忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第57話 大蛇の弟子

 先日の約束通りアンコとの待ち合わせの場所に行くと、彼女は既に約束の場所で待っていた。

 鎖帷子の様なインナーにトレンチコートのような上着を着て、木にもたれ掛かりながら待つ姿は、まるで彼氏を待つ少女の様だ……実際はそんな甘い展開ではないわけだが。

 

 

「遅かったわねヨミト」

「約束の時間はまだなっていないと思うけれど、いつから此処に?」

「そうね……たぶん三十分前位じゃない? でもそんなことはもうどうでも良いわ。

 さぁ始めましょう、まずはヨミトの実力を知るために組み手ね。

 急所狙い無し、降参ありの無制限一本勝負よ」

「いきなりだね……手加減はしてくれよ?」

「考えておくわ」

 

 

 アンコは樹の幹を蹴って宙に飛び上がり、俺から距離を取る。

 彼女の手に数本の千本が握られており、何時こちらに投げつけられてもおかしくはない。

 そんなことを考えている間に千本が俺に向かって投擲され、それに合わせてアンコが俺との距離を一気に詰める。

 前に聞いた話では遠距離戦闘よりも近距離戦闘の方が得意らしいから、その対応には別段驚くこともなかった。

 俺は飛んできた千本をクナイで弾き、お返しとばかりに彼女に向かってクナイを投げつける。

 しかし何の小細工もしていない投擲物はそう簡単に当たる物ではなく、簡単に避けられてしまった。

 アンコはクナイを躱すと、更に俺との距離を詰めに来る。

 後10メートル位というところまで接近している彼女は少し残念そうな表情をしていた。

 おそらく思っていたよりも俺が弱いと感じたからだろう。

 

 

「だが流石にそれは俺を舐めすぎだよ」

「っ!?」

 

 

 俺は指から伸びる糸(・・・・・・・)を引き、糸の先に繋がるクナイをアンコの背中目掛けて飛ばす。

 俺の動きを不審に思った彼女は後ろを振り返り、自らに向かって飛来するクナイを視認し、少し驚いた表情を見せた。

 しかしすぐに我に返ると新たな千本を取り出してクナイに向けて投げ放つ。

 金属同士がぶつかる音と共に千本とクナイが見当違いの方向へ飛んでいくが、俺のクナイは糸に操られるがままに再びアンコへ向かって飛んでくる。

 通常あり得ない軌道を描きながら彼女を追跡するクナイ。

 小さく舌打ちをしてもう一度クナイを千本で弾くと同時に走る速度を上げて、一気に近づいてきた。

 

 

「弾いても駄目なら本体を直接叩くまでよ!

 今回呼ぶ子に毒はないから安心して噛まれなさい‘潜影多蛇手’!」

「痛そうだから断らせてもらうよ」

 

 

 彼女の袖の中から出てきた十匹程の蛇が俺に向かって凄いスピードで伸びてくるが、十匹程度なら避けきることも可能だ。

 先制攻撃とばかりに左右から挟み込むように牙を見せつける二匹を大きく後退することで躱し、次いで俺の胸元目掛けて伸びてくる蛇の頭を殴りつけた。

 しかし蛇だけじゃなくアンコ自身もクナイで近接戦闘を仕掛けてくる。

 新たな忍具を出す暇もない連撃にこのままじゃじり貧だと感じ、俺は彼女の腹部を蹴りつけようとした。

 そこに焦りがあったのか、彼女に足が届く寸前で蹴り足が三匹の蛇に捕らえられてしまった。

 

 

「捕まえたわ、これで詰み!」

「詰みって程じゃないにしても、ピンチに違いはないかな……流石にこのままだと負けちゃいそうだから、少し乱暴な手を使わせてもらうよ」

「何を言って……」

 

 

 俺は捕らえられた足を強引に地面につけると彼女の腕を掴んだ。

 足に絡みつく蛇は未だに凄い力で俺の事を引っ張って体勢を崩そうとするが、単純な力比べなら俺に分があるらしい。

 地面をしっかりと踏みしめ、噛みついてくる蛇を無視しながらアンコの腕を強く引き、逆に体勢を崩す。

 前に倒れそうになる彼女を身体を反転させて背中に背負うと、腰で反動をつけて一本背負いの要領で思いっきりぶん投げた。

 本来柔道であれば自分の足下辺りに落とし、尚かつ頭を打たないように持ち手を引くというのが常識だが、今回は距離を取るのが目的であるが故に投げっぱなし。

 まるでボールのように飛んでいくアンコの姿に俺も力が強くなったんだなと実感しつつ、未だに俺の足に絡みついている三匹の蛇を手で強引に外す。

 彼女は空中で体勢を立て直すと少しだけ驚いた様な顔をしていたが、その表情もすぐに喜色に染まる。

 

 

「正直予想以上だわヨミト……貴方のこと舐めていた。

 忍術に関しては分からないけれど、体術は確実に私よりも格上。

 ヨミト……私今とても楽しいわ!」

「そ、それはなにより。 ところでもう俺の実力はわかっただろう?

