四人組を追跡し始めて五分程経ち、既に里の外に出る一歩手前まで来てしまっている状況だが、この五分間で彼らが誘拐犯である線が濃厚になってきた。
その理由としては子供の手足が縄で縛られており、目隠しと猿ぐつわまでされているのが見えたからである。
流石に子供が眠ってしまったから連れて帰ろうとしている家族とは言えない状況だろう。
俺は面倒くさいことになったと内心溜息を吐きつつ、引き続き彼らの後を追い続ける。
「(このまま行けば里の外に出るな……と言うことは下手人は里の人間じゃないのか?)」
四人組は閉まった里の正門で止まることなく、それを垂直に走って登り始めた。
屋根をピョンピョン跳び移っていた事から身体能力が高いのは分かっていたが、壁を垂直に走るということはチャクラコントロールが出来ているということに他ならない。
その事から彼らが他里の忍者だと当たりをつけ、俺もその後に続く。
里を出て更に十分ほど走り続けた辺りで漸く先頭のリーダーらしき人物が立ち止まった。
そこは里から少し離れた場所にある森の中で、背の高い木々があるため中に入ってしまえば探すのは容易ではないだろう。
俺は彼らから10メートル程離れた位置で息を殺して状況を窺うことにした。
「どうやらまだ追っ手は来ていないようだな……名家といえど、一度内側に入ってしまえばこの程度か」
「上手くいきやしたね頭! これで頭の昇進は確実……後はこの餓鬼の目玉を持って帰れば任務完了ってわけですね」
「だけど当主は流石に厄介でしたね、この餓鬼を盾にしなけりゃこっちが全滅してましたよ……しかも折角殺したってのに眼は取れなかったし」
「当初の目的はこの餓鬼だけなんだから別に問題ない。
おそらく普通に取ろうとしたら眼が潰れる仕掛けか何かを身体の中に仕込んでいたんだろう……よくあることだ」
眼が目的って事はあの幼女はうちはか日向ってことか。
そういえば日向に雲隠れからの客が来てるとかいう話だったな。
ということはあの子供は日向の子で尚かつ犯人は雲隠れの忍ってことになるのか?
なんか原作にもそんな話が出てきたような気がするけど、思い出すのは無理そうだった。
俺が記憶を整理している間にも彼らの話は進み、どうやら追っ手を少しでも邪魔するために此処に結界を張るらしい。
話を聞いている限り結界を張るのには二十分掛かるらしく、結界の完成までは此処で一休みするとのこと。
「(さぁどうする……日向の子ならおそらく家の連中が死に物狂いで取り返しに来るだろうから見捨てて帰るか?)」
「二十分かぁ……頭、少しこの餓鬼で遊んでも良いですか?」
「………お前の趣向は俺には分からんな。
そんな餓鬼をヤって何が楽しいんだ?」
「そりゃああの中から引き裂く感触がいいんじゃないですか!
