アカデミーに新入生が入学し、早三ヶ月が経ちました……アカデミーが始まってからはナルトの家庭教師の頻度を月一にしていいと三代目に言われていたので、ナルトと少し距離が取れる上に暇が出来るはずだったのだが……そうは問屋が卸さないのが人生というもの。
何故か俺はナルトの第二保護者としてアカデミーに登録されており、彼が何かする度に俺が呼び出される様になったのだ。
その件について三代目に直談判しに行くと、三代目は「基本的には儂が保護者として動くんじゃが、如何せん外せない仕事も少なからずあってのぅ……そう言う時だけ保護者代理を頼みたいんじゃよ」と言いながら頭を下げられた。
ぶっちゃけ断ってもよかったんだが、その場に他の忍がいた為此処で断ると不敬だなんだと騒がれそうだったので渋々受け入れざるを得なかったのだ。
それにあくまで俺は代理であり、あまり役目が回ってくることはないだろうという楽観も受け入れた要因の一つである。
しかしこれが大きな間違いだったのだ。
想像していたよりも呼び出される回数が多い……と言うよりも週一以上のペースでアカデミーに呼び出されるという想像さえしていなかった驚きの頻度。
その所為ですっかりアカデミーの教員に顔を覚えられてしまった。
そんな俺が三代目から頼まれてナルトの保護者代理をやっている事は教員には知らされているらしく、強制されて可哀想という視線が一番多い。
次いでいくら三代目の頼みとはいえ、九尾の子の保護者を引き受けるなんて何を考えているのか分からないという嫌悪のような視線が多く、血の繋がらない子供の保護者をするなんて優しい人なんだなという好意的な視線が一番少ない……というかそういう感情を向けてくるのは一人しかいない。
その人の名前はうみのイルカ……九尾の襲撃で親を亡くした人だ。
彼はナルトのクラスで担任をしているらしく、一番俺を呼び出す機会が多かったので自然と話す機会が増え、徐々に仲良くなり、ナルトのアカデミーでの様子を聞くために飲みに誘った。
親のことは初めて飲みに行った時に酔った彼が自分で話してくれたのだ。
それを聞いた時は酔いが一気に覚める程に驚いたが、彼が苦笑いしながら「ナルトを恨んでなんていませんから安心してください」と言って、鼻の上を横一文字に走る傷を指でなぞる。
俺は少し躊躇したが、酔いに任せて「親を殺されたのにですか?」と尋ねてしまった。
今思い返すと無神経にも程がある問いだった……しかしその問いに彼は怒るどころか笑って答えてくれたのだ。
「確かに暫くは恨みましたよ……九尾に関しては今も良い感情を抱いているわけじゃありません」
「なら何故?」
「だってナルトはナルトでしょう? アイツは確かに授業では寝るし、悪戯もよくする。
決して優等生とは言えない子供です……ですがアイツは普通の子供だ。
化け物を体内で飼ってようが、アイツ自身は何でもない事で笑い、何でもない事で泣くただの子供なんですよ。
そんな子供を憎むなんてこと俺には出来ません。
女子供には優しくしろって両親も言ってましたしね」
「……強いんですね」
俺はその時素直にそう思った。
確かにナルト自身は九尾ではないが、普通親を亡くした若者がそれを割り切って考えられるだろうか……いや普通はナルトと九尾を同一視し恨むだろう。
事実ナルトに直接言うことは三代目に禁じられているので、俺に言ってきた教師もいた位だ。
曰く「化け狐を可愛い生徒と一緒に過ごさせるのがそもそも間違いだ」、曰く「化け物を養護するなんて遺族の事を考えたことはあるのか?!」等々……途中でイルカと白髪の教師が止めてくれたが、あれで改めてナルトが一般的にどう思われているか分かった気がする。
他の教師も見ているだけで止めようとしなかったから、おそらく内心否定しきれなかったのだろう……そりゃあ俺の店に来る客も減るわけだ。
イルカは俺が貴方は強いと評したことに激しく手を左右に振り、恥ずかしそうに否定する。
「そんなことないですって! 俺なんかよりももっと凄い人一杯いますし!」
「それでもイルカ君は強いですよ……俺はこの歳になっても迷ってばかりですから。
自分の意志を貫けるというのは十分凄い事です」
「もしかしてナルトと関わった事を後悔なさっているのですか?」
酒が回り、少し赤くなった顔で不安そうに俺を見る彼。
後悔していないと言えば嘘になる……しかしそれはナルトに関わったことに対する後悔ではない。
確かにナルトに関わることは避けたかったが、関わることになったのは俺が迂闊にも三代目に借りを作ってしまったからで、その事に関して過去の自分に後悔している。
だがそれすらも割り切った結果が今なのだからナルトに対して今は特に思うところはない。
むしろナルトと関わることで少しだけ救われていることだってある位だ。
「いえ、その事に後悔はありませんよ」
「なら何故悲しそうな顔をなさってるんですか?」
「それは………ちょっとつまみが口に合わなかっただけですよ」
嘘だ……救えなかった縄樹とナルトを重ねて、自己満足に浸っている浅ましい自分が僅かながらに存在することがどうしようも無く悲しかった。
ナルトが笑う度に縄樹の笑顔とダブる……もう二十年近く経っているというのに未だに俺はあの子の事を引き摺っている。
何故もっと原作を読み込んでいなかったのかと、そうしていれば救えた命かも知れないのに!
しかしこの事は人に話すわけにもいかず、ただ俺の中で燻り続けているのだ。
胸の中に抱え込んでいるパンドラの箱に厳重に鍵を掛け、顔には笑顔という仮面を着けて、彼にこれ以上悟られないように無理矢理話を逸らす
「さ、俺の話はこの位で良いじゃないですか、コップが空いてますよ!」
「……そうですね、ヨミトさんのコップも空いてるじゃないですか、店員さーん熱燗二つお代わり!」
彼も俺が胸に何かを抱えていること自体には気付いたが、それを表に出す気が無い事も同時に気付いたようで、俺の意図を酌み一緒になって呑みまくった
その後はベロンベロンになるまで呑み、そのままなし崩し的に二件目に行きそうになったが我慢して店の前で解散。
それ以来彼とは良い飲み友達だ……ちょっと歳は離れているけどね。
イルカの年齢が原作よりも少しだけ上がっています
それに伴い精神も少し強くなっています