件を聞こうとしたタイミングで、彼女が口を開く。

 

 

「ヨミトと初めて会った日から五年が経った……アンタの薬のおかげで今のあたしがあると言っても過言じゃない。その事に関して幾ら感謝してもしたりない位あたしはヨミトに感謝してる」

「其処まで重く受け止めなくてもいいよ、俺も助けたいから助けただけだしね」

「……あの時からずっと疑問だった。 ヨミトに会うまで何人何十人っていう医療忍者に懸かり、それでも治る気配が微塵も無かったあたしの病を一商売人がどうにか出来るなんてどう考えてもおかしい」

「何を……言っているんだい?」

 

 

 分からない、何故いきなりこんな話をしだしたんだ?

 何故彼女は嬉しそうな表情を浮かべているんだ?

 現実感がない……しかし彼女の話はまだ終わっていない。

 

 

「ヨミトの事ずっと調べてたのさ……あぁ安心していい、あたし一人で調べたからアンタを訝しむ人間はいないよ。

まぁそれはいいとして、あたしがヨミトの過去を調べ始めて三年位経つけど、何一つおかしいところがなかったんだよね」

「それは当たり前だよ、ごく普通の本屋だからね」

「そうなんだよ、そうとしか取れない情報しかない……でもそれがおかしい。

普通の商売人が医者でも匙を投げる不治の病を抑える薬なんて作れるはずがないんだよ。

ましてや一時的に抑えるだけじゃなく徐々に快方へと向かってるんだから余計にね。

ヨミト……アンタこの薬の製法どうやって知ったの?」

「それはその……」

 

 

 無から有を作り出すなんて摂理に背いた所業を言えるはずがない。

 この五年間他者に薬のことをバラさなかった彼女の口の硬さは信用できるし、彼女に力ずくで口を割らせられる人間なんてほぼ居ないに等しいのだ……ふと、もうここで彼女に全部打ち明けてしまおうかという案が頭を過ぎる。

 そう考えたことで「あぁ自分はすっかり彼女を信用してしまっていたんだ」と自分のチョロさに軽く目眩がした。

 それを見て彼女は別のとらえ方をしたのか少し悲しそうな顔をして言葉を綴る。

 

 

「勘違いしないで、別にアンタをどっかのスパイと疑ってる訳じゃないの、それだったらあの時あたしを助けるメリットなんてなかったしね……あたしはただアンタのことを知りたい。

何か隠れてやってることは知ってる……時折ふと消えたようにいなくなってたしね。

それに見た目は大して筋肉質になっていないけれど、必要以上にヨミトが身体を鍛えてることも知ってる。

ねぇヨミト、あたしはそんなに信用できないかい?」

 

 

 彼女が不安そうに此方を見ている。

 いつも浮かべていた不敵な笑みが、自身の特徴的な歯に少しコンプレックスを持っていると恥ずかしげに告げた時の表情が、仲間を任務で失ったと涙を流さず悔しそうに話していた顔が……彼女との五年間(おもいで)が次々と駆け巡り、精神をかき乱す。

 完全に思考が迷路に迷い込み、返す言葉を失っていた俺の様子を肯定と取ったのか悲しそうに眼を伏せ、後ろを向いた。

 

 

「そうか……この五年間じゃアンタの信用を勝ち取るには短すぎたみたいだね。

ゴメン、忘れてくれる?」

 

 

 そう言い残して彼女は部屋を出ようとする……咄嗟に俺の手が伸びた。

 彼女の細い手首を掴み、引き留める。

 雨由利は少しだけ肩を震わせて足を止めた。

 

 

「やっぱり忘れられない? そうよね、勝手に過去詮索されるのは気分が良い事じゃないもの……発作も滅多に起きなくなったし、丁度良い時期だったのかもね。

あたし此処を出て行くわ、今まで世話に「俺はっ!!」え?」

「俺は林檎雨由利を、その………家族のように思ってる。

だから…………話すよ、俺の事」

「ヨミト……無理しなくてもいいんだよ?」

「無理はしてないよ、ただ少し荒唐無稽な話になるから信じるかどうかの最終判断は雨由利さんに任せるからね」

 

 

 この選択が後にどういう結果をもたらすのかは分からない……でもきっと此処で話さなければ彼女との間に深い溝が出来ていただろう。

 もう選択は終わった……後悔はしない。

 振り返った彼女の顔を見て、俺は覚悟を決めた。

 目尻に一滴の涙を浮かべながら、いつもとは違う穏やかな笑み……この笑顔を曇らせないように最善の道を選ぼう。

 こうしてこの世界に唯一人、本当の俺の事を知る者が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 それから数年後霧隠れの里では新たな忍が活躍していた。

 二つ名は支雷のヨミト。

 忍刀七人衆の雷刀を担う林檎雨由利を公私に渡り支え続ける特殊な忍術を使う支援系の忍。

 彼と共に戦う時の林檎雨由利は水を得た魚のように調子が良いので、他国では二人を総じて供雷(ともいかづち)と呼び、ブラックリストに載せた。

 




前後編という短い話でしたが、楽しんでいただけましたでしょうか?
これを書き始めた理由はアニメで林檎雨由利さんが可愛かったからです……ただそれだけです
ナルティメットストーム4で彼女プレイングキャラに昇格してほしいなぁ
もしくはカツユでも可

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