小南を
恐らく動揺している隙に出来る限り手傷を負わせようという考えなのだろう。
しかし俺は動揺などしていなかったし、そもそも彼らの攻撃は此方に届かなかった……何故なら貫かれた小南の身体から無数の紙が溢れ出て触手と鎖と辿り敵へと迫っていたからだ。
俺に向かって進んでいた攻撃は進路を変え、彼女の身体を真っ二つに裂きつつ彼らの手元へ戻る……彼女の紙分身に混ざっていた起爆札というオマケを持って。
仮面の男は鎖についてきたそれを謎の吸引力を持って仮面の目元に空いていた穴へと吸い込むと何故か爆発することは無かったが、もう一人はものの見事に攻撃に使った触手束ごと爆発し、土煙と共に肉の焼ける嫌な臭いが立ち込める。
「……やったか?」
「弥彦、それはフラグって奴だと思うよ」
「フラグってなんだ?」
「何かの発動条件とかそう言う意味だって前にヨミトさんが言ってた」
二人がそんな暢気な会話をしていると土煙の中から仮面の男が飛び出し、投擲される忍具を透過しながら一直線に長門へと向かっていく。
原理の分からない敵の能力に弥彦は舌打ちし、ハンドサインを出すと長門が後ろに下がり、弥彦がその前に立って小南が木の上へと移動した。
おそらく小南が上から絶え間なく起爆札をばらまく事で撃破もしくは長門に近づく事が出来ないよう足止めし、適度弥彦が小南のサポートと長門の護衛をしながら打開策を探るつもりなのだろう。
俺も弥彦と共に長門の護衛に回ろうとしたが、ふと土煙の中が明るくなっている事に気付いた。
よく考えると土埃も本来であれば既に無くなっているのが普通……何かがおかしい。
ふと肉の焼ける臭いと飛び出してこなかった事から運良く複数の心臓ごと爆散したと思っていた触手男の事が思い浮かび、血の気が引く。
「弥彦! もう一人の奴はまだ生きてる!
何かしでかすぞ!」
「もう遅い、飛段の仇……というわけではないが面倒な術を持っている貴様は此処で消す」
奴が意図的に巻き上げていた土煙が一瞬で吹き飛び、中から半裸でほぼ無傷の触手男が此方に向かってほぼ触手の塊となっている上、先端部分に不気味な三つの仮面のついた右腕を向けていることが分かった。
仮面の口部分にはそれぞれ火遁、風遁、雷遁のチャクラによって作られたバスケットボール大のチャクラ球が存在しており、それらがほぼ同時に俺に向けて放たれる。
それらは高速で螺旋状の軌跡を描きながら合体し、紫電の走る白い火球となって俺を焼き尽くさんと襲いかかる……混ざり物のない白い炎の温度はおよそ5000℃~8000℃、マグマがおよそ1000℃という事から当たれば骨も残さず蒸発するだろう。
実際其処まで温度が高ければ周囲の気温も大変な事になるはずなので、別の要因……恐らく雷遁辺りが影響しているのだと思うが、それでも当たれば唯では済まないのは容易に想像できる。
弾速が速いため躱すことできない上に、そもそも躱せば射線上にあるアジトが消し飛ぶかもしれない。
故に此方も虎の子の一つを使う事にした。
「お前の失敗は弥彦や小南ではなく、俺を狙った事だ。
罠発動‘
俺の眼前に現れたのは朱と金と黒で装飾された2m程の二本の筒。
火球はその片方に吸い込まれるように入り、もう片方の筒から逆のベクトルで射出される。
魔法の筒という罠は初期に登場したカードであり、使い勝手の良い効果から当時かなりの人気を博したものだ。
その効果は相手の攻撃を無効化し、その攻撃力分のダメージを相手に与えるという単純で強力な物。
この世界で使用した場合は飛び道具等のならば先程の火球と同じ様に片方の筒から入ってもう片方の筒から相手に向かって飛んで行くし、打撃等であれば片方の筒の先端に見えない壁が現れて衝撃を吸収した後でもう片方の筒から同威力の衝撃波が飛んで行く効果が発動する。
