忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第69話 親の気持ち

 この間アンコが言っていた通りナルトの家庭教師を引き受けてから何人かの常連が店に来なくなった……しかし変わらず店に来る常連さんがいるのも事実だ。

 今日もその内の一人がいつも通り店内をグルッと回って暇つぶしのための本を一冊持って、カウンター横の椅子に座って読書を始める。

 

 

「何時も言ってるけど立ち読みじゃなければ良いってものじゃないんだよ……買ってから読んでくれないかい?」

「別にいいじゃねぇか、偶に買ってるだろ? それに今月の小遣いがもうないんだからしょうがない」

「奈良さん、いい加減奥さんに言いつけますよ?」

「それは勘弁してくれ……代わりと言っちゃなんだが来月昼飯でも奢るからよ」

「そんなお金があるんなら来月は買わずに読むのを止めてくださいよ」

「ハハハ……善処する」

 

 

 俺は溜息を一つ吐いて一旦台所に行き湯飲み二つと急須をお盆に乗せて戻る。

 湯飲みをカウンターの上に乗せて急須からお茶を入れ、お盆は脇にあるテーブルに置く。

 奈良さんは一旦読書を止め、カウンターの上に乗ったお茶を手に取り「すまんな」と口の中を濡らす程度に飲んだ。

 

 

「ふぅ、やっぱ茶はいいよなぁ……それにこの濃さは俺好みだ。

 俺の分まで用意してくれてありがとうな」

「別に構わないさ、俺のついでだからね」

「流石に申し訳ないから、今度茶菓子でも持ってくるわ」

「別に気にしなくても良いのだけど……その時を楽しみにしているよ」

 

 

 そう言って俺もお茶を一口……少し濃い目だが、この苦みが良い。

 濃い目に入れるのは暇な店番の時に襲い来る眠気を退治する為でもあるのだが、何度も飲んでいる内にこれが好みの味になってしまい、それからは基本濃く入れるようになってしまったのだ。

 一回アンコに飲ませた事もあったが、彼女は即座にお湯を足して薄めた上で「甘い物がないとこれは飲めない!」と茶請けに出したお菓子を食いまくった。

 それからアンコは俺の入れるお茶を滅多に飲まなくなったんだが……そんなことはさておき、時折茶を啜りながら暫く無言の時間が過ぎたが、ふと彼が口を開く。

 

 

「そういえば店主はあの子の先生やってるんだったよな……今何歳だっけ?」

「六歳だね、今年アカデミーに入ると思うよ」

「そうか、家の息子も今年入学するんだが……実際どうなんだあの子は。

 九尾の力が漏れ出したりとかはしていないのか?」

「ないと思いますよ? 少し身体能力が高い気がしますけど、それ以外は身体を動かすのが好きな唯の悪戯っ子ですね……勉強は大嫌いみたいですが。

 後ラーメンが好きみたいです」

「いや別に好物とかはどうでもいい……だがそうか、大丈夫ならいいんだ」

 

 

 安堵の溜息を吐く奈良さん。

 親としては自分の子の近くに危険な要素があれば心配するのは当たり前。

 ましてやそれが九尾の人柱力ともなれば心配しない親など居ないだろう。

うずまきクシナは九尾をうずまき一族の封印術で完全に抑えきれていたが、ナルトはそれを学ぶ前に彼女を亡くしてしまった。

 封印術は万能じゃない……いつか何かの拍子で封印が解けてしまえば近くにいる人は犠牲になってしまうだろうと考えると不安に思う気持ちも分からなくはない。

 

 

「なら予め息子にあの子の事を話す必要はないな……息子は外で遊ぶよりも軒下で昼寝や読書する方が好きっていうインドア派だからな。

 シカマルとあの子が友達になるかどうかは分からねぇ……だが危険じゃないなら無理に遠ざけるのは止めておくわ」

「いいんですか? いくらナルト君自身が害する気を持たなくても、親から彼を避けるように言われた子は……」

「それも全部含めて息子の自由だ。

 そもそも友達ってのは誰かに言われてなるもんでもなければ、ならないもんでもない。

 もしかすれば友達になって後悔する事もあるかも知れないが、それも経験だ。

 親が手を出して良いのは成長の支援と一人じゃどうしようもなくなった時だけ。

 何から何まで手を貸すと将来困るだろうからな」

 

 

 頬を掻きながらそう言った奈良さんの顔は照れくさそうではあったが、親であることを誇りに思う父親の貌だった。

 少しの間また無言の時間が過ぎる……そして口火を切ったのはまたも彼。

 しかし先程の男らしい表情とは裏腹に、その顔に浮かべていたのは好奇心一色で、何とも嫌な予感がする。

 

 

「子供といえば、店主はそう言う浮いた話はねぇのか?

 もう50……いや60過ぎてんだろ?」

「俺は仕事一筋だし、こんな爺様誰が好き好んで連れ添うかね」

「大丈夫だって、それに店主は見た目まだまだ若いから年上好きの女の子にはモテモテかもしれないぞ。

 別に変な性癖持ってるわけじゃないんだろ?」

「そう言ってもらえるのはありがたいけど……自分が誰かと結婚する想像が出来ないんだよ。

 見合い結婚する程結婚願望は高くないしね」

「そうか、だが寂しくはないのか?」

「それは大丈夫だよ、今はナルト君やみたらし家の人達、それに話し相手になってくれる常連の人もいるからね」

「なら良いが……だが気が変わったら相談してくれ、見合い位ならセッティングできるからな!」

「気を遣ってくれてありがとう、その時は宜しくお願いするよ」

 

 

 俺がそう言うと満足そうに頷き、彼は再び読書に戻る。

 その後も偶にふと思いついた話題で雑談をし、結局彼は昼前に店を去った。

 そんな彼を見送ると俺は先程の会話を思い出す。

 

 

「(結婚か……能力と歳のことを話せる位に信用できる相手じゃないと無理だなぁ。 いや、それ以前にまず女性との出会いがないな……今世でも非リア街道まっしぐらだよ)世知辛いなぁ人生って」

 

 

 急須に残っていた冷たくなってしまったお茶を飲み干し、いつもよりも若干テンションが低い状態で店番に戻った。

 


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