忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第53話 猿魔

 約束の日、朝十時ピッタリに訪れた三代目に連れられて、着いた先はごく普通の訓練場。

 木の葉には幾つか訓練場があるのでその一つなのだろう。

 人の気配は感じないのでおそらく覗いている人はいないはず……流石に暗部や上忍が全力で気配を消してたら俺じゃ気付けないんだけどね。

 

 

「さて、では始めるとするか。

 お主も変化を解け」

「その前に一つ聞きたいことがあるのですが、誰かがここに来る可能性は?」

「それについては安心して良い。

 これから三十分の間人を近づけない様にと伝えてある。

 それにお主がこの仮面を着ければ問題あるまい?」

 

 

 そう言って白塗りで目の部分に穴が開いただけの簡素な仮面が変化を解いた瞬間に手渡された。

 顔が露わになる前にそれを着け、万が一に備える。

 

 

「これでお主の準備は完了じゃな。

 では今度こそ始めるとしよう、忍法・口寄せ……猿猴王・猿魔!」

 

 

 三代目が地面に手を置いた瞬間に白い煙が広がり、その中から白髪でがたいの良い男が現れた。

 パッと見は山賊のようにも見える見た目だが、その双眼には高い知性を漂わせており、見た目通りの野蛮さは無いだろう。

 猿魔は辺りを軽く見回し、三代目へと向き直った。

 

 

「猿飛、今日は俺に何をさせたいんだ?

 戦闘中というわけでもなさそうだが」

「今日はそこにいる者の力量を測って欲しい。

 要は模擬戦じゃよ」

「それなら猿飛の方が向いとるだろうに……まぁいい、そこの」

「はい?」

「揉んでやるから好きに掛かってこい」

「用意は出来たようじゃな……では始め!」

 

 

 突然の開始の合図に戸惑う俺だったが、猿魔はこちらを見てはいるものの構えらしい構えも取らず隙だらけに見える。

 もしかすればそれは誘いなのかも知れないが、この模擬戦に勝っても負けても影分身を教えてくれるのなら色々試してみよう。

 カードの効果を使わずに全力を出す。

 そう心に決め、構える。

 

 

「では胸を借りるつもりで!」

「おぅおぅ、貸してやるからとっとと来い」

 

 

 相手は火影が信頼している相手……小手調べなんてする位なら全力でぶつかった方が良いだろう。

 まずは一撃入れる!

 俺は右足で思いっきり地面を蹴りつけ、正面から突っ込む……と見せかけて相手の間合いに入る前に左に方向転換。

 左側から側頭部目掛けて拳を突き出す。

 しかし猿魔はこちらを見ることすらなく右手で拳を受け止めると、そのまま腕を極めに掛かる。

 そのまま流れに任せては不味いと身体を回転させて腕を弾き、胴体を蹴りつけようとしたがそれも左手で止められたので、蹴り足をバネ代わりに猿魔から距離を取った。

 

 

「ほぅ、身のこなしは悪くないな……少し面白くなってきた」

「それはどうもっ!」

 

 

 純粋な体術だと分が悪そうだ……なら次の手だ。

 俺は両手から五本ずつチャクラ糸を飛ばす。

 十本の糸が縦横無尽に相手を捕らえに掛かるが、猿魔がいつの間にか手にしていた棍で纏めてなぎ払われる。

 半数がちぎれ飛んだが残り五本は猿魔へと届き、その身体を縛りあげた。

 しかし次の瞬間猿魔は煙と消え、代わりに丸太に巻き付いた俺のチャクラ糸。

 

 

「変わり身の術?!」

「その通りだ」

 

 

 真後ろから声が聞こえ、咄嗟に前に転がる。

 微かな振動と共に先程まで俺が立っていた場所に棍が突き刺さっていた。

 スピードもパワーもテクニックも俺より上とか……だがまだ終わってない!

