忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第22話 体術編

 俺の投擲に興奮した縄樹君を宥めて、1時間ほど投擲フォームや手を離すタイミングなどを教えた後、一先ず手裏剣等を仕舞った。

 まだ練習したりないのか少し不満そうしている彼に苦笑しつつ、次の訓練に移る。

 暗くなるまで後一時間程しかないから、ちゃんと時間配分しないと予定が狂うからね。

 

 

「忍術と手裏剣についてはわかったから、次は体術を見ていこうと思う。

 ただ俺は誰かに体術を習った経験のない喧嘩殺法のようなものしか出来ないから技術的なことを教えるのは難しいんだ。

 だから今からやるのは只の組み手……実戦経験とまではいかないけど、戦闘経験にはなるだろうからね」

「え、大丈夫なのおじさん?

 俺一応体術の成績良いんだよ?」

 

 

 心配してくれるのは嬉しいけど、さっきのこと忘れてるのかな?

 一応樹にクナイを埋められる位の力があることは見せたはず……まぁチャクラコントロールの恩恵が多々あるけど。

 なんにしても心配なら本気で掛かって来れないだろうから、少しだけ力を見せることにする。

 俺は思いっきり地面を踏み込み、縄樹君の斜め後ろにある樹に向かって跳び、その樹を蹴ってさらに彼の背後に跳ぶ。

 体内門を解放した人達程ではないにしろ中々の速度で動けたと思う。

 地面と樹に俺の足跡がつく位には踏み込んだからな。

 別に音を立てない様に動いたわけじゃないから着地の瞬間結構大きな音がして、縄樹君が俺の方を振り向いた。

 彼は最初の跳躍の時点で俺を見失っていたので少し驚いている様だ。

 

 

「今回はちょっと驚かすために速さを重視したから結構大きな音たてちゃったな……でもこれで俺が それなりに動けるってわかったかい?」

「……おじさんって本当に忍じゃないの?」

「俺はしがない古本屋だよ。

 さぁ組み手を始めよう。

 武器無し、忍術無しの手加減無用無制限組み手だ……何処からでも掛かってくると良い。

 俺は少しだけ強いよ?」

 

 

 縄樹君は俺の言葉を聞いて気持ちを入れ替えたのか、少し惚けた顔から油断の一切ない顔になり、拳を構えた。

 10秒ほどそのまま睨み合いを続け、彼はそれに焦れたのか突っ込んで来る。

 只全力で距離を詰め、振りかぶった拳を叩きつけようとする単純な攻撃。

 多分様子見の様なものなのだろう……とりあえず俺はその手を掴み、背負って地面に投げつける。

 地面に着く瞬間に軽く腕を引いたので痛みは殆どないだろう。

 

 

「一本、決まり手は一本背負い……なんてね」

「くっ!」

 

 

 俺の手を振り払い、跳ぶ様に距離を取って仕切り直す。

 別に追撃しても良かったんだけど、それじゃあ訓練にならなそうだから何もせず見守る。

 彼としてはそれが悔しかったのか、顔に険が浮かんでいる。

 

 

「単純に攻撃するだけじゃ普通は当たらないよ?

 フェイントを織り交ぜるか、視認できないスピードで攻撃しないとね……こんなふうに」

「!?」

 

 