 もうここらへんで止めてもいいと「さぁ続きをしましょう! 次は貴方の忍術の腕が知りたいわ!」……話を聞こうよ」

 

 

 そう言い終えるとほぼ同時にアンコは蛇を還し、空いた両手で印を組み始めた。

 それを防ごうと手裏剣を三枚ほど飛ばしたが、それが届く前に彼女の印が完成し、アンコは口元に手を添える。

 

 

「火遁・豪火球の術」

「下忍が使う術じゃないよそれ……」

 

 

 巨大な炎の塊が俺目掛けて飛んでくる。

 これに対抗できるような術はない……故に避けるしか選択肢は存在しない。

 俺は右に大きく飛び退き、ギリギリのところで火球を躱すことに成功したが、その後ろに隠されていたものには気づけなかった。

 避けた俺の腕に巻き付く一本のワイヤー。

 

 

「掛かった、火遁・龍火の術!」

「殺す気か!?」

「大丈夫よ……たぶん」

 

 

 凄い勢いでワイヤーを伝って炎が近づいてくる。

 このまま放って置いたら火達磨になってしまう。

 俺はワイヤーの絡んでいる腕にチャクラメスを出現させて、ワイヤーを斬る。

切断されたワイヤーは瞬く間に火に包まれ燃え尽きた。

 

 

「風の性質変化……いや唯の形態変化かな?

 どっちにしても面白いわね」

「じゃあこれも楽しんでくれ」

 

 

 術に必要な符はあらかじめ糸で運んでおいたので俺はこっそりと組んでいた印を発動させ、場の風景を幻術で上書きする。

 そしてそれに合わせて影分身を二体作り、彼女の方へと走らせた。

 二体がチャクラメスを出しながらアンコへ接近戦を仕掛ける。

 最初の一人が地を這うような足払いを仕掛け、二人目が胴回し回転蹴りを放つが、二つの蹴撃が十字に空を切り、隙だらけだった一方の影分身の額にクナイが突き刺さり、その身体が煙と消えた。

 しかし残ったもう一体はチャクラメスを構えて追撃を行う。

 切れ味を持った手刀をアンコは上着を軽く斬られながらも躱し続ける。

 それが何度か続くと彼女もペースが掴めてきたのか余裕を持って避けることが出来るようになっていた。

 そして遂にあと少しで反撃をする余裕が出来るという寸前、彼女の動きが不自然に止まる。

 同時に影分身も動きを止め、現在動いているのは俺の手だけだ。

 彼女の顔が驚きに染まるが、即座に俺の事を観察して指先が忙しなく動いていると分かったようだ。

 

 

「気付いたかい?」

「チャクラ糸ね……どうやってそこから此処まで私に気付かれないで伸ばしたの?」

「さっき幻術で風景塗り替えた時に地面に這わせて、蛇のように移動させながら伸ばしていったんだよ」

「初めから影分身は囮だったというわけね……私もまだまだ未熟だということかぁ。

 降参降参、私の負けでいいわ。

 だから首に巻いた糸緩めるか、解いてくれない?」

 

 

 アンコが自身の首を指さし、そう言った。

 チャクラ糸を巻いたのは両手首、両足、首の系五カ所。

 各箇所に二本ずつ巻いているから、力ずくで引き千切るのは少し厳しいのだろう。

 俺は彼女の言うがままチャクラ糸を消し、ついでに影分身と幻術を解く。

 するとアンコは大きく伸びをして、苦笑しながら俺の方へ歩いてきた。

 

 

「流石に負けるとは思って居なかったわ」

「偶々だよ、アンコちゃんが綱手並にチャクラコントロールが上手かったら糸を引き千切られていたし、広範囲に効果がある忍術を使われても駄目だった」

「そのための影分身でしょ?」

「俺はチャクラの量がそれほど多くないから影分身の質もどうしても低くなっちゃうんだよ。

 後のこと考えて多少セーブしていたから余計にね。

 現に一体は直ぐに消されちゃっただろう?

 二体以上出すと戦力に数えるのは少し難が出てくる」

「あ~……確かにスピードもキレもいまいちだったかも」

 

 

 流石に10分の1とかではないのだが、全力の半分以下の能力しかないのは確実だと思う。

 その割にチャクラは多く取るのだから困ったものだ。

 

 

「だから結構ハラハラしていたんだよ。

 流石に10歳くらいの女の子に負けるのは悔しいものがあるからね」

「そういうものなの?」

「そういうものだよ」

「よくわからないけど、まぁなんにせよ今回は私の負けって事で納得したわ」

「今回は?」

「そうよ、次は負けないわ!

 そのためにこの後の訓練もいつも以上に力を入れないとね!」

「いや、ちょっと待って!

 俺が付き合うのって今日だけじゃないの?!」

「何言ってるの? 私が上忍になるまでに決まってるじゃない。

 大丈夫よ、別に毎日付き合えとは言わないから」

「嘘だろ……聞いてないぞ」

「さぁまずはチャクラコントロールの訓練から行くわよ!」

 

 

 これからのことを考えると少しうんざりしたが、俺の話を聞かず笑顔で腕を引っ張る彼女の表情は年相応に幼くて、それを見ていると「大蛇丸の事を少しでも吹っ切れればこの位許してやるか」という気分になっていた俺はきっとお人好しなのだろう。

 


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