忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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これはIF外伝の二作目にあたるもので、もしもヨミトが雨隠れに転生したらというIFルートです
10話完結の中編になりますが……当初は小南メインで話を作る予定だったのですが何故こうなったのか分からないっていう


雨雲 その1

 この世界に来て早十年、雨が良く降るこの里で商店の様なものを経営しながら日々色々鍛えながら今まで過ごしてきた。

 ここに来た当初は邪神かもしれない存在に用意されていた家で数多くの本を見つけた為に本屋でも開こうと思っていたのだが、この里は湿気が凄くてとても本屋に向いた気候ではない事が分かり、比較的扱いやすい保存食等をメインに取り扱う店を開き今に至るわけだが……この雨隠れの里も今は戦時中、開店当初から比べてそれなりに増えた固定客も今ではすっかり客足が遠のき、日がな一日戦火が此処まで広がらない様に願いながらのんびり暮らしている。

 

 

 里の外れにある俺の店は治安が悪くなると強盗や万引きの数が目に見えて増えるのだが、取り扱っている物の中の半分以上が食料であるためか、金目当てというよりは食料調達位のノリでくる事も多い。

 盗みに来る位なら俺のように水害に強い野菜などを個人的に栽培すればいいと思うのだが、まぁ初手で強盗という手段を選ぶ様な輩にそんな事を言っても詮無き事だろう。

 今も俺が売上票を整理していて隙だらけと見たのか、店の中に二人の子供が音も立てずに入ってきて、幾つかの商品を服の中に隠して出て行こうとしている。

 子供だろうと万引きは犯罪、俺は彼らを拘束すべく店に備え付けた防犯用の仕掛けを発動させて二人を逆さ吊りにした。

 

 

「なんだこれ!?」

「ど、どうしよう……これ外せそうにないかも」

「まぁ外せないようにしないと逃げられちゃうからね」

 

 

 一旦記帳の手を止め、ぶら下がる二人の子供の方へと近づく。

 彼らの視線が俺に向けられ、活発そうな子供の方は此方を睨みながら暴れ、もう一人の方は既に目を逸らして申し訳なさそうにぶら下がっている。

 万引きされた商品を棚へ戻し、二人を縛ってから床へ降ろして正座の体勢にさせ、とりあえず警邏には連絡せずにまずは何故万引きをしたのか問い詰めることにした。

 尋問を始めて数分は何を聞いても口を開かなかったが、大人しい方の子が少しずつソワソワし始め、口を開き掛けては閉じるを繰り返すようになってくる。

 そしておよそ二十分程が経過した頃、チラッと店の出入り口を見たかと思うと何かを決意したかのように少し顔を上げた事で、髪によって半分程隠れていた顔が露わになった。

 特徴的な瞳だった……何重もの円の文様、紫がかった白目のない瞳。

 まるで魅了(チャーム)にでも掛かったかの様にその眼に惹き付けられる。

 しかし彼はそれを意図していなかったのだろう、少し訝しげに此方を見てから口を開いた。

 

 

「仲間が体調を崩して……だから少しでも栄養のある物を食べさせようと思って」

「長門!!」

「しょうがないよ弥彦、この人も言わないと流石に警邏呼ぶだろうし……そうですよね?」

「ん、あ、うん、そうすることも視野には入れてたかな」

 

 

 まぁ未遂だったし、子供が犯人の場合は余程反省がなかったり大量に盗もうとしない限り警邏を呼んだりはしないのだが、これ言うと弥彦と呼ばれた少年が騒ぎそうなので言わないでおく。

 その後少し話を聞いてみると、この子達は両親をこの戦争で失っており、今は塹壕に使われていた場所で今ココにいない子を含め三人で暮らしているという。

 戦災孤児か……これだから戦争は嫌なんだ。

 これで今聞いた話が同情心を誘って解放させる嘘だって言うんなら、騙された振りして二度としないように言い含めて外に放り投げる所だが、彼らの身体を見る限り栄養失調気味なのは見て取れるし、打撲痕や服のほつれが目立つ所を見ると他の場所でも同じ様なことをやって叩きのめされたのだろう。

 このまま放っておけば今度は形振り構わず強盗や追いはぎを始めてしまうかもしれない……一度そう言うことに手を染めてしまうと抜け出せなくなる。

 俺は一度大きく溜息を吐いて、二人の拘束を解く。

 

 

「オッサン?」「どうして……」

「ちょっと待っていなさい」

 

 

 二人が顔を見合わせているのを尻目に手早く店じまいの用意を整え、新品のタオルや解熱剤等を持って戻る。

 同情や偽善がないとは言えない……でも自分の生活には多少余裕がある。

 例え偽善だろうと手を出さずに後悔するよりはやってから後悔する方が良い。

 

 

「体調の悪い子は今何処にいるんだい?」

「……何でそんなことを聞くんだ?」

「治療でもと思ってね……唯の偽善だよ」

 

 

 弥彦少年は信用できないとばかりに此方から目を離さずに、長門少年に近寄り耳打ちする……まぁ距離がそんなに離れてないから殆ど聞こえるんだが。

 それにしても長門少年の眼……何処かで見たことある気がする。

 一体何処で見たのだろうか、あんなに特徴的な眼を持つ人が店に来たら普通忘れないと思うんだが。

 

 

