忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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雨雲 その2

 三人の私物は思いの外少なく、一人一つの背嚢で事足りる程度の量しかなかった。

 まぁ荷物をまとめさせるのには大分苦労したが……結局塹壕では衛生面の問題で少女が治癒する前に合併症でも起こしかねないというのが決め手になって、三人は一時的に家に身を寄せることになったのだ。

 ちなみに最初弥彦少年が少女を背負っていたのだが、彼も栄養失調気味だったので其程長い距離背負い続ける事は出来ず、俺が彼の代わりに彼女を背負って家まで歩いた。

 途次(みちすがら)三人に栄養満点高カロリー……しかしビックリする程苦い兵糧丸を食べさせたら吐き出しこそしなかったが、凄く恨めしそうに睨まれたという小さなイベントを発動させながらも歩き続けて数十分、ようやく家に辿りつくと一先ず彼女を布団に寝かせて、濡れタオルを彼女の額に乗せる。

 心なしか居心地悪そうにしている二人にお茶と茶菓子を出し、食事の用意をするから彼女を看ていてくれと伝えてから台所でお粥作りを開始した。

 出来上がった生姜入り粥を少年二人はガツガツと、少女は軽く冷ましながらゆっくりと平らげる。

 食後白湯と共に解熱剤を飲ませ、彼女を寝かしつけると今まで言葉少なく看病に専念していた二人が部屋から出て俺に手招きをしていた。

 半ば強引に近い形で三人を此処に連れてきたのだから、言いたい事の一つや二つあるのだろう……此処で話しては彼女の睡眠を邪魔してしまうだろうから、俺は彼らが誘うがままに部屋を出て、その場所から応客室代わりに使っている部屋へと案内する。

 部屋に入ってから暫くの間は無言だったが、どちらとも無く少年たちがアイコンタクトを取ると二人ほぼ同時に同時に頭を下げた。

 

 

「「ごめんなさい!」」

「い、いきなりどうしたんだ?」

「小南が体調を崩してから二週間も経ってたっていうのに、今まで一向に治る気配が無かったのは食い物以上に塹壕で迎える夜の寒さだったと思う」

「薄い毛布一枚じゃ殆ど寒さは凌げなくて、僕たち三人身を寄せ合って眠っても限界があったからね」

「だからオッサンに治るまで家に来いって言われた時は正直こんなに都合良い事が起こる訳ねぇって思って信じられなかった」

 

 

 今考えると誘拐犯とかも同じような誘い文句使うから、警戒されて当たり前だな……少し思慮不足だったな俺。

 あれ?だとしたら何でこの子達殆ど文句も言わず此処まで着いてきたんだ?

 俺の抱いたその疑問はすぐに解決する事になった。

 

 

「でも、ふと俺の腰に差してた包丁に手が当たって思い直したんだ。

 誘拐目的ならこんなもの渡す理由が無いって」

「それで此処に来るまでの道すがら弥彦と話し合って、家に着くまでヨミトさんが何もアクションを起こさなかったら、ずっと疑ってた事を謝ろうって決めてたんです」

「あぁそれでさっきの……まぁ疑われても仕方ない状況だったから別に気にしてないさ。

 呼び出したのはそれが言いたくてかい?」

「メインはなんだけど、もう一つ言いたい事があるんだ……おっさ、じゃなくてヨミトさん!図々しい願いではありますが、俺たちを住み込みで雇ってください!」

 

 

 そう言って二人が再び深々と頭を下げる。

 突然の願いに少し呆然とするが、すぐに答えは出る……却下だ。

 暫く家に置くのはかまわないし、初めからそのつもりだったのだから問題は無い。

 しかし雇うとなると其処には賃金が発生する……確かに家は食うに困るような家ではないが、決して金持ちではないし売り上げもギリギリ黒字位のレベルだ。

 其処に三人も雇うとなると確実に経営が赤に染まるだろう。

 

 

