忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第20話 一つの転機

 ヤクザの襲来から一週間が経ったある日、店に綱手がやってきた。

 彼女はいつも通り店を一回りして一冊の本をカウンターに置く。

 

 

「砂の傀儡……これは100両だね。

 ところで今日は任務ないのかい?」

「任務があるときは来ないって分かってるでしょ?」

 

 

 そう言いながら彼女は財布から100両を出し、俺に手渡す。

 俺は受け取った代金を特に数えることもなくレジに入れると、商品を袋に入れようと引き出しに手を掛けた。

 しかし綱手に手で制されたので、そのまま商品を彼女に渡す。

 

 

「そうだね、本を買いに来る時間が取れそうにない時はカツユにお使い頼むから、直接店に来るのは この間を抜けば本当に久しぶりだ。

 やっぱり戦争中は忙しいのかな?」

「そうね、暗部や上忍に比べれば忙しくないんだろうけど、戦争前に比べればかなり忙しいわ。

 逆にヨミトは暇そうだけど。」

「余計なお世話だよ……で、今日は何の用かな?

 ただ本を買いに来たってわけじゃないんだろう?」

 

 

 かなり忙しい中時間を作ってここに来たっていうなら、普通の理由じゃないだろう。

 俺がそう聞くと綱手は今買ったばかりの本を指差し俺に質問を投げかける。

 

 

「この前ここに賊が来た時にヨミトがチャクラ糸で相手を拘束したって縄樹が言ってたのだけど、それは本当?」

「正確に言えばチャクラ糸じゃなくて、チャクラを流した糸なんだけど……それがどうかした?」

「色々と聞きたいことがあるわ。

 何故忍術が使えるのかとか、縄樹が戦っている間にヨミトは何をしていたのかとか……そして何よりヨミトは一体何者なのか。

 説明してくれると嬉しいわ」

 

 

 彼女の言葉を聞く限り説明しないという選択肢も取れるわけだけど、目が話さなければ戦闘もやむを得ないと語りかけてきている。

 公私混同をしない事は忍としてはかなり正しい行動だ……俺としては少し悲しいけど。

 俺は三代目に説明したときの様に店の仕掛けを見せつつ当時の説明を行う。

 ざっと10分程で話は終わり、全てを聞き終えた綱手の表情からは険が取れ、いつもの強気な少女の顔に戻った。

 

 

「正直ヨミトが他国のスパイである可能性は零に等しいと分かってはいたんだけど、万が一があれば里を危険に晒すことになるから油断はできないのよ」

「しょうがないよ、今は戦争中だし……何より里に登録された忍者でもないのに忍術を使うっていう時点で怪しいからね」

 

 

 チャクラ糸は忍術じゃないにしても、‘くず鉄のかかし’は変わり身の術として説明したので俺の戦闘能力は一般人以上下忍未満位と言ってある。

 実際に能力を使わなければ、しっかりと教育されていない分下忍よりも術の構成は甘いだろうし、体術なんかはもっと差があると思う。

 ただ身体能力自体は重りで鍛えているから普通の下忍よりも多少は高いと思う……流石に爆音と共に地面にめり込むほどの重りを付けているわけじゃないから、あんまり変わらないかもしれないけど。

 そんなことを考えて微妙な気分になっている俺を知ってか知らずか、綱手が突然一つの提案をしてきた。

 

 

「ヨミトって店が終わった後暇?」

「閉店後なら時間はあるけど……どうかした?」

「ちょっと縄樹を鍛えてくれない?

 というか一緒に訓練してあげて欲しいのよ」

「別にそれはいいけど、アカデミーじゃ駄目なのかい?

 アカデミーなら級友なり、先生なりがいるから俺とやるよりも良いと思うだけど……」

「ヨミトも知ってるかもしれないけど、アカデミーで教えられることは良くも悪くも教科書通りなのよ。

 その点ヨミトはアカデミーの教科書だけじゃなく、他にも幾つかの参考書を読みながら訓練してるでしょ?

 だから一緒に訓練することで柔軟な発想と行動を身につけて欲しいの」

「そんなこと言われても……俺のは柔軟な発想じゃなくて探り探りだし、俺の訓練って基本的に木登りの業とかだよ?」

「丁度良いわ、別に下忍になってからしなければならないと言うわけじゃないし、早めにチャクラコントロールの修行に入るのもいいわね」

 

 

 こりゃ引き下がりそうにねぇな……俺としては除外ゾーンで一人黙々と訓練するのが合ってるんだけど、たまには誰かと一緒にやるのも良い刺激になるかもな。

 だけど流石に毎日は勘弁して欲しい……俺は忍術とかの練習以外にも、能力の訓練もしなきゃいけないんだから。

 

 

「そこまで言うなら良いよ、縄樹君と一緒に訓練することにしよう。

 ただし毎日は勘弁してくれるかい?」

「流石にそこまでは言わないわよ、そうね……一週間に一回位でいいわ」

「それ位ならいいけど……」

「それじゃあ縄樹がアカデミーを卒業するか、縄樹自身が訓練を止めたいと言わない限り続けてあげてね。

 下忍になれば担当上忍やチームが出来るから、そうなったらその人達と一緒に任務や訓練をしてチームワークの大切さとかを学ばなければいけないから、下忍になるまでで良いの」

「え?」

 

 

 なん……だと?

 一ヶ月とか半年とかじゃなくて下忍になるまでとか……何年掛かるんだ?

 綱手レベルの才能があったとしても最低一年は掛かるぞ。

 一緒に訓練している限りあんまり派手なことも出来ないし、千手家の嫡男を狙う何かがいれば俺も巻き込まれることは確定だろう。

 ……やっべぇ、超断りたいわぁ。

 でも一度承認してしまってるから断りにくい。

 恐らくそう言った考えが少なからず顔に出ていたのだろう、綱手は苦笑しながら「大丈夫よ」と言った。

 

 

「大丈夫って?」

「ヨミトはこの間の賊みたいなのが来るんじゃないかって心配してるんでしょう?」

「……その通りだけど」

「この間の事件で先生は木ノ葉の関門を厳しくすることを決めたみたいだから、この間みたいなことは起こらないわ。

 それに訓練場所として家の庭を使ってもらうから余計にね」

 

 

 それってフラグじゃね?とか思ったりもしたけど、実際戦争中の関所はかなり厳しいので一応信じることにする……まぁ代わりに普段よりも一枚多く身を守る罠を増やすことは確定したけどな!

 綱手の話はそれで終わりの様で、彼女は「明日から宜しく」と言い残してそのまま店を出ていった。

 綱手は忙しくて自身で弟に訓練をつけてあげる時間がないのだろうけど……もっと良い先生いると思うんだけどな。

 でもまぁやるからにはしっかりやろうと、俺は閉店してから朝に掛けて自分なりの訓練方法を紙に記していった。

 


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