敵もまさか術が返ってくるとは想像していなかったらしく、一瞬呆然としていたが瞬時に我に返って背中から触手で出来た人型を三体だして、それの顔に当たる部分に腕についていた仮面を着けた。
すると三体は男を守る様に前へ立ち、それぞれが火遁風遁雷遁を使って自らが生み出した三属性混合忍術を相殺しようとするが、込められたチャクラ量と練りが足りないためか僅かに勢いを減衰させることしかできず、敢え無く着弾。
円柱状に高々と白い炎が広がっていき、三体は塵一つ残さず焼失した。
本体である触手男は勢いが弱まった隙に退避したのか少し離れた位置で此方を睨み付けながら仮面の男へ合流しようと動いている。
ならば俺もとばかりに弥彦達と合流すべく足を動かす。
勿論移動しながらも触手男は土遁、水遁等を使ってきたが返される事を懸念してか出の速い術は使用せず、筒に入らないような足止めをメインとした術を放ってくる。
俺も場所が森であるが故に‘昼夜の大火事’等の魔法が使えず、相手の使ってくる術が邪魔で身体能力をフルに発揮出来ないでいた。
その結果互いに殆どダメージの無いまま合流する事になる。
どうやら弥彦達も多少疲労は見えるものの大きな怪我を負った様子は無くて安心したが、相手の姿を見て驚いた。
服に解れすらない全くの無傷……疲れている様子もない。
この三人を同時に相手したら五影でも無傷ではいられるかどうか分からないと言うのに……何者だあの仮面の男は?
とりあえず敵の動向に気を付けつつ、牽制に仮面の男に向かって‘ブラック・コア’を放つが二度目だけあって文字通り牽制の役割しか成さなかった。
その一手を切っ掛けに敵側も合流を果たし、俺が相手をしていた男が仮面の男に何かを話している様だ。
意図せぬ一時休戦にこれ幸いと、俺は手持ちの起爆札を小南へと渡し、手裏剣やクナイなどの忍具を弥彦へ渡す。
恐らく俺よりは有効活用してくれるだろう。
それにしても仮面の男の能力が厄介すぎて活路が見いだせない……一応肉体に起因する血継限界の特殊能力を封じる手はあるんだが、これは味方も効果を受けてしまう。
そうなれば長門と小南の戦力ダウンは必然、単純な技量は相手の方が上だから逆に厳しい戦いになってしまうかもしれない。
頭の中を幾つもの作戦が浮かんでは棄却されていく中、仮面の男が此方へ話しかけてくる。
「正直お前達を甘く見ていた……このまま続けても輪廻眼を取ることは可能だが、既に飛段を失い、角都も命を三つ消費している。
これ以上の損失は俺としても本意ではない」
「ならどうするって言うんだ?
ごめんなさいじゃ無かった事にはならないぞ?」
「此処は一旦退くとしよう……此方も少し準備が必要なようだしな。
それとヨミトといったな……半蔵を仕留めたとは聞いていたが、これほどまでに厄介だとは思っていなかったぞ?
面白い力を持っているようだが、貴様は確実に邪魔になる。
必ず消す」
そう言って仮面の男は角都と呼んだ男の肩に手を置き、二人揃って仮面に空いた穴へと一瞬で吸い込まれて消え去った。
後に残ったのは無残に荒れた森と俺達の少しだけ乱れた息遣いのみ。
この一件を期に弥彦達は力不足を感じ、より激しい修練を積んで一人一人に二つ名がつく程に有名になり、組織の規模も大きくなった。
俺も同様に自らの能力の把握に尽力し、能力を使用した連携を弥彦達と試行錯誤したりしていく。
いずれ来る再戦の時に備えて、俺達は牙を研ぎ続ける……仲間のため、皆で明るい未来を迎えるために俺達は負けない。
俺達は‘暁’、明けない夜が無い様に最後には夢を勝ち取ってみせよう。
俺達の冒険はこれからだEND
外伝もこれで一段落、少しリアルの事情で忙しくなるので執筆から離れることになりますが、モチベがあふれたら時間を無理やり作って戻ってきます
それではまたいつか何処かで