忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第25話 不安

 縄樹が下忍になって早二年。

 綱手は上忍になってから中々店に来なくなったけど、代わりに縄樹とカツユの来店率が大分増えた。

 カツユの話を聞く限り、噂の彼と良い感じの関係になってきているとかいないとか……来るたびにカツユは嬉しそうに進展を報告していくから、今度綱手が来た時それをネタに少し弄ろうと思っている。

 そして縄樹は、かつての綱手の様に店に来ては軽く愚痴を言っていく。

 まぁ基本的に任務の内容に対する愚痴が多いんだけど、任務であったいい事とかも話しに来るから愚痴だけってわけじゃないし、本も買っていってくれるから普通に上客だ。

 そんな事を考えていると店先に人影が一つ。

 噂をすれば影、任務終わりっぽい縄樹が来たようだ。

 

 

「繁盛してる?……って相変わらず閑古鳥鳴いてるなぁ」

「余計なお世話だよ……任務の帰りかい?

 服が結構汚れてるみたいだけど」

「そうなんだよ! 今日の任務も酷くて、普通に畑の手伝いだったんだぜ?

 忍者って何なんだろうって三回位自問自答した位だよ」

 

 

 縄樹はまだ下忍だから回される任務が雑用に等しいんだけど、今日もそんな感じだったようだ。

 俺としては危険もなくて良いと思うんだけど、自分の力を試したいという彼の気持ちもわからないでもない……まだ若いしね。

 ただこの世界で引き際を間違えると普通に死ぬし、ただでさえ危険なイベントが起こる事を知っているから、自分から厄介事に突撃するほど俺はマゾヒストじゃない。

 

 

「でも次の任務は今までとは違うんだ……なんていったって護衛任務だからな!」

「アレ? 護衛任務って下忍でも受けられるんだったっけ?」

 

 

 ナルトも下忍の時に受けてたけど、あれは三代目に直訴して渋々受けさせてもらった任務だったはず……縄樹はそれだけ期待されてるのか?

 詳しく聞いてみると戦闘が起こる可能性が非常に低く、尚且つ友好のある里への物資輸送に付き添うだけの簡単な仕事らしい。

 それでも今は戦争中だから里の外に出るってことは、いつ戦闘に巻き込まれてもおかしくない。

 もし上忍以上の戦闘に巻き込まれれば死は免れないだろう……ナルトが霧隠れの鬼人や血継限界持ちと戦闘になりつつも生還、勝利したのは優秀な上忍と異常に高い能力を持った二人の下忍の存在があってこその任務成功だ。

 まぁ縄樹の受けた任務は忍との戦闘が含まれない護衛任務だから、あそこまで厳しくないだろうけど、護衛と言うからには危険は零ではない。

 なら一時共に訓練した仲だし、餞別位渡してもいいだろう。

 俺はカウンターの引き出しから一本のクナイを取りだした。

 

 

「話は分かった……流石に任務を手伝うことは出来ないけど、確か今日誕生日だっただろ? それに合わせて餞別をあげよう」

「ありがとう! クナイや手裏剣は消費が激しくて普通に助かる」

「喜んでもらえて何より……でもそのクナイ普通のクナイじゃないんだ。

 持ち手のところにある突起を握りこんでみてくれるかい?」

 

 

 縄樹は俺の言う通り俺が渡したクナイを握り締める……するとクナイの刃が1.5倍ほどの長さに伸びた。

 彼はそのギミックに少し驚いた様だ。

 俺が渡したのは俺が自分のために特注で作ってもらったクナイ。

 戦闘の際に自分の武器の攻撃範囲を変化させ、相手の虚を突く厭らしい武器『特殊クナイ一型』である。

 他にもクナイに返しが付いて一度刺さると抜け難い『特殊クナイ二型』や、鋸状の刃を持つ『特殊クナイ三型』などがあるが、一型は少し多めに注文してしまったがために幾つか余っていたので、どうせならと縄樹に渡した所存だ。

 クナイを色々と弄り回している縄樹に机の引き出しからもう一つ、きんちゃく袋を取り出して手渡す。

 

 

「これも持っていくといい。

 これは俺が調合した痛み止めの様なもので、短い時間だけど痛覚を麻痺させることが出来る丸薬なんだ」

「それは凄い! でもそんな凄いものをただでもらっていいの?」

「確かに材料が特殊だから数は余り作れないけど、今のところ俺に使う予定は無いから気にしなくてもいいさ。

 それにストックが無いわけでもないしね」

 

 

 10年もいれば流石に色々なものを手に入れる位は出来るようになる。

 医療忍者になるための教科書の様なものや、客を通したちょっとしたコネなんかが一つの例だ。

 そういったものを最大限に生かして、尚且つ倉庫に眠っているそれなりに珍しい本を引っ張り出しながら試行錯誤して作った麻酔もどきがコレだ。

 コレを作ろうと思ったのは、この世界って医療忍術は多少あっても医療技術はそれほど発達しておらず、痛みは根性でカバー的な考え方を持つ人が多いために麻酔技術が殆ど進歩していないからだ。

 一応人体の構造については本が擦り切れる程読んだから応急処置位は出来るけれど、それが自分自身の治療だと話は変わる。

 痛みは集中力を削ぐ天敵。

 正確な治療が出来ないまま失血死なんてことになったら目も当てられない。

 なら痛みを消した状態で動ける薬を作ればいいじゃない!ってことで、薬草と毒草を図鑑片手に採取・調合・実験を繰り返した。

 流石に初めての事ばかりだったから苦労も大きかったけど、ある程度納得できるものが作れてよかったと思う。

 縄樹がコレを治療とか応急措置に使うかどうかは分からないけど、あって損があるものでもないだろうから上手く活用して欲しいものだ。

 

 

「そっか……ちょっと聞きたいんだけど、これ副作用とかは?」

「ない……と言いたいところだけど、残念ながらある。

 一つにつき三分間効くんだけど、使用後は効果時間と同じだけ痛覚が鋭敏になるから使いどころは気をつけて」

 

 

 俺が初めてコレを使った時に脛を小槌で叩いたりして本当に痛覚が無くなっているかどうか試したんだけど、この時点では効果時間がはっきりしていなかったから何度も叩いている内に効果時間が切れて、蓄積された鈍痛と最後の一撃の痛みが2~3倍に増幅されて襲いかかってきた。

 もちろんそんなものを耐えられるわけもなく、恥も外聞もなく大声で叫びながらゴロゴロと転がったのは俺だけの秘密。

 縄樹は使用後に痛覚が鋭敏になるという話を聞いて少し考え込んだが、非常時に使うのならばかなり役立つと割り切ったのだろう、「いざという時に使うよ」と言って懐に袋を仕舞った。

 そんな彼を見てシリアス過ぎる空気を感じ、場を和ませるために話題を変える。

 

 

「ところでその首に掛かっているものは?」

「これ? コレは姉ちゃんが朝誕生日プレゼントだってくれたんだ!

 良いだろ~、これは………」

 

 

 まるで不安を隠すかの様に、テンションを上げて馬鹿な話をし続ける俺と縄樹。

 その後縄樹が帰るまで、妙な胸騒ぎが止まらなかった。

 いや……帰った後も何故か縄樹の首に掛ったネックレスが頭から離れない。

 綱手……プレゼント……首飾り……俺は重大な何かを忘れている気がする。

 結局その日一日寝るまで考え続けたが思い出せず、その危機感はそのまま緩やかに記憶の奥底に埋没していった。

 しかしその事に後悔するのはすぐ後のこと……翌日に事が全て終わってしまった後だった。

 


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