忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

42 / 147
第41話 結婚願望

 この世界に来てからもう23年……子供が大人になり、大人がお年寄りになる長い年月。

 俺の知り合いも例外に漏れず歳を取っている。

 綱手は二十代後半ですっかり大人になり、三代目はもう少しで五十になり火影の貫禄が出始め、シズネも今ではすっかり忍者の卵だ。

 しかし綱手は二年前のアレから徐々に任務を受けなくなり、今では三代目から直接言われた任務しか受けなくなってしまっている。

 未だに血液恐怖症が治っていないのが大きな理由だろうが……とりあえず賭け事はいけないと思うんだ俺。

 しかもなんか知らんが異様に運が悪いらしく、賭博場の影では「鴨」と呼ばれるほどに負けているんだとか……それでストレスが解消できるって言うのならいいんだけど。

 ただ医療関係の研究にはかなり真面目に取り組んでいるらしく、他国では病払いの蛞蝓綱手姫とか呼ばれているってこの間客が言っていたから、極力戦いを避けようとしているのかも知れない。

 今度カツユにそれとなく聞いてみよう。

 俺は手元にあるお冷やで喉を潤し、時間を潰すためにメニューを開こうとすると厨房から若いウェイトレスが俺が頼んだものを持ってきた。

 

 

「おまちどおさまで~す。

 こちらがご注文のカルビセットと単品のタン塩になりま~す」

「あれ、タン塩なんて俺頼んでな「シーッ! オマケなんだから素直に受け取っておいてよ!」オマケ?」

「おじさん、お母さんがホールに立ってた時から来てる人なんでしょ?

 今日は母さんの結婚記念日だから古い常連さんにはオマケしてるんだよ!」

「結婚記念日……そうか、そうだったね。

 ありがとう、しっかり味わわせてもらうよ」

「それでよろしい! それじゃおじさん、水とかご飯をおかわりしたくなったら呼んでね?

 あ、追加の注文をしてくれてもいいからね!」

 

 

 そう言ってウェイトレスはホールを慌ただしく駆けていった。

 それにしても常連か……むしろ君のお母さんの方が俺の店によく来ていたんだけどね。

 この店とは俺が店の看板を作りたいと思って情報収集ついでに飯を食いに来てからの付き合いで、特に当時ここでホールを担当していたウェイトレスは結構本を読むタイプだったらしく、よく店に来ていたので今はお友達みたいな付き合いをしている。

 そうか……彼女が何処か気の弱そうな青年と結婚してからもう二十年近くになるのか。

 何とも感慨深いもんだ。

 同い年くらいだった人が結婚して、もうこんなに大きな娘さんがいる……本当に年月が流れるのは早いなぁと、何か年寄り臭い思考をしている自分に気が付き、その思考を振り切るように肉とご飯を搔っ込んでいく。

 そのまま飯を食い終えた俺は会計の後、娘さんに「お母さんにありがとうとおめでとうって伝えてくれるかい?」と言って店を出る。

 

 

「結婚かぁ……俺もいつか結婚するんだろうか?

 でも俺の全てを話して、全てを受け入れてくれる人なんているのか?」

 

 

 歳を取らず、変な能力を持ち、仕事は客の少ない本屋の店主……Oh絶望的ぃ!

 特に歳を取らないって言うのが痛すぎる。

 いくら変化の術で見た目を変えられると言っても一日中変えられる訳じゃないし、一緒に暮らすなら隠しきれる気がしない。

 しかもバレれば人体実験ルートに行きかねないっていう何とも綱渡りな結婚生活になりそうだ……うん、無理だね!

 べ、別にいいんだけどね?! 悲しくないよ……うん、全然悲しくない。

 俺は自然と頭が下を向き、何故か突然重くなった身体を引きずって店への帰り道を進む。

 しかし下を向いて歩いていたのが悪かったのか、道の途中で子供とぶつかってしまった。

 体重差があったために俺は少し衝撃を受けただけで済んだが、子供は転んでしまったようだ。

 とりあえずここは前を向いて歩いていなかった俺に非があるし、まずは謝って子供を起こさなければ。

 

 

「ごめんね、怪我はない?」

「痛いわよ! 足擦り剥いたじゃない!!

 何処見て歩いているのよおじちゃん!」

「本当にごめんね、えっと近くにご両親はいるかな?」

「……パパが近くに居るわ」

「そっか、じゃあパパのところに案内してくれるか「いや、その必要は無い」い?」

「パパ! このおじちゃんが私のこと転ばせたの! 怒ってやって!」

「そうか……オイコラ、テメェ家の娘になにしてくれてん…………ん?」

「本当に申し訳ないです。 俺がしっかり前を向いて歩いていればこんな…………アレ?」

「「おっちゃん(みたらしさん)じゃないか!」」

 

 

 ヤクザ顔負けの脅しっぷりだった女の子の父親は、良く店に来る客だった。

 彼は少しだけ恥ずかしそうに頬を掻きながら俺の方を数度叩く。

 

 

「え、ぱ……パパ?」

「なんだよ店主、ちゃんと注意して歩いてくれよぉ。

 どうせなんか自分でドツボ嵌って、凹んでたんだろ?

 アンタはそういうネガティブなところあるからなぁ」

「ぐぅ、確かにそうだけど……だが君の娘に怪我をさせてしまって」

「どうせ家の子も前見ずに走ってたんだろうから別に良いさ。

 悪意があってぶつかったわけじゃないだろうしな」

「パパ!?」

 

 

 なんか女の子が展開について行けていないが、一先ず保護者は許してくれたようだ。

 それにしても彼はこのような事が良くある的なニュアンスで話すが、そう言うことがある度に先程の対応しているんだろうか……モンスターペアレントとまでは言わないが溺愛してるんだな。

 どちらにしても今回は俺の不注意も原因の一つであるので謝罪は大事だろう。

 

 

「そう言ってもらえると助かるよ。

 でも怪我をさせてしまったのは事実だし、この後少し時間あるかい?」

「おぅ、別に帰り道の途中だったし問題ねぇが」

「お詫びに団子でも奢るよ……お嬢ちゃんは団子好きかい?」

「え、うん……ってそうじゃなくて!」

「なんだ気前良いな! じゃあ善は急げだ、おっちゃんの気が変わらない内に行くぞアンコ!

 先に前行った店で食ってるから後で合流しようぜ!」

「自重してくれよ? あんまり金持っていないんだから」

「善処するよ」

「だからパパこれはどうぃ……え? キャーーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 相変わらず甘味と聞けば目の色が変わる男だな……というか米俵の様に娘を持って跳ぶなよ。

 はぁ……早く行かないと際限なく食うから急がないとな。

 自業自得とはいえなんか納得いかないなぁ。

 とりあえずあの子には後でもう一回謝っておこうと心に決め、俺も掛け脚で甘味処へと向かうのだった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。