忍者の世界で生き残る   作:アヤカシ

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第88話 里の防衛戦線

 店に帰るまでの道のりは決して楽なものではなかった。

 解いた変化の術を掛け直して爺姿に戻ったはいいが、弱そうな見た目故にか成人男性二人分よりも大きな蛇が襲いかかってきたり、音隠れの里の忍者が襲いかかってきたりと心休まる暇が無い……基本的には暗部の影分身が対処してくれたのだけれど、それでも疲れるものは疲れる。

 店に着く頃にはクタクタになる程に疲れ、運良く戦火から免れていた店に安心しつつも、未だ終わりの見えない木の葉崩しから店と自分の身を守る為に付近に暮らす知り合いと共に近くで戦う人達に加勢していった。

 俺は主に遠くから落ちている石や忍具を投げて援護に回っているだけだったが、そういった行為も数が集まれば無視出来ない物になり、襲撃犯は一人また一人と数を減らしていく。

 そして数時間続けていると粗方そういった輩の排除は終わり、前線に立っていた忍達は別の場所へと援護に行ってしまった。

 それを見て、若くて余力のある人は負傷者を病院へ運んだり、他の地域へ手伝いに行ったりしている様だ。

 俺もそうしようかと思ったが、周囲の人に「爺さんは無理すんな」「アンタはもう十分働いたよ」と止められてしまい、それでも家でのんびりしているわけにもいかないと食い下がると店の前に立って大通りから敵が来ないか見張る役をすることになった。

 だがよく考えれば今回は運良く日向の人が近くにいなかったから良かったものの、別の地区へ移動するということは日向に会う確率も上がるということ……ある意味コレで良かったのかも知れない。

 

 

「ヨミトさん、これからどうするのですか?」

「一先ず様子見かな……年寄りはのんびり見張りでもするのがお似合いだからね。

 それにまた何時狙われるか分からないから人の多いところには行きたくないし」

「確かにあの人が言っていた通りなら、もしかするとこの騒ぎに乗じて再び襲われるかも知れませんね……ですがここで襲われても困るのでは?」

 

 

 肩に乗るカツユが言うとおり、今俺が居るのは店の屋根の上であり、此処で襲われたなら確かに店にはほぼ確実といって良い程の確率で被害が出るだろう。

 事実近くであった戦闘の流れ弾で壁に、貫通こそしていないものの拳大の穴が幾つか開いている。

 幸い商品に被害はなかったが、コレが忍具でなく火遁系の術だったのなら俺の家兼店は焼失していただろう……まぁ地下の倉庫は石造りだから大丈夫だろうが。

 

 

「確かに俺が此処で襲われると店に被害が出るだろうね……でも俺を狙ったものじゃなくても、とばっちりで店に被害が及ぶ事も有り得るんだ。

 なら此処にいて店を守った方が被害は少なくなるんじゃないかと俺は思う」

「そうですか、私はヨミトさんがそういうのならいいんですが……ところで先程の戦いで火遁系の術と見たことのない結界術を使っていましたけど、あんな術いつの間に習得したのですか?」

「前に言っただろう? 俺の能力は色々な事ができるって。

 火を出したり、相手を拘束したりなんていうのは別段難しいことじゃないさ」

 

 

 やろうと思えば地面を割ったり、雷落としたり、隕石落としたりも出来るのだから嘘は言っていない。

 そんな俺の言葉を聞いて不思議そうに首を傾げるカツユ。

 

 

「え? ですがあの時ヨミトさんは印を結んでいたじゃないですか」

「あんなの適当に印を組んだだけだよ、チャクラも込めてなかったしね。

 だから特殊な眼を持つ人が見たら不思議に思うんじゃないかな」

「相変わらずよく分からない力……でも確かに九尾を縛っていた鎖もヨミトさんが出していたのなら、あの位出来てもおかしくないですね」

 

 

 今までカツユに知られた魔法・罠は‘攻撃の無力化’と‘悪夢の鉄檻’‘デモンズ・チェーン’の三つだけ。

 時折訓練でついた傷を‘非常食’や‘ゴブリンの秘薬’等で癒したが、それらに関しては自分が調合したと言って何とか誤魔化した。

 一族秘伝の薬などが存在するこの世界において、そういった情報を無理矢理聞き出そうとしたりする事は起こり難い……それは仲間内ならば尚更のこと。

 そんな感じでカツユは俺の能力に関する知識を殆ど持っていないに等しいが、その幅が広いのだろうということを今回の一件で改めて理解した様だ。

 しかしカツユのその表情を見る限りその事に納得しているとは言い難い……表情とはいっても何となくそう思っているのであろうという予想だが、あながち外れてはいないだろう。

