忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第40話 契約

 綱手が血液恐怖症になって殆どの任務を受けられなくなったらしい。

 突然家に来たカツユの言葉を聞いた時は驚いた。

 その内容に驚いたのは当たり前として、俺に話すという事に対しても驚いた。

 本来は里の忍者の弱点となり得る情報は秘匿すべき事項……「そんな重要な事を俺に話して良いのか!?」と聞くと綱手と個人的に友好を結んでいる者に対しては口外しないことを条件に話して良いと許可が出ているのだとか。

 ちなみに許可を出しているのは火影様……なんか外堀を埋めようとしているように感じるのは、俺が疑り深いのだろうか?

 まぁ今それを考えてもしょうがないのでカツユの話に引き続き耳を傾けると、綱手がそうなった原因はおそらくダン君の一件であり、もしかしすれば縄樹の事も関係あるかも知れないとのこと。

 カツユも心配で心を痛めているが、精神的な部分が原因となっているためにどうにも出来ないと涙ながらに語った。

 俺はそんなカツユが落ち着くまで背中を撫で、ハンカチで涙を拭く……少しぬるぬるしていたのは気にしない事にする。

 その後数分もしない内に落ち着いて「ふふ、みっともないところを見せてしまいましたね」とカツユは恥ずかしそうに言った……危うく人が進んではいけない道への扉を開けそうになったのはここだけの秘密。

 

 

「落ち着いたようで何より……で今日は綱手の事を知らせるためにきてくれたのかい?」

「それもあるのですが、今日の用件はもう一つあります」

「シズネちゃんの件かな?

 あれは本当に焦ったよ……もうすこし遅れていたらと思うとゾッとする」

「その件に関しては聞き及んでいますし、私もシズネ様が無事で良かったと心から思っています。

 ですがその救出方法は決して褒められたものではありません!

 忍者でもない貴方が一人で先行して助けに行くなんて……何かあったらどうするんですか!」

「でもあの時は一刻も早く動かなければいけないという思いが強くて……結果としてシズネちゃんを 無事助けられたわけだし、いいじゃないか」

「何かあってからでは遅いんです!

 私は……これ以上綱手様の大事な人にいなくなって欲しくない」

「大事な人って大げさな……俺はあくまで馴染みの店の店主って言うだけで「綱手様がそれだけの印象の方に大事な弟君を任せると思いますか!?」……」

 

 

 そんなはずが………いや、現実逃避はここまでにしよう。

 定期的にカツユが店に来始めた時も、縄樹の家庭教師を頼まれた時も、シズネを預かった時も感じていたんだ……綱手が俺に少なからず気を許していることを。

 始めて会ったときは店に来た唯の客と本屋の店主というだけの関係だった。

 しかし彼女は店に来る度に少しずつ砕けた態度を取るようになり、いつしか年の離れた友人のように接し始め、今は……あれ今は?

 今の俺は綱手にとってどういう立ち位置にいるんだ?

 

 

「ヨミトさん……綱手様は貴方が考えている以上に貴方を大事に思っておられます。

 今回の件の事を聞いたときも顔を真っ青にしながら心配しておられました。

 ダン様が亡くなって間もない事もありますが、それだけではありません。

 綱手様は初代火影の孫娘という肩書きによって友人を上手く作れませんでした……近くにいるのは媚び諂う者や綱手様を通して初代様を見るものばかり。

 そんな中で初めて出来た仲間が自来也様と大蛇丸様です。

 彼らは血筋などは気にせずに、綱手様を仲間として扱ってくれました。

 しかしあのお二方は良くも悪くも個性的で、仲良くなる切っ掛けというものがなかったのです……綱手様もどう接して良いか分からなかったというのもあったそうですが」

「昔はよく二人に対する愚痴を聞いていたから少しだけ分かるよ」

 

 

 方や熱血エロ小僧で、方や根暗天才気質少年だから綱手もさぞ困ったことだろう。

 特に後者は人との繋がりに対して重要視してないみたいだったから余計そう感じたと思う。

 俺が少し実感を込めてそう言うとカツユが予想外の食いつきをする。

 

 

「それです! それが綱手様にとって重要な分岐点になったのです!」

「え? なにが?」

「ヨミトさんが綱手様の愚痴を聞くことで綱手様の心中に渦巻いていた不平不満が発散され、彼らのことを冷静に考えることが出来るようになったのです。

 元来綱手様は勝ち気な性格ですから、その後は自来也様が破廉恥なことをすれば物理的に止め、大蛇丸様が消極的な行動をすれば力ずくで引っ張っていく様に感情のまま行動することに引け目を感じなくなりました。

 その結果少なからず以前よりは班が纏まり、自来也様は綱手様に……いえ、これは言わないでおきましょう。

 ともかくヨミトさんは綱手様を良い方向に成長させました!

