忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第49話 ミナト班

 ある日の昼下がり、いつも通り客が来ない店内で読書に耽っていたが、外で話し声が聞こえ客の来訪を感じ取った俺は本にしおりを挟んで机の中にしまうと、店の扉が開いて先日会話を交わした男性と見知らぬ三人の子供が入店した。

 

 

「本瓜さん、来ちゃいました」

「歓迎しますよ、お客なんて数えられるくらいしか来ませんからね。

 で、その子達がこの間言っていた教え子達ですか?」

「えぇ、まだ付き合いは短いですが良い子達ですよ。

 さぁみんな初任務終了記念だ!

 一人一冊だけ僕が本を買ってあげるから選んでおいで」

「お、マジで!」「……はい」「やった! 先生太っ腹~!」

 

 

 三人がそれぞれ店内に散開し、欲しい本を探し始める。

 活発そうでゴーグルを付けた男の子は冒険譚とかが置いてある棚へ、白い髪で落ち着いた印象がある男の子は辞典等が置いてある棚へ、そして紅一点である頬に紫の化粧を施した女の子はファッション関係の本が置いてある棚へと向かい、波風ミナトは本棚へと向かわずにカウンターに寄りかかった。

 

 

「波風さんは見ないんですか?

 少し位ならおまけしますよ?」

「本を探すときはじっくり吟味して探すから一人で来たときにします。

 今日はみんなが主役って事で」

「そうですか……ところで初任務がどうとかって言っていましたけど、任務の帰りなんですか?」

「一応そうですね……ま、ただのペット探しだったんでみんなは不満だったみたいですけど」

「あ~、下忍の内はそういう任務ばかりだって言いますしね。

 戦時中は違いますけど、戦いなんて無いに越したことありませんから良いことじゃないですか」

「確かに戦いは無い方がいいですね……ただ忍者になった以上戦いを避けることは難しい。

 ましてや大戦が近いこの時期となると余計に」

「……近いんですか?」

「他国の動きに不穏なものが多いので、おそらく三年以内に開戦すると俺は考えています」

「そうですか、ならそれまでにあの子達が命を落とさぬように鍛えてあげなければいけませんね」

「言われるまでもないですよ、僕もあの子達を死なせたくありませんからね」

 

 

 そう言って苦笑する波風ミナトだったが、その目は炎を内包したような熱い思いが見え隠れしていた。

 伝わってくる意志の強さに若干気圧されたが、店内に響く子供の声で我に返る。

 

 

「あんた達いい加減にしなさいよ!」

「止めんなリン、俺は一発コイツを殴んなきゃ気が済まねぇ!」

「じゃあ殴りかかればいいだろ……まぁお前程度の拳速で俺を殴れるとは思えないがな」

「カカシ君!」

「上等じゃねぇか、吠え面かくなよ白髪野郎!」

「オビトも落ち着いて!! もう先生どうにかしてください!!」

 

 

 子供は風の子元気な子……って言うけどそれを店の中で発揮するのは止めて欲しい。

 今店の中には三人の子供と保護者が一人いるわけだが、その保護者は微笑んでいるだけで暴れる子供達を止める気配がない。

 客とは言え怒鳴りつけてやりたい所だけど、とりあえずは保護者に一言苦言を呈す。

 

 

「……うちは本屋であって遊技場じゃないんですが?」

「あの子達も流石に商品に傷を付けたりはしませんよ。

 少しばかり埃が舞うかも知れませんが」

「それが嫌なんですよ、ここは俺一人でやっている店だからね。

 掃除するのも一苦労なんだ」

「あぁそうでしたか、そこまでは思い至りませんでした。

 ですがそれならどうして本瓜さんはあの子達を止めなかったんですか?」

「ただの本屋に子供とはいえ、忍者を止める事なんて出来ませんよ」

「ただの本屋には仕込み絡繰りなんてないはずですけどね」

「……何のことかな?」

 

 

 おいおい、見ただけで分かったのかよ……今まで初見で仕掛けに気付いた人なんていなかったぞ?

 やっぱり警戒はしておいた方が良いなこの人。

 俺は変わらず穏やかな顔をしている波風ミナトに対する警戒レベルを引き上げた。

 

 

「隠さなくてもいいですよ、別にどうかしようってわけじゃないですしね。

 ただ単純に不思議に思ったんですよ。

 何故本瓜さんはそれだけの身体能力があって、尚かつこんなに厳重な警備体制を敷いているのに何処か不安を抱えながら暮らしているのかって」

「その答えは簡単……未来が未知だからだよ。

 突然自分の想像を超えた事態が起こって自分が死ぬかも知れない。

 しかしその時後半歩動ければ死なないで済むかも知れない。

 俺はその半歩のために今も鍛えているんだ……いくらやっても不安を完全には消せないけれど、やらなければもっと不安になる。

 簡単に言うなら弱虫だからって言うのが答えになるのかな?」

「そんな人は弱虫って言いませんけどね」

 

 

 困ったように笑いながら頬を書く彼は俺に視線を向ける。

 まぁ、別に俺が弱虫だろうがそうじゃなかろうが大した問題じゃない。

 問題は何故俺が鍛えていることが分かったかってことだ。

 

 

「ところで……仕込みについては見抜かれても納得は出来るけど、身体能力については誰かに聞いたのかな?」

「いえ? 僕の知り合いに貴方に似たリストバンドをしている人を知っているのでそこから……ね。

 それにさっき机に軽く腕をぶつけたときに鈍い音が鳴っていたのを聞いて確信したよ。

 普通のリストバンドじゃそんな音ならないしね」

 

 

 うわぁ完全に俺の不注意っていう……にしてもこのリストバンドもそろそろ買い換え時だな。

 この重さじゃあんまり苦にならないし、何よりすり切れて中から重りが落ちてきたら危ない。

 微妙に出費が増えることにため息を吐きつつ、今だヒートアップを続ける子供達に目を向ける。

 ……微妙に一触即発臭い雰囲気を醸し出している様だ。

 先程止めたきゃ自分で止めろみたいな事を言われたが、万引きや強盗以外に仕掛けを使うつもりは無いので、保護者に目で「とっとと止めて来ないと出禁にするぞ」と伝える。

 それが伝わったのか、彼は小さくため息をついてゆっくりと喧嘩の仲裁へ向かった。

 その御陰で店内で殴り合いは起こらなかったが、聞いていた限り後日試合を行うんだとか……にしてもあの白髪の子あの歳で中忍って凄いな。

 カカシってどっかで聞いたことあるような気がするが、白髪で生意気なキャラなんて記憶に無いから何とも言えない。

 結局その後子供達は普通に一冊ずつ本を選んで店を後にした。

 それに合わせて波風ミナトも普通に店を出ていったが、去り際に小声で「何時か組み手でもしましょう」とか言ってきたのは完全に聞かなかったことにしようと思う。

 


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