 俺は先程の彼よりも少しだけ速い位の速度で接近し中段回し蹴り……に見せかけて膝から下を動かすことで顔の左側面に向けたブラジリアンキックを放つ。

 流石に直撃させると危ないから寸止めだけど、フェイントの重要性は理解できただろう。

 縄樹君は最初の膝の位置から胴狙いの蹴りを予測し、片腕を脇腹の辺りに添えていたため対応に間に合わなかった。

 しかしすぐに我に返り俺の脚を払い、仕返しとばかりに俺の鳩尾目掛けて渾身のストレートパンチ。

 その拳速は中々の物だったが、あくまでその歳にしてはという言葉がつくレベル。

 俺は右手で拳を掴み、少し捻ってその腕を彼の背中の方に回して腕を極める。

 これは良く警察がやる技の一つでアームロック、警察固めとも呼ばれる関節技の一種で相手を拘束することに中々適している。

 俺が今使える関節技はコレしかない……昔友達とどっちが効率的に腕を極められるかという勝負をしていた御陰でこれだけは流れる様にできるんだよね。

 一度加減を間違えて肩が外されそうになったこともあったけど、それも良い思い出だ。

 本当ならこのまま後ろから膝を蹴り、押し倒すんだけど……別にそこまでする必要はない。

 俺は掴んでいた腕を放し、そのまま縄樹君の背中を軽く押して距離を取る。

 

 

「さぁ仕切り直しだ、時間は限られてるからドンドン攻めて来るといい」

「……その余裕を崩してやる!」

「別に余裕ってわけじゃないんだけど……まぁいいか、掛かってこい!」

 

 

 彼は今までで一番のスピードで距離を詰め、下段の水平蹴りを放つ。

 その蹴りを跳んで躱したのだが、どうやらさっきフェイントを混ぜろと言ったのをしっかり覚えていたらしい。

 水平蹴りした脚を軸足に変え、俺の顎に向け蹴り上げを行おうとしている姿が目に入った。

 流石にこれを食らうのは痛そうだと思い、腕を交差させてその蹴りを受け、その勢いでバク宙し少し距離を取る。

 

 

「なんだ、やれば出来るじゃないか。

 今のは中々良い動きだった……でも身長差を考えるなら顎を狙うよりも、つま先か踵で鳩尾の辺りを狙った方がより良いな」

「ちぇ、今のは当たったと思ったのにな……次は絶対ギャフンと言わしてやるからな!」

「それは楽しみだね」

 

 

 縄樹君はそう言いながら、まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供の様な顔で、次々と攻撃を仕掛けてくる。

 それを受け、流し、時には反撃して……気がつけば予定していた終了時刻を少しだけ過ぎていた。

俺は縄樹君の両腕をつかみ取り、訓練の終了を告げる。

 

 

「そろそろ暗くなるから今日はここでお終いだね」

「え~!! 俺まだおじさんに一発も当ててないよ?!」

「まぁ俺の方が少しだけ長く鍛えてるからね。

 簡単には当たってあげられないな。

 もう来ないわけじゃないから次当てられる様に頑張ればいい」

「でも次来るのって来週なんでしょ?」

 

 

 綱手との約束は週一だからな……っていうか週一じゃなかったら受けなかったし。

 というか俺なんかよりもっと良い先生役がいると思うんだけどな。

 なにより俺は忍じゃない。

 だがそれを言っても彼は納得しないだろうから、とりあえず納得する様なことを言わないと!。

 

 

「それはそうだけど、縄樹君にはアカデミーもあるだろう。

 アカデミーで新しいことを習ったらそれを次の週の訓練で使えばいい。

 そうすれば俺はその内容を知らないから意表を突けるかもしれないよ?」

「それもそっか……あ、でも習ったのが忍術とかだったら?」

「別に組み手でずっと忍術を禁止するわけじゃないさ……ただ俺は凄い忍術とかは使えないから忍術有りだったらすぐに縄樹君に負けてしまうかもしれないな」

「傀儡の術とか使えるのに?」

「あれは傀儡の術なんて凄い術じゃないさ。

 ちょっと糸にチャクラを流しただけ……一からチャクラで糸を作るのは今の俺には難しいよ。

 なんにしても明日もアカデミーがあるんだから、今日の疲れを明日に残さない様に今日は早く寝るんだよ?

 身体は寝ている間に成長するんだから、いっぱい寝ないと大きくなれないぞ?」

 

 

 そう言い残し無理矢理に近い形で訓練を終了させたのだが、去り際の縄樹君の納得していない様な顔が妙に頭に残った。

 


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