 右手にチャクラメスを纏い、棍を斬りつける。

 その衝撃で棍は地面から抜けたが、猿魔は棍を数度回転させ肩に担ぐ。

 

 

「傷一つ付かないのか……なんて堅さだ」

「自慢の棍だからな、さて次は俺から攻めよう。

 死なない程度に手加減するから安心しな」

 

 

 猿魔がそう言うのと同時に棍を俺の頭目掛けて振り下ろす。

 勢いからいって当たれば俺の頭が柘榴のようになりかねない。

 俺は咄嗟にチャクラメスで棍の側面を斬りつけ、軌道を僅かにずらした上で反対側に跳ぶことで回避。

 そのまま地面に振り下ろされた棍は土を二メートルほど巻き上げ、猿魔の姿を土埃で隠す。

 こちらから見えないと言うことは相手も見えないと言うこと……ならば今幻術を使えば良いのでは?と考えて俺は印を組もうとするが、そんな隙は与えんとばかりに砂煙の向こう棍による連突が放たれた。

 その内の一撃が俺の腹に当たり、胃液が口まで上がってくる。

 しかしここで吐いていては的にされるだけだと、吐き気を無理矢理飲み込み、バックステップで大きく距離を取った。

 俺が距離を取ったと分かったのか、連突が止まり、砂煙の中からゆっくりと猿魔が出てくる。

 

 

「俺の一撃を食らっておきながら倒れないとは、良く鍛えているな。

 手加減しているとはいえ、血反吐を吐いていても可笑しくない手応えだったのだが」

「もう少し……手加減してほ……しいですね」

「これ以上手加減してはお前のためにならんだろう。

 どうせなら短期決戦で学べることを学び取った方がいい。

 流石に急所は狙わんが、今までよりも少し力を入れるからお前も気合いを入れろよ」

 

 

 今まで構えらしい構えを取らなかった猿魔が初めて構えた。

 その事に若干寒気を感じながらも、最後くらいは真っ正面からぶつかってみようと俺は右手に可能な限りチャクラを集中させ、向かい打つ準備をする。

 腰溜めの姿勢を取り拳を脇腹の辺りに添え、何時でも拳を打ち出せる状況だ。

 猿魔も棍の先端を俺に向け、準備万端。

 風の音が聞こえる……そして風に乗って一枚の木の葉が俺と猿魔の間に舞い落ちた次の瞬間、猿魔の棍が俺目掛けて凄まじいスピードで伸びてきた。

 回避するか? いやもう間に合わない……なら打ち返すしかないだろう!

 俺は右手の拳を限界まで握りしめ、全身全霊を懸けた右の正拳突きで迎え撃つ。

 チャクラを纏った拳が棍に触れた瞬間、右腕が吹き飛ぶかと思うほどの衝撃が生じたが、全力でその場に踏みとどまり、棍を押し返そうとする。

 しかし棍の勢いは止まらず、拳が徐々に後ろへと持って行かれる。

 数秒の拮抗……いや対抗も虚しく、俺の身体は高速回転しながら地面に叩きつけられた。

 地面に叩きつけられた衝撃で意識が遠のこうとしていたが、猿魔と三代目の声が聞こえ、無理矢理意識を留めようとする。

 

 

「数秒とはいえ踏みとどまるとは……中々頑張ったな」

「やり過ぎじゃ、全く……でどうじゃった?」

「上忍未満中忍の中位以上といったところだろうな」

「そうか……流石に独学では厳しいものがあったか」

「こやつ忍じゃないのか!?」

「少し訳ありでな……上忍未満ならば暗部の仕事は任せられそうにないか。

 ならばやはり別の者を使わねばならんな……出来ることなら精神が成熟しきっている者に任せたかったのじゃが」

「猿飛よ……俺には全く状況が飲みこめんのだが?」

「お主には後で話そう、とりあえず今はこやつの治療を先にせんとな。

 別段大怪我を負ったわけでもないじゃろうから、病院に行く必要はなかろう。

 こやつの家に運ぶぞ、手伝え猿魔」

「後で話を聞かせてもらうからな」

 

 

 二人の会話はそこで途切れ、俺の意識もそこが限界だった。

 翌朝俺が目覚めると、そこは家の居間でテーブルの上に影分身のやり方を箇条書きにした巻物が置いてあり、横に「応急手当はしておいた、一週間もしない内に治るじゃろうから安静にしてくように」との書き置きが置いてあったので、よし臨時休業だ!と割り切り、痛む身体でもう一度布団に転がり、二度寝することに決める。

 模擬戦で殆ど手も足も出なかった事を思い返し、少しだけ悔し涙を流したのは自身と枕だけの秘密だった。

 




PS VITA TVを買い、某猫型ロボットの中の人が白黒熊を演じるゲームをプレイ中
そしてクリア次第神を喰らう作品をやる予定……あぁ時間が足りない
艦娘のレベリングもしたい……後少しで金剛が改二になるしね

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