中忍試験が始まって里が祭りのような雰囲気を醸し出している中、俺は今病院に居る。
今朝突然ゴウマが店にやって来て、アンコが入院したと告げたのが此処に居る理由なわけだが、話を聞く限り大きな怪我や病気とかではないらしい。
幸い見舞い自体は許可されているらしく、特に見張りも付いていない彼女の病室に辿り着く事に何の障害もなかった。
ゴウマは用事があるとかで一緒に病院には来なかったが、用事が終わり次第行くから先に行っていいと言われているのでノックをして入室する。
ベッドの上で上半身を起こし、誰かに差し入れされたであろう三色団子を食べながら窓の外を眺めていたアンコが俺の方を向く。
「ヨミトも来たのね……父さんも少し倒れた位で大げさに騒ぎ過ぎなのよ」
「元気そうだね」
「昨日の夜までは割と苦しかったけど、もう殆ど大丈夫よ。
ただ少し疲れてるから動くのは少し億劫ね」
「病気か何かかな?」
「う~ん、もう私の担当は終わったから言うけど……私って中忍試験の二次試験の担当官だったのよね。
だから結構色々動き回っていたんだけど、少し頑張り過ぎちゃってこの様ってワケ」
「この間言っていた面倒臭い任務ってそれのことだったのか……慣れない仕事は大変だからね、大きな怪我とか無くて良かった」
特別上忍でもあるアンコが中忍試験で倒れる程の疲労を感じたという事に少しだけ違和感を感じながらも、俺は持参した果物の詰め合わせをサイドテーブルに置き、ベットの横に置いてある椅子に腰掛ける。
本人が疲労と言っている以上掘り下げて聞くことは出来ないが、首に巻いている包帯が少し気になった。
「その包帯は?」
「え? あぁこれはちょっと擦り剥いちゃってね!
そ、そんなことより聞いてよ! 今回の受験者は優秀なヤツが結構居たんだけど、砂隠れの我愛羅ってヤツ凄いわ。
相性次第では上忍すら相手取れる特殊な戦闘方法に、人を殺すことに躊躇を感じない性質……正直危険すぎてあんまり近寄りたくないけど、戦闘能力だけで言えば間違いなく首席候補よ」
包帯のことから露骨に話を逸らされはしたが、代わりに興味深い話を振られて俺の思考の矛先が移り変わる。
先日来た黒子っぽい客が言っていた子供の名前も我愛羅って名前だったはずだ。
正直あの時は少し疑っていたけど、アンコまでもそう言うのならばより一層の注意を払っておいた方が良いだろう。
「そんな子がいるのか……その子の他に目についた子はいたかい?」
「日向の子とうちはの生き残りの子はやっぱり目立っていたわね……私個人的にはうずまきナルトが気になったかしら」
「何でまたナルト君? 言っちゃ悪いかも知れないけど、成績も戦闘能力も特に秀でているワケじゃない子だよ?」
「理由は二つ……ヨミトが指導している子だからというのが一つ、もう一つはあの無鉄砲で馬鹿正直な所が面白くてね。
思わずちょっかい出しちゃう位には気に入っているわ」
そう言って舌なめずりする姿は、まるで獲物を前にした爬虫類の様で若干引いた。
アンコは時折大蛇丸の面影を感じさせる雰囲気を醸し出す事があるが、そういう時は大体サディスティックな事を考えている時なので、俺は突っ込まないようにしている。
前に一度引き際を間違えて彼女の性癖の一端を垣間見ることになり、暫く彼女との接し方が分からなくなって後悔したことがあるのが主な理由だ。
「……程々にしてあげてくれると助かるんだけど」
「大丈夫大丈夫! ちょっと稽古つけてあげたりするだけだからさ。
そうだ、今度あの子の訓練の時呼んでよ! 手伝ってあげるから!」
「あ、うん。 その時はお願いするよ」
すまないナルト……こうなったアンコは口で言っても止まらないんだ。
おそらく次の修行は大分厳しいものになるだろうけど頑張ってくれ。
そう心の中で謝罪をしていると、ふと視線を感じて振り向くとアンコが俺の顔を真剣な面持ちで見ていた。
突然空気が変わったので少し動揺したが、彼女が何か重要な事を話そうとしているのだと思い佇まいを直す。
「ヨミト……ここ最近変な視線を感じたり、おかしな客が来たりしてない?」
「変な客っていうと格好とかかい?」
「いやそう言うのじゃなくて……こう、雰囲気が怪しいっていうか危険な香りがする的な」
「う~ん、特に来てないと思うよ? まぁ中忍試験が始まってからお客さんは増えたけど、そんな危なそうなお客は今の所来てないかな」
「そっか……でも中忍試験に乗じて変な輩が里に入り込んでいてもおかしくないから警戒しておいて」
「大袈裟だなぁ、アンコちゃんも俺がそれなりに動けるのは知っているだろう?」
「それでも!!……それでも中忍試験の間だけでもいいから、気を抜かないで」
語気を強め、追い詰められている様な表情で俺にそう言った彼女の姿を見て、現在進行形で何かが起こっている事を察した……しかも何らかの形で俺もその事に関わってしまっているらしい。
「何が起こっているのか話してくれないかい?」
「それは……機密情報だから話せない」
「だが俺も何か関わっているのだろう?」
「………えぇ」
「なら少しでいいから俺に話してくれないか? 機密に触らない程度でいいんだ……頼む」
俺は頭を下げ、少しでも情報を分けてくれと頼み込む。
流石に怪しい奴に気を付けろと言われても正直どうしようもないし、アンコの反応から明らかに単なる強盗とかとはワケが違う様な輩が来るかも知れないと言われて何も聞かずに備えろっていうのは大分厳しい。
アンコもそれが分かっているのだろう……一分程躊躇して一つだけ教えてくれた。
「大蛇丸がヨミトに興味を持っている」
「………え?」
「アイツがヨミトに興味を持った切っ掛けは私。
私が誘拐された時があったでしょう? あの時私は誘拐される寸前までアイツが心を入れ替えたものだとばかり思っていて、色々なことを話したの。
里の内情や父さんのこと……そしてヨミトのこと。
アイツも最初は僅かな興味を持った程度だったらしいの、でもヨミトのことを調べ始めるとヨミトに特殊な体質があることを知ったって言っていたわ。
三代目にこの事を話すと、それが分かった風だったけれど……ヨミト?」
「え? いやいや、そんなはずないさ。 だってそんなのあり得ない」
頭が真っ白になる。
口の中が乾く。
だってそんなことはあり得ないはずなんだ。
息が苦しい。
顔から血の気が引く。
俺が不老だということが大蛇丸に知られたなんて嘘に決まってるじゃないか。