忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第38話 嘘と方便

 黙っていても状況は悪化するだけで好転はしない……とりあえず三代目の質問に答えないと。

 でもどうする? 正直に戦える事が知られて戦に出されたくないからって答えるか……否、それは下策。

 この里に住むからには戦える人はお国万歳の精神で大戦に参加するのが一般的。

 流石に赤紙とかが来るわけじゃないが、死ぬのが嫌だとかいう理由で拒否すると下手すると村八分になりかねない(前に三代目には一度言って納得してもらえたが、里の民全員がそう思うかは別問題だし)。

 じゃあ嘘で誤魔化す……これも下策。

 この状況でこれ以上嘘を重ねるとスパイと思われる可能性が少なからずある。

 幾ら一度は信じてもらえたとは言え、多分此処には三代目以外にも忍者がいるだろう。

 その人は恐らく俺が嘘をついていると分かった瞬間に敵対するはず……俺の戦力が未知数であるためにいきなり殺しにかかってくる可能性すらある。

 よって今の最善は本当の事を話しつつ、それに嘘を織り交ぜること。

 

 

「……そうですね、確かに俺はこの子を襲おうとしたやたらと大きな蛇を倒しました。

 彼女が言っているのはその蛇の事でしょう」

「何故その事を隠そうとした?」

「今回の件で俺が割と戦えると知られれば忍者になって里のために戦えと言う人も出てくるでしょう?

 それを避けるために戦った事をなかった事にしようと思ったのです。

 それに以前火影様にお話しした通り俺は荒事が苦手です。

 今回の事にしても知り合いじゃなければ他の人に任せたでしょう」

 

 

 俺の言葉を聞いてシズネの父親は驚き、三代目は顔を顰めた。

 正直に話しすぎたか……でもコレが正直な気持ちだ。

 見知らぬ人のために命張るほど善人じゃないし、気に入らない人を守るのは気が乗らない。

 だから俺は自分が使いたい時にしか力を使わないし、頼られたくないから基本的に人前じゃ使わない。

 自分勝手だと思われるかもしれないけど、犯罪をするわけではないし、気に入らないからといってすぐ力を行使することもないのだから問題ないと思う。

 

 

「お前の言い分は分かったし、納得はいかんが荒事を避けたいと言うお前の気持ちも分からんでもない……しかしならば何故お前は過度に鍛えている?

 荒事に関わる気が無いのならそこまで鍛える必要もあるまい」

「それは忍者以外は有事の際に何の抵抗もせずにされるがままにしろと言う事ですか?」

「そうとは言っていないだろう!

 お前の様に過度の重りを身に付け、店でも暇があれば印を組む練習をする必要は無いだろうと言っているのだ!!」

 

 

 心外だったのか少し怒らせた様だ……でも意外と見られてるんだな。

 でも過度の重りって言ったって地面に落としても石畳に罅が入るか入らないか位の重りだよ?

 それに印を組む練習は確かに未だに続けているけど、だからと言って高度な術が使えるようにはなってない……だって教えてくれる人がいないからね!!

 だから未だに俺の使える術はアカデミーの教科書に載っている術と印を使わなくてもできるものに限られる。

 おかげでチャクラメスとかチャクラ糸とかは上達したんだけどそれは別に言う必要は無いので言わない。

 

 

「ですが戦時中の今、いつ襲われるか分かりませんから自分の身を守るだけの力は欲しいですし、印もその一環ですね……凄い術とか使えませんけど」

「……それを信じるとして、じゃあ大蛇はどうやって倒したんだ?

