九尾襲来から一ヶ月……四代目の死去に伴い、三代目が再び火影の座に戻ることになった。
四代目候補の一人だった大蛇丸は少し騒いだが、経験と実績を持つ三代目に軍配が上がり、特に目立った反対もなかったのでスムーズに火影は決まったのだ。
九尾の襲来は里に大きな被害をもたらし、死傷者も少なくない。
家族や友人を亡くし、尊敬すべき火影も失った木の葉の民は失意に満ちていたが、三代目が率先して里の復興に精を出しているのを見て、俯いてばかりじゃいられないと復興に力を入れる人が増えていく。
戦後に同盟を組んだ砂隠れからの支援もあり、一ヶ月で大分里が元通りになっていた。
しかし里が元の姿を取り戻し、人々の心に多少の余裕が出てきた事で被害の大きかった者達の心に一つの感情が蘇る。
それは九尾に対する憎悪や怒り。
その矛先は一人の赤ん坊に向けられた。
四代目とうずまきクシナが命を賭けて九尾を封じ込んだ生まれたばかりの赤ん坊。
その赤ん坊こそがNARUTOという漫画の主人公でもある‘うずまきナルト’である。
親しい者を亡くした人達は揃ってナルトに殺意を抱いたが、人柱力を殺すわけにもいかず、暗い感情を無理矢理抑え込んだ。
その上三代目がナルトに物心がついても本人に人柱力であることを告げてはならないと厳命した所為で表立った非難も封じられたことで少なくない人数が不満を口にした。
こうして身の内に新たな爆弾を抱える羽目になった木の葉だが……ぶっちゃけ俺にはあんまり関係無い!
四代目が亡くなったのは残念だが、友人と言える程仲が良かったわけでもないし、原作から四代目の死は知っていた。
なにより犠牲になった親族や友人もいないし、店の被害もそれほどじゃないのだから九尾を恨む気持ちも殆ど無いのだ。
ただ九尾が来たことで困ったことがゼロというわけではない。
それは………
「さぁヨミトさん、今日こそは答えてください。
あの時九尾の攻撃を止めたのは一体何だったのですか?」
「そ、それは……」
カツユが俺の能力について追及してくるようになった事だ。
シズネ辺りから聞いたのか‘悪夢の鉄檻’、九尾に対して使用した‘攻撃の無力化’。
彼女はこの二つに加えて、九尾を縛り付けていた鎖も俺が出したのではないかと言っている。
この件で彼女が此処に来るのは既に五回目。
いい加減煙に巻くのは難しくなってきた様だ。
カツユの目から今日こそ聞き出してみせるという強い意志を感じる。
嘘を教えて誤魔化そうかと考えもしたが、「もし嘘をついて誤魔化したのが分かった時には契約を切らせていただきます」と言われて、発しようとした言葉を飲み込んだ。
一度深呼吸をして冷静に思考を走らせる。
忍術の先生で治療術も使えるカツユを失うのと、秘密を一部話す事のデメリットを天秤に掛けて……俺は後者を選ぶことにした。
「あれは……俺の能力の一つだよ」
「能力……忍術ではないのですか?
確かに印は組んでいませんでしたが、時空間忍術に似ていました」
「‘攻撃の無力化’はある意味時空間忍術に近いものがあるかも知れないけれど、あれに消されたものが何処に行くのかは俺も知らないし、使う時にチャクラもいらないから忍術ではないよ」
「チャクラを使わないのですか!? ではあれは何度でも使えると言うことですか?」
「そうだったら良かったんだけど、チャクラを使わない代わりに制限が色々とあってね。
使用回数だったり、発動時間だったり、効果範囲だったりと面倒な部分も少なくないんだよ」
「そうなのですか……鉄の檻を突然出したのもその力でしょうか?」
「そうだな、そう思ってもらっても構わない」
前者は罠で後者は魔法なのだが、同じ能力に違いはないし回数制限と効果範囲があるのは変わらない。
現状知られていることに関しては説明するが、他人の前で一度も使っていないものに関しては今説明するつもりはないし、それは嘘をついていることにはならないだろう。
だがそれはカツユも想定していたようだ。
「その能力というのは他にも何か出来るのですか?」
「……黙秘権を行使する」
「あるのですね……出来れば教えて欲しいのですが」
「全ては無理だ。 それを受け入れてくれないのならば契約を切ってもらって構わない」
いくらカツユが俺にとって重要な存在だとしても、まだ唯一無二の存在というわけではない。
なら一生付き合う自身の能力についての情報を全て教える相手には相応しくない。
もしここで是が非でも俺の事を探ろうとするのなら縁を切ることも考えなければ。
「そうですか、では全ては教えてくださらなくてもいいですが、もう一つだけ答えてくださいますか?」
「内容次第かな」
「難しいことではありません。 綱手様は貴方にとってどういう存在ですか?」
「能力のことじゃなかったのか?」
「それは答えてくださらないと先程仰ったばかりじゃありませんか」
「それはそうだが……何故突然そんなことを」
「良いから答えてください! 貴方にとって綱手様は何なんですか!?」
「俺にとって綱手は……そうだな、手の掛かる娘みたいな存在だったかな。
暫く会ってないから前に会った時ならって注釈はつくけどね」
カツユが俺の眼を無言でジッと見つめ、そのまま一分程経つと彼女はため息を一つ吐いた。
張り詰めた空気が霧散し、日常が帰ってくる。
「……ならいいです。 もうこれ以上問い詰めたりはしません。
私はヨミトさんを全面的に信用します」
「いいのかい?」
「あまり良くはありませんけど、貴方の先程の目を見ている限り嘘を言っているようには見えませんでした。
娘の不利益になるような事をするタイプの人ではありませんし、それならば信じても良いと思いましたからもういいんです」
「そっか……ありがとう」
「いえ……さぁ気を取り直して今日も幻術の訓練を行いましょう」
「いや、その前に俺からも信頼の証としてもう一つ俺の秘密を教えるよ。
この事を知っているのは三代目だけだから誰にも話さないでくれよ?
綱手は………聞かれない限り教えない方向で頼む」
そう言って俺は常に掛けている変化の術を解いた。
五十代の俺を想像して構成した変化が解け、この世界に来てから全く変わっていない二十代の俺が現れる。
「え? どういうことですか?」
「俺は歳を取らないから変化で歳を誤魔化してたってことだね」
「歳を取らないって……」
「正確に言うとこの姿の歳から老化が止まったというのが正しいかな?」
「それも能力なのですか?」
「これは能力っていうよりも体質かな。
黙っていてごめんな……この事を誰かに知られると人体実験とかされそうで怖かったから言えなかったんだ」
「い、いえ、確かに驚きはしましたけど、そういう事情なら仕方ありませんね」
かなり驚いたようだが、徐々に落ち着きを取り戻してきたカツユは「どおりで身体能力に衰えが全く見られなかったのですね」と納得していた。
その後いつも通りの関係に戻った俺とカツユの訓練は夜まで続き、翌朝は少しだけ寝坊することになるのだがそれはまた別の話。