忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第68話 柔の道

 俺がナルトに教えているのは効率の良いトレーニング法とアカデミー入学に向けた勉強、そして簡単な体術や手裏剣の投げ方等をローテーションで教えている。

 彼は座学よりも身体を動かすことを好むので、座学の時と比べるとやる気に雲泥の差があった……そんな彼だが今日のテンションはかなり高い。

 理由は明確、今日の授業内容は体術であり、今までは大して派手な事をしなかったので室内で行っていたが、今俺たちが居るのは外……と言うことは絶対今までよりも派手な事をするという事になるからだ。

 ナルトは見るからにワクワクしており、元気を持て余すかのように準備運動をし続けている。

 今日の内容は柔軟運動が非常に大事なので、彼を止めずに授業内容の説明を始めることにした。

 

 

「ではこれから今日の授業を始めます」

「よっ、待ってました!」

「巫山戯るんじゃない、真面目にやらないと怪我しても知らないよ?」

「大丈夫だってば、始めたら巫山戯ないから」

「ならいいけど……今日行うのは受け身と投げです」

「な~んだ、凄い忍術を教えてくれたりするわけじゃないのか~」

「俺はナルト君に忍術を教えられる程術に詳しくないんだ、だから忍術はアカデミーに入ってから先生に教えてもらうと良いよ。

 それで今日やってもらうことだけど、受け身を5種類と投げの基本を教えようと思う」

 

 

 木の葉流体術はアカデミーに入ってから教わるだろうし、俺自身ちゃんと教わったことは無いので教える自信が無い……だから俺は昔学校で習った柔道を参考にして色々と教えることにしたのだ。

 授業といえど男子校だったからか結構な授業数があり、中々充実していたので投げ技、寝技、絞め技の基本位はそれなりに身に染みついた。

 あまり実戦的ではないかも知れないけど、覚えておいて損はないと思う。

 

 

「受け身ってなんなんだってばよ?」

「受け身って言うのは地面に叩きつけられる瞬間に受ける衝撃を分散させることで怪我を防ぐ技術だね」

「すげぇ! じゃあ受け身が出来るようになれば怪我しなくなるのか?!」

「大きな怪我をし難くなるのは確かだね、じゃあとりあえず前受け身からやろうか」

「分かったってばよ!」

 

 

 前受け身は立った状態から前に倒れ、両手の掌から肘までを先に地面に着地させる事で内蔵に与える衝撃を分散させるもの。

 慣れるまでは腕が痛いし、かといって腕に力を入れなければ胸に全体重が掛かり肺の空気が強制排出させられる。

 ナルトも多分に漏れず、何度か咽せながらこれを繰り返す……とりあえず二十回やり終えた時点で一旦打ち切る。

 まだ前受け身が出来るようになっていないと言う彼に、この技術は一日で身につく程簡単なものじゃないと返すと、少し不満そうにしたが服に付いた土埃を払って次に移り、そのまま横受け身、後ろ 受け身、前回り受け身、後ろ回り受け身を行い、全て終わった頃ナルトは土塗れで微妙な顔をしていた。

 

 

「なぁおっちゃん……これって本当に役に立つの?

 何かあんまり意味無いような気がするんだけど」

「大事だよ……っていっても実感沸かないか。

 じゃあ少し荒っぽいけど自分で実感してもらうことにしようかな」

「へ? いきなり何で俺の服を掴んでぇっ!?」

 

 

 俺は気軽にナルトに接近し、胸ぐらと左袖を掴んで少し手前に引っ張って体勢を崩した後、背を向けて腰を曲げ彼の懐に入り込むとそのまま背中に背負って、俺の頭を越えるような形で地面に投げつける。

 本来なら地面に着く前に掴んでいる手を引き、相手が受ける衝撃を少なくするのがマナーなのだが、実戦では相手を気遣う余裕なんてないのだから教えなくても良いだろう……まぁ今回は怪我させるわけにもいかないから一応投げっぱなしにしないで少しは引いておくが。

 全力で投げたわけではないが、それなりに勢いをつけて地面に叩きつけたので俺の足に地面を通して衝撃が伝わってくる。

 この世界にあるか分からない柔道の基本……背負い投げを受けたナルトは大の字で地面に転がりながら口をパクパクさせ、目には涙が浮かんでいた。

 

 

「これは背負い投げっていうものなんだけど、この技も空いていた右腕で受け身を取れば今みたいに上手く呼吸が出来なくなるなんていうことはなくなるよ?

 まぁ受け身を取らせない投げ方とか、殺すことを前提にした投げ方とかもあるんだけど、基本はこれが出来ないとどれも出来ないから、まずはこれを覚えてね?」

「コヒュ……フュ……ケフッ……」

「呼吸が整うまでまだ掛かりそうだから、背負い投げのことを口頭で説明してあげよう。

 まずは相手の体勢を崩して…………」

 

 

 背負い投げの流れや、体勢を崩すための方法等を話している内と徐々に彼の呼吸が落ち着いてくる。

 そして説明が終わったとほぼ同時に涙目のナルトが飛び起きて俺に殴りかかってきた。

 俺はそのパンチを手首を掴んで先程の焼き回しを行う。

 ただし今度は地面に落ちる寸前で腕を引き、優しく地面に落とした。

 今度も苦しい思いをするのではないかと瞬間的に目を瞑っていたナルトが恐る恐る目を開け、俺の顔を見る。

 

 

「今のが背負い投げの派生みたいなもので、一本背負いって言うんだ。

 こっちは少し崩しがやりにくいから背負い投げがしっかり出来るようになったら教えてあげるよ」

「……一本背負い?」

「他にも大腰、払い腰、大外刈りとか色々あるんだけど、俺が教えるのは背負い投げと巴投げだね。

 どっちも使い所は大分限られるだろうけど、俺に教えられそうな体術はこれ位しかないから我慢してくれると嬉しいな」

「………直ぐ出来るようになる?」

「実戦で使えるレベルに持って行くには結構掛かると思うけど、回数をこなせば身体が覚えてくれるよ。

 だからほら立って、次はナルト君が俺を投げる番だ」

「え、どういう事だってばよ?」

「互いに背負い投げを繰り返し掛け合うことで、背負い投げと受け身を同時に覚えられる一石二鳥の訓練ということさ」

 

 

 立ち上がったナルトに俺の胸ぐらと袖を掴ませて‘崩し’というものを教え込み、ゆっくりと自分から投げられる。

 そして少し大げさに受け身を取ることで彼に受け身のタイミングを覚えてもらう。

 ナルトには投げ終わるときに服を引くことを教えていないので、まぁまぁスリリングではあったが、これはこれで自分のいい訓練になり双方に有意義な時間であった。

 それを一時間程繰り返すと受け身は多少マシになり、背負い投げもぎこちないながらも一人で出来るようになったので、彼の肉体的に今日はこれくらいにした方が良いと判断して、早めの終了を告げるとナルトはその場で寝転がり、「やっと終わったってばよーーーー!!」と叫び、そのまま眠ってしまったので背負って家まで運び、今日の授業は終了となった。

 

 


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