忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第75話 偶然

 大蛇丸が一時とはいえ再びこの里に戻ってきたという噂で少し里が騒がしくなったりしたが、それも本人が既に此処には居ないので噂はすぐに収まり、誘拐されたアンコに対して同情的な感情を持つ人が増えた。

 実験材料に使われた上に捨てられたという事実は思いの外強く印象に残ったようで、今まで大蛇丸の弟子だと色眼鏡を掛けていた人達が謝りに来たこともあったらしい……まぁアンコは喜ばなかったが。

 しかし特別上忍として推薦してくれる相手が出てきた事には彼女も素直に喜んでいた。

 元々実力は十分だったのだから、偏見がなければこうなるのが当然だと分かってはいたのだが、それでもゴウマと俺、アンコの三人で昇進記念パーティを開く位には喜ばしい出来事だ。

 だが特別上忍になると中忍だった頃とは比べものにならない位に忙しくなるらしく、一緒に行っていた訓練が出来なくなると申し訳なさそうに告げられた。

 俺はそんな彼女に「そっか、ちょっと残念だけどその分任務頑張ってくれればそれで良いよ」と返す。

 すると彼女は顔を引き締め、「当然よ……アイツをどうにかするまで気は抜けないからね」と決意を語った。

 

 

 こうしてあっけなく俺の習慣が一つ無くなり、一人の人生が大きく動き出して少しだけ俺の心の荷が下りたのだが、未だにナルトの事もあるし、カツユとの訓練もある。

 ナルトは相変わらず悪戯と成績のことで怒られ、里の大人達に負の視線を送られながら過ごしていた。

 その事に関してどうにか出来ないかとイルカと飲みながら話したり、その飲み会に時折混ざってくる三代目を邪険にしたり(イルカをナルトのクラスの担任に据えたことで彼も少し三代目に思うところがあるんだとか)と飲み会が若干新たな習慣と化しつつあるわけだが、ナルトに関係する事といえばこの位だろう。

 ちなみに三代目は大分ナルトの事が気になっているらしい……ナルトの友達の有無とか尋ね出す位だからね。

 

 

 次にカツユにつけてもらっている訓練のことだが、最近はカツユだけではなく、カツユを通して綱手やシズネにアドバイスを受けることもある。

 ただ二人とも歳なんだからあんまり無理すんな的な目で見ているので、凄く効果的かといわれると何とも言えない。

 カツユは俺の体質のことを知っているので普通に扱ってくれるが、それでもカツユ自身が優しさに溢れているのでスパルタとは程遠い内容ばかり。

 それでも少しずつ使える術は増えている……攻撃的とは言えない術ばかりだが。

 新しく使える様になった術は幾つかあるが、その内攻撃に使えそうな術は二つ位な上にイマイチ思い通りにいかないので実戦運用に足るには程遠い。

 しかし結界法陣と五封結界は完全にものにしたはずだ……直ぐに出来る術じゃないし、使い所はかなり限られる術だけど、五封結界は守りを固めるにはかなり有効な術だ。

 結界法陣は起爆札を使った罠忍術なので店には仕掛けられないが、五封結界を完成目前の所まで用意しておき、有事の際に完成させれば簡易シェルターが出来るというのは非常に助かる。

 広範囲を一気に焼き払う術とかで、構成している札を一気に焼かれてしまうと意味が無くなってしまうけど、それでも無いよりは絶対良いだろう。

 

 

 以上が最近俺の身近であった推移である……店に関してはいつも通り、何人かの常連客と偶に来る新規のお客で成り立っています。

 今も他里の人と思わしき見た事の無い客が本を探してキョロキョロ辺りを見回している。

 一度なんの本を探しているのかと声を掛けたのだが、「自分で探すから放って置いてくれ」と言われてしまったので彼が選び終わるのをのんびり待っているところだ。

 だがかれこれ彼は三十分ほど目的の本を探せていないようなので、そろそろもう一度声を掛けてみようかなと思っていた時だった。

 店の戸が開き、「ぉ邪魔します」と小さな声で言いながら、何処かで見たことがあるような女の子が入店するのと同時に、彼が近くにあった割と高額な本を数冊掴んで店の外へ走り出す。

 女の子を押しのけて外へと出た男だったが、俺もカウンターから飛び出し、尻餅をついた女の子に「少し待っててね」と言い残して男の後を追う。

 少し出遅れはしたものの、どうやら男は多少身体能力が高い一般人のようなので直ぐに追いつけるレベルでしかなかった。

 走って腕を掴んでアームロック……それだけで万引き犯は痛みで顔を歪め、謝罪を繰り返している。

 俺は男の腕を糸で縛って詰め所まで連れていき、警備の人間に男を引渡すと幾つかの書類を書かされた。

 何を何処で盗まれたのか等の事情聴取的なものだったのだろう。

 書くことはそれほど多くもなかったので割と直ぐに書き終わったのだが、警備の人に「今度からはあんまり無茶せずに警邏の人間を呼ぶように」と注意されてしまった。

 確かに一般人が危険なことをすればそう言わざる得ないと納得し、心配してくれたことに対して礼を言って詰め所を後にする。

 

 

 手に男が盗もうとした本数冊を持って店の戸を開けると、中には白い眼でこちらを見つめる少女の姿があった。

 これが呆れている時にするような白い目なら良かったのだが、今少女がしているのは目の周りに血管が浮き出て、相手の全てを見通すかのような白い眼……所謂日向一族の血継限界であるチャクラの流れなどを見抜ける白眼であることが非常に良くない。

 彼女の表情が驚きに染まっている事が俺の嫌な予感を増幅していく。

 互いに無言で見合う事数十秒……先に口火を切ったのは俺の方だった。

 

 

「あ、怪しいと思うかも知れないけれど、俺はスパイとかじゃないから……まずはそれを信じて欲しい」

「………」

「確かに変化を使って見た目を誤魔化してはいるけれど、これには深い訳があって「あの!」は、はい」

「昔……女の子を助けませんでしたか?」

「え?」

「誘拐された日向の子供を……助けませんでしたか?」

「何を……」

「あの時偶々白眼が発動してその人の後ろ姿を見た時……あの人のチャクラを見たんです。

 そして今日店員さんが万引きを捕まえるために飛び出した時の背中が、何故かあの人の背中と重なって……さっき貴方のことを白眼で見て確信しました。

 店員さんがあの時の『透明の人』……ですよね?」

 

 

 真剣な顔でそう言う日向の少女に俺は……血の気が引いた。

 三代目の時と同じように、この小さな女の子にも知られてしまったのだ。

 口封じという言葉が頭をよぎるが、相手は日向一族の子供……敵に回すには大きすぎる。

 三代目は隠して俺に貸しを作るほうがメリットがあると黙っていてくれたが、幾ら誘拐から助けたからといって、この子はどうか分からないのだから。

 思考が高速で交渉条件を組み上げていく……もし失敗すれば里を出なければいけなくなるかも知れないと、冷や汗が頬を伝った。

 


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