忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第32話 動揺

 シズネの両親が仕事から戻ってきました。

 それに伴いシズネが家に帰ることになったんだが、「もう少しここに居たい」と向かえにきた両親に言っていたから、それなりに懐いてくれていたんだと思う。

 彼女の両親もその事が分かったのか、帰り際に俺の耳元で「もしかしたらまたお願いすることがあるかもしれませんが、その時は宜しくお願いします」と囁いていった。

 俺が返事をする前にサッと距離を取ったので断ることが出来なかったが、まぁ久しぶりに長い時間人と関われて少なからず俺の精神が癒された様だから、たまには良いかなと思い首を縦に振ってその返事とし、こちらに手を振り続けているシズネに手を振り返す。

 暫くして姿が見えなくなると俺は店の中へ戻り、いつも通り店番をし始めた。

 いつも横に居た招き猫代わりのあの子がいないカウンターは少しだけ広く感じたが、一週間もするとそれにも慣れ、最近は綱手は今頃何処で何をしているのかな?と気にする毎日。

 たがだか数ヶ月会わないだけで心配になることなんて今まで無かったけれど、今回は嫌な予感が無くならない……一体俺は何が気になっているんだろうか?

 その原因が分かったのはシズネが家に帰ってから一週間ほど経ったある日、偶に来る一人の客との会話が発端だった。

 

 

「あれ? 看板娘今日はいないのか?」

「看板娘ってシズネちゃんのことかい?

 あの子なら一時的に預かってただけで、今は家に帰ったよ」

「なんだよぉ、折角あの子にこれをあげようと思ったのに」

 

 

 そう言ってポケットから個包装された飴玉のような物を出す客に俺は小さくため息をついた。

 この客はシズネがここに来る前から偶に来る客だが、話し好きで何も買わず俺と話して帰るということも多いため正直あまり嬉しくない客なわけだが、シズネがここに来てからは来る頻度が上がり、来る度に出張先で手に入れたお菓子をもってきたりしてあの子にあげていた。

 まぁ別に彼に特殊な性癖があるわけではない様なので放って置いたが、せめて一冊でも良いからここに来たなら商品を見るなり、買うなりしろと言いたい。

 今回もあの子目当てで来たんだろうが、肝心なシズネが居なくて意気消沈と言ったところだろう。

 だがこの男は切り替えが早く、多少落ち込んだところで次の瞬間ケロッとしていることはザラである。

 今も既に飴をポケットに戻し、気持ちを切り替えて俺と話すことにしたようだ。

 

 

「まぁ残念だけど居ないならしょうがない。

 ところで話は変わるけど、おっちゃんは知ってるか?」

「うん、先ず俺をおっちゃんって呼ばないでくれるかな。

 俺としてはまだ若いつもりなんだから」

「あぁゴメンゴメン、で知ってる?」

「いや、何の話だい?」

「だからぁ、久しぶりに大規模な戦闘があったって話だよ

 あの三忍の一人で千手家でもある綱手様も参加したって話だったけど、その綱手様の友達? いや彼氏だったかな?が亡くなったらし「ダン君が!?」……知り合いだったのか?」

「一度だけ話したことがある程度の仲だけど……ダン君は綱手様の彼氏であり、シズネの叔父にあたる人だよ」

 

 

 俺が彼と話したのはシズネを家に預けに来たときにほんの数分だけ。

 だがその短い時間でも多少の人となりは知れる。

 少し子供っぽいところもあるが、礼儀知らずではなく……なにより気の良い青年だった。

 彼にならきっと綱手を幸せに出来るだろうと思えるほどに、俺は彼が綱手と付き合っていることに納得できたんだ。

 娘を嫁にやる親の気分とまでは言わないが、それに近い気持ちすら抱いて「綱手を宜しく頼む」と言うほどに俺は彼を気に入っていた。

 そんな彼が死んだ?

 その事実を受け入れるまで俺は数秒の時を要した。

 そして事実を脳が受け入れたと同時に、綱手が心配になった。

 正直ダン君の死にショックは受けているが、彼も木ノ葉の忍者。

 常に死の危険は傍らにあったのだ。

 それに気に入ったとはいえ、あくまでそれは初対面にしてはという話。

 俺自身の友人というわけでは無いのでそこまでショックは大きくなかった。

 だが綱手は別だ……彼女にとってダン君は精神的な支えであり、生涯を供に過ごすつもりだった相手だ。

 そのショックの大きさは縄樹が死んだときに匹敵するかも知れない。

 しかも今度は身近での死……同じ任務を受けている中でその命が尽きたのだ。

 今彼女はどれほど心に傷を負っているだろう?

 思えば原作の綱手は独身……そして話の中でも何かが原因でトラウマが出来たとかいう設定があった様な気がする。

 この十数年で原作の知識はかなりぼやけ、何とか記憶に残っているのも自分の命に直結するであろう危険人物と危険な事件だけ。

 もし俺がもっとNARUTOを読み込んでいれば、もしあの時ダメ元で助言していればこの結末は変わっただろうか?

 IFの話をしてもしょうがないとは俺も分かっているが、どうしても考えてしまう。

 自分自身への呆れ、怒り、嘲り……きっとそれが顔にも出ていたのだろう。

 先程まで饒舌だった男が静かに俺に話しかけてきた。

 

 

「おっちゃん……俺たち忍者はどうしても仕事柄何時死んでもおかしくないんだ。

 ましてや今は戦時中。

 死は何処にでも転がってる」

「それは分かってる……でも俺は納得できないんだ!

 もし俺があの時「もし、たら、ればは止めた方が良い」っ!」

「もしあの時こうしていれば?

 そんなの今更どうしようもないだろ。

 別に過去を振り返るなとは言わないが、過去に縛られるのは今と未来に悪い影響を与えるぜ?」

「じゃあどうしろって言うんだ!!」

「先ず落ち着け……で落ち着いたら今自分に出来ることを考えればいい。

 ダンって奴の冥福を祈るのも良いし、シズネちゃんを慰めに行くのも良い。

 とりあえず飯を食うのだって一つの手だ。

 おっちゃんだって無駄に歳食ったわけじゃないだろ?

 まずは冷静になってこれからどうするのが最善か考えるのが良いと俺は思うけどな」

「でも!………いや、そうだね。

 取り乱して済まなかった」

 

 

 一先ず俺は大きく深呼吸をし、荒れた精神を収める。

 暫くすると胸中に燻る物があるが、なんとか落ち着いてきた。

 それが分かったのか男は首を小さく縦に振り、「落ち着いたみたいだし、考え事するには一人の方が良いだろ?」と言い残して店を出ていこうとする。

 しかしダン君の死を教えてもらい、そして錯乱気味だった俺を落ち着かせてくれた相手をそのまま帰すのは良くないだろう。

 俺は彼の背中に声を掛ける。

 

 

「今日はありがとう……次来た時に飯でも奢るよ」

「それはありがてぇ……でも甘味の方が嬉しいな。

 俺は甘党だからな!」

 

 

 そう言って彼は親指を立てると瞬身の術を使って店を出ていった。

 俺は彼が出て行ってすぐ店を閉め、その日一日悩んで一つ大きな決断をした。

 俺が今しなくてはいけないこと……シズネを慰めること? それはあの子の両親に任せておこう。

 じゃあなにをすればいい……それは今まで一度も手を出さなかった一つの実験、墓地蘇生系魔法及び罠の使用実験だ。

 


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