忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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誕生の章
第54話 九尾来襲


 四代目の子供が生まれそうらしく、里がお祝いムードで盛り上がる中で一人アタフタしている俺。

 何故俺が慌てているかというと、分かる人は分かるだろうが……四代目の子供が生まれるって事は九尾が攻めてくるって事と同義なんだよ!

 四代目は九尾を生まれたばかりの我が子に封じて死に、クシナ様もおそらくその時に亡くなるのだろう。

 九尾の襲撃で亡くなっている人も結構居たはずだから、おそらく短くない時間九尾が暴れる事はほぼ確定している。

 問題は遂に来た木の葉の里一つ目の重大イベントをどうやり過ごすかだ。

 この世界に来て三十年、今日に備えて何度も何度もシミュレーションしてきたのだけど、いざその時が来るとなると、不安で堪らない。

 死んでしまうかも知れない、そうでなくても店が物理的に潰れるかも知れないと考えると落ち着いてなんかいられるはずもなく、かれこれ三時間ほど忍具の手入れをしているのだ。

 既にピカピカのクナイや手裏剣を研磨し、結界符の確認を繰り返し続ける。

 しかし四時間目に突入する前にそれは強制的に中断させられた……遂に来たのだ。

 里に響き渡る轟音と衝撃、店の中の本が棚から落ちて床に散らばる。

 俺は震える足を一度強く叩き、無理矢理震えを押さえると、状況を確認するために店の戸を開けた。

 眼前に広がっていたのは所々に立ち上がる黒煙と遠くに見える巨大な九尾を持つ狐。

 

 

「あれが九尾……デカ過ぎるだろうが」

「おい! アンタもそんなとこで立ち止まってないで早く避難した方が良いぞ!」

「そうよ、四代目様と三代目様がきっと何とかしてくださるわ。

 私たちは邪魔にならないように早く逃げないと」

 

 

 そう言い残して俺の目の前を走り去った男女二人組を目で見送りながら、今からどうすべきか改めて考える。

 案は三つ、倒すために戦うか、守るために戦う準備をしておくか、全部無視して逃げるか。

 だが今後のことを考えるのなら選択肢は一つしかない。

 店と自身の命を守るために消極的な戦闘参加。

 これが俺の選べる唯一の道。

 故に俺は店を背に九尾の動向を見続ける。

 事前に用意しておいた攻撃無効化系罠三つと‘デモンズ・チェーン’、火事場泥棒対策の結界符を使う機会がないと嬉しい。

 九尾に向かって四方八方から火遁や水遁の術が飛び交う中、偶に見える強い光がおそらく四代目なのだろう。

 一度九尾の口から黒い球が発射された瞬間に何処かに飛んでいったのも四代目の仕業かな。

 

 

「出来ればそのまま四代目には九尾の相手をしてもらいたいけど……」

 

 

 暫く見守っているといつからか九尾の周りで光が明滅しなくなり、九尾に飛んでいく術の数が増えた。

 九尾自体も動き始め、徐々に里への被害が増えて来ている。

 まだ1km程離れているが、偶に家の屋根とかが飛んできたりするから気を抜けないしその気になれば此処までひとっ飛びだろう。

 そんなことを心配している間にまたこっちに近づいてきた。

 忍者が屋根伝いに飛び回り、九尾を取り囲み全員がほぼ一斉に火遁、土遁、水遁、風遁、雷遁を放つが、九尾には全くダメージを与えられていない。

 また一歩近づく。

 遂に九尾の間合いに俺の店が入ってしまった。

 九尾の何気ない一歩が俺の店を踏み砕こうとする。

 

 

「何でよりによってこっちに来るかな……何にしてもこのまま店ごと潰されるわけにもいかないし、 とりあえず防がせてもらう!

 罠発動‘デモンズ・チェーン’」

 

 

 俺の言葉と同時に九尾の周囲に六本の長い燭台が現れ、燭台に繋がれている緑色の鎖が九尾に巻き付こうとする。

 その光景に驚いてか、周囲から飛んできていた術は止み、術者を捜そうと数人の忍が動き始めた。

 俺は発動する寸前に店の中へ引っ込んでおり、彼らが俺と術者とを結びつけることはないだろう。

 俺の店の前でこうなった事で三代目辺りは怪しむかも知れないけど、証拠なんてないから問題ない。

 戸の隙間から九尾の様子を見るが、しっかりと捕らえられてくれたようだ。

 ‘デモンズ・チェーン’の効果はモンスターの特殊効果と攻撃を封じる罠。

 九尾の特殊効果がどういう扱いになるのかは知らないけれど、攻撃を封じるだけでも十分に意味がある。

 鎖が細いから九尾の姿は未だにしっかりと見られるが、行動はかなり制限されているようでかなり苛立っているようにも見えた。

 この調子で最大持続時間の一日保てば何かしらの対策(再封印など)が出来るのではないかと思い、「原作どうしよう」という考えが頭の中を駆け巡ったが、良くも悪くもそのままというわけにはいかなくなった。

 九尾が暴れようとする度に拘束している鎖に罅が入り始めたのだ。

 周りで様子を窺っていた忍達もそれに気付いたのか鎖を出来るだけ避けて、再び術を放ち始める。

 そして遂に口に巻き付いていた一本の鎖がはじけ飛んだ。

 一本の燭台につき三本の鎖が付いているので、残りの鎖は十七本。

 口が自由になった九尾は怒りの咆吼を上げ、その衝撃で店が軋む。

 しかも口が自由になったことで九尾の奥の手が一つ使える様になってしまったのだ。

 咆吼を終えた九尾は周囲から飛んでくる術をものともせず、口を大きく開き黒いチャクラで球体を作り上げていく。

 

 

「アレが里の何処かに炸裂したら里の半分位吹き飛びそうだ……くっそ、あれも俺が防がないと駄目なのか?!」

「ヨミトさんはアレを防げるのですか?」

「………どうしてカツユが此処に?」

「綱手様に様子を見てくるように言われてきたのですけれど……そんなことはどうでもいいです!