 医療忍術の訓練を手伝ってもらう時も、偶に能力について尋ねてくる時があるのだから。

 因みにそういう時は既に知られている三つのものについての効力や性能を教えることでなんとか引き下がってもらっている。

 今回の事で新たに‘死者への手向け’‘ファイヤー・ボール’‘六芒星の呪縛’を見られてしまったので、また暫くカツユは詳しい話を聞きたがるだろう。

 ただ‘死者への手向け’に関しては三代目達に口寄せだと説明していたから、カツユも口寄せだと思っており、おそらく能力の一端だとは思っていないはず……念のため呼び出す際に口寄せの手順だけは踏んでおいて良かったと今更ながら安堵した。

 流石にまだ争乱が終わっていない状態でこれ以上別のことを考えているのもどうかと思い、軽く深呼吸して見張りに戻ろうとすると、遠くで轟音が鳴り響く。

 

 

「今のは一体……それにあの土煙は里の外の方だね」

「距離があるので詳しい事は分かりませんが、禍々しく大きなチャクラが空気を通じて伝わってきます。

 チャクラ感知が別段得意ではない私でも感じられる程ですから、規格外と言っても良い程の存在が里の外にいるのでしょう……マンダ以上ですね」

 

 

 肩に伝わる微かな震え……カツユが無意識下とはいえ身体を震わせるとなると余程の何かがいるのだろう。

 里の外とはいえ若干の不安を感じざる得ない。

 しかし俺は此処を離れるわけにはいかない。 何故なら………50m程先に二頭を持つ大蛇が白煙と共に現れたからだ。

 その大蛇の視線は屋根の上という高い位置にいた俺へと向けられており、10m以上はあるその身体を地に這わせながら此方へと向かってきている。

 里の外の存在を気にしすぎて、未だ大蛇の存在に気付いていないカツユを軽く小突くことで気付けを行い、その視線を目の前の存在へと向けた。

 

 

「カツユ、今は遠くの災厄よりも近くの害獣だよ」

「そうですね、それにあれはマンダの眷属でしょうから気を抜くことは出来ません」

「そっか、暗部の影分身も店に着いた時に消えてしまったから今ここで対処できるのは俺だけ……もう一頑張りしなければ「ちょっと待ってください」どうかしたかい?」

「様子が変です……動きも止まっていますし、近くに誰かいる」

 

 

 カツユにそう言われ、目を凝らしてい見ると確かに蛇は微かに震えているようにも見えるが、その進行は完全に止まっている。

 それに大蛇を囲むように三人の忍が立っていた。

 あのサイズの生き物を拘束しておける術者はそう多くなく、頭に数人の忍が思い浮かんだが、その中から絞り込もうとする前にそこにいた三人が誰なのかが分かる様な出来事が起こる。

 三人の内の一人が大蛇と同じ位まで巨大化したのだ。

 

 

「あれは秋道チョウザさんの超倍加の術か。 ということは彼処で大蛇の動きを止めている二人は山中イノイチさんと奈良さんかな」

「猪鹿蝶と呼ばれた御三人ですか……それならあの手際も納得がいきます」

 

 

 俺とカツユが図らずしも助けてもらったその三人に当たりを付けていると、チョウザが拳を蛇の双頭へと叩き込んで地面にめり込ませる。

 そのまま蛇が白い煙と消えるのを確認したチョウザは術を解き、身体の大きさを元に戻すと、イノイチと共にその場を去っていく。

 内の常連の一人でもある奈良シカクもその二人と同じようにその場を去ろうとしたが、何故か立ち止まってしまった。

 俺はその事を不思議に思っていると、彼は此方を振り向かずに軽く手を振ると今度こそ、その場を後にする。

 

 

「あれって此方に気付いていたって事でしょうか?」

「きっとね、どちらにしても今回の事が終わったら菓子折の一つでも持って行かないといけないかな」

 

 

 俺は普段奥さんにうだつの上がらない彼を思い出して苦笑しつつも、既に立ち去った彼らに心の中で一先ずの感謝を伝えた。

 


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