「残念だけど流石に三人も雇う金は家の店には無いよ……だから」

「給料は要らない! ただ部屋を貸してくれるだけでいいんだ!……できればご飯も少し分けて欲しいけど、無理だったらそれは自分たちでどうにかする!」

「僕たち何でもやるよ! だからお願いします!」

「給料を一室貸し出しの家賃+食費で雇うって事か……それなら赤字になる事はないだろうから良いかな?」

「ホントか!?」「ありがとうございます!」

「ただし逆にその条件なら店の手伝いは毎日じゃなくても良いよ、むしろ偶に掃除や商品整理手伝う位で構わない」

「え、そんだけ?」

「あまり沢山客が来る店じゃないし、うちは少し大きめの家庭菜園やってるから食費もそんなに掛からないんだよ。

 だからそれ程負担にはならないからね……ただ家事はちゃんと手伝って欲しいかな?

 洗濯物の量とか増えるだろうから」

「それ位はもちろんやりますけど……本当にそれだけでいいんですか?」

「構わないよ、空いた時間は好きに過ごすといい」

「「ありがとうございます!!」」

 

 

 涙を流しながら感謝の言葉を紡ぐ二人の頭を軽く撫で、「君たちも疲れただろう、少し此処で休んでいるといい」とソファーを勧めて、俺は夕食の準備をする為に台所へと向かった。

 二人はさっき食べた粥で刺激されて、次はもう少ししっかりした食事を出しても胃が吃驚したりはしないだろう。

 あの少女は病人だから消化に良い物の方がいいだろうが、食後に果物でも出してあげようかな……丁度売るには賞味期限切れではないが際どい物もあるしね。

 そんなことを考えながら台所へと向かう俺の足取りは普段よりも少しだけ楽しげだった。

 

 

 

 

 

長門side

 

 

 ヨミトさんが部屋を出て行って、すぐに僕達は倒れるように椅子に座り込んだ。

 両親が殺されてから弥彦達と行動を共にするようになった今まで、僕達を唯の子供として扱ってくれる大人は殆ど居なかった。

 大多数は厄介者扱い、残りは悪意ある接触ばかり……正直今でもこの状況が信じられない。

 弥彦もそう思ってか、ボンヤリと天井を見つめている。

 

 

「なぁ長門……さっきヨミトさんが言ってたことは本気だと思うか?

実は裏の顔は奴隷商だとか、子供に興奮する性癖持ちとかじゃないよな?」

「多分本気なんじゃないかな……もしあの人が僕達を捕まえて売ったり、使ったりしようとしてるんならさっきのお粥に薬でも混ぜてるだろうし」

「だよなぁ、あの時は腹減ってたから思わず食っちまったけど、何か入れられてる可能性もあったもんな……もう少し慎重になるべきだった、すまん」

「それは僕も一緒だよ……結果として少なく共ヨミトさんに悪意がないって事が分かって良かったと思おうよ」

「それもそうか……この話聞いたら小南も喜ぶだろうな」

「きっとね」

 

 

 小南は僕達の中で一番優しい……例え信じていた相手に裏切られても、相手に何かそうする理由があったんだと思える程に優しい女の子だ。

 でもそう思うことが出来るからといって傷つかないかどうかは別の話、僕達は時折彼女が隠れて泣いていた事に気付いていたし、その事を気丈にも悟られまいとする姿に自身の不甲斐なさを感じていた。

 恐らくそういった心労も今回体調を崩した原因の一つなんだと思う。

 

 

「さってとっ、ヨミトさんは休んでて良いって言ったけどジッとしているのも性に合わねぇし、小南の様子でも見に行くか」

「じゃあ僕はヨミトさんを手伝ってくるよ、僕達のご飯を作ってくれてるみたいだし」

「OK、じゃあまた後でな」

「あんまり騒いで小南の事起こさないようにね」

「分かってるって、長門こそ皿落としたりすんなよ」

 

 

 僕がからかう様に言うと弥彦も同じ様に返してきて、互いに笑い合うとそのまま言葉通りの行動を取るために二人で部屋を出た。

 僕はこの時分かっていなかった……ヨミトさんとの出会いが僕達にとって予想してるよりも遙かに大きなターニングポイントになっていたことを。

 




○○sideはあまり使いたくなかったんだけど……視点変更にはこれが一番楽なんだよね

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