 その事をなんとなく感じている綱手様はヨミトさんに感謝とより強くなった友愛を抱いているのです……これで貴方がどれほど綱手様にとって重要な人かおわかりですね?」

「えっと、はい」

「ならいいです……では口寄せ契約をしましょう」

「は? いや俺としては嬉しいけれど、なんで突然そんな話に?」

 

 

 確かに今まで何度か口寄せ契約を頼んだけど、いつも答えはチャクラ量の問題でNoだったから数年前から半分くらい諦めてたんだぞ?

 それを何故今になって……もしかして今になってチャクラ量が増えたのか!?

 

 

「ヨミトさんの疑問はもっともですが、理由は簡単です。

 貴方を守るために契約を結ぶのですから」

「俺を守る?」

「前に一度この店に火影様を恨んで押し入った人がいましたね?」

「あぁ、縄樹がいた時に来た何処かの組の組長のことかな」

「大戦が激化している今、いつまたここが襲撃されるかわからないですから……それにチャクラ量も昔に比べれば少しながら増えているので、私を呼び出して倒れる様なことにはならないでしょう」

「え、倒れる? じゃあ昔言ってた口寄せしても僅かながらチャクラが残るって言うのは……」

「いえ、あの頃でしたら確かに私を呼び出しても僅かながらにチャクラが残りましたが、私も成長期でして……」

「そう言えば前に三忍が里の中で同時に口寄せをして家を何軒か倒壊させたとか聞いたけど、あの頃より大きくなったのかい?」

「そうですね、あの頃に比べると多少大きくなってますね……ちなみに言っておきますけど、家を壊したのはあの二匹であって私は壊してませんよ?!」

 

 

 なんかあたふたしてるけど、別に壊したくて壊したわけじゃないんだろうし、怪我人もいないんならあまり問題ないと思うんだけど……倒壊した家に関しては三忍が責任を持って修理費出したらしいし。

 まぁカツユがそういうなら俺は信じるだけだ。

 伊達に長い付き合いしてないからね。

 それをそのまま言葉にするとカツユは「……貴方が蛞蝓だったら良かったのに」と謎の一言を呟いた後咳払いをして本題へと話を戻した。

 

 

「それでヨミトさん、改めて聞きます。

 貴方は私と口寄せの契約を結びたいと思いますか?」

「あぁ、俺の気持ちはあの時から変わっていない。

 迷惑を掛けるかも知れないけれど俺と契約してほしい」

「分かりました……では契約を結びましょう。

 ところでヨミトさんは口寄せの術についてどの位ご存知ですか?」

「前に何かで読んだから多少は知っているけれど、詳しい仕組みまではちょっと……」

「では簡単に説明させてもらいます」

 

 

 カツユの説明をまとめるとこうなる。

 一つ、認め合ったもの同士が互いの血を体内に取り込み、契約を結ぶ。

 一つ、契約を結んだ相手は好きな時、好きな場所に呼び出すことが出来る。

 一つ、発動するときは親指に血を塗り、印を組む事で術式が展開される。

 一つ、この術は時空間忍術で習得難易度Cランクである

 口寄せの術が時空間忍術って言うのは知っていたけれど、習得難易度Cランクだったのか……中忍クラスの術ってことだな。

 俺が今使える印を組む術はアカデミーで習う様なものしかないため、少なからず不安はある。

 しかしカツユもそれが分かっているのか「別にすぐに出来るようになれなんて言いませんから、少しずつ練習していきましょう」と言って元気づけてくれた。

 カツユが人間だったら惚れていたな……俺は気合いを入れ直して引き出しからクナイを取り出し、親指を浅く切る。

 カツユもそれに合わせて俺のクナイを触手で受け取り、自身の身体を切りつけた。

 

 

「では契約を結びましょう……っ!」

「ぐぅっ!」

 

 

 俺がカツユの傷に自分の親指の傷を合わせると、一瞬身体の中を焼けるような熱さが駆け巡り、互いの傷跡がゆっくりと治っていく。

 数秒もすると傷跡はすっかり消え、身体には先程の熱の余韻が僅かに残っている程度だった。

 

 

「これで契約は結ばれましたので、ヨミトさんはいつでも私を呼び出すことが出来ます。

 ただし一つ気を付けて欲しいことがあります。

 先に契約された綱手様が私を召喚なさっている時はヨミトさんの方には分体の方が召喚されます。

 また、ヨミトさんが私を召喚なさっているときに綱手様が召喚しようとなさると、ヨミトさんの所には分体が残され、綱手様の方に本体が召喚されますのでそこはご了承ください」

 

 

 そう言って申し訳なさそうに頭を下げるカツユに俺は「全然構わないさ、俺は基本店にいるんだから滅多に危険な目になんか遭わないしね」と明るく言い返す……実際俺が呼び出している間に綱手が危険な目にあったらと考えたら気兼ねして呼び出せそうにないから、逆に助かったくらいだ。

 その言葉で少し気持ちを持ち直したカツユといつも通り日常あったこと等を話題に日が暮れ始めるまで雑談した。


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