 ヨミトさんはアレをどうにか出来るんですか!?」

 

 

 カツユが俺の肩に飛び乗って問い詰める。

 少し周囲への警戒が足りなかった様だ……おそらくカツユは裏庭から家を通ってここに来たのだろう。

 結界符は人にしか反応しないし、九尾の動向ばかり窺っていた俺はそれに気付かずに不用意な発言をし、知られたくないことの断片をカツユに知られてしまった。

 だがそんな問答をしている間にも球体はドンドン大きくなっており、どうにかするならこのままというわけにもいかない。

 故に俺は一つの決断をする。

 

 

「カツユ……一つだけ約束してくれ。

 今から俺がすることは誰にも話さないでくれ。

 綱手や火影様にもだ」

「何を「俺は確かにアレをどうにかする事が出来る」……じゃあ何を迷っているんですか!」

「俺は脇役のままがいいんだ……壮大な物語なんかいらないし、英雄になりたいわけでもない。

 だけど特殊な力があることで大きな舞台に上げられてしまうかも知れない。

 ただでさえ俺は異分子なんだから、物語を引っかき回したくないしね」

「何を言って……いるんですか?」

「いや、なんでもないよ……忘れてくれ。

 それよりも見て見ぬ振りはしてくれるかい?」

「……私には答えられません」

「……そっか、それもしょうがないか。

 もし俺が他里のスパイとかだったら綱手に被害が「ただし!!」……」

「私が此処に辿り着く前に此処で何が起ころうと私が知り得る事は出来ませんよね?

 私は今から五分後に此処に到着してヨミトさんと合流、無事を確認した……そう言うことにしておきます」

「カツユ………すまない」

「何がですか? 私は今ココにいないのですから謝る必要なんてありませんよ」

「そっか、そうだったな……今度カツユに美味しいものでも用意してあげないといけないな」

 

 

 肩に乗っているカツユを一撫でして、再び九尾の動向を窺う。

 既に黒いチャクラの固まりは飽和状態になっており、何時放たれてもおかしくない状況だ。

 それを見てカツユは息を呑み、俺に「本当に大丈夫?」と視線で言ってくる。

 しかしその不安を払拭するためにカツユの方を見る余裕も今はなく、俺はただジッとタイミングを逃さないように観察する。

 一秒が永遠に感じるほどの緊張感……しかしそれが弾けるのも一瞬だった。

 九尾の口から禍々しい物が放たれる。

 

 

「今だ! 罠発動‘攻撃の無力化’」

「……なんなんですかアレは?」

 

 

 九尾の放った黒いチャクラ球は空間に開いた穴に吸い込まれ、あっけなく消え去った。

 ‘攻撃の無力化’は相手の攻撃を無効化して、そのターンのバトルフェイズを終了するという効果を持つ罠。

 この世界ではバトルフェイズという物が明確には存在しないので、終了も何もあった物ではないが攻撃を防いだだけでも十分だろう。

 よく分からないものに自身の切り札ともいえるものを止められ、今だ身体には幾つか鎖が巻き付いている。

 九尾の怒りはどれほどのものだろうか……しかし九尾は怒りを露わにはしなかった。

 むしろ全ての感情が消えたかのような無表情で、先程よりも強く暴れ始め、残っていた鎖を全て断ち切る。

 そして火影邸の方へと大きく跳躍した。

 九尾の突然の奇行に取り囲んでいた忍は呆然としていたが、すぐに我に返るとその後を追い始める。

 

 

「何だったんだ?」

「私にはよく分かりません……ですがヨミトさんがこの店を、里を少なくとも一度は守ったのは確かです。

 ……方法はよく分かりませんでしたが」

「無事これを乗り切れたら教えるよ。

 でも今は九尾がまだ里にいるから流れ弾がこっちに飛んでこないように外でしっかり見ておかないと」

「約束ですよ? しっかり答えて頂きますからね」

 

 

 俺はその言葉に応えずに、誤魔化すようにカツユの頭を撫で、ここからでも微かに見える九尾の姿をジッと監視し続けた。

 暫くすると突然九尾の姿が消え、里が静寂に包まれる。

 しかしそれは一瞬で、次の瞬間には里中で歓声が沸き上がった。

 響き渡る火影コール。

 俺はその歓声を遮るように、店の中に戻りカツユにも綱手の元へ戻るように諭す。

 カツユが帰った後、未だに止まぬ歓声を耳にしながら里の人がまだ知らないであろう四代目の死を想い、俺はただジッと夜空を見上げ一滴だけ涙を流した。

 


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