五枚の手裏剣が俺目掛けて飛来する。
俺は避けきれないものだけを手に持ったクナイで弾く。
「オイオイ、幾ら刃を潰してるとはいえ当たれば結構な怪我するんだけど……全く躊躇しないな。
少しはおじさんを労わってくれてもいいと思うんだけど?」
「これも信頼の内だよヨミト!
それにヨミトと訓練するのもこれで最後だから、全力で行きたいしっ!」
そう言い一気に接近してきた縄樹の上段回し蹴りが俺の横顔目掛けて放たれるが、それを腕で受け、逆に脚を払うために軸足を蹴りつけようとすると、彼は跳び上がりながらまるで独楽のように軸足で飛び後ろ回し蹴りをガードした腕に当て、インパクトの瞬間に押すように蹴ることで距離を取る。
組手を始めてからまだ五分ほどしか経過していないが、何故組手をしているかというと……先程縄樹が言ったように俺との訓練が今回で終わりだから、締めとして全力で組手をしているわけだ。
縄樹と訓練するのは下忍になるまでという約束だったからね。
先週アカデミーの卒業試験を終え、晴れて下忍となった彼はアカデミーだけじゃなく、俺からも卒業し、今後は班員達と手を取り合って苦難を乗り越えて行くことになるのだ。
仲間と一緒に切磋琢磨した方が競争心から伸びも良いだろうし、なによりチームワークが良くなるということは非常に大事だ。
それになにより、薄情かもしれないけれど俺は人のいるところでは本格的な訓練が出来ないから、縄樹との訓練が無くなるのは正直助かる。
綱手との約束を守り、今まで共に訓練してきたけれど、俺はあの店と共にのんびり暮らしていくことが今の目標だが、縄樹は違う。
凄い忍になって火影になるのが夢なのだ。
目指す方向が全く違う以上、道を違えるのは必然。
縄樹もそれがわかっているのだろう、下忍になったら俺との訓練が終わると聞いても、少し残念そうな顔をしただけで、文句は言わなかった。
「チャクラコントロール上手くなったね。
危うく俺の方が蹴り飛ばされるところだったよ」
「嘘吐き……ぐらついてすらいなかったくせに。
それにしてもやっぱり体術では勝てないか。
でも……これならどうだ!!」
縄樹が素早く印を組み始める。
俺はそれに合わせるように持っているクナイにチャクラを流して刃を伸ばす。
「土遁・土流槍!」
「何時の間にこんな高度な術を覚えたのやら……だけど俺に当てるには数が少ないね」
土遁・土流槍は術者の技術やチャクラ量に比例して地面から出現する槍の数は増えるって本で読んだ気がする……うちの扱ってる本ってどんな術かは載っていても、印は載ってないから対策練る位しか出来ないが。
今回は縄樹がまだ未熟だったから槍が四本しか出なかったために、一本切り裂くことで退路を確保、空いた空間に身体をねじ込むことで槍を回避し、そのまま縄樹に接近する。
今俺の手に握られているのは切れ味に優れるチャクラメスの様なもの。
これでは大きな怪我を与えてしまうので、接近するのと同時にクナイを仕舞い、代わりに服の袖から一本の細い鎖を取り出す。
この鎖は店に仕込んでる二つ目のからくりに使われているものよりも細く、糸とまでは言わないが決して太いとは言えないものだ。
これを使っている理由は鞭代わりにもなるし、なにより使い慣れている糸に似ているから操りやすいって言うのが一番だからである。
チャクラを流し込んだ鎖が縄樹を捕らえるために、まるで蛇の様な動きで縄樹へと接近する。
「相変わらず気持ち悪い動き……爬虫類苦手なのに」
「そうか、でもこんなので気落ちしてたら、もっと気持ち悪い動きする敵と遭遇したらどうするんだ?
苦手なら克服しておいた方がいい」
もしかしたら大蛇丸みたいな敵が出てくるかもしれないしね。
それにしても普通に避けられるな。
結構な速さで動かしているんだが、まるで踊るように躱すから自信をなくしそうだ。
しかも避けながら俺に向かって手裏剣飛ばしてくるから、あんまり気も抜けない。
「さっきの術は結構自信あったんだけどなぁ。
じゃあ今度はこれだ、影分身の術!」
「……ホント何処で覚えてくるのやら」
「アカデミーじゃあ教えてくれないけど、授業終わった後に先生と特訓してるからその時に教えてもらったよ」
「(情報管理が緩いな……いや千手家の嫡男だからか?)俺も使いたいもんだよ……まぁチャクラ量的に余り数を出せそうにないけど」
「話はここら辺にして……行きますよ!」
四体の影分身体と本体での同時攻撃。
彼の体術は俺よりも劣るが、それを同時に五人にされると話は別だ。
拳と蹴撃が嵐の様に俺に襲いかかる。
それを時に躱し、時に鎖と手で受けていく。
守りに徹すれば暫くは持ちそうだが……それじゃあ面白くないな。
俺は先程鎖を出した方とは逆の袖からもう一本の鎖を取り出す。
「二本目!?」
「俺は一本しか使えないなんて言ったことはないと思うけどね。
これで俺の手数は増えた……さぁ反撃の時間だ」
二本の鎖を鞭の様に振るい、それに当たった二体の影分身が消える。
それを見た縄樹は先程までの波状攻撃を一旦止め、二体の影分身を自身の近くに呼び寄せ、死角からの攻撃に備えているようだ。
だが人の腕とは違い、鞭には関節と言うものが存在しない分動きが読み難い。
俺との訓練で一本までなら反応出来る様になったけれど、二本となると話は変わる。
一体に二本の鎖で攻撃、残りの二人には手裏剣で牽制。
それを繰り返すことで残るのはチャクラが殆ど残っていない縄樹ただ一人。
「チェックメイトだよ」
「ま、まだ終わってない!」
破れかぶれに突進してきた縄樹だったが、既に二本の鎖を解放している俺に接近するには技術とスピードが足りない。
彼を鎖で捉え、雁字搦めで身動きを封じ、そんな彼にそっとクナイを当てる。
「俺の勝ちだね……でも本当に強くなった。
比べる対象である俺自身の実力を人と比べた事が無いからどのくらい強くなったか分からないけどね」
「負けたのに強くなったとか言われてもあんまり嬉しくない……でもありがとう」
「さて、これで訓練は終わり。
もう来週から俺は来ないけど、店には何時でも来て良いし、なにか俺に出来ることがあれば出来る限り手を貸すよ」
「それが戦闘に関する事でも?」
「………それは出来れば止めてほしいなぁ」
「なんてね、分かってるよ。
ヨミトは唯の古本屋だもんね」
彼には何度か俺は自衛手段として鍛えているのであり、出来れば戦闘は避ける方向で行きたいと言っていたからそれを覚えていたのだろう。
苦笑しながら縄樹はそう言い、俺と縄樹の最後の訓練は和やかに幕を閉じた。