「……どうする長門?」

「悪い人ではなさそうだけど……今持ってきたのも看病とかに使うものみたいだし、本当に治療が目的なのかも?」

「でも偽善とか言ってたぜ?」

「偽善ってことは治療自体は本当の可能性が高いんだよね……それ自体が嘘じゃなければだけど」

「あ~もう分かんねぇ! どうすりゃいいんだ!?」

 

 

 どうやら思考が袋小路にぶつかったらしい……まぁぶっちゃけ怪しいわな。

 万引きしたら捕まって、解放されたと思ったら仲間を治療してやるから連れていけって言ってるんだから、怪しさ半端じゃない。

 しょうがない、少しだけ後押しするか。

 

 

「流石に無条件で信用しろとは言わないよ、君たちは俺が害をなそうとしていると思ったらこれで刺せばいい」

「包丁か……良いのか? オッサンが背中を向けている時に刺して荷物を奪うかもしれないぜ?」

「その時は見る目がなかったと考えて(君たちを救うのを)諦めるさ」

「潔いんだな、(自分の命を)諦めるなんて」

「しょうがないことだからね……で案内してくれるのかな?」

「…………暫く歩くぞ、遅れんなよ」

 

 

 そう言って彼は鞘を付けた包丁を腰に差してズンズンと歩き始める。

 長門少年はその少し後ろを歩き、俺は長門少年の横を歩く。

 てっきり長門少年が先頭で、弥彦少年が最後尾で間に俺を挟む形にして何時でも刺せる様な陣形で行くのだと思ったのだけど、どうやら彼らは随分とお人好しの様だ。

 信じて貰えるのは嬉しいが、その反面この素直さは少し不安になる。

 俺が言うのも何だがもう少し人を疑った方が良いと思うぞ弥彦少年、長門少年は俺の一挙一動をしっかり見ている様だから大丈夫だろうけど……まぁ支え合って生きているのだろうから、別に今は良いんだろうが。

 

 

 どれ位の時間歩いただろうか、里の中心部から大分離れたところにその塹壕はあった。

 大きな目印はなく、知っていないと見つけられないレベルの雨隠れのマークが洞窟の壁にある小さなクラックの中に刻まれている。

 二人は足を止めることなく、軽く周囲を見渡してから洞窟に入っていく。

 明かりは入り口から差し込む日の光だけ、それも途中からは届かなくなり、真っ暗に近い中を数分歩くと行き止まりに辿りついた。

 壁を前にして道を間違えたのかと首を傾げていると、弥彦少年が岩壁にある掌大の突起を横にスライドさせ、そこに人が一人通れる位の穴が空いて中からうっすらと明かりが漏れてくる。

 そこから更に少し歩くと、ようやく目的地……木の空箱で出来た簡易のベットの上で寝かされる少女の元へと辿りついた。

 少女は眠っていたが、顔が紅潮して発汗もしている上に時折咳をしている所を見ると恐らく風邪なのだろう……風邪は万病の元ともいうから良い状況とは言えないが、現状取り返しが付かないレベルの症状ではない様なので一安心だ。

 二人が荷物を置いて彼女の元へと近づくとゆっくりと眼を覚まし、少し身体を起こして二人に向かって弱々しく微笑む。

 

 

「二人共……おかえり」

「遅くなってゴメンな、思いの外苦戦してさ」

「弥彦が慎重に行動しないからだと思うけど……」

「五月蝿い長門! お前だっていつまで経っても動かなかったから逆に疑われてたじゃねぇか!」

「ふふふ、どっちもどっちじゃない。 ホント二人は私がいないと何も出来ないんだから。

ところで……其処にいるおじさんは誰? 侵入者って訳じゃなさそうだけど」

 

 

 少女はそう言って少し離れた位置に居た俺を指差して二人に尋ねる。

 彼らは顔を見合わせて少し困った顔をしてから同時に言った。

 

 

「「自称偽善者」」

「確かにそう言ったけど、出来ればその呼び方は勘弁して欲しいかな……俺は里の外れで商店開いてるヨミトという者で、此処には君の容態を見に来たんだ」

「商店ってことは二人が……ごめんなさい」

「まぁ未遂だったから良いんだよ、そんなことよりも君の事だ。

見たところ栄養失調で免疫力が低下したところにウィルスでも入ったんだろう。

取りあえず栄養ある物食べて、暖かくして横になるのが一番の近道かな」

 

 

病的な痩せ方をしている訳じゃないが、些か健康的とは言い難い体型になりつつある。

痩せると言うことは身体の脂肪が減るという事、すなわち身体が冷えやすくなる事に他ならない。

こんな外と殆ど変わらない場所で、それは今まで身体を壊さなかったのが不思議な位だ。

それを分かっていたのか、弥彦少年が此方を睨み付ける。

 

 

「そんなの俺だって分かってる! それが出来れば最初っからしてるっての!」

「弥彦の言うとおり。 だからこそ僕達は……」

「はいストップ、取りあえず此処は湿気のハケが悪い……君たち取りあえず彼女の容態が良くなるまで俺の家に泊まりなさい。

幸い俺は一人暮らしで部屋は空いてるし、子供三人を暫く食わせる位の蓄えはあるから」

 

 

 突然の俺の提案に三人の時が止まる。

 鳩が豆鉄砲を食らったような表情で此方を見る三人に俺は思わず笑ってしまった。

 


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