忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第31話 子供は子供らしく

 何気ない日常の一幕、朝起きて先ずは朝食を用意する……最近は和食よりも洋食が多いために用意が楽でいいんだけど、ちょっと困ったことに「これ、ヤ!」と野菜を食べようとしないお姫様が家にいるからメニューを考えるのが面倒なんだよ。

 綱手が家にシズネを連れてきてから早一ヶ月。

 最初は警戒されてたみたいで、まるで借りてきた猫のように静かだったんだけど、一週間位で子供特有のやんちゃっぷりを発揮し始めた。

 家の中を走り回ったり、本棚を登ろうとしたり、本を積み木のように使い始めたりと実害こそ無いものの中々気が休まらない生活が続いてるのが現状だ。

 まぁ店の中では暴れないし、本を破ったりもしないから怒りはしないけど、怪我をしそうなことをしたときは軽く注意するとやらなくなるから、可愛いものなんだけどね。

 好き嫌いに関しては言っても直らないんだけど、これはこの子の両親が何とかすることを期待する……俺はあくまで一時的に預かってるだけだからな。

 でも作るからには残して欲しくないわけで……。

 

 

「ヤ!じゃなくて食べなさい、身体に良いんだから」

「ヤ! 苦い!」

「マヨネーズ掛けてるからあんまり苦くないよ?

 ほら一口だけでも良いから、はいアーン」

「ヤ!!「今だ!」ングッ!?」

「吐き出したらデザートは無しだからね」

「ウゥ~~にぎゃい……」

 

 

 涙目になりながらも食後のデザート食べたさに必死にピーマンを咀嚼するシズネを見て、癒されつつも、俺も朝食を口に入れる。

 うん、今日も微妙だな!

 卵焼きになる予定だったスクランブルエッグとサラダ、少し焦げたパンに濃いめのコーンスープ。

 不味くはないけど、特段美味しくもないという無難な味に料理の難しさを改めて感じつつ、食器の中身を空にしていく。

 結果シズネよりも大分早く食事を終えることになったので、デザートの準備に取りかかる。

 準備とは言っても冷蔵庫から出すだけなんだけど、ふと背後に気配を感じて振り返るとそこには目を輝かせながら立っているシズネの姿があった。

 手に持ったスプーンをがっしりと握り、デザートはまだかと催促しているらしい。

 俺はそんな姿に苦笑しつつ、冷蔵庫から二つのプリンを取り出す。

 このプリンは実は俺が作った物で空気が入っていたり、少し堅めだったりする代物だが、味は普通なので一人でいたときにも偶に作って食べてたんだよね。

 で、何故シズネがここまでこれを楽しみにしているかと言えば、話は三日前に遡る。

丁度三日前の朝食にこれを出したらシズネは気に入り、「これ好き、明日ある?」と聞いてきたので、明日は無理だけど偶に作ってあげると約束したからだろう。

 プリンの器に目が釘付けになっているシズネを引き連れてテーブルに戻ると、直接シズネにプリンを手渡してあげる。

 まるで壊れ物を受け取るようにそれを受け取るとすぐに手に持ったスプーンで一掬い。

 そのままゆっくりと口の中へ……口の中で転がすように食べている様だ。

 十秒ほど転がした後喉が小さく鳴った。

 

 

「あまあま♪」

「そっか、それはなにより……さてと、俺も食うか」

 

 

 スプーンを入れてみると少し鬆が入ってしまっているが堅さは丁度良い。

 俺は少しずつ食べるよりも大目に口に入れて味わう方が好きなので、一口で四分の一ほど掬い口に含む。

 味は少し甘みが強いけれど許容範囲内、点数で言えば70点くらいかな。

 決して量が多いわけではないのでプリンは瞬く間に減っていく。

 カラメルは少し苦みが足りなかったが、それが逆に良かったのかシズネは終始幸せそうに食べていた。

 カラメルまで綺麗に食べきった俺とシズネは両手を合わせて「ごちそうさま」をし、食器を台所に下げる。

 食事を終えて少し休んだ後、俺とシズネは店へ向かう。

 何故シズネも連れて行くのかって?

 そりゃあ家に置いていっても暫くしたら店の方に来るからだよ……寂しいのか、一人でいるのが怖いのかは分からないけど、どっちにしろ来るんなら最初から連れて行っても変わらないだろ。

 それに俺の真似をしているのか、客が来ないときは普通に俺の横に持ってきた小さな椅子に座って絵本を開いてるだけだから何も問題ないしな。

 ちなみに客が来た時は「いっしゃ~ませ~」と挨拶するから客からは「可愛い看板娘雇ったな」とか「子供いたのか!?」とか「このロリコンめ!!」とか「飴あげるから俺のことをお兄ちゃんって呼んでくれ」とか言われる……後半二人は縛って店の外にぶん投げた。

 何にしてもシズネがこの店の客に好意的に思われているのは紛れもない事実なわけだ……たとえ世界が変わろうとも可愛いは正義なんだな。

 

 

 店番を始めて二時間程が経過した。

 シズネは少し眠たくなってきたのか偶に船を漕いでいる。

 これもいつものことで、前に何度か「眠たいなら家で寝ててもいいんだよ?」と言ってるんだが、毎回目をこすりながら首を横に振るので、家に戻って寝るのが駄目ならここで寝れるようにしてしまえばいいじゃないと、背もたれの角度を調節できる椅子に換えてやり、今では普通にここで昼寝をするようになってしまった。

 別にいいんだけど、偶に魘されながら何かを探すように手を動かすのが少し困る。

 正直どうすればいいのか分からないから、いつもその小さな手をやんわりと握ってるんだがこれで良いんだろうか?

 一応寝息が穏やかになるから間違ってはいないと思いたいんだけど……どうなんだろ。

 それにしても何で魘されるんだろうか?

 やっぱり両親と離ればなれなのが原因なんだろうか……多分そうだよな。

 まだ四歳にもなってない幼児が親と離れ離れになれば不安も大きいだろう。

 既に一ヶ月、まだシズネの両親も綱手達も戻ってこない。

 この子はいつまで我慢すれば良いんだろう?

 両親に会いたいと騒ぎもせず、眠っているときだけ静かに寂しさを訴えるこの子に俺が出来ることはそう多くない。

 

 

「もう少し甘えても良いんだぞ?

 伊達に歳食ってないんだから」

 

 

 空いている方の手で頭を軽く撫で、両親代わりとまでは言わないが此処に居る間この子が寂しい思いをさせない様にしようと心に決め、片手での読書に戻るのだった。

 


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