忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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雨雲 その9

 日が落ちるまで土遁を使える人達と共に壁の穴を塞ぐ作業に従事し、きりの良いところ迄終わらせたその次は残っていた書類仕事……全てが終わったのは日付が変わる一時間程前だった。

 凝り固まった肩や腰を回すとバキボキと酷い音が鳴り、仕事の達成感から眠気も徐々に増してきていたので、後片付けもせずに寝室へと向かう。

 廊下は既に明かりを消され、窓から入り込む月明かりだけが道を照らしていた。

 自分の踏む床板の軋む音だけが響くその中を歩いていると、突然轟音と共に建物が揺れ、続々と構成員が部屋から飛び出してくる。

 音の発生源は建物の上層部……長門達の部屋の辺りからであった。

 階段は此処から遠く、今からそこまで走るのは時間のロス以外の何物でもない。

 故に近くの部屋から出てきた者と共に窓から飛んで、上の階へと直接移動したのだがそこは既に大きく様変わりしていた。

 大きく罅が入り一部が崩れた内壁、吹き飛んでいる扉、そして何より酷かったのは長門の部屋だ。

 扉が無くなり見える様になっているそこは既に部屋と呼べる状態ではなかった……一割も残っていない天井に壁の一面も半分以上が無くなっていたのだから。

 

 

 その光景を見て唖然とするが、未だに戦闘音は聞こえている……少しずつこの場から離れてはいるものの、辺りに生えた木々をなぎ倒しながら行われる戦闘は居場所を知らせ続けているので追いかけるのはさほど難しいことではないだろう。

 しかしこの騒ぎで弥彦と小南が此処に居ないことを考えると彼処で長門と共に戦っていると考えて間違いないはずだ……バレずにアジト内(それも上層部)へと侵入するには大人数では不可能に等しいから恐らく小隊以下の人数だろうが、その人数であの三人を同時に相手取って善戦するとなると以前戦った触手男位の腕が無いと厳しい……なら此処に集まった面々が加勢に向かっても犠牲が増えるだけかもしれない。

 そう考えた俺は酷かもしれないが自分の考えと周囲に敵の仲間がいる可能性を伝え、非戦闘員を守る様に言って一人増援に向かう。

 幸い長門同様にチート扱いされていたが故に俺を止めるものも居らず、自らの力不足からか悔しそうに「三人のことを頼みます」と口々に伝えて散開した。

 沢山の思いを背負い、伏せ罠二つに不意打ち対策に‘ファイティング・スピリット’、身体能力強化用に‘魔導師の力’を着けて弾丸の様に飛び立つ。

 

 

 距離が其程離れていなかったこともあり、飛び出してからその場に着くまで十分も掛からなかった。

 そこは木がへし折れ、地面は抉れ、岩は砕けて化す……穏やかな森は激戦区という言葉に相応しい場所へと変貌していた。

 敵の数は長門達と同じく三人、内一人は以前アジトに襲撃を掛けて来た触手男の様だ。

 残り二人の内一人は鎖を武器として使う仮面を着けた男、もう一人は大鎌を手に邪神がどうとか騒いでる関わり合いになりたくないタイプの人間……完全に色物集団なのだが、腕はかなりのものらしい。

 何せ三対三で長門達を押しているのだから、その実力の高さが窺える。

 出来ればもう少し相手の闘い方を見たかったが、戦況から見てのんびり戦力分析している余裕もなさそうなので、丁度小南を斬りつけようとしていた鎌の男を横合いから蹴り飛ばした。

 何度かバウンドしながらも鎌を地面に突き立ててブレーキを掛ける事で20m程で止まったが、ダメージは皆無に等しい様だ。

 その光景を見た五対の視線が俺に突き刺さる。

 

 

「「「ヨミトさん」」」

「あの時の男か……チッ、面倒な相手が増えた」

「半蔵を殺した男には見えんな」

 

 

 忌々しげに此方を見る二人を余所に、此方へ集まった三人に話を聞く。

 幸い相手は此方の出方を窺っている様で、今にも突っ込んで来そうな一人を抑えながら俺との戦闘経験を持つ触手男と話している。

 その間に俺が長門達から聞き出せたのは、仮面の男が突然現れて長門を連れて行こうとしたことと敵の持つ特殊な力。

 どうやら仮面の男は文字通り攻撃が身体を通り抜けるという力を持ち、今俺が吹き飛ばした男は致命傷が致命傷にならない身体らしい……そして触手男は複数心臓を持っていて、それを全て潰さない限り死なない。

 どれも相手にするには厄介な力ばかりで思わず溜息が漏れる。

 それらの情報を聞き終えたとほぼ同時に相手も丁度話が終わったのか鎌男を先頭に仮面触手の順で此方に走ってきた。

 相手が肉体的に不死に近いのならば長門の輪廻眼の力の一つに魂を引っこ抜く力で仕留めることが出来るだろう。

 しかし捕らえて舌を引っこ抜くというアクションが必要なために、一人捕らえたとしても残る二人に邪魔される可能性が極めて高い。

 分断して各個撃破が理想だが、相手の技量も高いためにそう上手くはいかない事が予想できる。

 だから此処は俺が頑張る……既に十の魔法と罠を使ってしまったけれど、まだ30は使えるのだから。

 

 

「墓地に送れないなら隔離してしまえばいい。

 ‘ブラック・コア’発動」

 

 

 小南の放つ紙手裏剣を殆ど回避しない危機感の薄さから鎌男ならきっと対処が遅れると信じていた。

 事実突如眼前に現れた紫電を放つ黒い球体に頭から突っ込んで、そのままズルンと吸い込まれて消える。

 すぐ後ろを走っていた仮面の男が何かしようとしていた様だが、間に合わなかったのか小さく舌打ちして触手男と共にブラック・コアを大きく迂回して此方へ向かう。

 除外ゾーンは一日ごとにリセットされる……どうやってリセットされているかは俺も知らないけれど、一日経てば除外していたものはどんなことをしても場に戻すことは出来ないのだ。

 空間が閉ざされるのか、それとも空間が消滅しているのかは定かではないが、誰もいない空間から永遠に出られなくなる事は死んでいるのと何も変わりはない。

 

 

「日頃から封印術と時空間忍術には気を付けろと言っていたのだがな……馬鹿な男だ」

「また何処かで戦力を補充しなければならないな」

 

 

 仲間が一人消えたにも関わらず全く動揺を見せない二人が鎖と背中から出した触手を振るい攻め立てる。

 長門が斥力でそれらを弾くが、当たる直前で脱力する事で反動を最小限に抑えた上で回り込むように後衛である小南へ攻撃。

 それ単体では当たり所が悪くない限り死ぬ可能性は低いが、激痛と骨折で闘えなくなる可能性も少なからずある。

 ましてや小南は現状紅一点、彼女が戦線離脱することで残る面々の冷静な思考を奪おうという考えもあるのだろう。

 急ぎ触手を切り落とそうとする俺と、鎖を防ごうとする弥彦。

 しかし二つは大きく蛇行し、俺達を避けるように小南を挟撃する。

 そして俺達の目の前で金属と肉の蛇が彼女の身体を刺し貫いた(・・・・・)

 


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