 部下の報告を聞けば死骸は獣に喰われていて何が死因かは分からなかったらしいが、木よりも大きい大蛇を忍術を使わずに倒した方法はなんだ?」

「倒せるものを呼びました」

「それはどういう意味だ?」

「口寄せの術で倒せるものを呼び出しました」

 

 

 武具口寄せというものを原作で使っていた人もいることだし、コレなら割と何でも許される気がする。

 今回は‘死者への手向け’で出てきた彼に色々被ってもらうことにしよう。

 

 

「今それを呼ぶことは出来るか?」

「呼ぶこと自体は構いませんが、何かの命を捧げないといけません……それでも呼びますか?」

「……今用意させる」

 

 

 三代目が「鼠を用意してくれ」と虚空に言うと、三十秒もしない内にドアをノックして一人の男性が入ってきた。

 手には鼠の入った籠があり、三代目の机にそれを置くと一礼して部屋を出ていく。

 

 

「これで良いか?」

「はい……では今から呼び出しますが、火影様も此方に来てください。

 そこだと万が一のことがあるかもしれませんから」

「分かった」

 

 

 三代目が此方に来たのを確認し、俺は口寄せの印を組む。

 鼠を持ってきた人が此処を出ていった時点で魔法は発動しておいたので、そろそろ彼が出てくるはずだ。

 タイミングを見計らって指の腹を犬歯で少し切り、床に押し付けると本日二度目の登場となるミイラ男さんが現れた。

 音もなく地面から沸くように出てきた為に、場は一気に緊張が張り詰める。

 

 

「何度も呼び出してすまない、対象はあの鼠で頼む」

「ちょっと待て、アレがお前の呼び出したものなのか?!

 アレは人ではないか!」

「人であって人でないものだと、私は聞いています。

 詳しい事は知りませんが、俺が父から受け継いだもので、特に気性が激しいとかいうわけではないですが、今は俺以外の言葉には全く反応しませんし、何故か喋る事は出来ません」

「お前の父は唯の本屋だったはず……それが何故このような者を」

「理由までは知りえませんが、父はこの者をレムと呼んでおりました。

 そしてもし自分の身に危機が迫ったらコレを呼べと」

 

 

 三代目が小声で「本瓜家に忍者はいなかったが、術が使えないわけではなかったのか?」とか「人型をした何か……何処にこんな生き物が?」とか言って頭に大量の疑問符を浮かべていたが、彼が机の前に辿り着いたのを見て口を噤んだ。

 彼が蛇を殺した時と同じように、鼠に顔を近づけフゥっと息を吹きかけると鼠は鳴き声一つ上げずに死ぬ。

 そして彼は俺の方を向き、三代目をちらっと見て「次は人を頼むぞ」とばかりに意思表示して、床に沈むように消えた……やっぱカードの絵柄の様にミイラ作りたいのかな?

 彼がいなくなるのを見計らって三代目は机に近づいていき、一定の距離から鼠を観察する。

 

 

「見た目に大きな変化は無いが、息はしていないな……即効性の致死毒か。

 本瓜が言うように離れていれば問題ないと言うことは、空気に触れれば毒性が消えるということだろうな」

「これで蛇を倒した方法は納得していただけましたか?」

「そうだな、毒の性質が分からない以上何とも言えないが、此処は納得しよう。

 お前は俺の生徒である綱手が認めた相手だ。

 俺もお前を信じよう……だが最後に一つだけ答えてくれ」

「なんなりと」

「お前はこの里をどう思う?」

「気の良い人が多くて良い里だと思いますよ。

 俺の生まれ故郷ですし、荒事以外でこの里のためになる事だったら手を尽くしてもいいと思う位には好きです」

「そうか……わかった。

今日はもう帰って良い、そこの二人も同様だ。

もうこんな事が起こらないように願うぞ」

「失礼しました」

 

 

 俺は話についてこれずに呆然としているシズネの父の背を押しながら部屋を後にした。

 後ろの方で「よろしいのですか!?」「良い、アイツは得体のしれない所はあるが悪い奴じゃない」とか聞こえてきたが、聞かなかった事にして歩を進める。

 シズネが楽しそうに俺と父親の手を握っていて歩きにくいが、その笑顔を見てこれで一件落着したと改めて思い俺の顔にも少しだけ笑顔が浮かんでいた。

 


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