忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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雨雲 その7

 優雅な空の旅とは決して言えない満身創痍の落下傘体験だが、母性MAXの治療の神による治療によって何とか解毒に成功したので、未だ気怠さと体中に感じる若干の痛みはあるものの何とか死出の旅路とはならないらしい。

 ちなみにどうやって解毒したかというと治療の神曰く、血中に溶けた毒を指先に集めた後に少し傷をつけて排出するという瀉血的な方法だったのだが……指先が濃い紫色に染まって不安になった上に、毒が血管を傷つけながら集まったために体中が痛かったりと中々に辛いものだった。

 まぁ死ぬよりはマシだし、彼女が消える間際に痛み止めのような処置を施してくれたおかげで現在は大分痛みは治まっている。

 そんなこんなで今はゆっくりと風に流されるまま緩やかに地面へと近づいている最中なのだが……これからどうしようか?

 半蔵が退かせた数人の忍によって俺の事は既に広がっているだろう……出来る事なら一度店に戻って持ってきたい物が幾つかあるけれど、恐らく取りに戻るのは自殺行為だ。

 全てを一から始めなければならない上に、恐らく追っ手も掛かる……溜息を吐かずにはいられない。

 昨日まではいつも通りのそれなりに平和な日常だったのに、今は雨隠れの里長殺害の大罪人で逃亡者。

 でもまぁ悪いことだけじゃない……なによりも三人を逃がすことが出来たのだ。

 本当なら先程半蔵が言っていた暁のアジトとやらに加勢に行こうかとも思ったが、肝心なアジトの場所が分からなかったのでその案を棄却し、結局のところ一先ず国外へ流れるという場当たり的な選択肢を選ぶことにした。

 

 

 なんにせよまずは地面に降りてからの話だ。

 風に乗ってそれなりの距離を稼いだとはいえ、それなりに足の速い忍ならまだ追いつけるレベルの距離しか離れていない。

 現に前方から三人が此方に向かって走ってきているのが見える。

 空中では攻撃を躱すのも一苦労なので、まだ少し高度はあるものの覚悟を決めてノーロープバンジーを決行しようと落下傘を切り離すために斧を振りかぶろうとして気付いた。

 もしも援軍なのだとしたら何十人と屠った相手に三人は少なすぎる……それにすこしボロくなっているとはいえ、あの服は先程まで見ていたものだ。

 危険を冒してまで急速落下する必要が無くなったので、そのまま緩やかに地面へと降り立つと、着地点で待ち構えていた弥彦達三人は息を切らしながらも安堵の溜息を吐いた。

 その後ある程度呼吸が落ち着くと三人を代表して弥彦が口を開く。

 

 

「無事で良かった……あの後どうなったんだ?」

「なんやかんやあって半蔵が真っ二つになって今に至る」

「どんだけ端折った説明だよ……まぁ詳しい話は後で聞くとして、取りあえず今は此処を離れた方が良い。

 取りあえず岩隠れに渡りをつけてあるから其処に向かおう。

 ヨミトさんも行き先が決まってないなら俺達と一緒に行動しないか?

 たしかヨミトさんも俺達暁の最終目標には賛成してくれていたよな?

 それに元はと言えば俺達の所為で里を追われる事になったんだし、責任の一つも取らせてくれ」

「その前に俺も一つ聞きたい事がある……半蔵はアジトに兵を差し向けたって言っていたんだが、そっちは無事だったか?」

 

 

 その疑問の答えは三人が揃って俯いた事で理解した。

 弥彦は自身への不甲斐なさを感じてか血が滲む程強く拳を握り、長門は不思議な文様を目に浮かべながら悔しそうに顔を歪め、小南は悲しそうに眉を下げている。

 まるで血を吐き出すかの様に弥彦がその時の状況を話し出す。

 

 

「俺達が着いた時にはもうアジトは壊滅していた………血で赤黒く染まった地面と漂う血臭で地獄の様だったよ。

 不幸中の幸いとも言える事は、アジトを放棄して身を隠すという暗号が残されていたから全滅した訳じゃ無いって事だな」

「そうか……無事だと良いな」

「きっと大丈夫、俺達の仲間はそう簡単にはやられたりしないさ。

でヨミトさん……さっきした質問の答えは?」

「ん、あぁ岩隠れに一緒に行くって話だったっけか?

 別段何処に行くとか決めてなかったし、岩隠れの事もあんまり知らないから助かるけど……弥彦達も今大変だろ?

