忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第52話 提案

 開戦から四年……戦いは終わり、木の葉に再び平和が訪れた。

 沢山の犠牲者が出た凄惨な戦争だったが、遂に戦争は終わったのだ。

 ただ俺の身近にも犠牲者がいるので表だって喜ぶことは出来ない。

 偶に店に来ていた子が一人戦死、他にも常連客が怪我をしたりとまだ戦争の傷跡は残っている。

 しかしいいニュースも零ではない。

 例えば四代目火影に波風ミナトが就任したこと。

 三忍の一人である大蛇丸も立候補していたようだが、万人に人気がある人物じゃないためか惜しくも落選していた。

 その事で彼を慕うアンコが少し落ち込んでいたが、里の殆どの人は沸いた。

 人柄も良く、実力も申し分ない新たな火影。

 四代目には奥さんがいるとのことで、女性陣は大分残念がっていたがそれ以外には不満らしい不満が出ないという程の慕われっぷりに、俺は若干引いていたりする。

 火影になる前までは偶に店に来ていたことは普通の人なら歓喜するべき事なんだろうけど、明らかに俺を探っていたっぽいし、何より微かに漂う腹黒臭が俺はどうも苦手だった。

 悪い人では無いと思うんだが、脛に傷ある身……とまではいかないまでも、探られたくない事が少なからずある俺としては厄介者以外の何者でもないわけだ。

 流石に火影になってからは直接店に来ることは無くなったが、彼が来ていたと言う噂が立ち新規の客が入るようになったことには少し感謝している。

 後地味に三代目も良く来るようになった。

 火影の座を退いて少し時間が取れるようになったのだろう……他にも理由はありそうだが、深入りするつもりは無いので聞く気はない。

 俺の周りの変化なんてこの程度だ。

 他に上げるとするなら砂隠れの里と同盟を結んだお蔭で、砂隠れからの客が少し増えた位だろう。

 

 

「で、お主は何時になったら儂の話を聞く様になるのかの?」

「貴方が俺の変化を解こうとしなくなったらですよ、三代目火影様」

「儂はお主が不老であることを知っているのだから別にかまわんじゃろ。

 お主だってずっと変化したままだと疲れるだろう」

「慣れてますので」

「頑固じゃのぅ……まぁいいわい。

 今日はそんな話しに来た訳じゃないしの。

 本題に入ることにしよう」

「どうせまた忍者にならないかって言う話でしょう?

 何度も言ってるじゃないですか、嫌ですって」

 

 

 三代目がまた店に来るようになってから、俺はほぼ毎回忍者にならないかと誘われている。

 その度にハッキリ断っているんだが全く諦める事がないその姿勢には頭が下がるが、だからといって忍者になるつもりは微塵もないのでこの話題は常に平行線だ。

 

 

「はぁ……今日も駄目か。

 いい加減折れてくれても良いと思うんじゃが?」

「そちらこそいい加減諦めてくれても良いと思うんですが?」

「儂はお主のためにも忍者になった方が良いと思っておるんじゃがのぅ」

「それは金銭的な事ですか? それともこの体質のことですか?」

「両方じゃよ……下忍でも頑張れば今よりは稼げるし、体質のことも隠しやすくなるからの」

「それは魅力的ですね……ですがお断りします」

「やはりそうなるか、まぁ気長にいくとしよう。

 じゃあもう一つの本題じゃ」

「もう一つ?」

「昔交わした約束を覚えておるか?」

 

 

 三代目とした約束なんてあったか?

 過去を振り返り、それに当て嵌まりそうなものを探すが、一向に思い浮かぶものがない。

 三代目もそれが分かったのか俺に内容を伝える。

 

 

「不老の事を隠す代わりに一度だけ儂に手を貸すという口約束じゃよ」

「あ~そんな約束したような気がしなくもないですね」

「その約束、もしかすると近々動いてもらうことになるかもしれん」

「何かあったんですか?」

「まだハッキリとはしていないが、お主に暗部として動いてもらうことがあるかも知れん」

「暗部を語るには実力不足のような気がするんですが?」

「じゃが暗部なら顔をさらす必要もない上、詮索もされん。

 それにまだ確定した訳じゃないんじゃ。

 ちょいと里の中で怪しい動きがあるんで念のためってやつじゃよ。

 もしお主に手伝いを頼むとしてもアレを呼びだしてくれと頼むだけになるかもしれんからそこまで危険なものでもなかろう?」

 

 

 三代目が言うアレっていうのはおそらく‘死者への手向け’を発動した時に出てくるレムのことを指してるんだろう。

 それ以外に三代目の前で何かを呼びだしたことなんて無いし。

 

 

「別にそれだけなら構いませんが、ただレムは日に三度しか呼び出せませんよ?」

「と言うことは三人までということか……使いどころが重要になりそうじゃな。

 そう言えばお主自身は今どの位の力を持っているのだ?」

「どの位……と言われても比較対象がいないので答えようが無いのですが」

「それもそうか……うむ、では猿魔と戦ってみるか?」

「戦ってみるかと聞かれても、まず猿魔っていうのが何か知りませんし、そもそも戦いたくないのですが?」

「まぁまぁ、良いではないか……荒事嫌いのお主に何も無料で戦えとは言わん。

 戦いさえすればお主に一つ術を教えよう」

「………どんな術ですか?」

「影分身の「何時やりますか? 俺は何時でも構いませんよ?」……やる気になってくれて何よりじゃよ」

 

 

 何か三代目が引いてるが、そんなの関係ねぇ!

 影分身だ、影分身!!

 縄樹が昔使っているのを見たが、見ただけじゃ使えず諦めたあの術だ!

 正直戦闘はしたくないが、命の掛かっていない戦闘……それもおそらく強者との戦いになる。

 そんな相手に今の俺の力が何処まで通じるか試す良いチャンスだし、実戦経験も積めるのだから悪くない条件だ。

 デメリットも無いわけではないが、メリットの方が明らかにデカいのだから断る理由が見当たらない。

 

 

「では次の休日に訓練場を貸し切っておこう。

 向かえに行くから朝十時までに用意を完了しておくんじゃぞ」

「分かりました……ただ一つ心配が」

「分かっておる、訓練場までお主が手裏剣か何かに変化しておれば儂と共に行動していることも怪しまれまい。

 訓練場までは儂が運ぼう」

「それなら俺からは何も言うことはありません。

 十時ですね、忘れないようにします」

 

 

 三代目はその言葉に「うむ、ではな」と短い返事を返して、瞬身の術で店から消えた。

 影分身の術に惹かれて返事をしたが、これが良い決断だったかどうかはまだ分からない。

 果たしてこれが吉と出るか凶と出るか……それを知るのは未来の自分のみ。

 


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