忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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雨雲 その3

 三人の子供を家に住まわせ始めて一年が経った。

 人並みの衣食住を受け、しっかり健康優良児になった三人だったが、ここ最近木の葉の忍に弟子入りしたとかで家に帰ってこない日が増えてきている。

 心配ではあるが彼らは理想のために頑張っているので強く止めることも出来ず、帰ってきた時に怪我をしていたら軽い説教と治療を施す位しか出来ていない。

 幸い三人の先生をしている人が良い人のようなので其程心配はしなくて済んでいるが、それでも忍術は一歩間違えば容易く人の命を奪ってしまえるので全く心配しないというのは無理な話で……一度様子を見に行った事がある。

 幸い視力は良い方だったので三人に気付かれることはなかったのだけど、先生と思わしき青年には自分の拙い穏行は通じずに黙礼を受けたが、見ていること自体は止められなかったのでそのまま授業参観のような気分で見ることになった。

 

 

 弥彦が手裏剣で青年を牽制し、小南が何処から出したのか分からない大量の紙で取り囲み、本命であろう長門が水遁で狙う。

 彼らがどの程度の腕前なのか自分には判断できないけれど、息の合った連携であることは自分でも分かる……しかし忍の腕はやはり青年の方が明らかに高い。

 追い込まれたにも関わらず冷静に水遁を相性的には不利なはずの火遁で散らし、尚かつ相殺時に発生した水蒸気によって身を眩ませる。

 遠い距離から見ている自分からは全体がよく見えているために見失うことはなかったが、体勢を低くしたまま素早く動く彼を三人は見失ってしまった様だ。

 三人それぞれの死角をカバーするように互いに背を向け合い、襲撃に備える体勢を取っていたが、その警戒網には穴があった……それは地中からの奇襲。

 彼は視界を遮った隙に土遁で地面に潜り、相手の足を掴んで地中へと引きずり込む。

 その結果首だけを地上に出した三人のパッと見猟奇的な姿がそこにはあった……そんな屈辱的な状況で弥彦は悔しそうに騒いで、小南と長門は弥彦を見て苦笑している。

 

 

 と俺が見に行った時はその様な内容だったのだが、他にも足の裏を岩壁に吸着させて垂直に登る修行や、単純に座学を行うだけの時もあったという話も三人と食事を取った時に聞き、自身の忍の修行内容に関する知識を深めることが出来た……そのおかげで自身の訓練の改良が大分捗ったのであの青年には俺も感謝している。

 しかし彼は木の葉の忍、ずっと雨隠れに居続けることはないだろう……話を聞く限り木の葉の中でも指折りの実力者らしいから、何時呼び戻されてもおかしくない。

 その時が来たらきっと三人はとても悲しむだろう。

 戦時中真っ最中の今、一度別れれば次に会える保証など無いに等しいのだから。

 

 

 まぁそれに関して自分が出来る事はないので一先ず置いておいて、今日は三人が店を手伝ってくれる日だ。

 店主である俺があまりボーッとしていては示しが付かない。

 ただし商品の棚卸しは弥彦が、掃除は長門が、レイアウトの変更や商品整理は小南がやってくれているために俺のやることは帳簿整理位で……殆どやることが無いのだが。

 

 

「それにしてもすっかり三人も手際が良くなったな」

「そりゃ一年やってりゃ慣れるってもんよ」

「僕は昔から掃除が好きだったから……」

「私の忍術ってこういうことに向いてるから、あまり手間にならないのよね」

 

 

 仕事をしながら俺の独り言のような呟きに三人は返答する。

 昔は商品を床に落としたり、掃除をしようとして逆に汚したり、滅茶苦茶に陳列したりと不安になったものだが、今ではすっかり一人前の店員顔負けだ。

 彼らはいずれ自らの夢を叶えるために此処で働くことが無くなるだろうから、その事を喜ぶかどうか分からないが……そう言えば大まかな将来予定は聞いた事があるけど、詳しく聞いたことは無かった気がするな。

 丁度客も居ないことだし、少し聞いてみようか。

 

 

「三人は力に頼らない平和を実現させたいって前に言っていたけど、具体的に何か考えてはいるのかい?」

「あ~~~……まぁあるにはあるんだけど、まだ荒唐無稽って言われてもおかしくないレベルの内容だから話すのはちょっとなぁ」

「まだ自来也先生から一本も取ってないしね」

「そうなのよね……私達もそれなりに力は付いてきてると思うけど、未だに影分身体を相手に一度も勝ててないっていうのは自信を無くすわ。

 幾ら武力を極力用いない平和って言っても、聞き耳持たずに攻撃してくる人も多いから、まず交渉の場を設けるにも力を示さなければ話すら聞いて貰えないしね」

「忍に弟子入りする理由に関して詳しく聞かなかったけど、そういう訳だったのか……」

 

 

 この世界には危険が何処にでも転がっているし、昔忍から理不尽な暴力を受けたことがあるという三人だから自衛目的だろうと思っていたが、完全に外れという訳じゃ無かったようだ。

 それにしても荒唐無稽か……一体どんなことを考えているのやら。

でもまぁ三人寄れば文殊の知恵とも言うし、ポジティブな弥彦とネガティブな長門、そして冷静な小南が力を合わせれば、きっと悪い方向へは行かないだろう。

 

 

 その後時折雑談を挟みながらも別段変わった事もなく閉店時間を迎え、三人は日課の訓練を行うために出かけていった。

 その間に俺は夕食を用意し、戻ってきてすぐに風呂に入れるよう準備する。

 夕食と言っても結構大雑把な男料理だし、風呂の準備も浴槽を洗って水を溜めておくだけだから其程手間ではないのだが、共に住み始めて一年経った今でもこういった配慮に対して若干遠慮気味だ。

 彼らが忍の訓練を始めてから家事を手伝える時間が減った事が原因なのだろうが、元は一人暮らしだったわけだし、大して手間が増えた訳じゃ無いのだから気にしなくても良いと言っているのだが……子供なのだからもう少し甘えてくれても良いと思うのだよ俺は。

 まぁ強要するのは何か違うし、粘り強く接していくしかないのだろう。

 

 

 訓練を終えて三人が帰ってくると、やはり「そんなに気を遣ってくれなくても良いのに」と言葉こそ違うけれど全員に言われた。

 それに対して俺もいつも通り「好きでやってるんだから気にするな」と適当に返す。

 正直に君たちに子供らしく甘えるという事をさせてあげたいと言える程俺はメンタルが強くない……もし言って万が一「余計なお世話だ」とでも言われたら一週間は寝込むかもしれないしな!

 だからこれはベストではないにしてもベターな選択肢を取っていると言える……はずだ。

 

 

 四人で店を切り盛りし、四人で食事を取り、四人で眠る(寝室は別)……まるで本当の家族の様な生活。

 何時か三人が夢を叶えるために此処から出て行く時、多分俺は泣くだろう……成長を喜び、別れを悲しみ、彼らの輝かしい未来を想像してきっと落涙する。

 あぁ弥彦、長門、小南……三人の未来に幸あれ。

 


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