 俺は足を引っ張りたくないんだが」

「何言ってんだよ、あれだけの数を一人で相手に出来る力があって足を引っ張るも何もないだろうに」

 

 

 弥彦に同意する様に長門と小南も首を縦に振る。

 まぁ現状魔法によって身体能力の底上げされてるから、そう簡単に足手纏いにはならないと思うが俺には圧倒的に実戦経験が足りない。

 今回は効果の高い罠や魔法でごり押し出来たから良いものの、不意打ちや絡め手に対して冷静に対処できるだけの経験もないのだ。

 調子に乗って足下を掬われるのは避けなければならない。

 

 

「まぁいいさ、要するに俺達が良いなら良いって事だろ?

 それなら悩むまでもない……俺達と一緒に行こう!

 三年前に出会ったあの日から今に至るまで迷惑ばかり掛けてきた俺達に少しずつでも良いから恩返しをさせてくれ」

「恩なんて大袈裟だよ……俺は後味の悪い思いを極力したくなかっただけで」

「それでも俺達が救われた事実は変わらない」

「頑固だなぁ………分かった、俺としても助かるしお願いするよ」

「よし決まりだ! それじゃ早速岩隠れ目指して出発するとしようぜ!

 帰依辺りがきっと心配してるだろうしな」

 

 

 俺の返答を聞いてすぐに北へ向けて走り始める弥彦。

 そんな彼に置いていかれまいと少し慌てて三人で彼の背を追いかけ始める。

 跳ぶ様に移動しながら長門と小南に先程説明しきれなかった三人が撤退した後の事を説明し、代わりに二人からはこれから行く岩隠れについての話を聞く。

 現土影の事だったり、土地柄の事だったり、果ては名産品なんかの話などを聞いたのだが、そういった話を聞いている中で先程弥彦が口に出した帰依という名が出てきていた。

 どうやら帰依という人物は女性らしく、暁における彼女の立場は交渉及び偵察を統括する幹部の一人だと言うことが分かった。

 真面目で心配性な彼女はリーダーである弥彦の事を常日頃から心配しており、弥彦もまた戦闘力が高くないが高い交渉能力を持つために危険な任務も多い彼女をいつも心配しているらしい……其処に恋愛感情は無いと言うことらしいのだが二人には判断できないのだとか。

 

 

 そのような話をしながら半日程掛けて移動した結果、岩隠れの里へと辿りつくことが出来た。

 真っ直ぐ暁の第二アジトとも言える里の外れにある寂れた倉庫へと向かうと、十人程の若者達がドラム缶に焚いた火を中心に集まって何かを話し合っているのが見える。

 その中心となっている女性が視線に気付いたのか此方を向いて目を見開いて駆け寄って来た。

 

 

「弥彦!? それに長門と小南も無事だったのね!

 横に居る男性は知らないけれど、とにかく無事で良かったわ!」

「帰依も無事の様で何よりだ……早速だが今の暁の現状について説明してくれ」

「それは……」

 

 

 彼女は少し困惑した様子で俺へ一瞬視線を向ける。

 面識のない相手がいる前で組織の状態を説明するのは避けたいと思うのは当たり前だ。

 その事に思い至り、俺は一旦席を外そうとするが弥彦にガッチリと手首を掴まれて阻止された。

 

 

「大丈夫だ帰依、前に何度か話しただろ?

 この人がヨミトさんだ」

「三人が何年かお世話になっていたっていう人ですか?」

「あぁその人だ、ヨミトさんは今回の一件で里を出ざる得ない状況になっちまったから俺達と行動を共にする事になった」

「そうですか……わかりました、それでは説明させて頂きます。

 三人が出た後暫くして雨隠れの忍がアジトを急襲。

 多数の犠牲を出し、このままでは全滅すると判断し撤退を決意。

 数人の勇士がその身を持って時間を稼ぎ、その隙に規定通りそれぞれが野に下るか再起するかを決めて遁走……今に至ります」

 

 

 百人以上いた構成員が今回の事で十人近くまで減った事は流石にショックは大きいらしく、一様に雰囲気は暗い。

 しかし決して絶望している訳ではなく、弥彦という精神的主柱がいる限り暁という組織は決して折れないだろう。

 事実先程まで俯いていた面々が弥彦の方へ顔を向けている所を見ると、思ったよりも早くこの組織は復活を遂げるかもしれない。

 俺も此処に身を寄せるものとして何か出来ることを探すとしよう……出来れば事務とかが良いな。

 




先日背中にできた腫瘍を取ったわけだが……3cm位あってびっくりした
麻酔痛かったです
時折聞こえるブチブチって音も怖かったです
意識がある中自分の背中を施術される恐怖は中々の物だね……見えても怖いだろうけど

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