泣き叫んでくれりゃあ尚更ですよ!」
「そんなのだからお前上に上がれねぇんだぞ……まぁ今回は別に眼さえ無事なら他はどうなっていてもいいって話だ。
やるなら早くしろよ? ただし猿ぐつわは外すなよ」
「ありがとうございます! いやぁ久しぶりの上物で俺滾りっぱなしっすよ!」
一人の男が子供を米俵のように抱え、森の奥へと歩き始める。
さっきの話通りならあの子供を犯すつもりなのだろう。
その会話を聞いた瞬間に胸くそ悪い気分になったが、ここで特攻するのは得策じゃない。
目の前で危害を加えずに連れて行くのなら無事を祈りつつ家に帰ったんだが、目の前で幼女に強姦かまそうっていうなら話は別だ。
俺はソッと‘しびれ薬’を発動し、それを手に男を追いかける。
俺が追いついた時には既に男が幼女の服に手を掛けているところだった。
幼女も目を覚ましたのか手足を縛られながらも逃げようとしているように見える。
「あんまり時間がねぇんだ、とっととヤらせてもらうぜっ!」
「ゃぁぁぁぁぁぁ!」
「くそっ、声が聴きてぇなぁ……この餓鬼が泣き叫ぶ声が聴きてぇ」
男がそう言いながら服を胸元から引き裂く。
幼女の目隠しが涙でうっすらと濡れているのが分かった。
タイミングを計っている場合じゃない……俺は足音を立てずにその男の後ろに忍び寄ると、右手で男の口へ薬の瓶をたたき込みつつ鼻を摘み、もう片方の手で首を極める。
突然見えない手に捕まった男は幼女を投げ出して俺を振り解こうと暴れ始めるが、超至近距離での打撃なんていうものは滅多にクリーンヒット出来るものでもなく、鼻で息が出来ない男は絶えず流れ込んでくる‘しびれ薬’を飲み込まなければ窒息してしまう。
男も最初は意地でも呑まないという意志がにじみ出ていたが、男の首を押さえた時にクナイと手裏剣は取り上げてあるので抵抗らしい抵抗も出来ず、次第に少しずつ薬を体内に取り入れてしまう。
結果として一分もしない内に地面に転がり、小さく痙攣を繰り返す半裸の男の姿がそこにはあった。
「(手を出してしまったからには他の三人を巻くか、倒すかしないといけないな)」
「ぃゃ!!」
幼女は今も男から距離を取ろうとずりずりと後ずさっている。
まずは彼女に状況を教えなければいけない。
俺は一先ず幼女の目隠しを取り、気絶している男の姿を見せる。
彼女はそれを見て驚いた様だが、ふと我に返るように辺りを見回し始めた。
今俺の姿は‘光学迷彩アーマー’のお蔭で見えない。
故に彼女にとって今の状況は突然森の中に連れてこられたと思ったら犯されかけ、気付けば見知らぬ半裸の男が何故か目の前でビクンビクン痙攣しながら白目で涎を垂れ流しているということだ……訳分からないな。
本来なら姿を見せて一から説明してあげたいところだが、そんな時間の余裕は存在しない。
そこで俺は簡潔に地面に文字を書くことで説明することにする。
未だ辺りを見回している幼女をよそに地面に書いたのは「君は誘拐された、俺は君を助けに来た、だから少しの間だけ騒がないでくれ」という内容だ。
彼女はその文を見つけると不思議そうな顔をし、再び辺りを見回し始める。
たぶん俺を捜しているのだろう。
そんな彼女に向けて「俺の姿は今見せることは出来ない、機会があれば次会った時にでも自己紹介をするよ、だから今は言うことを聞いてくれ」と文を付け足す。
追記を読んだ幼女は少し迷ったが大きく縦に首を振った。
それを肯定と取った俺は彼女の両手足を縛る縄をクナイで斬り、彼女を背に背負うと里へ向かって走り始める。
最初突然のことに彼女も少し暴れたが、小声で「大丈夫だから暴れないで」と言うと少し間を置いて自分からしっかりと首に掴まってくれた。
「(さて後はこのままバレずに逃げ切れれば良し、そうでなければ……そうなったらその時考えっ!?)」
木から木へと跳び移っている途中で俺目掛けて十枚程の手裏剣が飛んできた。
俺はそれが背中の子供に当たらないよう細心の注意を払いながら、別の方向へ飛ぶことで手裏剣を躱す。
別の木に強制的に移らされた俺を一定の距離で三人の忍が囲い込んでいた。
「面妖だな……餓鬼が宙を浮きながら逃げようとしているように見える」
「いや餓鬼の格好を見れば誰かが餓鬼を背負ってるんだろう。
なんでか知らんが姿は見えないがな……頭どうします?」
「別にやることは変わらん、捕まえて連れ帰る。
それは誰が立ち塞がろうと関係無い……例え相手が透明人間だろうとな」
「(良くない展開だな、囲まれてるっていうのが最悪だ)」
囲まれたことでこの場から逃走する幾つかの案を棄却しつつ、どうすればこの状況を打破出来るか頭の中でシュミレーションしていく。
俺の服を強く掴んでいる小さな命を守るにはどうしたらいいだろうか?