忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第58話 蛞蝓姫

 結局日が落ちるまでテンションの上がったアンコの訓練に付き合わされてグッタリしながらも何とか家の前まで帰ってきた俺だったが、家の前に二人分の人影が見えて足が止まる。

 足を止めた拍子に靴が地を滑って音が鳴り、人影が同時に此方を向いた。

 周囲が暗いため最初は誰だか分からなかったが、顔を見れば一目瞭然だ。

 

 

「どうしたんだい二人揃って……こんな時間に店に用事かい?」

「店って言うよりもヨミトに用事だね」

「とっても大事なお話があるんです」

「分かった、とりあえず外で話すのもなんだから家に入るといい」

 

 

 そう言って家の戸を開け、二人に中へ入るよう促す。

 一先ず綱手とシズネを居間へと通し、俺は汚れた服を着替えた後急いでお茶を用意し二人の元へと戻る。

 そのまま二人の対面に腰を下ろしてお茶を一啜りし、一息。

 身体を動かした後の水分は身体に染み渡り、普段よりも幾分か美味しく感じた。

 二人も俺に続き、お茶を啜り一息つくと……ゆっくりと話し始める。

 

 

「私たちは明朝に里を出る事にした」

「……里抜けがどれだけ危険かわかって言って「いや、別に抜け忍になるわけじゃないですよ?」どういうことだい?」

「里を出るのはシズネの修行兼見聞を広げるためってところだ……理由の半分はね」

「半分?」

「もう半分は少し疲れちまったのさ……火影になれって言う婆様達や大蛇丸の件、自来也の奴も長期の任務とかでいなくなっちまった。

 木の葉の三忍って呼ばれてる中で今此処に残っているのは私だけ。

 正直私に掛かる期待が重すぎるんだよ。

 今の私はアレの所為で満足に医療行為も出来やしない怪力なだけが取り柄の女だって言うのに周りの目はそれを許さない。

 いい加減私も休んでいいんじゃないかと思うんだ……九尾の一件からもう一年も経って里も落ち着いてきたし、別に私がいなくても里は大丈夫だろうしね」

 

 

 そう言って苦笑する綱手だったが、その意思は並々ならぬものがあり、今から俺が引き止めてもその気持ちは微塵も動かないだろうことが眼から伝わってくる。

 シズネもその事がわかっているのか、特に言わなかった

 

 

「行先は決めているのかい?」

「火の国を適当にブラブラする予定だよ。

 賭場やら温泉やらも結構あるからね」

「え、私に火の国の他の医療忍者の仕事を見て学ばせるためじゃなかったんですか!?」

 

 

 聞いてませんでしたとばかりに目を見開き、綱手に詰め寄るシズネ。

 綱手もつい口が滑ったとばかりに小さく舌打ちをし、咳払いを一つしてシズネの肩を掴む。

 シズネはしっかりと綱手の目を見つめ、本当の事を教えろと視線で催促する。

 

 

「あ~……それも理由の一つだ。

 修行を効率的にこなすには気を抜くのも重要な点だろう?

 良いじゃないか温泉……心身ともに疲れた後に入る温泉は格別だよ」

「じゃあ賭場はどんな理由があるって言うんですか!?」

「それは私のストレス解消のために決まってるじゃないか。

 シズネの修行を見るってことは必然的に血を見る事が多くなるんだ。

 私の精神的苦痛を和らげるために賭場は必要不可欠だよ」

「ぐっ……そう言われてしまうと言い返しにくいですね。

 で、ですが綱手様は博打が弱いのですから、程々にしてくださいよ?」

「分かっている、遊ぶ程度だ」

 

 

 シズネは項垂れ、綱手はしてやったりな顔を見せる。

 それを見て旅の中でシズネが苦労するのが簡単に想像できたために若干憐みを込めた目で見てしまった俺を許してほしい。

 それから数秒生暖かい視線を送っていたが、ふと一つ気になる事が出来た。

 

 

「ところでどの位の期間を予定しているんだい?」

「期間は特に決めてないね……というか偶に帰ってくるから期間と言われても何とも言えないな」

「私の両親も偶に顔を見せないと心配しますから、多分ですけど私は一年に一回は帰ってくると思います」

「そうか……寂しくなるね」

 

 

 別れというほどではないにしろ、仲の良い相手が遠くに行ってしまうというのは幾つになっても堪えるものだ。

 友達が引っ越すのを知った時の様な感覚が俺を襲い、少しだけ顔が歪む。

 そんな俺を見て二人は苦笑し、励ましに似た言葉を掛けてくれた。

 

 

「帰って来た時は顔を出すからそんな顔するんじゃないよ……湿っぽくなるじゃないか」

「そうですよ! 私も帰って来た時はお店に寄りますから!」

「そっか……じゃあ俺は二人が戻ってくるまで店を潰さない様に頑張るよ。

 だから二人も怪我や病気に気をつけてね」

「「ヨミト(さん)……私たちが何か忘れてないか(ませんか)?」」

「それもそうだった。 釈迦に法を説くようなものだったね」

 

 

 そうは言ったものの心配しているのは事実だったので、俺としては特に間違った事を言ったという意識はなかった。

 例え医療忍者であろうとも無病息災でいられるかどうかは本人次第なのだから。

 

 

「釈迦っていうのがなにか知らないけれど、分かってくれたならいいわ。

 じゃあ私たちはこの辺でお暇させてもらうよ。

 旅の準備は殆ど終わっているが、念のため確認しておいた方が良いだろうからね」

「お土産買って来ますから期待していてくださいね!

 後アンコちゃんのことよろしくお願いします」

「それは別に構わないけど、今日の訓練の事知ってたのかい?」

「えぇ、アンコちゃん嬉しそうに教えてくれましたから」

「あんまり大げさにはしないでほしいんだけど……今度会う時にそれとなく言っておかないと駄目だな」

「シズネ、そろそろ行くよ。

 両親がご馳走作って待っているんじゃなかったかい?」

「あ、そうでした! それじゃあヨミトさん……行って来ます!」

「行ってくるよヨミト、いい加減嫁を探しなよ?」

「余計な御世話だよ……全く」

 

 

 二人が帰った後の家はいつも通りなはずだが、どこか寂れた様に感じ、自分が思っていた以上に彼女たちの存在が俺にとって大きかった事を実感した。

 こうした出会いと別れは今後生きていく内に幾らでもあるのだろうけれど、きっと慣れる事は無いと思うし、慣れてしまうと今度は出会いにも何も感じなくなってしまうだろう……そうなる位なら今のままの方が余程マシだ。

 ただその日俺は久しぶりに酔う程に酒を飲み、強制的に意識を落とすことで落ち込み気味だった気持ちを強引に振り切って泥のように眠った。

 


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